男の育児日記『おっぱいがほしい!』著者・樋口毅宏さんが語る産前産後、家族のリアル【前編】

ウレぴあ総研

2018/2/5 11:46

気鋭の小説家として知られる樋口毅宏さんは2歳児のパパ。妻の三輪記子さんはタレント弁護士として大忙しで、樋口さんが創作活動と主夫の二足の草鞋を履く毎日です。

エッセイ集『おっぱいがほしい!: 男の子育て日記』でも人気の樋口さんに「男の子育て」について聞きました!

■孤軍奮闘ママから共感の嵐!育児や夫婦の裏側、こんなにバラしちゃって大丈夫?

――男の育児日記『おっぱいがほしい!』拝読しました!

樋口毅宏さん(以下、樋口):ありがとうございます!

――樋口さんはハードボイルド作家としてだけでなく『タモリ論』や『さよなら小沢健二』など、ママパパ世代カルチャーの語り手としてもご活躍です。それで『おっぱいがほしい!』も、いわゆる“イクメン”クリエイターのキラキラしたエッセイなのかな?と思って手に取ったんですが、全然そんなことなくって(笑)

樋口:赤裸々、ですよねぇ(笑)

――「樋口託児所、二十四時間年中無休のブラック企業」「……みんな、こんな大変なことをしてきたの?こんなに苦労して子供を育ててきたのに、それでも威張ったりしないんだ?」とつぶやくあたり、多くのママが「そうなのよッ!」と声を大にして叫びたいところではないかと。

さらにパートナーの三輪さんについても「『どんなに疲れていても帰ってきたら笑顔で迎えろ』だと?」「あなたの大嫌いな男根主義者とどう違うのか」などなど、家で待つ身として直球過ぎるほどの愚痴から、産前産後の夫婦生活のアレコレまで、よくココまで書いたなぁという・・・

樋口:『おっぱいがほしい!』は育児日記に見せかけた、妻への悪態本ですから。

でも僕が妻をすごいなって思うのは、これだけ“どヒンシュク”な“男性遍歴暴露”をいくら書いても、ただの1回も「これはやめろ」っていうのはなかったんです。

『週刊新潮』に連載していた当時、原稿が書けたら妻にもメールで送っていましたが「ちょっと、このエピソードは変えて欲しい」とかも、一切ありませんでした。

なおかつ偉いなと思ったのは『おっぱいがほしい!』が出版された時、妻は自腹で150冊買って、同業の弁護士の人たちに、自分の恥が満載のこの本を配ったんですよ。

愛情を込めて、“器がガバガバ”と言わせて頂きます(笑)

――三輪さん、いまをときめく“美人弁護士”として情報番組にバラエティに引っ張りだこなんですけど・・・

樋口:タレント活動もですけど、本業の弁護士活動の方が、すごく頑張ってますよ。

彼女のツイッターを見てもらえばわかりますが、信念がなければあそこまで精力的に働けません。

『おっぱいがほしい!』は、サブタイトルが「男の育児日記」ってなっているんですけど、読んでいただけると分かると思いますし、妻本人も認めていることなんですが、我が家の場合むしろ、妻が“男”なんですよね。

――ああ、だから『おっぱいがほしい!』に“イクメン”臭(?)がしないのかもしれません。

樋口さんは男性で、パパなんですけど、“主夫”というより“主婦”としての本音というか、ママとして「分かる~」というシーンがたくさんありました。

樋口:妻のお義母さんからしたら、『週刊新潮』を毎週買っていらしたというので、発売日の木曜日には、思うところがいっぱいおありだったと思いますけど。

――お義母様、本当に読んでいらっしゃったんですか?「三輪記子ヤリ〇〇伝説」とか、ごめんなさい、ハピママ*では伏せ字にせざるを得ないようなネタもいっぱい書かれているのに・・・三輪さんにしても、三輪さんのお母様にしても、その懐の深さは想像を絶しますね。

樋口:(笑)

僕がいま主夫をしているのも、3年前の自分には想像もできませんでした。

■気ままなバツイチ生活が激変!樋口さんを「主夫活動」に“洗脳”したマンガとは?

樋口:『おっぱいがほしい!』にも、僕らの馴れ初めは書いたんですが。

前の妻と10年の結婚生活の後に離婚して、その時は子どもはいなかったんですが、それから妻と出会って“セフレ以上・恋人未満”みたいな関係がちょっとあって。

で、ある時、いきなり「あなたの子どもが欲しいです」って言われたんですね。

「籍も入れなくていい、生まれた子どもの面倒も見なくていい、お金も出さなくていい、あなたの子どもが産みたいです」って。

僕も40を過ぎていましたし、そんな言葉を真に受けたつもりはなかった。

「いいよ」って答えたら、妻が当時所属していた法律事務所のあった京都に、僕が東京から引っ越して一緒に住むことになって、彼女のお世話になっている芸能プロダクションの指令で籍も入れて。

赤ん坊が生まれてから保育園に入るまでは、子どもの面倒は僕が見て。

「いや、これおかしくない?」「なんで俺ばっか?」って言っても、弁護士の論理と、女性の感情・感性によって全部説き伏せられるんですよ。

妻から「ちーがーうーだーろー?」って言われて「え、世の中そういうものなの?違うような気がするんだけど?」って思いつつ・・・そんな日々でしたねぇ。

――丸め込まれちゃった?

樋口:僕が“そそのかされやすい”ってところはあると思います。自分でも主体性がないなって。

でも男でもこれだけのことを、まぁイクメンというか、主夫活動っていうのをすべきなんだと考えるようになったというのは、結婚前に読んだある1冊の本の影響も大きいんですね。

『ママだって、人間』という、田房永子さんのマンガがあるんですが。

「すごい面白いわ、コレ!」と思って。ご縁もあって、本の帯を書かせていただいたり、対談もさせていただいたんですけど。

で、まんまと『ママにん』(ママだって人間)に洗脳されまして、「男もこれぐらいやるべきなんだ」って思って、妻にも読むように薦めて。

だから自然と、赤ちゃんをあやし、おっぱいを、僕の場合はミルクを作ってあげて、オムツを替えて、家事もやるようになりました。

厚生労働省は『ママにん』を1千万部買い取って、男性に配るべきだと思います。

「夫をはじめとする男社会の無理解」とか「産後クライシス」とか、必読ですよ。

――それで実際、パパになってみてどうでしたか?現在2歳というと・・・イヤイヤ期?

樋口:2歳になったと同時に、来ましたね!

■2歳児の「イヤイヤ」に翻弄されまくり!ママはますます忙しくなるけれど?

樋口:この間の日曜日も久々に妻と3人で、「『家族ごっこ』っぽいなぁ」と思いつつ出かけたんですけど、これがひどい!

「抱っこしろ!抱っこしろ!」って、お店の床に寝っ転がったまんま!こっちが「バイバイ」って言って立ち去ろうとしても、笑顔で「バイバーイ!」ですから。「おまえらが可愛いボクちゃんを見捨てるわけないだろ」って感じで。僕も妻も、からかわれてる(笑)

でも男の子でやんちゃなんで、足が速いし目も離せない。何かあったらと思うと怖くて。

意思疎通はできるようになってきたから、楽になったところはあります。「もうお風呂入んなさいよ」と言うと、自分ですくっと立って浴室へ行ったりとか。

でも肌が弱くてオムツかぶれしたり、しゃべるのが遅かったり・・・心配の種は尽きませんねぇ。

――『おっぱいがほしい!』にもママと赤ちゃんばかりの健診へ行って、質問しまくっている樋口さんが登場しますよね。

樋口:大の男が、オロオロしっぱなしですよ!

実は、妻が東京で新しく事務所を作ることになったんで、去年の9月に京都から東京へ一家で引っ越してきました。

それで妻はさらに忙しくなったというか、週の半分はいまだに残っている関西の裁判もありますし、タレント弁護士として大阪ローカルの番組「キャスト」に、「ミヤネ屋」とか、土曜朝の「ウェークアップ」とか、関西から生放送のテレビにも出ているので。

一昨日昨日は関西で、夜は日付の変わる頃に帰ってきて、きょうも朝の5時に起きてTBSの「白熱ライブ!ビビット」の隔週レギュラーに行って、その後は弁護士事務所で本業をこなしています。

『おっぱいがほしい!』を書いていた頃より、もっとハードになっているかもしれませんねぇ。

――樋口さん、“ワンオペ”じゃないですか・・・

樋口:ほぼシングルファーザー。でも、しょうがないですよね。僕が、家でやる仕事なので。

妻と出会う前から家で小説を書いていましたし、毎日通勤電車に揺られて、会社でタイムカードを押してっていう仕事ではないですし。

「家にいるんだから、家にいるやつがやるのが当たり前でしょ」って思っているところもあって。

そうそう!今日も、せっかく晴れてるので洗濯を済ませてから来たんですよ。

このインタビューが終わったら、そこのマツキヨでオムツ買って帰ります。マツキヨがクーポン券を配ってるんで、これは使わなきゃと思って。

あ、でもP社のオムツは割引対象外なんだよなあ(ポツリ)

――樋口さん、会話が完全に“主夫”ですね。となると、例えば男性のご友人などとは距離ができたりしませんか?お友だちはいまの樋口さんを、どんな風に見ているんでしょう?

樋口:えー、どうだろうなぁ。どうですかねぇ。

■「育児奴隷」は冗談でもウソでもなかった!樋口さんがいま一番欲しい時間とは?

樋口:昔から付き合いのある男たちからは・・・ある種“憐みの目”で見られているんじゃないですかねぇ。

――エッ、憐みの?

樋口:それまで僕は、自分本位で生きてきましたから。

2011年に離婚して、前の結婚生活の終わりから作家デビューして、その後は一人暮らしだったんですね。

好きな時に自分の思うがまま好きなだけ、仕事に打ち込めました。

それがいまや、赤ん坊の中心の生活です。

「何時から思いっきり仕事やろう」と思っても、子どもを保育園から連れて帰ってきたら無理ですから。

大学を出てから社会人になって、雑誌の編集者をしていたんですが、完全に夜型で、朝寝る生活だったんですね。日付が変わる前に寝るなんてことはなかった。

子どもが生まれてからもずっとそんな調子だったんですが、とてもじゃないけど身体がもたないことが分かって、20年ぶりくらいに朝型に変えたんですよ。

昨日も日付が変わる前に寝てしまいました。子どもをあやしつけながら、こっちが先に寝ちゃう。

で、朝はギリギリまで寝ていたいのに、赤ん坊に起こされる!

今朝も何度、赤ん坊に顔を叩かれたか分かんないですよ。「まだパパと寝ていよう」って、布団の中に抱き込みました。

僕はきっちり寝ないとダメなタイプなんで、寝足りないうちに起こされても頭が回らない、まったく働かないんですよ。

「もう一人で起きられるだろ? 自分で扉を開けて、居間に行ってバナナと、コップに水も入れてあるんだから、一人でやれ」って赤ん坊に言っても・・・ダメなんです。「一緒に行こう、一緒に行こう」なんですよね。

そしてその相手は、絶対に僕です。妻ではない。三人で川の字に寝ていても、息子が起こすのは、妻じゃなくて僕の方。妻を起こしたことは一回もないんです。

で、妻は「いいねぇ」「よかったねぇ」「私のとこ来ないし」って。子どもに「パパが好きなんだもんねー」とか言いながら、多少の嫉妬は入りつつも、僕をヨイショ!

これも僕が乗せられてるんだろうなぁ、いいようにコントロールされてんだろうなぁ。

浅草キッドの水道橋博士が3人のお子さんを育てる奥様のことを“育児奴隷”に喩えていらした話は『おっぱいがほしい!』の中でも紹介しましたが。

僕も毎日、息子と妻、ふたりのご主人様に仕えてますねぇ。

――ふたりのご主人様、ですか(笑)

樋口:子どもと妻のために駆けずり回って、主夫にとって一日なんて、アッという間。いまが人生で、一日がいちばん短い!

小説を書くのがいちばん大変だと思っていましたけど間違い。いちばん大変なのは子育てでした。

――じゃあ、もっとこういう時間があったらいいなっていうのはありますか。一番あったらいいなっていう時間は?

樋口:うぅーーーーーーーーん。深夜の、ダラダラした時間?

――それ、メチャメチャ分かります(笑)

樋口:早起きしなくてもいいし、原稿を書いてもいいし、DVDを観てもいいし・・・.。飲みながら、つまみでも食べながら・・・。そういう、ダラダラした時間があったらいいなぁ。

赤ん坊が何歳くらいからできるんですかねぇ?

――子どもが大きくなってから、ですよねぇ、たぶん。

樋口:先にお子さんを育てている女性編集者さんなどからは「子どもは勝手に育ってくれるから大丈夫ですよ」なんて励まされたりもするんですが。

それこそ坂口安吾の「親があっても、子が育つ」(参照:取材後追記)なんでしょうけど。

それにしたって子どもが無事に、大きくなるまでって大変ですよねぇ。

――では今回のインタビュー【前編】の締めとして、未来に目を向けてみましょうか!樋口さんが“深夜のダラダラした時間”を過ごせるくらいお子さんが大きくなったら、どんな人になってもらいたいですか。

樋口:息子は、顔も、ワガママなところも、完全に妻似で。勉強ができるところも、スポーツができるところも、み~んな妻に似てくれたらいいんですよ。

優しいところだけ、僕に似てくれたら・・・。

――さてこんな“優しスギる兼業主夫”樋口さんですが、いざ子連れで出かけてみれば世の中に思うところもあるようで・・・にこやかに妻と子を語る【前編】から一転、【後編】ではこれまで「見えていなかった」「気付けていなかった」社会の矛盾や疑問について吼えまくります。ご期待ください!

■取材後追記

樋口さんがインタビューで触れたのは、坂口安吾『不良少年とキリスト』。

「親がなくとも、子が育つ。ウソです。 親があっても、子が育つんだ。親なんてバカな奴が・・・」出典(坂口安吾『不良少年とキリスト』)

痛烈な安吾流育児論、ご興味のある方はぜひ!

あなたにおすすめ

すべての人にインターネット
関連サービス