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かわゆくミミズ腫れになっていたジャンボさんの胸板――フミ斎藤のプロレス読本#149[馬場さんワールド編4]

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199X年

バックステージに戻ってきたジャンボ鶴田は「あー、久しぶりに汗かいた」といってにっこり笑うと、用意されていたコメント用のイスにどかんと座り込んだ。

大きなジャンボさんがちいさなイスに身を沈めるようにして前かがみになって腰かけて、10数人の記者たちがノートとペンを手にそのまわりをぐるりと取り囲んでいるというシチュエーション。

マイクもなにもないところでの談話だから、ちゃんと耳をすましておかないとおはなしが聞こえない。

「じゃっ、そういうことで」

まだなにもしゃべっていないのに、ジャンボさんはイスからちょっとだけ腰を浮かせて立ち上がるフリをしてみせた。

もちろん、これはみんなを驚かせるためのギャグで、ジャンボさんなりの「ごぶさたしていますLong time no see」のごあいさつだったのだろう。ほんとうは、しゃべりたいことはいくらでもあるようだった。

みんながよく知っているあのテーマ曲が流れると、アリーナのなかは条件反射のような大ジャンボ・コールに包まれた。“ツー・ルー・ター・オーッ”の大合唱が1分くらいつづいたかと思ったら、こんどはいきなり『王者の魂』が聞こえてきた。

ジャンボ・コールが“おーっ”というどよめきに変わった。行進曲のリズムはやっぱり二拍子ということになる。どよめきが手拍子に変わると、こんどはそれをさえぎるようにスタン・ハンセンのテーマ曲が鳴り響いた。

日本武道館の電光掲示板に“旗揚げ25周年記念試合”という文字が映し出された。赤コーナーにはジャンアント馬場さん、ハンセン、ジャンボさんがいて、反対側の青コーナーには渕正信、本多多聞、ジャイアント・キマラの3人が立っていた。

ジャンボさんが身につけているのは黒の無地のショートタイツと黒のリングシューズとラリアット用の黒のサポーター(右腕)。リングに上がって試合をするのは年にほんの数回だから、衣装はすべて一張羅(いっちょうら)なのだろう。

ジャンピング・ニー・アタック。コブラツイスト+ワキ腹ぐりぐり。右のラリアット。フェイバリット技のレパートリーも一張羅になってきた。

コーナーでセカンドロープに飛び乗ったジャンボさんは、気持ちよさそうに何度も何度も観客席に向かって“オーッ”をやってみせた。

現役バリバリだったころの“オーッ”はグーで、ちょっとだけプロレスから離れてしまったいまのジャンボさんのガッツボーズはグー・チョキ・パーのパー。「みんな、元気だったかー」の手つきになっている。

ジャンボさんは20年以上ものあいだ『全日本プロレス中継』(NTV)の主役をつとめてきたお茶の間の人気者である。テレビのなかの登場人物は、テレビカメラの向こう側にいる人びと=視聴者といっしょにトシをとっていくようにできている。

“若大将”なんてニックネームで親しまれてきたジャンボさんも、さすがにちょっとだけオジサンになった。

「ぼくにしてはいい試合ができたかな。プロレスはいちばんの薬ですよ」

そうだった。ジャンボさんは体をこわしてリングから遠ざかっていったのだった。

いまジャンボさんは、大学の教壇という新しいリングに立っている。この日も日本武道館に来るまえに“90分3本勝負”を闘ってきた。

主戦場は慶応大学の藤沢キャンパス。運動生理学の講義をしながら、たまにカリキュラムの一部として“ジャンボ鶴田名勝負集”のビデオを学生たちにみせたりしている。

ジャンボさんは、プロレスを学窓に持ち込んだ最初のエリート・アスリートということになる。

「毎日やっているとわからないかもしれないけど、たまに上がると感じる、やっぱりいいもんだなと。幸せですよ……」

ジャンボさんは、しきりにそんなことを口にしていた。体調がよくなったら、もうちょっと試合数を増やしていきたいと考えているようだ。

「先生はこれから試合をしてくるからね」といって教室を出てきた。

ジャンボさんはちいさなイスにかがみ込むようにして座り、おしゃべりをつづけていた。セコンドについていた井上雅央がリングシューズのヒモをほどこうとすると、ジャンボさんは「いいよ……」という感じでその手をやさしく止めた。

※文中敬称略

※この連載は月~金で毎日更新されます

文/斎藤文彦


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