子育て中に生じる“焦り”の正体とは? 古泉智浩&しまおまほが語る「親」という存在


 里子を6歳未満で自分の籍に入れ、法的に実子と同じ扱いとする、特別養子縁組をした漫画家の古泉智浩さん。前編では、同じく子育て中のエッセイスト、しまおまほさんと、実子と里子や養子の育て方の違いについて思うことを語ってもらいました。後編ではさらに、育児に関する社会問題も含め、お互いの育児エピソードに踏み込んでいきます。

(前編はこちら)

■所構わず子連れで行くのは気が引ける

――お2人は、お子さんを今年から保育園に入れたんですよね。それによって、生活はどう変わりましたか?

古泉智浩(以下、古泉)・しまおまほ(以下、しまお) めっちゃ楽になりました!

――先日、熊本の市議会議員が預け先に困って議場に乳児を連れてきたことが、賛否両論を呼びました。保育園の時間外など、どうしても預け先が見つからないときもありますよね。

しまお そのニュース、あまり見ていないのですが、私自身はできる限り仕事場に子連れでは行きません。仕事柄、寛容な現場もあるのですが、決して子どもが好きな人ばかりではないでしょうし。とりあえず「可愛い」って言わないといけないような雰囲気にするのも、心苦しいと思ってしまっていて。息子が保育園に入る前は、家族や親しい友人に面倒を見てもらったり、託児所を利用したりしていました。

古泉 僕は、子どもを連れてきている人がいたら、うれしくて抱っこしちゃいますけどね(笑)。でも、そういう人ばかりではないですよね。

しまお 時と場合によりますね。勝手知ったる現場だったら、連れていくこともあるかな。でも、子どもって、基本的におとなしくはしていないので……。

――託児所は、「今日どうしても預け先がないから預けよう」と、いきなり行っていいのではなく、事前の登録が必要なんですよね?

しまお そうなんです。私がたまに利用しているところは、1階が託児所で2階がシェアオフィスになっていて、保育園入園前は助かりました。とてもきれいな場所で、来ているママたちもオシャレ。そんな中、テキトーな格好で机で昼寝したり、お菓子を食べながら原稿を書いている私は、完全に浮いていましたね(笑)。

古泉 アハハ! 利用料金はどれくらいなの?

しまお 保育園よりは高いですね。

古泉 でも、どこにも預け先がないときは助かるよね。

――ほかに、利用してよかった育児支援施設はありますか?

古泉 僕が住んでいる地域の役場の隣にある施設は、遊び道具があったり、「みんなで歌を歌いましょう」という時間があったりして、よかったです。預けるというより、保護者も一緒なのですが、保育園以外の時間で、家にずっといるのに飽きたときに利用していました。

しまお 私は演劇を鑑賞した際、劇場についている託児施設を使ったことがあります。

古泉 それは無料なの?

しまお 2,500円くらいかかりました。演劇のチケットにプラス2,500円と考えると結構な出費ですが、一緒に劇場まで行けるのはよかったです。利用者はずいぶん少なかったですけど。調べると、チケットサイトが運営している無料の託児サービスもあるようですね。

行政の施設でいうと、区のベビーマッサージ講習に行ったことがあります。しかし実際は、講習は15分だけで、残りの1時間半は「みんなでおしゃべりをしましょう」という感じでした。住んでいる地域ごとに席が決められていて、「あそこのスーパーいいよね」といった、共通の話題を出しやすくされていました。孤立する母親をつくらないよう手厚く取り組んでいるんだな、と思いました。私は途中から参加したので、すでにできあがっている20代のママたちの輪に入れず焦りました(笑)。

古泉 うちも役所から保健師さんが来ましたよ。でも、当時は里親初心者だったから、虐待をしていないか監視されているのかなと疑心暗鬼になってた(笑)。

しまお でも、みんなスタートは一緒ですからね。私も子育て素人だったし、オムツ替えを練習しても、実践すると全然違ったりする。

古泉 女性は10カ月かけてお母さんになるけど、僕ら夫婦は(「里子を預かってくれませんか?」と連絡があってから)1週間で親にならなければなりませんでした。

しまお う~ん、でも全然自覚はありませんでした。ただおなかが膨れていって……という感じで。そして、産んだ直後に「あ、これからずっと一緒なんだ、終わりがないんだ」と思ったら、ちょっと怖くなりました。産むのがゴールかと思っていたら、違った。

古泉 重荷みたいに感じたんですか?

しまお 重いと思いました(笑)。生まれたからには、死ぬってことじゃないですか。その重みが怖いというか……。友達の中には、「生まれた子どもの顔を見たら『大好き! 可愛い!』って幸せオーラしか出ないよ」と言っている人もいましたが、私は全然。「ゲッ、ヤバイ!」って思いました(笑)。

古泉 真面目なのかな。

しまお 真面目なのかもしれない。育児についてはサボったりもできるけど、責任をサボることはできない、と思ってしまって。

――入れる保育園を探す「保活」に取り組んでいる方も多いですが、お2人は、保活には苦労されなかったんですか?

古泉 僕が住んでいる地域は待機児童1人なので、特には。

しまお 周りではいましたね。私、病院も、産む1カ月くらい前になったら適当に探せばいいかと思っていたのですが、着床した段階で、大きい病院に連絡して予約する人もいるらしいです。妊娠してあまり間もない時期なのに、「産む病院をまだ決めてない」って言ったら「ヤバイよ」と言われてしまって……。

古泉 もし、決めてなかったら、怪しげな病院に回されるんですかね?

しまお どうなんでしょう。36歳で一応、高齢出産だったから、何かあったときのためにとりあえず大きい病院を選んだのですが、いま考えたら、近所の病院でよかったんじゃないかなと思います。

――都会では、ベビーカーを電車に乗せると、白い目で見られることもあります。どうすれば、もっと子育てしやすい社会になると思いますか?

しまお 東京のラッシュは本当にひどいですよね。私はほとんどベビーカーを使わなかったです。ずっと抱っこしていました。

古泉 うちの子も、ベビーカーに乗せると「降りるー! 抱っこしろー!」って言って全然おとなしく乗ってくれないので、ほとんど使い物にならなかったです。

しまお うちもベビーカーは1歳過ぎてから買ったんです。でも、エスカレーターに乗れないので、いちいちエレベーターを探すのが面倒に感じ、結局抱っこしていました。車があればベビーカーも楽なのかもしれないけど、ベビーカーがあるほうが、結構手間がかかるような気もします。

「ベビーカーを買わなきゃいけない」わけじゃないのに、勝手に「買わなきゃ」って思い込んでいました。出産や育児ってなった時、急にレールに乗っているんですよね。病院を選ぶ、妊娠線予防のクリームを買う、ベビーカーを選ぶ、電動自転車を買う……みたいなラインに。

――焦ってしまうということですか?

しまお そうですね。情報が過多に入ってくる。でも、そんなの本当は、まったくと言っていいほど必要なかったりする。

古泉 ぼんやりしていると、取り残されてしまう感。

しまお ネットとかで育児グッズの情報を見るより、自分の子どもを見て、自分の子どもに合わせた取捨選択をしないと、逆に窮屈なんじゃないかと思います。ベビーカーや抱っこひもも、焦って買わなくていいんじゃないかな。

古泉 僕は、講師をしている漫画教室のママ友さんに、お古のアイテムをもらいましたよ。

しまお 結構みんなくれますよね。

古泉 チャイルドシートも、中古品を5,000円くらいで買いました。全然お金をかけていません。

しまお 私も服は、ほぼ友達のお古です。周りよりちょっと出産が遅れると、お古をたくさんもらえるんですよね。お古の服だから、全然インスタ映えしない子どもですけど(笑)。

(姫野ケイ)

古泉智浩(こいずみ・ともひろ)
1969年生まれ。ヤングマガジンちばてつや賞大賞受賞。代表作『ジンバルロック』(青林工藝舎)、『ワイルド・ナイツ』(双葉社)のほか、映画化された原作漫画に『青春☆金属バット』(秋田書店)、『ライフ・イズ・デッド』(双葉社)、『死んだ目をした少年』『チェリーボーイズ』(青林工藝舎/2018年2月公開予定)がある。DVD『渚のマーメイド』原作・脚本担当。子育てエッセイ『うちの子になりなよ ある漫画家の里親入門』(イースト・プレス)が話題を呼ぶ。Vコミで『漫画 うちの子になりなよ』連載中。
・ブログ:古泉智浩の『オレは童貞じゃねぇ!!』

しまおまほ(しまお・まほ)
1978年10月東京・御茶ノ水生まれ。多摩美術大学芸術学科卒業。97年、『女子高生ゴリコ』(扶桑社)でデビュー。ファッション誌やカルチャー誌に漫画やエッセイを発表。著書に『ガールフレンド』(スペースシャワーネットワーク)、『ぼんやり小町』(ソニー・マガジンズ)、『しまおまほのひとりオリーブ調査隊』(プチグラパブリッシング)、『まほちゃんの家』(WAVE出版)、『漫画真帆ちゃん』(KKベストセラーズ)など。

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