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愛する犬が倒れた日…それは突然やってくる

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<16歳の愛犬を亡くした心理カウンセラーが考えるペットロス Vol.9>

2014年11月3日夜、出先にいる私に家族から電話が入りました。

「ケフィが立ち上がれないの。トイレもその場で、垂れ流しちゃうんだけど……」

動揺している様子が、電話口からも伝わってきます。

◆突然、崩れ落ちるように…

家族が最初に異変を感じたのは夜の散歩のとき。少し足がもつれ、よろける感じがあったそうです。それでも30分程度の散歩コースを歩き、ご飯もしっかり食べ、家族が夕飯を食べようとすると、いつも通りテーブルのそばまで寄ってきたそう。ところが、そこで崩れ落ちるように倒れ込み、まったく立てなくなったというのです。

私は、とにかく急いで家に帰ることにしました。道中、頭には不吉な考えが次々と浮かんできました。

「今朝まで、とくに体調不良も無かったし、倒れる前兆もなかった。……ということは、もしかして突然、どこかの血管が詰まったか、神経が切れたりでもしたのでは?」

「命を取り留めたとしても、このまま完全介護状態になってしまうのかも」

「もしかしたら、今度の誕生日(12月25日)を迎えられないのではないか」

◆「ケフィがいなくなって私は生きていられるのか」

どこに連れて行っても、だれと会っても「ぜんぜん年を感じさせない若い犬ですね」と言われて続けてきたケフィ。そんなふうに言われるたびに、私はひとりほくそ笑んでいました。

16歳、17歳のレトリーバーが「長寿」として紹介されているのを見ては、「いやいや、ケフィはもっと元気で長生きしてしまうかも」「もしかしたら『ギネスブックに挑戦』なんてこともあるんじゃない?」……なんて密かに考えたりしていました。

だから私にとって「ケフィが倒れた」という電話は、頭をいきなり鈍器のようなもので殴りつけられたような衝撃でした。これからも続いていくと信じていた、いや、そう心から願っていたケフィとの毎日が、「突然、終わるかもしれない」と思うと、脈は速くなり、胸がきゅーっとしめつけられました。動悸がして、浅い呼吸しかできず、呼吸困難のようになりました。

「ケフィがいなくなってしまったら、私は生きていられるのだろうか」

ケフィがいない毎日を想像すると、まるで暗い洞窟にひとり閉じ込められてしまったような気分がしました。出口はどこにも無く、一条の光も差さず、いったいどちらに進んだらいいのかも分からない。ただ「絶望」という冷たい壁に囲まれているような気持ちがしました。

◆しっぽは振るけれど、立ち上がれないケフィ

帰宅し、玄関を開けると、長座布団に横になったケフィと目が合いました。いつも通り、私に駆け寄ろうと手足を動かしますが「力が入らない」という感じで、首を上げるのがせいいっぱいのようでした。

そばに行って頭をなでると、嬉しそうに目を細め、しっぽを左右に勢いよく振りました。前足をぱたぱたさせながら私の手をなめ、体を預けて「お帰りなさい」のあいさつをしようとするのに、うまくできないケフィの戸惑いが伝わってきました。

「気持ちはあるのに、どうして立ち上がることができないの?」

自分の体に何が起こったのか分からず、現実を受け入れられないでいるケフィ。それは、私が、「ケフィが倒れた」という現実を受け入れられないでいるのと同じでした。私も家族もケフィも、とにかく動揺していました。

時計を見るとすでに夜12時を回り、動物病院はとうに閉まっています。インターネットで症状のキーワードを入れて検索しても、いっこうに何の病気かわかりません。もし、分かったとしても私たち家族にできることなど、たかがしれています。

「今日のところはもう寝て、朝をまとう。朝になったら、いちばんで病院に連れて行こう」と言う家族の意見で、みんな床につくことにしました。

ケフィのまわりには、布団やカーペットを敷き詰め、たとえ長座布団から落ちたてしまっても板の間に転がったりしないようにしました。もし、トイレをしてしまっても、冷たくないよう、子犬の頃に使っていたおねしょシートも敷きました。

その夜、私の眠りはとても浅く、朝は遠く、本当に長い長い夜でした。

<TEXT/木附千晶>

【木附千晶プロフィール】

臨床心理士。IFF CIAP相談室セラピスト。子どもの権利条約日本(CRC日本)『子どもの権利モニター』編集長。共著書に『子どもの力を伸ばす 子どもの権利条約ハンドブック』など、著書に『迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生のものがたり』など


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