実証!!“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士に取材を申し込んで、記者が「遅刻」したらどうなる……?

日刊サイゾー

2018/2/1 14:00



“キング・オブ・アウトロー”こと作家の瓜田純士(38)が、森羅万象を批評する不定期連載。今回のお題は、松岡茉優が映画初主演を務め、第30回東京国際映画祭で観客賞を受賞した『勝手にふるえてろ』(綿矢りさ原作、大九明子監督)だ。瓜田の苦手なラブコメ分野ゆえ、ただでさえ怒り出す危険性大なのに、記者が上映開始時刻に遅刻する失態まで犯してしまい、ふるえが止まらない取材となった。

19歳で芥川賞作家になった綿矢りさの恋愛小説を実写映画化した『勝手にふるえてろ』は、「恋愛に臆病で妄想力が強いOLのヨシカ(松岡茉優)が、タイプの異なる男性イチ(北村匠海)とニ(渡辺大和)の間で揺れながら、傷だらけの現実を突き抜ける暴走ラブコメディ」との触れ込みだ。

アウトローとラブコメ。そのギャップを楽しむ企画趣旨だったが、取材当日はまったく笑えない状況になってしまった。

「とっくにロビーに着いてますけど、どこにいるんすか……?」

そんな瓜田からのメールの着信音で目が覚めたのだ。時計を見ると18時22分。映画が始まるのは18時30分。ヤバい! 記者は顔面蒼白になった。

相手が普通の人なら「すいません、寝坊しました。予約番号と暗証番号を伝えますから、機械で発券して先に入場してください」で済むのかもしれないが、相手が瓜田となると、そうはいかない。「なんで寝坊した人間の指図で、俺がそんな面倒くせえ作業をしなきゃならないんだ!」と怒り出し、帰ってしまうのは確実だからだ。

自宅から映画館までの距離は約800メートル。急げばまだ間に合うかもしれない。いや、間に合わなかったら大変な目に遭う。焦った記者は、「至急向かいます」とだけ返信し、靴下と靴を履く間を惜しみ、裸足にサンダルで氷点下の街へ飛び出した。

到着したのは18時32分。ロビーに仁王立ちし、鬼の形相で待ち構えていた瓜田から、さっそく雷を落とされた。

「なんだ、その寝癖は! 呼び出しといて寝坊かよ。最低最悪な野郎だな!」

同伴の麗子夫人もブンむくれだ。

「もう映画始まってんで。ウチ、途中から見るの嫌いやねん!」

そんな2人に平謝りしつつ、オンライン予約していたチケットを急いで発券し、場内へ滑り込む。のちに劇場スタッフに聞いたところ、「チケットは毎回完売が続いている」とのことで、この日も実質的には満席状態。

しかし記者は、瓜田の隣に座るのが怖かったため、そして反省の態度を示すため、座席には座らず、通路に座って鑑賞を開始した。どうか面白い映画でありますように……。

以下は、上映終了後に近所のしゃぶしゃぶ屋で行ったインタビューである。

* * *

――改めてお詫びいたします。本日は大変失礼いたしました!

瓜田純士(以下、純士) 来なかったらハイキックとパウンドでブッ殺すところでしたよ。

――危ないところでした。

純士 「危なかった」ってのは間に合った人間の言うセリフだろ! 結局、何分か遅刻してるじゃねえか!

――誠に申し訳ございません!

純士 俺はラブコメが嫌いだし、しかも遅刻までされて爆裂ムカついてたから、「よし、ボロクソにけなしてやろう!」と思って映画を見始めたんですよ。序盤はふざけた感じのシーンが多かったから、「こんなもんあと2時間も見なきゃなんないのかよ。ざけんなバカ野郎!」と思った。で、斜め前の通路を見たら、遅刻したバカが座ってる。まさに“蹴りたい背中”でしたよ。ところが悔しいことに、主演の女の子の絶妙なこじらせ具合とか、ニって男の絶妙なイタい間(ま)とかが、嫉妬しちゃうレベルの面白さで。原作がいいのか監督の見せ方が上手いのか、途中からグイグイと物語に引き込まれてしまいました。本物のこじらせ女子には書けない作品というか、本物のこじらせ女子を客観的に見ることができる人のみが書ける作品という印象ですね。すっげえ面白かったです。

――楽しんでいただけて何よりです。『蹴りたい背中』という言葉が出たということは、綿矢りさをよくご存知なんですか?

純士 20代半ばの頃、刑務所に入ってるときに『蹴りたい背中』を官本(編注:刑務所が無料で受刑者に貸し出す本)で読んだんですよ。内容はあまり覚えてないけど、若いのにすごいな、と思ったことだけは覚えてます。あと『インストール』も途中まで読んだけど、今回の『勝手にふるえてろ』は未読です。でもきっと、原作がめちゃくちゃ面白いから映画も面白いんだと思いますね。

瓜田麗子(以下、麗子) ウチはこの映画を見て、ヒロインマジックってすごいな、と思った。あの主役の女の子は最初、アジアンの隅田にしか見えへんかったのに、それが吉高由里子になり、最後は満島ひかりになってたから、すごいよね。どんどん可愛くなっていくねんもん。

純士 その視点なんだな、女子は。俺の視点は違う。あのヨシカっていう主人公は、釣りのおっちゃんに向かって「SNSに何かを書くのは恥」とか言ってたけど、なりすましてた別人のSNSでは自殺をほのめかしたりしてましたよね。そのへんの複雑な人間心理にも焦点を当ててるあたりに感心した。やっぱ俺も物書きだから、原作者の文章はすごかったんだろうな、ってところをまず想像しちゃうんです。ヒロインのビジュアルよりも、これを表現するには原稿用紙を何枚使ったんだろう? ってことを、まず考えちゃう。作者に対する尊敬の念を抱きながら映画を見てました。もちろん、ヨシカを演じた女優もすっごく上手かったですけどね。俺は原作を読んでないけど、きっとあの子は原作を隅々まで読んで、原作者の意図を汲み取って、自分なりに咀嚼して、演じ切ったんだと思う。

――あの子、松岡茉優という売れっ子なんですが、ご存知なかったですか? 映画は今回が初主演ですが、ドラマでは何度も主役を張っていますよ。

麗子 全然知らへんかった。ウチ、ドラマはあんま見ぃへんから。

純士 俺も初めて見たけど、いい女優だね。

麗子 演技が自然やから、肩の力を抜いて見れたわ。

純士 あと、監督の手腕もすごいと思いましたね。

――具体的にはどういう点が?

純士 信号機のメロディや卓球の音を効果的に使ったり、弱ったヨシカがオフィスの廊下を歩きながら壁に向かってアンモナイトを撫でるような仕草を見せたり。とにかく終始気の利いた、飽きさせない描写があったじゃないですか。芸が細かいし面白いなぁ、と感心しましたよ。あと、ヨシカとニが変なクラブで初デートしたとき、ニが反復横跳びを始めるでしょ。それをヨシカが「おいおいマジかよ」といった感じで冷めた目で見てる。ああいう、観客まで恥ずかしくなって冷や汗をかいちゃうような場面が多々あったじゃないですか。そのあたりの表現方法も巧みでしたね。

麗子 ウチも序盤は遅刻の件でイライラして、なかなか集中できへんかったけど、反復横跳びのあたりから作品の世界に入り込むことができた。でもヨシカは、あの男とは幸せにはなれへんと思ったわ。あの男は、追いかけてる自分が好きなだけやから。

純士 結局、出てくる人間はどいつもこいつも身勝手で自己中極まりないんですよ。こじらせた奴って、絶対に自己中なんですよ。それが今回わかったことですね。うちの嫁が言う通り、ニは相手が好きというより、自分が好きだから自分の恋愛を成功させたいだけ。だから相手の迷惑を顧みない。

麗子 ニみたいな男は絶対、相手が振り向いた瞬間に、浮気はするわ、連絡はおろそかになるわ、亭主関白になっていくわ、ってタイプやと思うわ。

純士 ヨシカはヨシカで、常に相手のことなんか考えてなくて、ニのことも最初は「私の世界に勝手に現れやがって!」ぐらいに思ってる感じだった。小さな頃から見下されて育ってきたせいか、「自分のこんなちっちゃい脳内世界を私なりに守って生きてきたのに、その暮らしを脅かす奴が勝手に現れやがって!」という被害者意識を持ってて、相手の心中を読もうとしない。ぶっちぎりで自分脳なんですよ。でもそこが面白かった。

――面白い、というのはどういう意味で?

純士 滑稽であると同時に、共感できるんですよ。火事になりかけたシーンなんかは、結構グッときました。あんな小さなライフスタイルだけど、この生活を壊されてたまるかとばかりに飛び起きて、必死で消火するところの奮闘ぶりがよかった。ああいう子たちほど、自分の生活をすごく大切にしてるんだという、生への執着が微笑ましかったですね。

麗子 あの子はあの子で不幸を演じてても、それをすごく楽しんでるんやろうなと思ったわ。

純士 10年間思い続けてたというわりに、おまえの好きってその程度のもんなの? と思えるシーンもあったじゃないですか。現実のショックのほうが、相手を思う気持ちよりもデカかった。つまりあの子は、自分のほうが可愛いんですよ。思い通りにならないことには首を突っ込まないようにしてるだけで、すべて思い通りにいくことだけに手を出す。それが、こじらせた奴の法則なんです。

麗子 ニと一緒やねんな。

純士 そうそう。似た者同士なんです。相手のことを考えずに勝手に変なプレゼントを贈ったり。だいたいやってることは一緒です。それを客観的に描けてる作品だから面白かった。

――そういうタイプの人々を、瓜田さんは毛嫌いするかと思ったのですが。

麗子 確かに。純士が私以上にケラケラ笑ってるから、ビックリしたわ。こういう映画、一番苦手なはずやったのに。

純士 こじらせ女子とか腐女子とかオタクのことを、これまでさんざんバカにしてきたけど、今はそういう気にはなれないですね。ああいう子たちは自分を基準に生きてるから、自分の基準値を上回る面倒な出来事や人に対しては、生理的に受け付けないような態度を取る。「ああ、やだやだ」とか言って。たとえば、このクソ寒い時期に、街頭で上半身裸になって踊ってる外国人がいたら、ポジティブな人や普通の女子は「なんかのお祭りかな? 楽しそう!」となる。でも、こじらせ女子はそうならない。「え、マジないわ」と、いきなり否定するんですよ。その脳が、俺にはものすごくわかるんですよ。

――それはなぜですか?

純士 最近気付いたんだけど、俺も似たような人種だからです。俺は不良の世界で一等賞クラスで輝いてきたんだ、おまえらこじらせ女子や腐女子やオタクどもとは、まったく違うんだ、と自分に言い聞かせてきたけど、実はそいつらに限りなく近かったという(笑)。

――そうなんですか。

純士 身の丈を知って夢を早い段階で諦めてサラリーマンになったりする人が多い中、俺はずっと中2脳でここまできちゃってる。夢を諦めるなんてまっぴらご免だ、俺は結構いい線いってるじゃないか、と。この映画の主人公らはルックスが地味だから妄想だけでとどまってる人たちだったかもしれない。俺も同じ自己中妄想タイプだけど、俺の場合、現実世界でも結構いい線いけちゃったりするから、より分別がつかなくなってるというか、より一層こじれてるんですよ。

麗子 純士はルックスがええから、アウトローのカリスマとか呼ばれるようになったしな。

純士 そういうことなんですよ(笑)。子どもの頃はヤクザを見て憧れてるだけだったのに、俺はルックスがよくてハッタリも効くもんだから、気付いたら街を歩いてる人たちから「そっちの人だよね?」と思われるようになっちゃった。でも元を辿れば単なるアウトローに憧れた子どもでしかなく、ただのアウトローオタクだったんです。俺も奴らも似たような脳内なんですよ。

麗子 純士はオタクっぽい上、人との距離感を測るのが苦手で、すぐ人を拒絶するとこもあるもんな。

純士 そういうこじらせ脳の奴らってのは「初恋の相手を振り向かせたい」とかいう、めちゃくちゃ自分勝手で図々しい願い事を平気で脳内に持ってたりする。しかも、何事も自分の思い通りに行くと思ってるフシがあるんですよ。ジャニオタがジャニーズのメンバーと付き合えるかもしれないとうっすら思ってるようにね。卑下してるようでいて、案外イケてると思ってる。その優越感で生きてるんですよ。だから自分らの考えに反するものたちを、この映画の主人公のように「え、ないでしょ。マジで無理無理!」と平気で排除しようとする。俺もそうだけど、擦れてるんですね。素直じゃないんです。

――なるほど。

純士 だけど映画の最後のシーンで、ヨシカがとうとう人間としての本能的な行動に出たじゃないですか。途中でも何度かそういうシーンがあったかな。「付き合おうか」と言ってみたり、屋上で抱きついてみたり。計3回ぐらい、本能的な行動に出た。こじらせ女子ぶってても、あれが絶対、人間の最終的な行動というか、本音の行動なんですよ。その「普段は自信がないから妄想の世界に逃げ込んでるけど、たまに本音が出てしまう」ところに人間臭さを感じ、同時にシンパシーも感じました。

麗子 こないだ一緒にDVDで見た『モテキ』には全然ハマらへんかった純士が、ここまでこの作品にハマるとはなぁ。どっちも似たような作品やと思うけど。

純士 いや、まったく別物のクオリティーでしょ。『モテキ』は幼稚臭くて耳が痛くなった。でも今日のは、釣り人とか駅員とか隣人とか、ヨシカの周辺人物の描写も出てくるじゃないですか。それが劇団ひとり原作の映画『陰日向に咲く』にちょっと近いタッチだと思った。劇団ひとりは文学的な人だから、周辺人物を上手く描けるんでしょう。ただ、映画の『陰日向に咲く』は面白いか面白くないかで言えば、面白くなかったんですよ。原作はどうだか知らないし、監督の意図も知らないけど、映画の『陰日向に咲く』に関しては、一人称の物語という印象を受けて物足りなさを感じた。「僕は、私は」の世界ね。でも映画の『勝手にふるえてろ』に関しては、登場人物の心を神視点で捉えてるような雰囲気を個人的には感じた。そこが面白くてハマりました。

――松岡茉優が歌うシーンは、いかがでしたか?

麗子 歌唱力がすごかった。あの子がストリートミュージシャンやったら、思わず立ち止まってまうわ。上手いだけやなく、声に哀愁ある。

純士 最大の見せ場というか、伝えたいものが一番出てたシーンだったと思います。脳内妄想の世界が、リアルによって歪められて動揺し、葛藤する。妄想と現実の距離感の違い。そこがこの作品の肝のように俺は感じました。

――石橋杏奈が演じた、くるみはどうでしたか?

純士 秘密を平気でバラしておきながら、相手が怒ると、「私だけは心配してる」「私のせいだったら謝る。本当にごめん」とか重たいことを留守電に残したりする最低な女。ああいう奴って、実際いますよね。特に女子に多くない?

麗子 多い! ええ人ぶって、実は優越感にひたってるタイプ。ウチが今通ってるジムにも1人おるわ。

純士 下手したら女子の5人に1人はああいうタイプなんじゃないかな。あの手の女は嫌いだけど、それをやりすぎない感じでナチュラルに演じた女優はよかったと思います。

麗子 林真須美系女子やな。お日様みたいな顔して人を傷つけるタイプや。くるみ役もそうやけど、全体的にキャスティングが絶妙やったな。

純士 主役の子が地味じゃないですか。昔の深津絵里みたいな。それがよかった。あれ以上垢抜けちゃうと、モテないというのがウソ臭くなる。あと、イチに関してはイケメンで無口だったら誰でもOKかもしれないけど、ニに関してはブサイクでもイケメンでもないあの彼だからこそハマったのかも。身勝手に自分の思いを押し付けすぎるおっちょこちょいなところとかが、すごくよかった。片桐はいりだけは大御所で顔が売れすぎてて少々浮いちゃってた感があるけど、配役は全体的にフレッシュで素晴らしかったと思います。

――今のところほぼベタ褒めですが、気に食わなかった点はありますか?

純士 古代生物についてイチまで詳しいことがあとで判明するというのは、いくらなんでも無理があるかなと思った。学生時代の理科の授業でどっちもアンモナイトへの関心を示した過去があり、そのことをイチもちょっと覚えてた、とかならまだしもね。まあでもそれも全然気にならないレベルです。邦画のラブコメはつまんないと決めつけちゃってるところがあったけど、そういう先入観を持っちゃダメだな、いいものはいいんだなと今回素直に思いました。

――いやぁ、瓜田さんの批評も素晴らしかったですよ。予習せずに1回見ただけでここまで語れる人も珍しいのではないでしょうか。

純士 こうやって俺を褒めるときは、たいてい裏があるんですよ。遅刻の件をチャラにしようとしてヨイショしてるだけだろ? 何事もなかったような顔して鍋をつついてるけど、おまえ、待ち合わせ時間に起きてんじゃねえよ!

――いやいやいやっ、本当にすいませんでした!

純士 「裸足で帰ると風邪ひくから、そこのタカキューで靴下買って帰ったらどう?」と言おうと思ったけど、やめた。おまえみたいな奴は、勝手にふるえながら帰れ!

――ひぃぃっ!

(取材・文=岡林敬太/撮影=おひよ)

※日刊サイゾーでは瓜田純士の最新情報をほぼ月イチペースでお届けしています。
http://www.cyzo.com/cat8/outlaw_charisma/

※瓜田純士の最新刊『熱帯夜』(Kindle版)
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B07769PXXJ/nikkancyzo-22/ref=nosim/

※瓜田純士公式ブログ
http://junshiurita.com

※瓜田純士&麗子Instagram
https://www.instagram.com/junshi.reiko/

あなたにおすすめ

すべての人にインターネット
関連サービス