『アウト×デラックス』けうけげんの“お笑い偏愛”に震える……1,000組の「架空芸人」はどこへゆく?

日刊サイゾー

2018/2/6 20:00


 世の中的にアウトな人物を紹介する番組『アウト×デラックス』(フジテレビ系)。2月1日の放送に登場したのは、お笑い芸人を好きすぎるあまり、そのエネルギーを驚く方向にぶつける、ある若者。その方向が想像の斜め上をいっていた。

その若者は宮城在住の「けうけげん」(1992年生まれ)。その名は、大喜利番組投稿時のペンネームで、実際に『IPPONグランプリ』(同じ)で投稿が複数紹介されたり、『着信御礼!ケータイ大喜利』(NHK総合)で7代目レジェンドオブレジェンドに輝くなど、その方面では知られた人物で、一般の人が参加する大喜利イベントに参加したりもしている。

「気持ち悪いくらいお笑いが好き」と紹介されるが、実際スタジオに現れた彼は、腰が低く人のよさげな若者。「戦績」はもちろん見事だし、若干しゃべり方にクセはあるものの、今や日本中にいる数多の大喜利好きの若者と比べ、どう「アウト」なのかわからない。だが次第にその片鱗が露わになる。

■『オンバト』の架空の成績



まず驚いたのは、その不器用なデータ偏愛ぶり。幼いころ『爆笑オンエアバトル』(同)などの若手ネタ番組にハマった彼は、すべての若手芸人を書き出し、バトル形式の成績(点数や順位など)を記していった。これくらいなら他にもいそうだが、驚いたのは、キャンパスノートの裏表紙の内側に、その年の出場芸人を書き連ね、成績を書き加えては全て消し、また翌年、出場芸人を書き連ね、成績を書き加えては全て消し、毎年消しゴムと鉛筆(シャーペン?)で延々リロードしていったこと。

持参した元・ノートの裏表紙だったであろうボロボロの厚紙は、おそらく10年以上酷使されてきたのだろう、擦り切れ、端がほころび、キテレツ大百科のような質感になっている。マツコ・デラックスの「これじゃないとダメなの?」という問いに彼は答える。

「中学の頃の僕には、これだけでいきたいなっていうのが、たぶんあったんだと……」

お笑いが好きであるとかより、もはや題材はなんでもよく、彼の対象へののめり込み方に興味が湧いてくる。マツコが「きれい」と息を漏らす。

さらに彼は結果を追うだけでなく、妄想の世界に足を踏み入れる。

オンバトに出ていない、あの芸人がもし出場したら? あのネタをやっていたら? 彼は想像し、書き列ねていく。当時出ていなかったサンドウイッチマンのあのネタなら489キロバトルだとか、「地方大会は(点数が)インフレ気味なんでオーバー500」だとか、義務教育真っ最中の当時、宮城の田舎から遠く離れた恋い焦がれる世界へ妄想の力で泳ぎだす。

そして本当にすごいのはここからだ。

■架空の芸人を創造



ここまでは「もしあの芸人があのネタをやっていたら?」という実在の芸人の、実在のネタありきの「架空」なのだが、彼いわく「飽き足らなくなり」ついに「架空の芸人」そのものを創り出す。

彼が、コンビニのビニール袋からわしゃわしゃ取り出したのは、名刺大に裁断された大量の小さな紙の束。確定申告前の領収書の束のような、その大量の紙に、線の細い今風のタッチで描かれた架空の芸人(コンビやトリオ)の似顔絵の数々が並ぶ。

「何このビックリマンチョコみたいなの!」と喜ぶマツコ。

いわゆるトレーディングカードのようなものなのだが、正規の印刷どころか、プリントアウトされたものでもなく、かといってプリントごっこでもなく、主にパチンコ屋のチラシを切ったものの裏に、下書きの線を生々しく残したまま鉛筆で手書きされたレガシー。一見、ただの小汚ない資源ゴミから、初期衝動の風速を強く感じる。

「ストレートボディブロー」

「コメディオペレーション」

「渡川オーマイゴッド」

実在しない似顔絵の下に添えられた、実在しないコンビ名。

驚くのは、それぞれどこの事務所に所属しているか? どんなネタをしてるか? どんな活動をしているか? が彼の頭の中にしっかり染みついていること。

例えば、ランダムに選んだ眼鏡優男と気さくそうなあんちゃんのコンビ「ぬま」の説明をマツコが求めるやいなや、創造主が語り出す。

「ぬまは、大阪吉本の7年目くらいで、コントを軸にするんですけれども、設定自体が凝ったコント、サブリミナルコントというのをやったりしまして」

「取り調べの中に、『お前がやったんだろ』(戦争は絶対ダメだぞ!←この早口部分がサブリミナルらしい)とメッセージを滑り込ませていくっていう……」

主の説明が止まらない。語れる喜び。

同じくマツコがイケメン2人組「サーキュレーション」のカードを選ぶ。

「サーキューレーションは人力舎のコンビなんですけれども~」

「あ、実際にいるの?」

「いないです」

あまりに自然に語るので思わず尋ねてしまったマツコの質問を、無慈悲にシャットアウトするけうけげん。罠のような流暢さ。

窓の外に芸能人やUFOが現れるため、気が散って相談内容が頭に入ってこない、という架空のコンビの架空のコント内容を延々語った後、「それでキングオブコントの準決勝にいきました」と、まるで現実のように架空の実績まで語る。

準決勝に「いけそうなクオリティ」とかではない。もういってるのだ。彼の中では。

さらに「このときは『カテナチオ』が優勝してるんです」と、怖いことを言うのだが、もちろんこのカテなんとかも実在しない。マセキ芸能社所属の10年目で「あちらのお客様から」と、バーデンダーが酒をバーカウンター上で滑らせるネタで優勝したらしいのだが、もちろん実在しない。いない。そんなネタもないし、優勝もしてない。しかし彼はきれいな目で、あの日、宮城の自室で産み出した自らの分身の活躍を愚直に教えてくれる。

■1,000枚の手書きの分身



このカード総数は、約1,000枚。コンビ名部分を隠してランダムに似顔絵を見せられ、一瞬考えたあとに、「あ! これ、THE TLEE(ザ・ツリー)です!」と百人一首のようにけうけげんが当てるくだり。本当に何を見せられているのか、わからなかった。わからないが、心が疼いた。

彼を紹介した人物・櫛野展正氏によれば、この架空芸人たちはコンビ解散して、ピンになったり別の人とコンビを組んだりすることもあるらしく、その時は消しゴムで消し、描き直されるらしい。生きた「架空」なのだ。

水島新司が、彼の描いたキャラクターを実在のプロ球団に入団させ活躍させた『ドカベン プロ野球編』、それの若手芸人版と考えるとわかる気もするが、誰に見せるでもなく、ただしたためていたかと思うと、やはりおののく。

自分の好きな野球選手をかき集めてドリームチームを考えたり、それこそ『ベストプレープロ野球』や『ダービースタリオン』のようにゲームで「架空」を作り上げるという楽しみ方はあった。しかしその題材が若手芸人であるというのが珍しい。

前述の櫛野氏は、彼が芸人への強すぎる憧れを抱きつつ、しかしながら家の都合などで地元を離れられない中で「制限された現実世界とは別の仮想世界を生み出すことで、彼はなんとか自分を保っているのかもしれない」と考察する。何かに縛られながら、それでもできる範囲で、あふれ出る想いを燃やし続けた結果、いびつな形に焼き上がったのが、彼の分身ともいうべき「架空の芸人」たちなのかもしれない。

いくら1,000の架空の「ネタ」があるといっても、ネタ案と、出来上がって人前で演じられるネタはまるで別物だし、大喜利投稿の才能と芸人の才能は重ならない部分も多いだろう。この番組をきっかけに彼の存在が一部の人以外にも知られるということは、それだけ批評の目にも晒されるということになるのかもしれない。

しかし、それでも、この悲しいほどのあてどない初期衝動が、ボロボロの紙に業のように刻み続けた不恰好な何かが、何処かにたどり着くのを見てみたいと思った。今後を見守りたい。
(文=柿田太郎)

当記事は日刊サイゾーの提供記事です。

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