「フューチャークロちゃん」が暴いたゲスで哀れで愛らしい男・クロちゃんは平成の“寅さん”だ!

日刊サイゾー

2017/12/29 13:16


 27日に放送された『水曜日のダウンタウン・2時間SP』(TBS系)。松野明美のもとに、反乱を起こした人工知能ロボットに対峙する未来の総理大臣となった自分(松野明美)から電話がかかってきて、松野がターミネーターから逃げ惑い、ついには宇宙に行くという企画もすごかったが(企画というより信じ込む松野がすごい)、そのあとに1時間にわたって放送された、ゲスとピュアの入り混じる人間の業を見せてクロちゃん(安田大サーカス)企画が、さらにすごかった。

「クロちゃんツイッター企画第2弾 フューチャークロちゃん」と題されたこの企画。

■「第1弾」ではクロちゃんの“嘘”が続々発覚



もともとは「『起きたら人がいる』が結局一番怖い説」というドッキリ企画において、現場スタッフが「(新宿から自宅まで)ウォーキングしながら帰るしん!(しん~は口癖)」というツイートを鵜呑みにして、ドッキリ対象であるクロちゃん宅で準備していたところ、なんと歩かずにタクシーですぐさま帰って来て、現場が大慌てになったことで発覚した「黒川嘘ツイート常習疑惑」。それを検証するために「クロちゃん嘘ツイート監視企画」が行われ、1週間にわたって24時間、本人とそのツイートを監視。放送の中で多くの細かい嘘をついていることが発覚した。

「プロテインとボディーメンテ飲んで夜まで我慢だねー。」とツイートしながら2玉盛りの蕎麦を食っていたり、かき氷とたい焼きしか食べていないダイエットアピールをしながら「牛すじ味噌おでん定食」を食べていたり、主に「ダイエット頑張ってる自分アピール」として放たれる嘘ツイの数々。

そこで番組が「リアルクロちゃん」という偽アカウントを作成、監視して暴かれた本当の黒川容疑者の行動を逐一ツイート、大きな反響を得た。

監視といっても生ぬるい監視ではなく、職場、移動中、遠征の先のホテル、プライベートで訪れる先、そして自宅まで常に隠しカメラで撮影、特に自宅にいる様子を「リアルクロちゃん」がリアルタイムで画像付きツイートすると、それを見たクロちゃんはベッドから飛び上がりパニックに。撮影班が自宅に突入しても、驚く以前に「よかったぁぁぁぁぁ」とマックスの安堵を見せるほど追い詰められていた。

それがあってからの「第2弾」らしい。

■いわば「未来日記」



今回は「リアルクロちゃん」ではなく「フューチャークロちゃん」というアカウントが作られ、そこでツイートされた内容は、必ず翌日「現実」になるのだという。いわば『ウンナンのホントコ!』(同)の「未来日記」、ドラえもんでいうところの「あらかじめ日記」的な企画だ。

今回も10日間にわたり、24時間密着。もちろん本人は承知していない。

初日、弁当のご飯を半分に減らした画像とともに「ご飯は少なめでいただきます♪」とツイート、しかし当然のごとく減らした分のご飯も食べきる黒川。「息をするように嘘をつく」もはやこういった行為が、彼にとって何も特別でないことがわかる。

しかし本人がまだ見ぬ「フューチャークロちゃん」が前日にツイートした内容は「お弁当のお肉、全部カエルだったしん!げろげろ~(>_<)」とのこと。カエル肉の唐揚げ、カエル肉のシュウマイ、カエル肉のそぼろなどの特注弁当(味はうまいのだろう)を知らぬ間に食べさせられ、種明かしもないまま放映される。

クロちゃんはこの番組嘘ツイートが発覚する前は「種明かしをされない」キャラだった。バッグにGPSを仕込まれ、行く先々にカメラが現れても何も種明かしされないなど、本人もそれがなんだったのか謎のまま放置されているので、その放置を見ているこちらも、もはや何も感じない身体にされてしまっている。

ここで、ある人物が登場する。モデルの小林レイミという女性。

■あの伝説の「蠢くベッド」の時の……



クロちゃんが「レイちゃま」と呼ぶこの女性は、実は以前にもこの番組に出演している。

寝起きの悪い人を検証する企画。泥酔したクロちゃんが嗚咽しながら自宅のベッドの下に潜り込み、ドタドタとその寝台を揺らしながら蠢き眠りにつくという、スタジオを、いやさ日本中を悲鳴の渦に巻き込んだあの世紀の映像で、クロちゃんを酔わせるために仕込んだ偽の酒飲みロケで共演していたのが、小林レイミだ。

その後、小林がクロちゃんからしつこく誘われていることを逆手に取り、仕掛け人として再度起用。クロちゃんを飲みに誘いだす。

確かに見直すと、その「寝起き悪い検証企画」で、クロちゃんは「あーかわいい、好き」「れいちゃま、かわいい」とデレデレしていた。

おそらく、いくら誘っても会ってくれなかったのだろう。久しぶりの再会に、バカラのシャンペングラスをプレゼントとして持参する気合満々のクロちゃん。

続けて、あの日(ロケ日)以来、「レイミー(レイニー)ブルーもおおおお~、終わったはず~なのに~」と、つい徳永英明の替え歌を口ずさんでしまうという報告を彼女にしており、ナレーションでは「気持ち悪い」とされていたが、彼なりに本気なのがわかる。

しかしそれでいて、小林がトイレにいった瞬間、その小林の使用したてのバカラグラスを当たり前のように舐めるという、さらなる「本気」も見せてくれる、期待を裏切らない男・黒川。

2日目以降も、プライベートで通うジムでの姿が「フューチャー」アカウントで生配信されていたり、意味なく1日に9,600キロカロリーという、致死量なのでは? と思うほどの熱量を摂取させられたりと、その全ての生態が記録、放送される。特に、知らぬ間に生配信されていたくだりはジムキャリーの『トゥルーマン・ショー』(1998)を思い出す不気味さ。

途中で「フューチャー」の存在を知りつつ、不気味がり、『水曜日の~』の存在に怯えながらも「キスをされる」という未来予言ツイートの際には「急に元気出てきたしん!マジかな!?」と浮かれてツイートするなど、欲に正直な姿がだんたん可愛く思えてくるから不思議だ。(結局キスされたのは同姓同名の「黒川明人」という別人物というオチ)

■クロちゃん=寅さん?



よく考えてみると、彼のつく嘘は実にどうしようもないセコい嘘ばかりだ。食べたのに食べてないとか、タクシーなのに歩いたという、悲しいほどのどうでもいい嘘。ここまで24時間10日間すべての居場所を監視され、この程度の「嘘」しか出てこないのは、逆にすごくないだろうか?

もっと嫌な裏の顔が出てきてもよさそうなのに、「よく思われたい」という誰もが持つ欲望に沿ったみみっちい嘘に、好きな子のグラスを舐めるという小学生のような悲しい行為。

なんならタクシーの運転手が道を間違えた際(これも仕込みだが)には「逆に睡眠取れました、ありがとうございます」と笑顔でフォローしてのけるのだ。

どうしようもない、気持ち悪いと思う人がいるのは事実かもしれないが、彼と寅さん、本質的にどこが違うというのか。いつも嘘と見栄で固めて、女を見るとすぐ好きになり、振られる。よく見たら顔も似て見えてくるといったら国民栄誉賞に失礼か。

どうしようもない寅次郎を憎めないのと同様、「ゲス」で「最低」で「気持ち悪い」を背負い続けるクロちゃんに、少しだがシンパシーを感じる人が増えてるように感じる。

そして物語は進む。

行きつけのラム肉の店で食事をしたり、何度かデートを重ね、ますます惹かれていくクロちゃん。途中、青い薔薇をプレゼントし、花言葉「夢は叶う」と一言添えるところも実にうざい本気だし、すぐさま再度こっそりグラスを舐めてくるあたりも、本気のヤバさだ。

そして迎えた運命の8日目。

■「これは見てられへんわ」



その夜遅く「夢が叶う」という設定のパワースポット神社に、小林とタクシーで向かう。車内でふざけながら手をつないだクロちゃんは、手応えを感じているようだ。

お参りを済ませた後「あっちにベンチあるから座りましょう」と境内裏にある広場に誘う小林。

ベンチまであと5メートル。「なんか飲み物持ってくればよかった」と、わざとらしく立ち止まる小林。先導して歩いていたのに、急にクロちゃんを先に行かせようとする。この神社に行こうと誘ったのは小林だ。

ちなみに前日「フューチャー」が予言したツイートは、クロちゃんが落とし穴に落ちるというもの。その落とし穴を、クロちゃんはこの日一日警戒していた。

小林は正直、仕掛け人としては失格な下手くそ具合だ。しかし、この下手くそ加減がドラマを生む。

ベンチの絶妙な距離で、立ち止まって先に行かそうとするれいちゃまに、何かを察してしまったクロちゃん。

ここで来たかと。しかも、明らかにその穴へ誘導してるのは愛しのれいちゃまだ。

頭の中がこんがらがる。もはや彼が心配してるのは、穴に落ちることでも、これが何の仕事なのかでもない。この恋が終わってしまうのか。れいちゃまとのは思い出は、全て「嘘」だったのかという怖さ。

嘘のツイートを続けていた男が、自らに迫り来る「嘘」の予感に苦しむという、2017年の日本でリブートされたイソップ童話『狼と羊飼い』。

「一旦座って話しましょう」と、不自然中の不自然な誘導で押し切ろうとする仕掛け人、兼・恋愛対象の小林。

「ちょっと待ってね、れいちゃま……ちょっと待ってね……」
「そうね、座らないといけないよね……」

プライベートな想いと、芸人としての責任感が混在する。

「もしもそうだったら、ちょっと自分の中で整理をしとかないといけないから」

映画などでよくみる「身内が真犯人」だったシーンを思い出す。

それに対する小林の「あっ、そうなんだ。何かちょっとよくわかんないけど」といういなし方は、無関係のこっちから見たら相当だが、恋する男にとっては「嘘であってほしい」麗しのれいちゃまだ。わずかな期待を込め、嘘つき野郎が、嘘抜きで語りだす。

「俺はれいちゃまのことを本気でいいなって思ってて、この一週間いいなぁって思ってたから、俺はれいちゃまのこと好きだなっていう……好き……これだけははっきり言っとくね」

告白。トーンの優しさから、本当に好きなことが伝わってくる。

おそらくだが、もう彼の中では結論は出ていたのだろう、だからカメラが回ってることもわかってたのだろう。

小林はおそらく、怪物に告白されてる自分という見え方を意識していたはずだ。だから、ぎこちない。

しかしここ最近、当たり前のように職場も移動中も、そして自宅にもカメラが仕掛けられている彼にとっては、もはやそんな機器の存在など苦でも屁でもない。

穴に落ちる前に、どうしても気持ちを伝えておきたかったのだろう。変なアカウントの出現と同時に、並行して流れていた夢のような時間が土に埋もれる前に。

眼科に行くべき前提のもとに言わせてもらえば、業火に身を焼かれようとも大切な人を守ろうとする英雄見えた。

おそらく世の多くの冴えない男達たちは、黒川がいろいろ最低だと認識しつつも、得体のしれないシンパシーを感じただろう。

想いを全て吐き出し「じゃあ、座って、しゃべろうね」そう言ってゆっくり歩き出す英雄。

おそらく、しゃべるどころか座ることもできないことを、彼は知っている。

そして、3歩歩いて、落ちた。今、渾身の告白をした女の誘導する罠へと。

落ちた獲物を確認するでもなく、なんなら落下音にうるさそうに耳を塞ぎ、女は闇に消えた。いや、クロちゃんの中では死んだのかもしれない。

思わず「これは切ないね」と松本。「いいこともあるからね」と冗談めかしながらもフォローする。モテの代表のようなスタンスのYOUも「クロちゃん頑張って!」と応援するほど。

前日に1万キロカロリーも摂取させられた影響で4キロ近く太ってるからか、這い上がる姿も苦しみに満ちている。上がってきた顔は、ドッキリを受けた人としてはあり得ないほどの真顔だ。スタッフも誰もいない。地獄。

「これは見てられへんわ」と悲しく笑う松本、「せつない、ほんと」と高橋みなみと呟く。

2人で来たタクシーの後部座席に、今は一人、流れる街頭の灯が黒川の顔を照らして流れる。『タクシードライバー』(1976)のロバート・デ・ニーロ演じるトラビスのようだ。流れる曲はもちろん「レイニーブルー」。「終わったはずなのに~」という歌詞もぴったりだ。

失意の中、一人暗い部屋に戻るが、内側に仕掛けられたカメラが当たり前のように、その逆光の黒川を迎え撃つ。部屋で一人、おそろいで買ったバカラのグラスを見つめる、悲しみに浸る。

この悲しさがクライマックスを迎え、スタジオの空気(観客は引いているかもしれないが少なくとも演者は)が戸惑いながらも感動に染まり上がった瞬間、

「あ、もしもしサエちゃん?」

と、違う女をラム肉の店に誘うクロちゃん。スタジオの女性客が待ってましたとばかりに悲鳴を上げる。

予想を超えるクロちゃんのメンタル。「元気でよかった」と思う心と「このゲスが」と罵る心が入り混じる。

しかし、失恋直後なのに、急遽課された予言での指令に従い、延々と朝までモノボケを続けるクロちゃん。しかしなんだかんだあって、クロちゃんに罰ゲームが決定して企画が終了、番組もこのまま終了……かと思われた!

■まさかのオチ



だが、ここからVTRは急展開。罰を受けるらしく、アイマスクにヘッドホンというおなじみスタイルで連れていかれるクロちゃんの耳に流れるのは、あの「レイミーブルー」いやさ「レイニーブルー」。

「思い出すからもぉぉぉぉ! やっと忘れてきたのにぃぃぃ!!」涙が止まらない。

「ほんとに好きだったから、れいちゃまのこと!」本気で泣いてる。

これほど「レイニーブルー」が似合う場面を筆者は知らない。荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」や大塚愛の「さくらんぼ」と同じような、間違ったヒットの仕方をしそうな予感すらある。

ここで、VTR開けてスタジオ。

「今日はなんだか、ふわふわした気分」と「フュチャークロちゃん」が前日にツイートしているらしい。最後の予言ツイートだ。

この説(何の説だか、もはやわからないが)をプレゼンするサバンナ高橋に「スタジオの上をご覧ください」と言われ全員が見上げた先には、照明に紛れて天井高く吊るされたクロちゃんの姿が! もちろんアイマスクとヘッドホンで正装し、知覚は奪われている。

悲鳴。もう誰も笑っていない。松本も「もうこんなんいややわ」と体をすくませている。

収録のはるか前から吊るされていたらしい。2時間特番でしかも収録……観客が入るはるか前ということは、少なく見積もっても4時間以上は前だろう。

過去のスペシャルでは、「出演者の声、全部モノマネタレントが演じてる」「空気読めない女性タレントは裏で芸人が指示してた」などの大オチで驚かせてくれた同番組だが、今回も仕上げて来た。

その「物体」が降りてくる。心おきなく絶叫する観客。「それでキャー言われるのもかわいそうやけどな」との松本の正論はもっともだ。

「(目隠し)一生取っちゃだめ」と言われて「まだ光は見たい!」と即座に返すクロちゃん。ゲスや嘘っぷりばかりが注目されているが、これだけの目に遭いながら瞬時にこのコメントを出せるところが、この人のすごいところだろう。

収録終了後、スタッフに薄々仕掛け人だと感じて、なんで本気で好きになったんですかと聞かれ「惚れた男の弱みだよ」と、まさに寅さんのごとくナルシスティックに嘆いた直後、「『サエちゃん』って誰なんですか?」と唐突にぶつけられ、一瞬とまどった後、「……誰ですかね」と、冷酷な目でシラを切るというオチまで見事な真っクロさ。

これからも『水曜日~』で彼がどんな地獄を見続けるのか、クロちゃんの黙示録に期待したい。
(文=柿田太郎)

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