ソフトバンク、高い経営リスクへの警戒広まる…新施策の収益化が困難


 2018年年初の時点で世界全体の経済を見渡すと、米国を中心に景気は堅調に推移している。税制改革法案が成立し法人税率が引き下げられたこともあり、当面の間は景気が堅調な展開を維持するだろう。

米国では企業業績への期待も高まっている。株式アナリストにヒアリングをすると、ハイテク企業の成長期待が高まっていることがわかる。特に、アマゾンやグーグルなど、ハイテク企業がこれまでにはないテクノロジーの実用化を進め、人々の生活に大きな変化がもたらされるとの考えが多い。米国だけでなく、中国でもハイテク企業が注目を集めている。背景には、中国政府が情報技術分野での競争力を高め、米国以上の存在感を示そうとしていることがある。また、大気汚染の軽減などのために電気自動車の普及も重視されている。

ハイテク技術の開発と普及には、より多くの半導体が必要だ。そのため、半導体の製造装置を手掛ける産業機械メーカーを中心にわが国の企業業績も好調だ。一部では、部品不足によって生産が停滞する企業も出ている。こうした状況は景気の回復にとっては好ましい。同時に、わが国にはアマゾンのようなハイテク企業が見当たらないのも事実である。言い換えれば、わが国の企業は、ハイテク産業の最前線ではなく、その下請け的な存在になっている。

●成長期待をけん引するハイテク企業

18年の経済を考える上で、ハイテク企業がどのような新製品を市場に投入し、人々の暮らしに新しい変化が起きるかは見逃せない。具体的にどのような変化がもたらされるかを考えてみると、ICT(情報コミュニケーション技術)関連のデバイスと私たち人間が、より密接にかかわることが増えるだろう。

そうした展開を想起させたものが、「グーグルホーム」や「アマゾンエコー」をはじめとするデバイスの普及だ。これらは、スピーカーの形をしていることから「スマートスピーカー」と呼ばれることもある。特徴は、人工知能を搭載し、音声認識によって作動することだ。昨年12月、米国のクリスマス商戦期にアマゾンの売上トップを飾ったのがアマゾンエコーだった。また、グーグルのデバイスも急速に売り上げ台数を伸ばしている。音声を介して人間がスマートデバイス(機械)と相互にコミュニケートし、生活を営むことが世界全体で進んでいる。

アマゾンとグーグルは、世界のスマートスピーカー市場でシェアを争っている。それは、スマートフォン市場でのアンドロイド(グーグル)とiOS(アップル)のシェア争いを髣髴させる。どちらの人工知能も、その機能を基にした新しい生活のコンセプトが共感を集めていくかが焦点だ。

これまでこの2つの企業は毎年1月に米国で開催される世界的な家電展示会である「CES」に出展してこなかった。しかし、両社とも今年は出展を決めた。その背景には、自社のスマートスピーカーに搭載された人工知能の能力を世界に示し、より多くの賛同企業を獲得しようとする考えがある。このように、企業の経営戦略は、業種を超えたアライアンス(提携)などを結び、協働することを重視している。それは、従来よりもオープンな発想が重視されていることにほかならない。わが国の企業にも、これまでの常識にとらわれるのではなく、柔軟にノウハウや技術を取り込み、新しいモノやサービスを生み出す発想が必要だ。

●ハイテク競争で後れを取る日本企業

わが国の経済を見渡すと、アマゾンなどに匹敵する企業は見当たらないのが現実だ。人工知能を搭載した機械が人間と密接にかかわることが増えるなか、わが国の企業は、半導体の製造機器などの分野で存在感を示してはいる。そうした企業の技術力は確かに高い。

気がかりなのは、常識にとらわれることなく新しい取り組みを進め、必要に応じて政府とも協議を行う行動力のある企業が少ないことだ。それよりも、どちらかといえば過去の延長線上にある発想でビジネスを進めようとする企業が多い。

国内の企業で特異な存在はソフトバンクだろう。同社は、グループを統率する孫正義氏の眼力によってアニマルスピリットのある企業家を見分け、出資(投資)することで成長を取り込もうとしている。端的に言えば、ソフトバンクは投資会社としての性格を強めている。それを象徴するものが10兆円ファンドと称されるソフトバンク・ビジョン・ファンドだ。

ソフトバンクが目指しているのは、“シンギュラリティ”の実現だ。シンギュラリティとは、人工知能がわたしたち人間の知性を超越する技術的な特異点を意味する。そのために同社は半導体設計企業である英アーム社を買収し、経営に問題がある米国のライドシェアアプリ大手ウーバーに出資するなど、次から次へとハイテク関連の企業の技術力やノウハウを取り込んでいる。同社は自前でIT技術や通信インフラを開発するよりも、出資や買収を行うことでアマゾンなどをも飲み込む情報通信基盤を形成しようとしているようにさえ見える。

問題は、市場がソフトバンクの投資戦略のリスクが高すぎると考えていることだ。言い換えれば、アマゾンやグーグルのように着実に新しい取り組みを収益につなげることが難しいと考えられている。その証拠に、ソフトバンクの株価は昨年10月下旬以降、軟調に推移している。

●省人化技術というチャンス

足許で、わが国の設備投資は高水準で推移している。背景には、少子高齢化が進んできたため人手の確保が難しくなっていることがある。わが国の人口問題は世界的に見ても深刻だ。中国などでも少子高齢化の問題が深刻化している。ハイテク技術を生かし、社会全体で省人化を実現することは、わが国だけの問題ではない。

それを解決する技術を開発することは、わが国の競争力を高めることにつながる。他国が簡単には真似できないような競争力がないと、国内経済は海外の景気動向頼みになってしまう。それでは長期的に経済を安定させることは難しい。

省人化技術の開発と普及を進める上で、ソフトバンクの存在は重要だ。同社の発想に共感し、ハイテク技術を生かした省人化技術の導入などを目指す企業が増えれば、わが国の競争力は大きく変わる可能性がある。

特に、人手不足で業務の運営が容易ではない企業ほど、省人化技術を取り込む余地は大きい。それはチャンスだ。代表例が物流業界だ。すでにヤマト運輸は自動運転技術の実験を進めている。そうした企業は、ソフトバンクのような異業種の企業と提携することで、従来にはなかった発想やテクノロジーの可能性をより具体的に検討することができるだろう。

電子商取引が拡大するなか、最終顧客に品物を届けるために物流サービスの重要性は高まっている。自動運転の実用化だけでなく、ドローンを用いて集配センターから最終顧客までの配達を行うことが目指されてもよい。そのためには、電柱を用いた送電システムは適さない。

新しい取り組みを進めるためには、これまでの常識にとらわれる必要はない。むしろ、固定観念を捨て、新しい発想に基づいてテクノロジーの導入を進め、それに合うように社会インフラの在り方を議論する発想も重要だ。各企業がこれまでにはない新しい発想で省人化技術の導入などの変革を進め、海外でも通用するビジネスモデルを整備することがわが国の成長を支える。そうした取り組みを支えるために、政府が制度改革や規制緩和を行うことも不可欠だ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

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