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ハイバイ『ヒッキー・ソトニデテミターノ』、作・演出・主演の岩井秀人が大阪で会見

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「作家としての幸福は、見た人が自分自身について考えることです」

ハイバイの岩井秀人が、2012年に吹越満主演で上演した『ヒッキー・ソトニデテミターノ(以下ソトニ)』を、劇団公演として初めて上演する。16~20歳まで引きこもっていた自らの体験を元にした処女作『ヒッキー・カンクーントルネード(以下カンクーン)』の続編にあたり、現代の引きこもり事情をさらに広い視点から描いた作品だ。岩井にとっては「自分の体験だけでなく、取材を元に台本を書く」「笑いに頼り過ぎず、観客一人ひとりが自らの問題として考えられる舞台を作る」という、現在のスタンスを確立するターニングポイントになったともいう。全国4ヶ所+海外を回るツアー公演を前に、岩井の会見が大阪で行われた。

まず本作を執筆した経緯について、『カンクーン』の再演を繰り返す中で、その受け取られ方に違和感のようなものを感じ始めたのが、動機の一つになったという。

「『カンクーン』は、最終的に(主人公の)登美男が(引きこもりを止めて)外に出られたかがわからないように作ってたんですけど、観た人は結構な比率で“外に出られて良かった”と言うんです。あるいは“出たのか出ないのか判然としないと、作品の感想を持てない”という、迷いみたいなものを感じたりとか。でも僕は“出なくちゃいけない”と思っていること自体に、疑問を(お客さんに)持ってほしかったんですね。というのも僕自身が、家から出て、それが良かったのかどうかは、やっぱりわからなくて。自分が(引きこもりを止めて)出る時に、自分の半分ぐらいを部屋に置いてきたというか、半分ぐらい社会的に殺して外に出たという感覚が、ものすごく大きいから。

こんなたまたま外に出て、引きこもった体験を面白おかしくネタにしている僕のような奴が、現在本当に深刻に引きこもってる人に対して“出ちゃいなよ!”みたいなポジティブなだけのことを言ったりするのは、とても無責任な感じがしたんです。その人個人の事情もわからずに、自分だけの“出られて良かった”を見せつけたり、“出ないとダメだ”という感覚を押しつけることは、何よりもキツいと思うので。何かその辺について、もうちょっと考えられる作品を作りたいと、(『カンクーン』初演から)10年間の中ですごく思っていました」
パルコ・プロデュース『ヒッキー・ソトニデテミターノ』(2012年初演より) [撮影]曳野若菜
パルコ・プロデュース『ヒッキー・ソトニデテミターノ』(2012年初演より) [撮影]曳野若菜

家を出た後、引きこもり時代にお世話になった、引きこもりの自立支援センターのアシスタントとなった登美男。そこで自分とはタイプの違う引きこもりたちと出会い、彼らをサポートするようになる……というのが『ソトニ』のあらすじ。岩井いわく「物語の進行としてはフィクションだけど、登場人物たちの状況は取材を元にした現実」だそうだ。

「(登美男とは)また別のパターンの引きこもりを出して、それぞれの家から出ない理由や、家の中で何をしているのかということを描きたかったし、あとは僕の中の“自分の中の半分殺してきた部分”というイメージを描きたかったというのもあります。そのために、引きこもりの人を寮に泊めながら、自立するのを手助けする支援センターに行きました。そこは僕があのまま外に出ないでいたら、入る可能性があった場所なんです。自分はそこにお世話になっていたかもしれないし、そうなっていたらどういう生き方をしていたんだろう? という、薄皮一枚で全然違う人生があったような感覚があったので、いつか取材に行きたいと思っていた場所でした。どういうケースの引きこもりがいるか、施設の人はどんな仕事をしているのかを取材して、それはまるまるこの作品の中に入っています」

また『ソトニ』は岩井にとって、それまで笑いを重視していた作風から、NHKの報道番組で取り上げられるほど話題となった『おとこたち』(2014年)などのように、観客が自分自身と向き合えるような芝居を作るきっかけとなった作品でもある。

「それまでは観ている人を飽きさせないために、笑いをたくさん入れるとか、ガンガン事件を詰めていくとか、とにかく物語の強さを押し出してました。それはそれでいいんだけど、やっぱり僕はもうちょっと観ている人が、自分の生活や自分の過去について別の視点を持てるような表現がいいな、という感覚が強くて。そのためには“お客さんを飽きさせないように”みたいなことを思いすぎると、取りこぼすものがすごくあると思いました。舞台上で矢継ぎ早に何かが起き続けなくても、もっと観ている人の思考の角度を少しでも、効率よく変えられるようなものができたらなあと。

初演では“どこからが引きこもりなんだろう”“外に出てても全然引きこもってる人はいるのでは”みたいな感想があって、それが僕は嬉しかったですね。嫌な性格ですけど(笑)。お客さんは(笑いがなくて)黙っていても、すごくいろんなことをちゃんと感じているというのを信じるきっかけになったし、やっぱり観ている人が自分の身の回りのことや、自分自身のこととかについて考えてもらえるのが、作家としては幸福なことだと思っています」
岩井秀人(ハイバイ)
岩井秀人(ハイバイ)

今回の上演に関しては、まず主人公の登美男役を、岩井自ら演じるというのが大きなトピック。そして脚本の方も、40歳を超えても引きこもっている男の母親の役を、今回は父親に書き換えるそうだ。

「自分をモデルにした作品では、変な生々しさが出ると思って、自分が出ないようにしてたんです。でも今回は、僕がなるべく舞台上にいて、この問題については舞台上の人たちも結論が出ていないんだという状態を見せられればいいなあと思いました。あと最近、普通に生きてる人たちに、自分の身に起きたことを書いてもらい、本人に演じてもらう『ワレワレのモロモロ』という演劇をやってきて、それが意外と面白がられてるんですよ。すごくシンプルで、すごく根源的な演劇が、今こんなに求められてるんだと思うと同時に、“何で自分もやんないの?”と思ったので、今回は出ることにしました。

母親を父親に変えた理由は、もともとそのエピソードが、40歳を越えた引きこもりの息子さんを抱えるお父さんの話だったので。それに自分自身が父になって、そのお父さんポジションに自分を照らし合わせられるようになったのが大きいと思います。自分の娘が、引きこもる可能性もあるんだっていう。僕は『おとこたち』を書いた時に、男の人の老後の大ピンチさ加減というのを目の当たりにしたんですけど、そこで頼りにするはずの子どもも大ピンチで、一緒に家の中で大ピンチっていうのが……。自分もその可能性は多大にあったわけだし、これからだってその可能性はあるわけですから」

ちなみにこの「40歳を過ぎても引きこもり」のエピソードについて、つい最近の調査で、山梨県内の引きこもりの6割が40歳以上だと判明したというニュースに、ショックを受けたという岩井。この状況を恐れていると同時に「日本人は、何か上手い言葉を見つけるんじゃないか」という希望も語る。

「山梨だけじゃなく、きっと全国的にもそれと変わらないことが起きてると思うから、本当どうすんだろう? って。でも僕、日本って面白いなあと思ったのは、そういう人たちに新しい名前を付けて、その名前が彼らの居場所を見つける機能として存在し始めるまでのスピードが、異常に早いことだと思うんです。

たとえば、最初に〈引きこもり〉って言葉が生まれた時は、最初はみんなひどいことを山ほど言ってたんですよ。“引きこもるぐらいなら死んじまえ”とか。でもそれを使う人が増えてくると〈ヒッキー〉とか〈自宅警備〉とかの愛称が付き始めて、その中でカテゴリー分けとか活用形を見つけていって。そのうち最終形態じゃないけど“そういえばワタシも、去年一ヶ月ぐらい引きこもってたわ”みたいに、自分たちの人生の一部として活用し始めるという。そうして今では“引きこもってた”ぐらいのことを話すのって、よくあるレベルになりましたからね。何かそれは言葉の持つ、不思議な力でもあるけども。だから高齢引きこもりも〈キャリア〉とか〈ゴールド〉とか付けると思うから、それが楽しみ……って言ってちゃいけないんですけど(笑)」
『ヒッキー・ソトニデテミターノ』2015年の韓国翻訳上演より
『ヒッキー・ソトニデテミターノ』2015年の韓国翻訳上演より

そして岩井はこの作品について「引きこもりの人がいる家族や、できれば引きこもってる人に観てもらえたら嬉しい」と語る。

「もちろんすごくキツい現実の可能性も書いてるけど、僕はそこまで行った時に“出る”って判断をして、外に出れたというか。やっぱり誰かのせいにしているうちは、出れないみたいな感覚があるんですよね。だから観に来てほしいけど、一番観に来づらい人たちですし、実際に“今引きこもりなんで”と劇場で言われたら、ちょっとわかんなくなりますよ。“ここにはどうやって来たの?”って(笑)。でも、来て、観て欲しい。

あと、自分とは違うケースを知ること自体が、本人や家族の人にとってもすごく大きいことかなと思うんです。演劇って、実は抱えているけど本人が気づいてなかったり、言語化されてない〈その人と世界の違和感〉を明らかにする効果があるというか。たとえばこれは演劇の作用と似てるなと思ったのが、夫から言葉のDV的なのを受けてる女性がいて、友達に言われてその様子を録音したんですって。それを友達と一緒に聞いてみたら“超バカみたいなこと、この人言ってる”って笑ってしまって、それからは録音するのが楽しみになったって(一同笑)。それが根本的な解決だとは思わないけど、誰にも言えないで一人で抱えている時よりは、前進している。そうやって自分と、自分を縛り付けていたモノの間に〈社会〉がはさまって、別の視点を持っただけで、価値がガラーンと反転するみたいなことが、演劇が持ってる機能だと思うんですね。その人にとっての、その事件の意味合いを増やしたり変えることって〈人間にしかできない何か〉な気がしていて。その効果を、僕はすごく演劇に期待しているんだと思います」

2015年に韓国で翻訳上演された際は、引きこもりやその支援団体ついての取材が殺到したり、泣きすぎて人に抱きかかえられて会場を去る客が出るなど、熱狂的と言えるほどの支持を得たという『ソトニ』。リアルな現代の引きこもり事情を〈演劇〉を通して観ることによって、この問題に対する新しい視点や、あるいは自分自身の中にも引きこもりの因子があることに気付かされるかもしれない。“登美男”として舞台上をオタオタと動き回るであろう岩井とともに、その問題についてしばし考えてみよう。

ハイバイ『ヒッキー・ソトニデテミターノ』予告映像

公演情報
ハイバイ『ヒッキー・ソトニデテミターノ』
《東京公演》
■日時:2018年2月9日(金)~22日(木)
※13日&19日休演。
※15日(木)昼公演終演後、岩井秀人によるトークイベント開催。
■会場:東京芸術劇場 シアターイースト
《新潟公演》
■日時:2018年2月25日(日)
※昼公演終演後、岩井秀人によるトークイベント開催。
■会場:りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館 劇場
《三重公演》
■日時:2018年3月3日(土)・4日(日)
※3日(土)夜公演終演後、岩井秀人によるトークイベント開催。
■会場:三重県文化会館 小ホール
《兵庫公演》
■日時:2018年3月8日(木)~10日(土)
※9日(金)昼公演終演後、岩井秀人によるトークイベント開催。
■会場:アイホール(伊丹市立演劇ホール)
《パリ公演》
■日時:2018年3月15日(木)~17日(土)
■会場:パリ日本文化会館
■作・演出・出演:岩井秀人
■出演:平原テツ、田村健太郎、チャン・リーメイ、能島瑞穂、高橋周平、藤谷理子、猪股俊明/古舘寛治
■公式サイト:http://hi-bye.net/plays/sotonidetemitano

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