作家・鈴木光司と貞子は背中合わせの関係だった!! 原作者が語る『リング』が生まれた原風景とは?

日刊サイゾー

2018/1/25 14:00


 2018年は劇場版『リング』(98)が日本中を震撼させてから20年となる。呪いのビデオから這い出てきた貞子はその後増殖を続け、韓国版やハリウッド版も生まれ、恐怖のウイルスは世界各地へと広まっていった。ハリウッド版の新作『ザ・リング/リバース』の日本公開を1月26日(金)に控え、貞子の生みの親である作家・鈴木光司氏が、『リング』シリーズがロングランヒットする秘密と貞子が誕生した原風景について語った。

──中田秀夫監督が撮った劇場版第1作『リング』で、テレビ画面の中から貞子が這い出てくるシーンはあまりにもインパクトがありました。原作者である鈴木さんは、Jホラーブームを巻き起こしたあの第1作を、どのようにご覧になったんでしょうか?

鈴木 シナリオを事前に読んでいたので、当然、内容は知っていました。面白いことを考えつくなぁと思いましたね。原作小説には貞子がテレビから出てくるシーンはないんです。小説で描いても、貞子の怖さは伝わってきませんしね。映像のよさが活かされた劇場版でした。映像から這い出てきたことで、貞子というキャラクターが定着していったといえるでしょうね。

──そんな貞子の怖さは、ウイルスのように世界へと広まっていった。中田監督が撮った『ザ・リング2』(05)以来となるハリウッド版『ザ・リング/リバース』は、若手のF・ハビエル・グティエレス監督が『リング』シリーズの面白さを汲み取った上で、現代的にアップデートしたものになっています。

鈴木 僕が書いた小説を、ハビエル監督はしっかり読んで研究したなと思いました。ナオミ・ワッツが主演したハリウッド版第1作『ザ・リング』(02)の頃は、まだ僕の小説の英訳が出てなかったんですが、今では英語版も出ているので、今回は、かなり原作を読み込んできたなという印象を受けます。貞子(ハリウッド版ではサマラ)に対する愛情も感じさせ、薄型テレビから出てくるシーンがちゃんと用意されていますしね。

■オカルト現象と科学とのボーダーに潜むもの



──主演の若手俳優マチルダ・ルッツとアレックス・ローが序盤は延々といちゃいちゃしているシーンが続くんですが、中盤以降は愛する恋人を呪いによって失うかもしれないという恐怖へと転じていく。実は『リング』シリーズは愛の物語だったことに改めて気づかされました。

鈴木 主演の2人は初々しいカップルで、とてもよかった。確かに『リング』は愛をめぐる物語なんです。原作小説は妻と娘を守るために懸命に闘う父親の物語でした。これを中田監督の劇場版は松嶋菜々子さん演じる母親を主人公にして、母親が息子を呪いから救おうとするドラマにアレンジしたわけです。今回のハリウッド版は恋人を救うためのストーリーになっています。やっぱり、『リング』は愛する人を失うかもしれないという恐怖が描かれているから、多くの人を魅了したんだと思います。小説って、読者の想像力をどれだけ刺激できるかが面白さの決め手になるんです。自分自身の記憶に置き換えることで、物語がリアルに感じられるわけです。映画版も同じで、自分の大切な人がもし残り1週間の命だったらどうしようと考えるから怖く感じるんです。

──コケ脅し的な怖さではないから、『リング』シリーズはロングラン人気を誇っているわけですね。

鈴木 そう思います。愛する人を失うかもしれないという恐怖が、『リング』の骨格なんです。僕は言ってみれば“貞子遣い”なわけなんだけど、貞子自体は別に怖くはないんです。すでにプロ野球のマウンドに登板するようにもなっているわけで(12年と13年のパ・リーグの始球式イベントに貞子が登場)。もう、貞子は面白キャラになっちゃってますからね(笑)。

──今回の逆輸入版『ザ・リング/リバース』は、そんな貞子のキャラぶりを再度ひっくり返してみせたと。今回、オカルト現象を科学的に証明しようとする大学の研究チームが現われるあたりが面白く感じられました。

鈴木 かつてはオカルトと呼ばれたものも、近年は科学的に実証できるようになってきたわけです。例えば大昔、雷は神さまの怒りだと恐れられていたけれど、自然界に発生した静電気だと今ではみんな知っている。でも、科学で全部証明できると信じている人はアホです。まだまだ科学で証明できていないものは、いくらでもあります。

──リアル・高山竜司(『リング』シリーズに登場する天才学者)のレクチャーを受けているような気分になってきました。

鈴木 ハハハ! 宇宙を構成しているのは、ダークマターとかダークエネルギーと呼ばれているものが99%を占めているんです。ですから、我々が理解していると思っている物体も、実はわけのわからないものなんです。そのことが2000年になってから発覚した。大ショックですよ。これまで否定的に見られてきたオカルト現象ですが、科学的に証明できることも充分あると思いますよ。虫の知らせって、あるでしょ? 僕は実際に2度ほど体験しています。大切な人が亡くなる瞬間に、離れた場所にいても、眠っていても胸騒ぎがするわけです。この虫の知らせが宇宙空間だとどうなるんだろうということに、僕は興味があるんです。論理的に考えれば、情報が伝達するのは光よりも速いスピードでは不可能なはず。では5光年先の宇宙で宇宙飛行士が亡くなった場合、虫の知らせは5年の歳月を要するのか、それとも一瞬で感じるのか。もし、一瞬で虫の知らせを感じたのなら、これまでの物理の理論は成り立たなくなります。アインシュタインの相対性理論の上を行くモデルをつくらないと証明することができない。最近の量子力学なんて、以前ならオカルトと呼ばれた世界ですよ。僕が小説にするネタは、まだまだいっぱいある(笑)。

■『リング』に関わった人間はみんな幸せになる!?



──劇場版の『リング』シリーズに登場した女優ですが、竹内結子、松嶋菜々子、中谷美紀、深田恭子、仲間由紀恵、石原さとみ……。韓国版ではペ・ドゥナ、ハリウッド版ではナオミ・ワッツと、貞子に関わった後、みんな人気女優となっています。貞子って、実は幸福をもたらす女神じゃないんでしょうか?

鈴木 みんなを幸せにしているのは貞子ではなく、僕なんですよ(笑)。僕は自称「人間パワースポット」なんです。『人間パワースポット 成功と幸せを“引き寄せる”生き方』(角川書店)なんて本も出しています。僕の初代編集担当者は、今では角川映画の責任者ですよ。僕と関わると、みんな売れっ子になるんです。僕がね、いつも心掛けていることは、なるべくみんなが明るくなれるように現場を盛り上げ、いい仕事をして、仕事終わりに旨い酒を呑むための雰囲気づくりです。いい雰囲気の場所から、いいものが生まれる。大相撲みたいに、閉鎖的なことをやってちゃダメ。僕は、小説を書いているとき以外は、どうすればみんなが明るくなるかということばっかり考えているんです。また、そういうことばかり考えていることが人間パワースポットに繋がっているように思います。

──底抜けに明るい性格だから、『リング』のようなホラー小説が書けるんですね。

鈴木 そうですよ。作家の柳美里さんが「あんなに怖い話を書く人は、心の中に暗く不吉なものがあるに違いない」と言ったそうですが、僕の編集担当が「鈴木さんの頭の中は、どこを探しても暗いものがない。天然で明るいだけ」と説明したそうです。「僕の頭の中を空っぽみたいに言うなよ」と、そのとき思ったけど、実際に僕にはコンプレックスがひとつもなく、なんでこんなにいろんなことがうまくいくんだろうと思っている人間なんです。逆に、僕には明るい家族の話が書けません(笑)。

──作家・鈴木光司と貞子は“背中合わせ”の関係なんですね。小学生の頃に文章を書くようになったきっかけがあったそうですが……。

鈴木 小学5~6年のときに初めて小説らしきものを書いて、それが僕の作家デビュー作『楽園』のもとになっています。文章を書くようになったきっかけは、小学4年生の頃にクラスでいじめがあって、その輪の中に僕は入ることができず、疎外感を感じていたんです。そんなとき宮沢賢治の伝記を読んだら、賢治もいじめに遭遇して同じような心境になっていた。自分と同じように感じていた人がいたことがうれしく、それから賢治を真似て詩を書くようになったんです。

──小学校時代の体験が、作家・鈴木光司としての原点であり、『リング』誕生の原風景にもなったといえそうですね?

鈴木 そうですね。確かに、そういう部分はあるかもしれませんね。

──いじめって、どんなに時代を経てもなくなりません。

鈴木 いじめがなくなることはないでしょうね。昔は単純に貧富の差や容姿の違いから起きていたものだったと思いますが、今はいじめの構造が変わってきています。娘たちが通っていた学校でもいじめ問題があったので、ずっと考えていた時期があったんです。いじめの原因がどこにあるかは明白です。家族の問題なんです。いじられる側もいじめる側も、どちらも家庭に問題があることがほとんどで、家庭の崩壊がいじめの原因に繋がっている。いじめは子どもが学校に入学する前から根が張っている深い問題です。それが学校に上がって、ひとクラス30~40人が同じ輪になったときに、いろんな問題が顕在化してくる。いじめる側といじめられる側の立場が、逆転することもありえます。学校の先生が「いじめはダメ」と押さえつけても効果はありません。人間パワースポットみたいな根っから明るい子をうまく輪の中に配置することで、クラスの雰囲気は変わってきます。子どもたちからのボトムアップが重要です。先生がそのことをうまく理解して、子どもたちを配置できればいいんですが、今の先生たちは多忙すぎて、なかなか手が回らないというのが現状でしょう。

──いろんな状況を、作家として論理的に見つめているんですね。『リング』誕生から四半世紀が経ちますが、鈴木さんが感じる“恐怖”に変化はありますか?

鈴木 僕がいちばん怖いのは、やはり愛する家族を失うということ。そういう点では、恐怖の対象は変わっていないように思います。物理的に怖いのは、僕はヨットでよく航海するんですが、夜間に台風に遭遇したときですね。あらがいようのない大自然の怖さは、オカルトどころではないです。ヨットで航海しているときは、船の性能や自分の航海技術や能力で乗り切るしかない。小説や映画の世界で描かれる妄想の怖さは、またそれとは別物でしょうね。妄想は実態がないから、対処のしようがありませんから。『ザ・リング/リバース』で描かれた恐怖は、僕の原作にとても近い。その分、すごく怖いですよ。
(取材・文=長野辰次)

『ザ・リング/リバース』
原作/鈴木光司、映画『リング』
監督/F・ハビエル・グティエレス 脚本/デヴィッド・ルーカ、ヤコブ・アーロン・エステス、アキヴァ・ゴールズマン
出演/マチルダ・ルッツ、アレックス・ロー、ジョニー・ガレッキ、ヴィンセント・ドノフリオ
配給/KADOKAWA 1月26日(金)より全国ロードショー
C)2017 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.
http://thering-movie.jp/

●鈴木光司(すずき・こうじ)
1957年静岡県生まれ。慶應大学文学部卒業後、90年に日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞した『楽園』(新潮社)で小説家デビュー。91年に発表した『リング』(角川書店)は横溝正史賞最終選考に残り、ベストセラーに。その続編『らせん』(角川書店)は吉川英治文学新人賞を受賞。『リング』『らせん』は98年に同時映画化され、Jホラーブームを巻き起こした。『リング』はハリウッドで『ザ・リング』として2002年にリメイクされるなど、世界的な人気シリーズとなった。映画原作となった作品に『仄暗い水の底から』『バースデイ』『エス』(いずれも角川書店)などがある。

あなたにおすすめ

すべての人にインターネット
関連サービス