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「ユーキャン新語・流行語大賞2017」で考える。流行語はどうやって生まれるのか

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平成の終わる日が決まったきょう、昭和末より33年間続く毎年恒例の「ユーキャン新語・流行語大賞」が発表され、この1年を象徴する語に贈られる年間大賞には「インスタ映え」と「忖度(そんたく)」が選ばれた。このうち「忖度」は、《他人の心中をおしはかること。推察》(『広辞苑』第6版、岩波書店)という意味で古くより使われてきた言葉だが、今年は「上役や権力者の心を推し量る」という意味で用いられたことで、一躍流行語となった。

「忖度」は“硬派の流行語”?
日本語研究者の米川明彦による『俗語発掘記 消えたことば辞典』(講談社選書メチエ)によれば、流行語の多くはいわゆる俗語(改まった場では使えない、使いにくい言葉)だが、なかにはそうではない、“硬派の流行語”も存在するという。ようするに、改まった場でも使われる一般的な語や言い回しではあるが、別の含意を持って一時的に使われるような言葉を指す。「忖度」はまさにこれに当てはまるだろう。


『俗語発掘記』ではこうした“硬派の流行語”として過去の例もいくつかあげられている。たとえば、第二次大戦後、講和条約の締結に向けて日本政府が動いていた1950年、ソ連や中国など社会主義国も含めての締結(全面講和論)を主張する東大総長の南原繁に対し、時の首相・吉田茂は「曲学阿世(きょくがくあせい)の徒」と呼んで批判した。「曲学阿世」とは、学問上の真理を曲げて世におもねるという意味の熟語だが、これが吉田の発言により流行する。これについて評論家の大宅壮一は、《政治家として近代的感覚の不足を示すものとしてわざとしばしばこの言葉が引用される》と説明した(『現代用語の基礎知識 1951年版』自由国民社)。

流行語が生まれる4つの理由
前出の『俗語発掘記』では、流行語が生まれる理由として、(1)社会的理由、(2)心理的理由、(3)言語的理由、(4)言語感覚的理由の4つがあげられている。

(1)の社会的理由は、《社会の状況、世相、風俗を言い表すことばがなかったときに、またそれを風刺しようとするときにちょうどぴったりのことばが流行する場合》だという。今回、新語・流行語大賞のトップテンに入った語でいえば、真実ではない情報を指す「フェイクニュース」がこれに当てはまるだろうか。

社会的理由にはまた《あることがらが頻繁に起こる場合、それを報じることばがメディアを通じ必然的に多く使用されて流行語になる場合もある》と、『俗語発掘記』は説明する。アメリカのトランプ大統領が昨年の大統領選で繰り返した「アメリカ・ファースト(アメリカ第一主義)」にならい、日本でも各方面で使われ、やはり今年の流行語大賞のトップテンに入った「○○ファースト」などは、ここに分類できそうである。

(2)心理的理由は、《有名人に追従する大衆心理や、人が使っているから自分も使わないと時代遅れになるとか仲間はずれになるとかいう意識が働いた場合》だという。今回年間大賞に選ばれた「インスタ映え」はまさにこれだろう。同じくトップテン入りしたブルゾンちえみの「35億」のように、芸人のネタから生まれたギャグにも、このケースに当てはまるものが少なくないようだ。

(3)言語的理由は、《そのことば自体の持つ特質によるもの、すなわち語形・意味・用法の奇抜さ、新鮮さや日常会話に使用できる範囲の広さから流行する場合》という。今年の新語・流行語大賞にノミネートされたサンシャイン池崎の持ちギャグ「空前絶後の~」のように、その言い方も含めて真似したくなる言葉はここに分類できる。

最後の(4)言語感覚的理由とは、1960年代に流行った「シェー」や「ガチョーン」などのように《感覚に特化した表現であって、あまり意味のない音を感覚的に発するおもしろさから流行する場合》である。今年の新語・流行語大賞では、この手の言葉はノミネート語にも見当たらなかったが、2013年の年間大賞に選ばれた「じぇじぇじぇ」などは近年の傑作だろう。もっとも、これは元はといえば東北の一部の地域で使われていた言葉だ。案外この手の言葉をオリジナルでつくり出し、ヒットさせるのは難しいのかもしれない。

「セクシャル・ハラスメント」、『広辞苑』での説明の変化から見えるもの
『俗語発掘記』は、流行語の生まれる理由とあわせ、それが消えていく理由にも言及している。それによると、その言葉の指す状況や大衆の心理が変化したり、あるいは言葉そのものから新鮮さが失われれば、流行語も消えていくという。なかには会話に応用が利く場合、比較的長持ちするものもあるとはいえ、《流行語は所詮、「流行の」ことばなので消えていく運命にある》のだ。

ただし、流行語ではなく新語の場合、一過性の流行に終わらず、社会に定着するものもけっして少なくはない。1989年の新語・流行語大賞で新語部門・金賞に選ばれた「セクシャル・ハラスメント」はその代表例といえる。

セクシャル・ハラスメントが日本社会に定着したのは比較的早く、1991年には、岩波書店の国語辞典『広辞苑』にも収録されている(「セクシャル」の項の子項目として出てくる)。ただし、その語釈(言葉の解説)は、その後出た改訂版では書き換えられていたりする。まず、この言葉の初出となる1991年刊の『広辞苑』第4版では、次のように説明されていた。

《性的いやがらせ。職場などで、女性をその意志に反して不快・不安な状態に追いこむ、性的なことばや行為。》

これが、『広辞苑』の現時点での最新版である2008年刊の第6版では、以下のようになっている。

《性にかかわって人間性を傷つけること。職場や学校などで、相手の意に反して、とくに女性を不快・苦痛な状態に追いこみ、人間の尊厳を奪う、性的なことばや行為。性的いやがらせ。セクハラ。》

「とくに女性を」とはあるものの性別を限定せず、またその内実の説明でも「不安」が「苦痛」に変更され、さらに「人間の尊厳を奪う」ものだと、かなり踏み込んだ表現になっている。

セクシャル・ハラスメントが新語として出てきた当時はまだ軽いニュアンスで受けとめる向きも多かったように思う。『広辞苑』初出時の語釈も軽くこそないものの、まだ説明としては浅い。それが時代を下り、より広い層における問題として扱われるようになったのは、この語が社会に浸透し、そのおかげでさまざまなことが浮き彫りになったからだろう。

なお、セクシャル・ハラスメントに新語・流行語大賞に贈られた際、その受賞者に選ばれたのは、日本初のセクシャル・ハラスメント裁判で被告人の弁護にあたった弁護士だった。この裁判は、ある女性が駅でしつこくからんできた酔っ払いを避けようとして、はずみで転落死させてしまったという事件をめぐるもので、判決では「世の多くの男性のなかにも、抜きがたい女性軽視の発想がある」と指摘されていた。新語・流行語大賞は当時よりセクシャル・ハラスメントという言葉を、かなり根の深い問題として扱っていたのである。

このように、言葉のなかには、社会に存在しながらもなかなか表に上がってこなかった問題を照らし出し、場合によっては多くの人を救うことにもつながる言葉もある。その一方で、人を傷つける言葉もあれば、真実を捻じ曲げたり、覆い隠したりする言葉もたくさんある。もちろん、それも結局は言葉を使う人間の問題なのだが。

新語・流行語大賞は、それこそ流行語と同様に、一過性の話題として毎年消費されがちである。だが、ここまで書いてきたように、これを機会に言葉というものについてあらためて考えてみるのも、けっして無駄ではないだろう。
(近藤正高)

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