「性欲が強いだけ」「ただのセックス好き」? セックス依存症の実態を専門家に聞いた


 「セックス依存症」。2009年に不倫スキャンダルで世界を驚かせたタイガー・ウッズが、後にこの病気だったと発覚し、日本でもその病名は一般的に知られるようになった。最近でも、複数の女優からセクハラ行為で告発(Twitterに「#Me Too」のハッシュタグで投稿)を受けている米映画界の大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインが専門病院でセックス依存症の治療を1週間受けたと、米メディアで報道され、世間を騒がせた。

しかし、日本では、アメリカのようにセックス依存症が話題になることはほぼなく、実態が正しく理解されていないのが現状だ。そこで、多数の患者の治療にあたっており、著書『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)が各メディアで話題を呼んだ、大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)に、セックス依存症の実態、原因や治療について話を聞いた。

■女性のほうが男性よりもリスクは高い

そもそもセックス依存症とは、どのような病気なのだろうか。

「セックス依存症は、『社会的・身体的・経済的な損失があるにもかかわらず、強迫的な性衝動が抑えられず、セックスやマスターベーションをすることがやめられない状態』のことをいいます。男女ともに陥る可能性はありますが、特に女性の場合ですと、不特定多数の人と性関係を持つことで望まない妊娠や人工妊娠中絶、STD(性感染症)になるリスクがあるので、男性よりも事態は深刻であるといえます」

また、セックスをしていない時間が続くと、薬物が切れたときのようにセックスへの渇望感が溢れ出て、心理的な不安やパニック、リストカットや摂食障害などの禁断症状が表れ、それらを抑えるために危険を承知でさらにリスキーな性関係を求めてしまうという。

男性の場合は、借金をしてまでも風俗通いがやめられないケースが多く、最近ではSNSを利用して手当たり次第、いわゆる “ヤリ目的”で女性と実際に会い、合意があると一方的に認識、強引にセックスをして事件化する場合も少なくないと斉藤氏は語る。さらにセックスだけに限らず、1日中マスターベーションがやめられずに、会社内でも我慢できずに行動化したり、大事な約束に遅刻してしまうなど、やるべきことの優先順位に逆転現象が起こることもセックス依存症のカテゴリーに入るといい、決して侮れない深刻な病気といえるのだ。

セックス依存症に陥ってしまう女性の場合は、家庭内性虐待や性犯罪被害など、過去の陰惨な被害体験が大きく影響しているという。

「私が出会ってきたセックス依存症に悩む女性たちは、過去に実父や義父、親戚の誰かから性虐待を受けた経験や、レイプ被害に遭ったことのある人が多いです。聞くに堪えない虐待をされて育っているため、自己評価が低く(自分を大切にできない)、セックスの最中だけ相手に抱きしめられ自分が必要とされていると錯覚してしまい、セックスそのものにのめり込んでしまうのです」

一般的に誤解されていることが多いが、セックス依存症とは、ただ快楽に浸り続けているわけではなく、自分の体を大切に扱うことができない自傷行為なのだ。ただ、本人にとっては、不特定多数の男性とセックスを繰り返すことが不安や葛藤、痛みを和らげる鎮痛作用=自己治療の側面もあるため、それが影響して自ら風俗店で働くことを望むケースも少なくない。斉藤氏が勤める榎本クリニックを訪ねてきた女性患者の多くは、セックスだけに限らず、複合的にいくつかの依存症を抱えているという。

「年齢層は20代から50代と幅広いですが、性被害のトラウマが原因で、性の問題以外にも、たとえばリストカットや摂食障害、アルコールや薬物依存など、さまざまな症状に苦しんでいて、セックス依存症単体のみという人はごく少数。特に薬物とセックス依存症は併発するケースが多いです」

■回復の中で大切なのは「自己受容」

過去の性暴力被害がセックス依存症に陥ってしまう大きな要因ということだが、どのような治療法があるのだろうか。

「通常は、専門的な技法を用いたトラウマ治療もありますが、基本は個別のカウンセリングに加え、性被害に遭った人たちでグループになり、自分の体験を分かち合うことで、仲間から受け入れられているという経験を通して、少しずつ日常を取り戻していきます。つまり、仲間から受け入れられる共感的なプロセスを通して『今の自分で大丈夫なんだ』と自己受容できるようになることが治療の中では重要です」

斉藤氏によれば、逆説的にはなるが、「自己破壊的に見える性的逸脱行動を無理やりやめさせるようなことはしない」そうだ。「どんな深刻なアクティングアウト(行動化)があっても、動揺せず『そのままのあなたでいいんだよ』と患者にメッセージを伝え続けることが、長い治療関係の中では重要」なのだという。

これはマラソンの伴走に似ていて、必要なときは声をかけ励まし、倒れそうになったら手を貸すこともある。しかし、長い道のりを常に横で見守っている、そんなイメージだ。

「本人にとって、セックスは生き延びるために必要なことだから、これまで自己破壊的に見えたとしても続けてきたわけです。それを周囲が無理矢理やめさせようとすればするほど、恥の意識や罪悪感が強まり、逆効果になります。極端な場合、自分の支えとなっていたものが急になくなって、その反動で自死してしまうケースもあります。そのため、『今どうしてもとめられないなら、必要なんだからやっててもいいよ。そんなことで私たちはあなたを責めたり見捨てたりはしないよ』と、肯定的なメッセージを送り続けることが大切なのです」

痴漢や強姦などの性犯罪は、直ちにやめさせないといけないし、言うまでもなく再発防止に最も力を入れなければいけない。しかし、セックス依存症の場合は、「再発は回復のプロセスである」という捉え方で、やめることを強制することはかえって逆効果になってしまうのだ。完治するのは困難だが、苦しい時期を経て一生のパートナーと出会い回復していったケースも多いという。まずは、セックス依存症が「ただのセックス好き」とは違うことを理解し、悩んでいる人がいれば、専門治療機関につなげることが重要なのではないだろうか。
(福田晃広/清談社)

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