第20回「若者のテレビ離れはない」



まずは下の作品群のタイトルを見てもらいたい。

『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』
 『キセキ -あの日のソビト-』
 『僕らのごはんは明日で待ってる』
 『君と100回目の恋』
 『一週間フレンズ。』
 『きょうのキラ君』
 『チア☆ダン』
 『PとJK』
 『ひるなかの流星』
 『ReLIFE』
 『ハルチカ』

――これらは、今年1月から3月にかけて日本国内で上映された、いわゆる若者向けの実写邦画である。多くは少女コミックを原作とする、いわゆる“壁ドン”“胸キュン”“顎クイ”と呼ばれる類いの映画だ。

基本的にラブストーリーか青春ドラマで、共通していえるのは、10代から20代の若者たち、特に若い女性が多く劇場に足を運んだ映画ということ。事実、これら11本のうち、全国週末興行成績ランキング(興行通信社調べ)でベスト10に入ったのは、実に8本。アニメやディズニー映画が隆盛を極める中、大健闘だ。

■若者向け映画は大盛況。一方、月9は大不振

ほら、あなたも映画館に足を運んだ際、本編が始まる前に、これら若者向け映画の予告編を目にしたことがあるでしょ? 3カ月で11本ということは、ほぼ毎週1本が封切られている計算だ。人気がある証しである。

一方、同じ時期のテレビの連ドラを見渡すと、目につくのは刑事ドラマや医療ドラマばかり。どれもおじさん・おばさんが好む路線である。対して、若者向けドラマは絶滅危惧種で、最後の砦とも言える「月9」も瀕死の状態だ。1~3月に放映された『突然ですが、明日結婚します』なんて、全話一桁視聴率。6話に至っては前代未聞の5.0%だった。平均視聴率6.7%も月9史上最低である。

映画界は若者向け映画が大盛況なのに、テレビ界は若者向けドラマが大不振――これは一体、どういうことか。

■過去最高だった『明日婚』のネット視聴

著書『拡張するテレビ』(宣伝会議)でもお馴染のメディアコンサルタントの境治サン(この方はテレビメディアの未来を語れる数少ない御仁です)が、以前、Yahoo!ニュースに書かれた記事に、「視聴率では月9史上最低記録の『明日婚』、ネット配信では最高記録更新中」――というものがあった。かなり拡散された記事なので、お読みになられた方も多いだろう。

それによると、『明日婚』――『突然ですが、明日結婚します』は前述の通り、視聴率は同枠史上最低だったけど、一方で、FOD(フジテレビオンデマンド)の「プラスセブン」(放送終了後から7日間、ネットで無料視聴できるサービス)では、それまで月9の最高だった『好きな人がいること』の配信記録を抜いて、なんと同枠史上最高だったという。しかも、その主要な視聴者は“ハタチ前後”の若い女性たちとのこと。



月9史上、『明日婚』は歴代最低視聴率を更新して、世間から「若者のテレビ離れに拍車」なんて言われたけど、ネット配信では逆に歴代最高配信数を更新して、しかもその中心にいたのは若い女性たちだった。
 これは一体、どういうことか。

■ある日、電車の中で

話を一旦変えます。
 今から1カ月半ほど前のこと。その日、僕は吉祥寺に用事があり、御茶ノ水駅から中央線快速に乗った。午後2時くらいだったと思う。僕はドア横のいわゆる“狛犬ポジション”に陣取り、外の景色を楽しんでいた。
 その時である。ふと、もう片方の狛犬ポジションを見ると、カジュアルな装いの大学生風の女性(推定年齢20歳)が何やらスマホを横に倒して、イヤホンを差して画面に見入っている。彼女はこちらに背を向けていたので――申し訳ないけど、画面が見えてしまった。西内まりやに山村隆太――なんと『明日婚』だ。
 そう、その女性は、スマホで『突然ですが、明日結婚します』を食い入るように見ていたのだ。

僕は、そんな風にテレビドラマを外で、しかもスマホで見たことがなかったので――それは軽いカルチャーショックだった。

■タイムシフト&プレースシフト

あの日の光景は、僕に2つのことを教えてくれた。
 1つは、タイムシフト視聴はもはやスマホで当たり前に行われていること。2つ目は、そうなると、もはや視聴場所を選ばないこと。

それまで僕は、タイムシフト(ネット配信)視聴とは、自宅で、PCで見るものとばかり思っていた。でもスマホなら、もはや視聴場所を選ばない。前述のように電車の中でもいいし、カフェでも公園のベンチでもどこでも見られる。つまりスマホの活用で、テレビ視聴の新たなスタイル――“プレースシフト”(場所の移動)の要素も加わったのだ。テレビ番組の視聴は、もはや時間にも場所にも束縛されない、新たな時代に入ったのである。

■若者のテレビ離れの正体

そう、時代の変化の波は、いつも若者たちが教えてくれる。
 時に彼らは忙しい。特に大学生は授業にバイトにデートに女子会に旅行にショッピングに映画にジムに――と、息つく暇もない。仕事と家庭に忙殺される30代から50代に比べ、自由に時間が使える分、逆に1秒でも無駄にしたくないのが彼らの性分。
 そんな若者たちに、ゴールデンタイムに家にいて、お茶の間でただ黙ってテレビを見ろと言うのは――無理からぬ話である。

そう、別に彼らはテレビが嫌いでテレビから離れているわけじゃない。忙しすぎて、オンエア中にお茶の間のテレビの前にジッとしている時間がないだけである。だから、興味のある番組(特にドラマ)は、スマホで空いた時間にちゃちゃっと見る。月9の『明日婚』はそんな感じで若者たちに見られていたのだ。

つまり――若者のテレビ離れとは、要は“オンエア中のお茶の間のテレビ”離れに過ぎないってこと。テレビ自体から離れたワケじゃない。

■大学生はWiMAXが必需品

最近、UQ mobileのCMをやたら見ると思いません? ほら、深田恭子と多部未華子と永野芽郁が3姉妹を演じている、アレ。昨年あたりから出稿が増えて、一気に世の中に浸透した感がある。

実は今、大学生にとって「WiMAX」が必需品らしいんですね。WiMAXとは、家でも外でもネットを使えるモバイル通信のことで、そのサービスを提供している会社が、前述のUQってワケ。ここ2年くらいで技術革新が一気に進み、料金プランも割安になったので、満を持して市場に浸透したらしい。

その特徴は、小さな機器で持ち運びに優れ、Wi-Fiより通信速度が速く、そして無制限に使えること。
 そう、無制限に使える――これが大きい。

■あの日、彼女がスマホで動画を見た理由

つまり、WiMAXを1台持っていると、家ではPCでネットができるし、外でもスマホで動画が見放題。わざわざPC用にネット契約を結ぶ必要がないので、料金的にも安く済むってワケ。ちなみに、知り合いの大学生に聞いたところ、大体、月5000円以内に収まるらしい。

そう、彼らは外出先で、いくらスマホで動画を見続けても、もはや通信料や速度制限を気にしなくていいのだ。これは大きい。あの日、電車内で女性がスマホで『明日婚』を見ていたのは、そういう事情だったのだ。

昨今の若者のテレビ離れ――つまり“オンエア中のお茶の間のテレビ”離れの背景には、WiMAXの劇的な進化と普及もあったんですね。

■『SCHOOL OF LOCK!』から見えること

1つ、興味深い話がある。中高生に絶大な人気を誇る東京FMのラジオ番組『SCHOOL OF LOCK!』、2005年に始まったので、もう12年も続いていることになる。
 この番組の発案者であり、現在も総合プロデューサーを務める同局の森田太サンは、番組を立ち上げた経緯についてこう語る。
 「若い子がラジオから離れている理由を考えてみたら、聴かなくなったのではなく、実は聴く番組がないだけだということに気づいたんです」

――至言である。

■真の問題は「テレビの若者離れ」

これ、テレビの世界にも当てはまる話だと思いません?
 昨今のテレビドラマを見渡せば、刑事ドラマと医療ドラマが大半を占める。バラエティを見ても、いわゆる知的バラエティが氾濫している。いずれも、50代以上の視聴者をターゲットにした番組作りが根底にある。なぜなら、全視聴者の半分近くを占める50代以上に見てもらうことが、高視聴率の獲得に繋がるからである。
 そして気が付けば――かつてのラジオ同様、若い人たちが好んで見る番組が極めて少ない非常事態になっているというワケ。

そう、本当は「若者のテレビ離れ」じゃなくて、その逆――「テレビの若者離れ」なんですね。

■『テラスハウス』というヒント

では、そんな「テレビの若者離れ」を改善するにはどうしたらいいだろう。
 1つヒントがある。かつてフジテレビの地上波で放送された『テラスハウス』である。

かの番組、6人の男女がひとつ屋根の下に暮らす、いわゆるリアリティショー。モデルの卵や俳優志望など、手が届きそうで届かない、絶妙な距離感の人たちのリアルな人間模様が垣間見えて、若い視聴者の熱狂的な支持を得た。
 事実、同番組は2013年の「Yahoo!検索ワードランキング・テレビ番組部門」で、あの『あまちゃん』と『半沢直樹』に次ぐ3位に入ったのだ。なんと、地上波の全番組中3位である。それは、ネットとの親和性が高い若い人たちに積極的に支持された証しでもあった。

その一方、同番組は一度も視聴率が2桁に乗ることはなかった。結局、2年間の放送を経て、2014年9月に終了する。

■映画のヒット、そしてNetflixへ

だが、『テラスハウス』の真の底力はそこから発揮される。
 番組は終了するも、若い視聴者から復活を望む声は根強く、終了から5カ月後の2015年2月、映画版『テラスハウス クロージング・ドア』が公開される。すると――週末の興行成績ランキングで初登場1位。当時快進撃中だった『ベイマックス』の7週連続1位を阻止したのである。それはちょっとした事件だった。

そして番組終了から1年後の15年9月、フジテレビとNetflixが提携する形で、今度はNetflixに場所を移して番組が再開されたのだ。それは、つまり――世界190カ国に同番組が配信されることも意味していた。



『テラスハウス』は、再び若者たちの心を捉えた。いや、そればかりか世界中の人々にも「日本の若者たちのリアルな言動が楽しめる」と、受け入れられたのだ。
 事実、同番組は16年11月からハワイに舞台を移し、ネット版の第2シーズンが始まった。人気が低迷すれば、容赦なくシリーズを打ち切ることで知られるNetflixが続編を作るというのは、そういうことである。

■『テラスハウス』は2勝1敗

ここで、『テラスハウス』の軌跡を整理したい。
 同番組は、ネットの検索ランキングで地上波TOP3に入るくらい、若者たちに人気だった。一方、視聴率はその熱狂がうまく反映されず、番組は2年あまりで終了する。だが、番組復活を望む声は根強く、映画版を公開したところ、ディズニー映画を抑えて1位に。さらにNetflixと提携して世界190カ国に配信したところ、好評を博して2ndシーズンが作られることに――。

ここから分かるのは、『テラスハウス』は若者に絶大な人気があるけど、「視聴率」にはあまり反映されなかった。一方、「映画」と「ネット」ではちゃんと結果を残した。視聴率×、映画〇、ネット〇――2勝1敗だ。
 ここで1つの仮説が浮かび上がる。
 「もしかして視聴率って、当てにならないんじゃないの」

■若者人口の減少

総務省の人口統計データがある。
 それによると、1990年と現在とを比較したら、15歳~29歳の若者層が総人口に占める割合は、90年が22%で現在が15%。一方、50歳以上の熟年・シニア層の割合は90年が30%で、現在が45%。
 2つの層を比較すると――この四半世紀で「若者:シニア」の比率は2:3から1:3へ。ぶっちゃけ、若者層のパワーバランスは半減しているのだ。

そう、今や若者たちがこぞって若者向けドラマを見たところで、その影響力は、かつて『東京ラブストーリー』や『101回目のプロポーズ』が20%の視聴率を取った90年代初頭の半分。『明日婚』や『テラスハウス』が視聴率を二桁に乗せられなかったのは、そういうことである。

■高すぎる「視聴率」というハードル

え? 昨年放映された『逃げ恥』は若者向けドラマだったけど、最終回は視聴率20%に届いたじゃないかって? いえ、アレは様々な要因が重なり“社会現象化”したから。そうなると50代以上の人たちも見てくれる。でも大事なのは、社会現象化せずとも、若者たちに支持されるドラマが、正当に評価されることである。

こうは考えられないだろうか。
 『明日婚』も『テラスハウス』も若者たちの間では十分ヒットした。だが、いかんせん、現状のテレビの「視聴率」というハードルが高すぎた。その点、ネットや映画なら、そこまでハードルは高くない。だから、ちゃんとヒットが“可視化”されたのだ。仮に『明日婚』が映画化されていたら、十分ヒットしていた可能性はある。

■地上波テレビのビジネスモデルの壁

今の地上波テレビのビジネスモデルは、電通の4代目社長の吉田秀雄が作り、田中角栄郵政相(当時)が育てたものである。
 それは、東京キー局が作る番組の放送権をローカル局に渡し、さらにローカル局にお金を払うことで、ナショナルスポンサーのCMを全国津々浦々に流してもらうようにするというもの。普通に考えたら、ローカル局がキー局にお金を払って放送権を買いそうだけど、その逆。それは、キー局がローカル局に放送権を売って得られるお金よりも、全国にCMを流すことでナショナルスポンサーから得られるお金のほうが多いからである。
 だが、そのビジネスモデルは高い視聴率あってのもの――。

そう、地上波テレビの「視聴率」という高いハードルは、このビジネスモデルが機能している限り、絶対なのだ。
 え? じゃあ、若者向けの番組は地上波テレビから消えゆく運命なのかって?

■ネットという活路

――そこでネットだ。
 地上波テレビの「視聴率」という高い壁が存在するなら、そうじゃない場所で商売すればいい。
 現状、若者向け番組が正当に評価されやすい――つまり“ヒットが可視化される”メディアといえば、やはりネットだ。酷な話だが、若者向け番組が生き残る道は、ネットしかないと言っていい。

だが、悲観することはない。実際、『テラスハウス』はフジテレビからNetflixに活動の場所を移したけど、以前と変わらず――いえ、世界を相手にむしろ前よりも活躍の幅を広げている。
 アメリカでは、このNetflixをはじめ、HuluやAmazonプライム・ビデオなど、今やネット配信メディアが地上波テレビと肩を並べる存在感を示している。実際、Netflixのオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は、テレビ界の権威である米エミー賞を受賞したほどだ。

■加速化するネットのオリジナルドラマ

実は日本でも、既にその動きは加速化している。
 Netflixが又吉直樹の芥川賞作品『火花』をドラマ化したのは大いに話題になったし、同社はこの夏に明石家さんま企画・プロデュースで、ジミー大西の半生を描いたコメディードラマ『Jimmy~アホみたいなホンマの話~』も配信予定だ。
 いや、そこまで大がかりじゃなくても、Netflixはフジテレビと組んで、少女コミックが原作の若者向けドラマ『グッドモーニング・コール』を配信して、既にスマッシュヒットを放っている。

他にも、NTTドコモが展開するdTVや、日テレと提携するHulu、テレ朝とサイバーエージェントが立ち上げたAbemaTVなど、ネットを舞台にオリジナル番組を作る動きは、ここへ来て活発化している。

■『東京女子図鑑』のクオリティ

中でも、Netflix同様、地上波に負けない予算とクオリティで評判なのが、Amazonプライム・ビデオだ。例えば、同社が昨年暮れから配信を始めたオリジナルドラマ『東京女子図鑑』なんて、地上波のドラマに負けないどころか、それ以上のクオリティを感じたほど――。



かのドラマ、原作が雑誌『東京カレンダー』のWEB連載だけあって、とにかく街の描写や店選びのディテールがハンパなかった。物語は、水川あさみ演ずるヒロインが秋田から上京してアパレル会社に就職し、三軒茶屋を皮切りに、恵比寿、銀座、豊洲と、居場所と共に男や仕事も変えつつ出世する、いわば現代版シンデレラストーリーである。
 そう、田舎娘が段々と都会に馴染んでいい女になるプロットは、映画の『プリティ・ウーマン』や『プラダを着た悪魔』でもお馴染の鉄板プロット。ドラマの登場人物たちの言動がとにかくリアルで、SNSでも話題になり、若者層を中心に大いに評判になった。

■ネットドラマの尺は22分

『東京女子図鑑』は毎週1話ずつ新作が配信され、全11話で終わった。地上波と同じ1クールだ。違うのは、1話の尺が平均22分だったことくらい。
 これ、俗に「画面サイズと視聴時間は比例する」と呼ばれる法則なんですね。映画なら2時間、テレビなら1時間、それに対してPCやスマホで視聴者に快適に見てもらえる尺は――平均22分なんだそう。
 何が潔いって、もはや同ドラマは地上波で流すことを想定していないってこと。あくまでネットを主戦場として作られた点で画期的だった。

ちなみに、Amazonプライム・ビデオはこの6月からディーン・フジオカと清野菜名のW主演で、借金の肩代わりから契約結婚に発展する新手のウェディング・ラブストーリーを配信する。キャストの格はもはや地上波ドラマと変わらない。今から楽しみである。

■若者のテレビ離れはない

そう、ネット配信ドラマのクオリティは、もはや地上波ドラマと比べて、何ら遜色ない。ある意味、キャストや演出面の制約が自由な分、傑作が生まれる余地は地上波より多いかもしれない。

鍵はSNSだろう。圧倒的な番宣が投下される地上波ドラマと違い、ネットドラマは番宣が限られるため、どうしてもSNSでの口コミに頼る部分が大きい。逆にいえば、面白いドラマだけが拡散される状況にある。

耳を澄ませてほしい。――ほら、ネットドラマの評判が聴こえてきた。それは、いつ、どこにいても見られる珠玉のドラマだ。少なくとも、刑事ドラマと医療ドラマに侵食された地上波ドラマと違い、そこには自由がある。

時代の変化の波は、いつも若者たちが教えてくれる。

(文:指南役 イラスト:高田真弓)

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