ミュージカル『メリー・ポピンズ』バート役の柿澤勇人にインタビュー

SPICE

2018/2/4 12:00



2004年のロンドン・ウエストエンド初演以来、ニューヨーク・ブロードウェイをはじめ、世界中で上演され愛され続けているミュージカル『メリー・ポピンズ』が遂に日本上陸する。イギリスの名作児童文学の原作と、ジュリー・アンドリュースとディック・ヴァン・ダイクが主演した1964年の同名ディズニー映画とをベースに舞台化したもので、「チム・チム・チェリー」「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」といった、誰もがどこかで一度は耳にしたことがある名曲がずらり。夢にあふれたマジカルな舞台が展開する。主人公の家庭教師メリー・ポピンズ役を濱田めぐみと平原綾香が、また、メリーの親友バート役を大貫勇輔と柿澤勇人がそれぞれダブルキャストで演じる。このほど、バートを演じる柿澤に、作品への抱負を聞いた。

――長期間にわたる複数回のオーディションがあったとうかがっています。

劇団四季を退団してからすぐの22歳の冬、ニューヨークに行ったのですが、現地についてその夜すぐにブロードウェイに観に行ったのが『メリー・ポピンズ』だったんです。単純に一人の観客として楽しい作品だなと思っていましたが、まさか自分が演じるとは思ってもみませんでした。オーディションを受けることになり、最初、僕はバートではないと思っていました。海外ではダンスやタップがうまい役者を起用していましたからね。僕は、四季時代には踊ってましたけれど、退団後はあまり踊らなくなり、それで十年近く経ちましたからね。もうそんなに踊ることもないだろうなと思っていたら、ここへ来て試練が(笑)。オーディション中にアキレス腱を切って踊れなくなっていた時期がありましたが、芝居と歌とキャラクターがバートに合っているとイギリスのプロダクションの方が評価してくださったそうなんです。だから課題はタップとダンスですね。やるからにはちゃんとやりたいですし、今もタップのレッスンに毎週通って励んでいます。

役者ってどうしても、自分の主観で「合う」とか「不得意」とか考えてしまいがちですが、客観的に合っているということならうれしいし、挑戦したいなと思うんです。親しい演出家で、ミュージカルが大好きな福田雄一さんに、オーディションの最中にちょっと相談したことがあったんですよ。「俺はバートじゃないと思うんだよね」と言ったら、「カッキー、ぴったりだよ。やんちゃでチャーミングなところが合ってるから、絶対やるべきだよ」と言われて、それでモチベーションが上がりました。イギリスの方からもチャーミングと言われて、自分ではそうは思っていないのですが、そういう感じに見てくださるなら、キャラクター的にも芝居的にも新しい自分を見つけられるなと思いました。

課題はタップとダンスなんですけど、それ以上に歌と芝居で魅せたいですよね。最近やっていた『デスノート THE MUSICAL』にしても、音域をフル稼働して歌い上げるみたいな作品が多かったのですが、『メリー・ポピンズ』はそこまでキーも高くなく、割とナチュラルにしゃべっている音域のところで行ったり来たりできるので、その分遊べるというか、いろいろ挑戦できるだろうなと思っています。

オーディションでは、子供たちと一緒に芝居するシーンが課題としてあって、そのとき、自分を見せようとしなくていい、子供たちを上昇気流に乗せて輝かせてあげてほしいと言われ、エンターテインメントというだけではなく、芝居としてきっちり作っていっているんだなと感じましたね。オーディションってどうしても自分をよく見せたい欲が出ますけれども、ここでの主役は子供たちなのだからと。バートが小さいころもこういう子たちと同じだったんだよ、バートもメリー・ポピンズのような存在からいろいろ教わってきたんだよ、それをわからせてあげればいいんだよ、と言われたことが印象に残っていますね。子供たちに「こうしなよ」という感じではいけないので、そのアプローチは難しいですね。やはり「上から目線」ではなく、常に子供たちと同じ目線でいることがバート役の第一歩なのかなと思いますね。

――どのような新しいご自分を見せられそうですか。

闇がないところですね(爆笑)。最近演じてきた役は、人を何人殺してきたかという感じだったので(笑)。こういう作品、劇団四季のファミリー・ミュージカル以来じゃないかと思います。子供から大人まで楽しめる作品で、自分の精神衛生上もいい(笑)。4歳の甥がいて、バレエとか歌をやっていて、自分の舞台を見せたかったんですけれども、見せられない作品が多かったんです(笑)。今回は、親戚の子供とか友達の子供とか、みんなに「観に来て」と言える作品だと思いますね。

バートは、闇がないじゃないですか。最初そこが、自分には合っていないかなと思っていたのです。闇のある役柄が自分の得意な部分であったので。劇団を退団後、蜷川幸雄さんに会って転機が訪れたんですけれども、「お前、人生なんてきれいごとだけじゃ済まないだろう」ということを言われたんです。「お前、きれいなものを見すぎてるんだよ。おかしいよ。声もきれいでよく通るけど何考えてるかわかんないよ。お前にはノイズがないんだよ。もっと屈折しろ。世の中、汚いものばかりじゃないか。それを映すのが役者なんだよ」と。その時から見方が変わってきて、人を殺める役も多くやってきました。でも、役者としてそればっかりやっていると、そういう役者というイメージもついちゃいますからね。

今回は、劇団四季で培ってきたものも出せると思うし、人生汚いことばかりだけどきれいなこともあるよという意味では、バートも挑戦しがいのある役だなと思います。ファンタジーの部分を演じていくのも楽しみだなと。『メリー・ポピンズ』って、誰が観ても楽しめる作品ですよね。まず、曲がいい。みんな一度はどこかで聞いたことのある、口ずさめるような曲ばかりです。僕自身、小学校のときからずっと『メリー・ポピンズ』の曲にふれてきました。映画も観ていた。終演後に絶対「ああ楽しかった」と思えるエンターテインメントなんじゃないかなと思うので、そこはこの作品の一番の魅力だと思います。

――好きなシーンや楽しみなナンバーを教えてください。

「スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス」(と正しく発音して)、ですよね。『メリー・ポピンズ』の曲ってそのときは知らなかったんですけど、小さいころから音楽の授業でこの曲ばかりずっと歌っていました。絶対盛り上がる曲ですし、僕は踊らなくてはいけないので早く振りを覚えたいなと。それ以外でもいろいろ好きな曲がありますね。ディズニー・ミュージカルならではの派手な演出もたくさんありますし、今回のキャストはすばらしいダンサーの方たちがそろっているので、ダンスも見どころです。僕が一番恐れていてかつ楽しみでもあるのが、フライングで吊られたバートが舞台の枠を登っていって、天井で逆さになってタップを踏む名シーンですね。そこはもう僕もニューヨークでぽかーんと見て、すごい! と思いました。バートの一番の見どころで、ある意味ショーストップのナンバーなので、盛り上がり、シアターオーブを大歓声で埋めたいです。高いところは大丈夫なんですけど、ただ、逆さっていうのがね。命の危険もありますからね(笑)。昔ファンクラブの企画でバンジージャンプに挑戦したことがあったのですが、そのときも決意するまで一時間くらいかかりましたからね。こわいですね(笑)。

――バートのキャラクターとしての魅力や、ご自身との共通点は?

バートの魅力は、チャーミングでかわいらしいところですかね。二枚目でも三枚目でもない。いわゆるわかりやすい男の役でもない。今まで演じてきたことのない役柄ですね。仕事が煙突掃除ですしね(笑)。自由気ままなところは自分とも共通します。方向性は若干違いますけれども、楽しいことが好きだったり、いろいろ染まりたくないみたいなところとか。ただ、役者としてどういう風に見られているかというのは、僕の場合はわからないんです。チャーミングだとかかわいいとか憎めないとかはよく言われますが、それを自分で意識して生きているわけではありません。だから自分がどういう役者なのかというのはよくわからない。

そういえばオーディションのとき、何の緊張もしなかったんですね。最近緊張しなくなってきています。アキレス腱を切って、役者人生で最大の挫折をして、絶望を味わったからなのかもしれません。それまでは舞台に立つとき袖でずっと足が震えていたのが、アキレス腱を切って治って復帰してからは、なるようになるかみたいな感じになりました。何かが変わったんですよね。ちょっと失敗しても、それまでだったら何やってるんだろうってずっとくよくよしていたのが、あ、次行こうみたいな感じでけっこう変わってきた。だから今回のバートも、タップは大きな課題ではありますが、僕はタップダンサーではないので、本番でミスをすることはあるかもしれませんが、その時もバートでい続ければいいかなと、そういう楽観的な部分が最近ちょっと出てきました。だからオーディションも全然緊張しませんでした。バートっぽく帽子をかぶって、言われた通りにやっていたら、「いいね」ということになりました。もちろん課題は山ほどありますが、やるからには楽しんでやるしかないですよね。「だめだ、だめだ」と下ばかり向いてやっていても、この作品の色には多分染まれないと思います。

――ところで、メリー・ポピンズのような不思議な力があったら何をしたいですか。

何でもいいんですか? 力がつくとか?(笑)……(じっと考えて)芝居が上手くなりたい。

――それは魔法でなくても上手くなっているから大丈夫です。

いやいや、もっともっと上手い人が世界にはいっぱいいますからね。あ、あとは、一目惚れさせたい! 魅力をまとって、一目見たらもう好きになっちゃうパワーを発揮したい。たとえタップが下手くそでも「タップすごい」って思ってもらえる力がほしいです(笑)。

――最後に意気込みをお願いいたします。

世界中で愛されている『メリー・ポピンズ』がついに日本で上演されることになりました。長い期間のオーディションを経てやっとつかめた役なので、全身全霊こめて演じたいと思っています。歌ありダンスありタップあり、ミュージカルのすべての要素を全員がフル稼働して成り立つ作品なので、ハードルは高いですし、ロンドン、ニューヨークのクオリティに達するまでに本当に全員が努力しなくてはいけないと思いますが、やるからには必ずやレベルの高いものにして、日本ならではの『メリー・ポピンズ』を成功させたいと思っています。まずはシアターオーブで皆様をお待ちしています。

取材・文=藤本真由(舞台評論家)
公演情報 ミュージカル『メリー・ポピンズ』
<東京公演>
■会場:東急シアターオーブ
■会期:プレビュー公演2018年3月18日(日)~3月24日(土)、本公演3月25日(日)~5月7日(月)
<大阪公演>
■会場:梅田芸術劇場 メインホール
■会期:2018年5月19日(土)~6月5日(火)
■公式ホームページ:http://marypoppins2018.jp
■公演に関する問い合わせ
東京公演:ホリプロチケットセンター 03-3490-4949
(平日 10:00-18:00 / 土曜 10:00-13:00 / 日祝・休)
大阪公演:梅田芸術劇場 06-6377-3800(10:00~18:00)
■出演キャスト:
メリー・ポピンズ=濱田めぐみ/平原綾香
バート=大貫勇輔/柿澤勇人
ジョージ・バンクス=駒田一/山路和弘
ウィニフレッド・バンクス=木村花代/三森千愛
バードウーマン/ミス・アンドリュー=島田歌穂/鈴木ほのか
ブーム提督/頭取=コング桑田/パパイヤ鈴木
ミセス・ブリル=浦嶋りんこ/久保田磨希
ロバートソン・アイ=小野田龍之介/もう中学生
*上記キャストはダブルキャストになります。
石川剛 エリアンナ 小島亜莉沙 丹宗立峰 長澤風海 般若愛実 青山郁代 五十嵐耕司 石井亜早実 大塚たかし 岡本華奈 風間無限 工藤彩 工藤広夢 熊澤沙穂
斎藤准一郎 高瀬育海 髙田実那 田極翼 照井裕隆 中西彩加 華花 樋口祥久 藤岡義樹 藤咲みどり 三井聡 武藤寛 (全役50音順)

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