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漫画の実写化に本当に必要なものは何か?『貞子vs伽椰子』『コワすぎ!』の白石晃士監督が映画『不能犯』で目指したもの

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2月1日(木)から封切られる映画『不能犯』は、『グランドジャンプ』で連載中の神崎裕也作画、宮月新原作による同名漫画の実写化作品だ。人の心を操り、“思い込み”や“マインドコントロール”によってターゲットを殺害する殺し屋と、彼を追う女性刑事の対決を描いた【立証不可能犯罪】スリラー・エンターテイメントだ。主人公の宇相吹正(うそぶき ただし)を松坂桃李が、宇相吹のマインドコントロールにかからない唯一の刑事・多田友子を沢尻エリカが演じているほか、新田真剣佑、間宮祥太朗らが出演している。

メガホンをとった白石晃士監督は、モキュメンタリー形式の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズ、86分疑似長回しの日韓合作『ある優しき殺人者の記録』など、斬新な手法のホラー作品で映画ファンの熱烈な支持を獲得。『貞子vs伽椰子』ではアメリカンなエンターテインメントをJホラーに持ち込み、ヒットに導いている。そんな白石監督は、昨今賛否両論のある“実写化”にどんなスタンスで臨んだのか。原作を再現するだけではない、同作のさまざまな手法について語ってもらった。

原作のニュアンスを大事にするためのディテール追加と変更

(C)宮月新・神崎裕也/集英社  2018「不能犯」製作委員会
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――原作漫画の『不能犯』はエロ・グロ要素もかなりある作品です。白石監督も近いテイストの作品をかなり手掛けてらっしゃるので、本作も刺激的な表現だらけになると思っていたのですが、比較的抑えられていて意外でした。

最初に「PG-12(12歳未満・小学生以下の鑑賞には、成人保護者の助言や指導が適当)にしてほしい」と(製作側から)要望があったので(笑)。なので、PG-12に抑えつつ、大人も楽しめる作品になるように注意しながら作りました。

――実写化にあたって、いくつか設定の変更もあります。映画で沢尻エリカさんが演じている多田刑事は原作では男性で、新田真剣佑さん演じる部下の百々瀬刑事は女性です。なぜ男女を逆にされたんでしょう?

かなり初期の段階、脚本を書く前にプロデューサーから「このほうがいいんじゃないかと思うけど、どう思います?」と提案があったので。実写映画にするときに宇相吹と多田刑事が主軸になるのは間違いない。そうなったときに、「確かに二人とも男だと、すごく男性的に見える映画になってしまうな」と思ったんです。漫画は絵柄もあるので男性も女性も読めるものになっているんですけど、それをそのまま映画にしてしまうと、かなり男性臭くなってしまう。そうすると、ある意味原作からニュアンスが離れた見え方になってしまうんです。だから、多田刑事を女性にすることで逆にニュアンスが原作に近くなると思いました。百々瀬刑事に関しては、女性二人組があまりない組み合わせなので目立ってしまうので、男性に変えたという感じです。

――それぞれのキャラクター自体も微調整されていますよね。沢尻さん演じる多田刑事は、原作では熱血だけどおっちょこちょいで、後輩である百々瀬刑事にまで「バカ」と言われてしまう人物ですが、映画版ではかなりしっかりした人です。

そういう(おっちょこちょいな)要素は、百々瀬刑事に託しています。多田刑事を“熱血だけど抜けている”ように見せてしまうと、宇相吹に対抗できるわけがない、そういうパワーバランスに見えてしまう。漫画の抽象的な世界の中だとそういう表現も成立するんですけど、実写で生身の人間がそれを演じてしまうと、作品自体もゆるくなってしまうし、嘘が大きすぎて入り込みにくくなってしまうので。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社  2018「不能犯」製作委員会
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――宇相吹が原作よりも人間味のそぎ落とされたキャラクターになっていることにも、理由があるのでしょうか?

漫画表現ではおそらく、宇相吹がただの恐ろしいキャラクターのままだと、連載を続けていく中で見続けていくうちにちょっと気持ちが離れてしまうんですよね。漫画、あるいは連続ドラマにおいては、可愛げ・愛嬌を付加しないと、観ている人が主人公を好きになれない。読み続けられない、観続けられないものになってしまう。漫画だと、宇相吹は恐いときは恐いんですが、猫とたわむれたり、家賃を払えなくて追い出されたり、パンケーキがすごい好きだったり、そういう可愛げのあるところが多々出てきます。可愛げのある絵柄になるところも多々ありますし。でも、それを1本の映画でやっちゃうと……これも多田刑事の場合と同じで、宇相吹がゆるいキャラクターになっちゃって、すごいやつに思えなくなっちゃう。それはちょっとないな、と思ったんです。なので、そういう部分を意図的に排除して作った部分はあります。人間味のある部分を描くと、観ている人も当然「人間味のある人なんだ」と思っちゃう。そうすると、漫画ほどあっちに行ったり、こっちに行ったり、というキャラクターを両立させることは出来ないと思います。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社  2018「不能犯」製作委員会
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――原作をそのまま再現する実写映画化が多いですが、『不能犯』は結構大胆に変更を加えられているんですね。

原作のニュアンスを大事にしたほうが映画も面白くなると思います。そこを大事にするために、逆に映画のディティールの部分を変える、というのは、特に漫画や小説の実写化で出てくる考え方だと思います。漫画や小説は抽象性がすごく高いものなので、実写にするときには別の要素を加えたり、変更しないと逆に原作から離れたものになってしまう。日本の場合、見た目だけ原作にあわせてしまって、逆に原作から離れてしまう作品は、そういうケースなんだと思います。海外の作品だと、原作のニュアンスを大事にしながら、さらにディテールを詰めて積み上げるので、長編として観られますけど。ただ、やっぱり“そのまま”はやってないですよね。わたしは、漫画原作を撮るときはそういうやり方をしなきゃいけない、と思っています。原作ものをやるときはそうですね。

――主演の松坂さんが演じる宇相吹のキャラクターも、かなりディテールにこだわっていると思いました。原作にはないタトゥーが指から覗いていたり。どういう意図で宇相吹のビジュアルを構築されたのでしょう?

‟あやしい男”という感じを出したかったところはあります。原作と違うのは、片目を完全に隠しているところでしょうか。原作では両目とも赤く光るんですが、映画ではせっかく隠れているので、片目だけ(が光るよう)にしたほうが視線を分散させずに一か所に集中させることができるからいいんじゃないか、とか。あとは、原作にないイメージ映像を一瞬挿入しようと思っていたので、そのために片目に寄っていったほうがいい、とか。

――なるほど。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社  2018「不能犯」製作委員会
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

あとは衣装ですね。よく見ると、スーツにウロコ模様があるんです。赤いシャツにも、よく見ると細かい模様があるのがわかりますし、ネクタイにもよく見ると変な柄が入っている。そういう、“よく見ると変”なものが見えてくるのが、彼のマインドコントロールに繋がるんじゃないかと思って。靴にもウロコめいた模様が入っていたり、動物的な雰囲気を全体的に持たせています。その延長線上として、宇相吹はあまり動かないんですが、指さすような仕草をするので、その動作に何か妖しさをプラスできないか、と衣装合わせの時に話していて、タトゥ―というアイデアを決めました。そこからタトゥ―をどのくらい入れるかを考えて、まるで彼の血管であるかのようなイメージを表現できればと思ったんです。あまりに入れすぎるとちょっと原作から離れすぎちゃうので、原作者さんに「指にこれくらいならいいですか?」と確認をとって、「それはいいですね」と許可をいただいています。ちょっとした動きのときにチラチラ見える何か妖しいもの……でも、よく目を凝らさないとわからないものが彼の全身にある、という風にしたかったんです。

――色々と工夫されているんですね。

スーツについては色々あって……本当に微妙な違いなんですけど、間違ったらホストにしか見えないですからね(笑)。衣装合わせのときに、微妙な違いを重ねていって、なんとかホストに見えないようにしました。それで成立できていると思います。

――演技については、松坂さんに何かリクエストはされたんでしょうか?

「映画を観た女性に『宇相吹に抱かれたい』と思われるような、危険なセクシーさのあるキャラクターであってほしい」ということは話したと思います。それと、「動きがあまり人間的に見えないようにしてほしい」と。ちょっとしたまばたきなんかは我慢してもらったと思います。ほかにも、髪を気にしてイジるとか、ポリポリ掻いたりとか、普通だったらありますよね。そういう仕草を一切排除して演じてほしい、人間味を排除した動きをしていてほしい、という話はしたと思います。

「海外の人が観ても楽しめるものでないといけない」

(C)宮月新・神崎裕也/集英社  2018「不能犯」製作委員会
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――個人的に小林稔侍さんが演じた烏森が不気味ですごくよかったです。どういう経緯で小林さんをキャスティングされたんでしょうか?

プロデューサー陣から“トメの役者”(編中:重要な脇役。ベテラン俳優がキャスティングされることが多い)が欲しい、と言われていたのがきっかけです。ファインエンターテイメントという制作会社が2時間のサスペンスドラマをよく作っていて、小林稔侍さんと仕事を結構していて繋がりがあるので、そこからオファーして、OKをいただけたんです。私としても、一番好きな映画『狂い咲きサンダーロード』に出演していた方ですから嬉しかったですね。

――今回のように強烈なキャラクターを小林さんが演じるのは、『狂い咲きサンダーロード』のスーパー右翼以来じゃないでしょうか。

最近は、いいお父さん、いいおじいちゃん役が多かったかもしれません。『狂い咲きサンダーロード』の中であのような末路となった小林さんを、私の映画の中でもあのような結末を迎えさせることが出来たのはすごく光栄でした。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社  2018「不能犯」製作委員会
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――役柄について何かリクエストはされたんでしょうか?

衣装合わせのときに少しお話したと思います。威厳が欲しかったのですが、(忍成修吾演じる)旦那さんと玄関先で話すシーンで小林さんをアップで撮ったときに、「画になる顔だなあ!」と思いました。すごいですよ。

――あの小林さんは“ヤバいおじさん”にしか見えないですよね。間宮祥太朗さんも複雑な役を堂々と演じられていました。初主演の『全員死刑』や『ライチ☆光クラブ』などを観ても、白石監督の作品に馴染めそうな方だとは思っていたのですが。

今回の間宮くんは、抑え目に。抑え目だけど、でも……という風に演じてもらったんです。そしたらやっぱり、抑えるほどにじみ出るものがあるというか。その感じがすごく出ていると思います。

――一見、単なる男前の板前さんに見えるんですけどね。ネタバレになるのであまり触れられませんが。間宮さんの演じた川端タケルは、原作には登場しないオリジナルのキャラクターですよね。

そうですね。完全にオリジナルです。映画の縦軸をどこにするか、と考えたときに、彼の存在が重要になってくる役柄です。間宮くんにやってもらってよかったですね。あのキャラクターを説得力を持って演じられるって、なかなか出来ないことだと思うので、間宮くんには本当に助けられました。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社  2018「不能犯」製作委員会
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――原作は一話完結型なので、メインの縦軸と、各エピソードの横軸をまとめて映画化するのは大変そうだと思いました。

ああいうスタイルのものを長編映画にするのは、思った以上に難しかったです。一話完結の連作ものという要素をある程度残しつつ、縦軸のあるものにする。本当に、どういうエピソードを入れるか、横軸を縦軸をどう絡めるか、というのを相当試行錯誤してああいう形になったんです。刑事がいることで、なんとか色んな事件を縦軸でつなぐことが出来たんですが、完全に別個のものだとダメなんですよね。まあ、なんとかうまいことやれたかな、と思います。

――本作は、白石監督が手がける作品としては、『貞子vs伽椰子』に続いて規模が大きな作品だと思います。『貞子vs伽椰子』の時には、「Jホラーをぶっ壊す」という裏テーマを掲げてらっしゃいましたが、今回は何か考えて撮られたのでしょうか?

今回はホラーではないので、「ホラーではない映画をエンターテインメントとしてしっかり見せきる」ということでしょうか。なんとなくサラッと観ても楽しめる娯楽映画である、というのは凄く意識したところではあります。まあ、娯楽映画であるのはいつものことなんですけど。あとは、原作のあるものなので、原作の本質的な部分を抽出した映画でありたい、と思っていました。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社  2018「不能犯」製作委員会
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――原作もの、特に漫画原作の実写化には賛否両論ありますが、白石監督はこれから“原作もの”にどういうスタンスで臨まれるおつもりなんでしょう?

まあ、(オリジナルものと)あまり変わらないですけど。でもやっぱり、原作に面白くなる要素、自分で「これは実写にして面白くなる」と思える要素がないと、やっちゃダメだとは思っています。要は、原作に対するリスペクトがないといけない。そのリスペクトに“理由”があれば、そこをもとに実写化することが出来るんで。そのためには、実写映画にする上で、絶対に変更しないとダメな部分とか、絶対に加えないとダメな部分とか、逆に削除しないとダメな部分も必ず出て来るので、ちゃんと原作を尊重しながら、誠実な気持ちを持ちながら改変を加えていくのが大事だと思います。あとは、原作を知らない人が観ても楽しめるものである、ということはすごく考えています。だから、「海外の人が観ても楽しめるものでないといけない」とは思っていますね。

――白石監督としては、原作ものだからどうこう、というわけではないんですね。

それはないですね。わたしは基本的にスケジュールさえ合えば断らないんですけど、以前「さすがにこれはリスペクトの要素がない」という企画のオファーがあったので、お断りしたことはありますが。

――(笑)今回は原作の世界観自体が監督にあっていたのでよかったですね。

映画『不能犯』は2月1日(木)、全国ロードショー。

インタビュー・文=藤本洋輔
作品情報 映画『不能犯』

出演:松坂桃李 沢尻エリカ
新田真剣佑 間宮祥太朗 テット・ワダ 菅谷哲也 岡崎紗絵 真野恵里菜 忍成修吾
水上剣星 水上京香 今野浩喜 堀田茜 芦名星 矢田亜希子 安田顕 小林稔侍
原作:『不能犯』(集英社「グランドジャンプ」連載 原作:宮月新/画:神崎裕也)
監督:白石晃士
脚本:山岡潤平、白石晃士
配給:ショウゲート
公式サイト:http://funohan.jp/
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

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