ファウストとベザイデンホウトのバッハ ヴァイオリン・ソナタの誘惑(Album Review)

Billboard JAPAN

2018/1/29 12:00



ほんの数日前にバッハ無伴奏とブラームスの協奏曲をひっさげての日本ツアーを終えたばかりのイザベル・ファウストは、モダン楽器でもピリオド楽器でも並外れた演奏を披露する、目下最も注目すべきヴァイオリニストの一人だ。今回そのパートナーを務めるのは、こちらもモダン、フォルテピアノにチェンバロとオールラウンドな活躍を見せるクリスティアン・ベザイデンホウト。

今をときめくこの2人が挑んだのは、バッハのヴァイオリン・ソナタ集で、無伴奏録音でストラディヴァリウスを用いていたファウストは1658年製のヴァイオリンを、一方のベザイデンホウトは1722製チェンバロのレプリカを操っている。この曲集はヴァイオリンと、チェンバロの両手によるポリフォニックな線が音の厚みを生み出す、緩急緩急の4楽章形式のソナタ集だ。ただし第6番だけは5楽章形式で独特なものになっている。

冒頭BWV1014の第1楽章、チェンバロによる導入の後に入って来るヴァイオリンのレチタティーヴォは、彼方からこちらへしずしずと歩みを進めるようで、これから始まる音楽への期待を高めてくれる。緩徐楽章で際立つ息の長いフレージングは、バッハの生み出した旋律のしなやかな美を繊細かつ大胆に引き出し、聴き手はその音の波にたゆたう。ややくすんだヴァイオリンの音色は、チェンバロの音色とも絶妙にマッチ。両者ともに前打音にプリルトリラーといった装飾音を加え、跳躍を音階に変えたりするが、ともすれば厳めしい趣きに陥りかねない緩徐楽章から、その角を取っている。

アレグロやプレストといった急速な楽章では、彼らが要所で効かせるアゴーギクが映える。スタッカートやサルタートの鋭さがどぎつくなりすぎずに滑らかなのは、楽器・奏法に加え恐らくこの録音で用いているバロック・ボウに負うところもあろう。BWV1015の第2楽章など、細かな刻みと艶やかなパッセージとのコントラストもえぐみがない。一方のベザイデンホウトは、といえば、たとえばBWV1017の第2楽章、手の混んだフーガを明快に描き出し、思わず唸らせる。BWV1016のトッカータ風な第4楽章はかなり速いテンポで、吹き抜ける旋風のような音楽からは気取りのない気品が立ちのぼる。リズム処理や主題の特徴を捉えたアプローチも的確で、BWV1018の第4楽章ではシンコペーションと半音階進行が情感豊かに切り出されている。

2人のテンペラメントと音楽性が見事に融合して生まれたこの清冽な録音の完成度は、ムローヴァとダントーネによる演奏(Onyx)にも比肩しうる。21世紀の新たな名盤がここに登場した。Text:川田朔也

◎リリース情報
『J.S.バッハ ヴァイオリン・ソナタ(全曲)』
HMM-902256

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