俳優・桐谷健太さん 単独インタビュー!「かもめ食堂」荻上監督の最新作「彼らが本気で編むときは、」で描かれた家族愛のカタチ



Photo:有本真大

大ヒットした「かもめ食堂」「めがね」で、日本映画の新たな頁を開いた荻上直子監督の最新作「彼らが本気で編むときは、」は、“もう癒し系とは言わせない”と監督自らが語る“真骨頂”と呼べる映画です。

南カリフォルニア大学大学院の映画学科に留学していた20代の6年間、それから12年後、夫と生後間もない双子とともに再びアメリカ生活を送った1年間も、アパートの大家さんはじめ、周囲にはゲイ、レズビアン、トランスジェンダーの人たちが普通に暮らしていたのに、日本ではそうでないことに違和感を感じた荻上監督。

ある新聞記事で、中学生の息子に「おっぱいがほしい」と打ち明けられ、彼に “ニセ乳” を作ってあげた母親の存在を知った監督は、このお母さんに会いに行きます。

女の子になった息子を自然のこととして受けとめ、我が子を大切に思う気持ちを知り、自分の双子への愛情と変わらないと思った監督が、映画にしたいと切望したのがこの作品なのです。



(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

トランスジェンダーの女性・リンコ(生田斗真) 恋人・マキオを演じているのが、桐谷健太さん。普通の男性役ながら、セクシュアル・マイノリティであるリンコを、あくまで一人の女性として守り抜く姿勢の男らしいこと!

そんな桐谷さんに、映画を作り上げるまでの熱い思い、この映画で到達した新境地についても、たっぷり語っていただきました。



■小学校5年生のトモ。テーブルにコンビニのおにぎりが置かれている生活


(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

―― この映画に出演しようと思われたのは、なぜですか?

「最初、マネージャーから電話があって、すごくいい脚本だと。母親が家を出て行ってしまった姪っ子が、元は男性だった女性と暮らしてる母親の弟と同居することになって…と聞いて、『ええっ、どういう話?』みたいにはなりましたけど(笑)。

でも、実際に読んでみて、すごくええ脚本やなあと思ったし、今、オリジナル脚本で製作する映画は減っているから、これは映画らしい映画になるんじゃないかって、すごく感じた。監督の作品も観ていて、『ああ、空気を撮る監督やな』って感じたから、めっちゃ楽しみでしたね、はい」

母・ヒロミ(ミムラ)と二人暮らしのトモ(柿原りんか)は、小学校5年生。帰宅すると、テーブルにコンビニのおにぎりが置かれている生活でしたが、ある日、母が男性と出奔してしまい、仕方なく書店勤務の叔父・マキオを訪ねます。マキオは、彼らの母親(りりィ)が暮らす施設で働く恋人のリンコと同棲しており、三人の共同生活が始まりますが…。



(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

―― この映画に出演する前と後で、トランスジェンダーに関する感じ方、恋愛観に変化がありましたか?

「俺は東京に出てきたばっかりの時、ゲイの方にナンパされ、そこからこの業界、モデル事務所に紹介してもらったりして、ゲイやトランスジェンダーの友達がすごく多かったんです。いうたら僕も、大阪から出てきてマイノリティだったわけですよ。誰も知らない中、彼らはすごく優しくしてくれたし、中には下心あった人もいるかもしれないけど(笑)、でも、すごく仲良くて。

その頃からの友達に『こういう映画やるけど、聞いてもいい?』って、いろいろ話を聞かせてもらって。だから、俺の中ではトランスジェンダーって言葉は、この映画をやるまで知らなかったっていうぐらい、あたりまえの日常やったから、よくいう “認める” とか “認めない” とか、そういうことじゃなくて、いろんな考え方があってそれでええやん…っていう考え方なんです」

―― 当事者になってみて、初めてわかる差別があると思うのですが…。

「当事者ということでいうなら、中学生の頃、自分はトランスジェンダーだと気づいた時が、思うことはすごく大きいんやないかと思う。だからこの映画を観ながら、その友達たちは俺には何も言わなかったけれど、世間に対する苦しみや悲しさを経験してきたのかなと、想いを馳せたりしました。

役を構築する上で、友達に『トランスジェンダーの女性が、つきあう男性の共通点って、あったりするの?』って聞いたら、『それは健太、人それぞれだよ』と。普通、 “人それぞれ” っていうのはヒントにならないじゃないですか、ある種漠然としていて。でも俺、それですごい腑に落ちたんですよ。

もちろん結婚を考えてるとしたら、すごく覚悟をちゃんとしてる人だと思う。で、その時に、『そうか、マキオってすげえ男らしい男なんやな』と感じた」

じっとこちらの目を見つめながら、丁寧に真摯に言葉を紡ぐ桐谷さん。ワイルドな印象が強いけれど、大きいのにとても繊細な手をしていて、美しい指を組んだり解いたりしながら、時に笑いを取り、時にガキ大将のように豪快に笑い、時にホロリとさせるのです。

■一番目立ちたい!よりも「斗真がきれいに見えるように」変化した新境地

―― マキオは普通の男性ですが、母親は夫が他の女性と駆け落ちした辛い過去があり、姉は好きになった男を追って家を出てしまう…という環境。そんな中でトランスジェンダーの恋人と暮らす彼を演じるのは、なかなか難しかったのではないでしょうか?

「マキオを演じる上で、いろんなリサーチをしたり、監督からは、監督の旦那さんのイメージなんだって聞いたり…。

ダサくて話もおもしろくなくて…って、旦那さんのことをガーッて文句言った後、『でも、すごく優しいんです』と。それ、聞いた時に俺、すごく愛情を感じて、『何か、グッとくるなあ』みたいな…。それでまた、イメージもらったんですよ。

でも、人を愛する気持ちとか傍にいたい気持ちは、別に俺と何ら変わんないって感じたから、それを核にして、無垢なマキオ像というか、マキオを生きられたと思ってますけどね」

最初は馴染めなかったトモも、お弁当を作ってくれたりする優しいリンコに、少しずつ心を開いていきます。リンコはリンコで、世の中から哀しい差別を受けながらも、辛い気持ちを編み物で紛らわせ、トモの愛らしさにだんだんと母性が目覚めていき…。



Photo:有本真大

―― 生田さんの女性役、現場ではいかがでしたか?

「斗真も、最初は苦労したと思う。メンタルな部分を作り上げながら、フィジカルな部分で肩幅が大きく見えないように、手がお兄ちゃんみたいにならないように…。やっぱりそこって重要じゃないですか。そういう意味ではすごく苦労していたし、撮影中、今回は女性陣が多かったから、みんなが注文を言いにくるわけですよ、そこはちょっと…みたいに。

だから、俺は傍にいて支えることができたら…と、ホンマに今回、強く感じた。やっぱり斗真が美しく見えることが、この映画にとってすごく重要なわけですから。

それと、監督も撮影前、『私もこれに賭けてます』と。『私の人生の第2章なんです』と言うてくれたんで、その監督のお手伝いを全力でしたいな、という思い。今までは、『自分が一番目立ったる!』としか思ってなかったわけですよ。まあ、それが作品のためにもなると思ってやってたわけですけど。

でも、今回はそうじゃなくて、斗真がきれいに見えるように、斗真が心折れないように…と思ってて。現場にいた時に俺、今までと違う感覚に『アレ?』って思いました。でも、それはマキオがリンコさんを支えてることとシンクロしていたと思う」

―― マキオはリンコさんの心の美しさに惹かれ、それ以外の部分はどうでもいいと選んだ人。内面の美しさが外側にも出ている女性ですが、生田さん、本当にきれいでしたね。

「斗真はものすごい一生懸命やってて、俺は最初に脚本見た時から、合うやろなあとも思ったし、本当に可愛いかったし、だから、『可愛いよ』って常に声かけてた。

斗真が言ってたのが、斗真もトランスジェンダーの友達がいて、話を聞いた時に、もちろんフィジカルな見え方も大事だけど、やっぱり気持ちだと。籍を変えてる人は、籍を変えてない人よりも自信を持ってて、自分はもう女性なんだっていう…、それだけで全然違うとか、そんな話を教えてもらったのかな。

その時、気持ちをちゃんと持っていけばいいんだって思えた、って言ってた。俺もそれを聞いて、すごく腑に落ちたというか、斗真が、後半に向けてどんどんきれいになっていったし。だから、監督が長になって、みんなで一緒に世界観を作っていけたからよかったのかな、と俺は思うんですよね」

■リンコさんと「キスしたい」「抱きしめたい」と、自分から監督に提案



Photo:有本真大

―― 生田さんとのシーンでは、いろいろ苦労話もあるのでは?

「恋人同士の役なのに、監督に『男同士の友情に見えます。ちゃんと抱き合って、今!』とか言われながらっていうのが、最初の頃はありましたよ。でも、それがみんなで作っていく映画の醍醐味っていうか。

あと、監督は空気を撮る人なんで、『この台詞をちょっと強く言ってください』とか『ここはこういう表情で…』っていう演出をしない。ドラマとかだとあるじゃないですか、カットがけっこうあるから。ここは強めで、ここは弱めでいきますか、みたいの…。

お芝居によって役によって、いろいろあっていいと思うんですけど、監督の場合は、丸々無垢なこの人間そのもの、たとえばマキオが後ろ姿で、座ってるだけの背中だとしても、この人ってこういう人なんだな、と説得できるくらいの力量が求められてる、と俺は思ったんですね。

だから、人を愛する気持ちってのを確認して、ただ表面的なんじゃなくて、無垢なマキオを生きるんだっていうんで、そこにいるんだってことで努力して。でも、俺はやれたと思っています、はい」

―― 結婚してトモを養子にしたいと願うリンコさんに、「受け入れます、全部。真剣に考えよう、一緒に」と答えるマキオさん。男らしいなあ! と感動しました。

「その後のキスシーン、実は台本になかったんですよ。俺が、『あそこは俺、キスしたい。抱きしめたいんですけど…』って言ったら、監督も、そういうシーンがないからどうしようかなって思ってたみたいで、『もしできるなら、ぜひやってみてください』と。斗真にも『ちょっとキスしたいねん』って話したら、『わかった』って。

斗真とは、その前の連ドラの打ち上げでキスしてたからね。経験済みやったから(笑)」

―― キスは本当にしてるんですか? よく見えなかったんですけど…(笑)。

「してる、してる(笑)。そこも、荻上監督っておもしろいなぁと思ったんですよ。普通だったら見せたいじゃないですか。でも、唇重ねてるとこ、撮ってないし。この人っておもしろいな、すごいなって思った。

監督はワンカットでずーっと撮るんですよ。お姉ちゃんが帰ってきて、トモが殴りかかって、みんなで話し合うシーンは、ものすごい回数を重ねたシーンなんです。普通だったら、撮り方ちょっと変えたりとかするかもしれないんですけど、監督はずーっと撮ってる。それが、俺はすごいな、監督には見えてるんだな、と思いましたね」

桐谷さんも何度も語っているように、“空気を撮る”荻上監督のこの映画は、問題意識の強い作品ながら、映像が非常に美しく、音楽も登場人物の心象風景に伴走していて、決して途切れさせない時間の描き方が見事。思わず、「うーん」と唸ってしまう、心に余韻を漂わせる名場面がいくつもありました。



(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

―― 桐谷さんも、マキオになりきってリンコさんを受けとめていらっしゃいました。

「マキオはきっと、お父さんが出て行ってからすごく傷ついて、お母さんももちろん荒れただろうし、その中で、女の人の怖さとか弱さとか嫌なところもいっぱい見てきて、もしかしたら、自分はもう誰かとおつきあいすることはないかもな…、ってあったと思う。

そんな中、自分の想像を軽く超えた美しさに出会ったわけなんですよ。リンコさんとの出会いって、それまでは白黒だった世界がカラーになったくらいのこと。自分の人生を、輝く方向に変えてくれた人なんですよ。

彼女がトモの母親になりたいって言った時、最初はびっくりした部分もあったかもしれないけど、でもマキオは揺るがず、この人が幸せなら、と思っただろうし。自分の人生を、丸々変えるような出会いだったわけですから」

―― トモを一人置いて出ていってしまうお姉さんについては、どう思われますか? 『私は母親である前に、一人の女よ』という台詞がありますが…。

「マキオから言わせてもらうと、お姉ちゃんの気持ちもわかるんですよね。だから、マキオは、大声で怒鳴ったりしないし、ボソッと『トモは、コンビニのおにぎりが嫌いなんだ』っていうような言い方で、相手に伝えようとする。それはきっと、マキオが痛みを優しさに変えることができた人だから。

お姉さんはそうじゃなかった。でも、お姉さん役のミムラちゃんも言ってたけど、お姉ちゃんにもマキオのような男性がいてくれたら、そうはなってなかったと思うと。だから、単純にアカンとかって言えない。

そりゃ自分の子供なんやから、一緒にいてあげるほうがいいに決まってる。そういう人を見ると、俺は感動する。家計や精神的とかも大変やけど、子供をグッと支えてる人を見たら、ええなあって思う。そんな人に、俺は感動するわけですよ」



(C)2017「彼らが本気で編むときは、」製作委員会

―― 桐谷さんご自身は、どんな家庭が理想ですか?

「明るく楽しく、思ったことはちゃんとみんなで言い合うような…。みんなが、最初からデッカイ木を望んでるんじゃなくて、芽から育てていくのを楽しんでいけたら、そう、愛情の過程もじっくり楽しんでいけたらいいなあ、と思いますね」

テレ臭そうに、そう語ってくださった桐谷さん。長身でたくましく、でも、繊細な感性で穏やかに包み込まれるような雰囲気は、“ダンナにしたい!”と、この映画からさらに人気急上昇中。

“普通の男”の魅力を余すところなく描ききった、桐谷さん演じるマキオに、今すぐ会いに行ってください!

第67回ベルリン国際映画祭 テディ審査員特別賞受賞
(パノラマ部門、ジェネレーション部門 正式出品作品)
「彼らが本気で編むときは、」
脚本・監督:荻上直子
出演:生田斗真、柿原りんか、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、込江海翔、りりィ、田中美佐子/桐谷健太
フードスタイリスト:飯島奈美
配給:スールキートス
http://kareamu.com/
2017年2月25日(土)から全国ロードショー

(稲木紫織)

当記事はウーマンエキサイトの提供記事です。

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