カヌー競技“禁止薬物混入”問題に現役選手から「理解できる」の声も……防衛意識のなさ指摘

日刊サイゾー

2018/1/24 22:30


 日本カヌー連盟が、ライバル選手の飲み物に禁止薬物を混入した鈴木康大の薬物入手の経緯を明かした。

連盟関係者によると、鈴木は世界選手権のためチェコに滞在していた昨年8月、ハンガリーのサイトから弟の名義を使って薬物をネット購入。これを千葉県内の実家に送り、翌月に日本選手権が開催された石川県小松市に転送。薬物をすり潰して会場に持ち込み、レース中に小松正治の飲み物へ入れたという。あまりに用意周到な違反行為だが、実は当の現役カヌー選手らからは「『そこまでやらないと勝てない』という気持ちになること自体は理解できる」という意外な声も聞かれた。

「もちろん絶対ダメなことは十分、わかってます。でも、海外で国際大会に出ると、嫌がらせみたいなことはしょっちゅうなんですよ。みんな、そこまでやって勝とうとしてくるので、むしろ日本選手の方が無防備すぎたかなって思うんです」(国際大会を経験したカヌー選手)

鈴木が混入させたのは筋肉増強剤の一種で、これにより小松はドーピング検査で陽性となった。両者は2020年東京五輪代表入りを争う間柄で、かつて日本のエース格だった鈴木を最近、小松が追い抜いていた。

本件には日本カヌー連盟の古谷利彦専務理事が「スポーツマンシップという日本人のみなさんが長年積み上げられてきた美徳を著しく失墜させるもの。指導が行き届かず、おわび申し上げる」と謝罪した。ルール違反というだけでなく「日本人の美徳」に言及した謝罪は、正々堂々と戦おうとしなかったという非難に配慮したものだろう。ただ、選手の中には、その美徳を崩してまで勝利を得ようとしたことに理解を示す者もいるのである。

別競技になるが、ラグビーで世界各地のチームで活動した元選手の河合吾郎氏も「非常に考えさせられる事件だった」と話す。

「海外大会で相手を不当に蹴落としてまで勝とうとする者がいることは珍しくないです。特に五輪出場となれば、金銭面でのメリットも大きいので、何をやっても勝とうとする人が出てくるんです。以前、南米諸国でプレーしたときは、試合準備への妨害行為も日常茶飯事でした。アルゼンチンでは現地の言葉で『ヴィヴェサ・クリオージャ』という、ライバルを出し抜く狡猾な気質が武器とされ、見えないところでの反則とかアンフェアな行為で優位に立つことも能力のひとつと見なすような空気も感じました。控室での盗難もしょっちゅうで、これはおそらく現地の人々が社会的に正義と法の順守とかいうものを信用していないところから来ているのでしょう。ずるいことをやられても、逆にやり返せというぐらいの感覚があったので、それはときに社会の崩壊にもつながるんですが、それが現実でもあるんです」

同じく海外でプレーした元サッカー選手も「審判の見えないところでの反則は日本よりずっと多く、また、プレー以外での妨害にもかなり気を使わなくてはならなかった。ライバルを闇で襲撃しているというウワサさえあった」と話す。

ボクシングの世界では、日本国内で試合を続ける選手が、海外だといつもの力を発揮できないことをファンが「内弁慶」と揶揄することがある。海外ではアウェーの選手に対して、試合会場から遠い冷暖房のない控室を用意するようなことも少なくなく、ときに日本人が乗る体重計に細工がされていることさえある。そうした妨害工作に日本人選手サイドが強く抗議をできないまま、敗戦後にフェイスブックで愚痴を述べただけ、というひ弱な結果に終わったことも。

「そういう意味で、やられる方の自己防衛についても考えなきゃいけないのかもしれません」と河合氏。

「どの競技でも国際大会でのトップ選手は、確認できない飲み物には手を付けないなど、強い防衛意識があります。無意識に食事などから禁止薬物を摂取してしまっても、国際大会では許される理由にはならないですし、自分を守るという意識が日本人選手には希薄な印象もあります」(同)

スポーツマンシップという美徳は理想ではあるものの、それがきれいごとになってしまう世界もあるわけだ。相手を凌駕するためにどんな手でも使う、生き残ろうとする選手がいる以上、防衛意識も不可欠になる。盗難が相次ぎながら、その対策を取れなかったところは、日本カヌー連盟の弱点だったのかもしれない。
(文=片岡亮/NEWSIDER Tokyo)

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