◆釣り人口の増加とともにマナー問題にあえぐ漁港
コロナ禍で密が避けられるアウトドアスポーツとして注目が集まった釣り。‘20年を機に日本の釣り具市場の年間売り上げも増加しており、釣りブームまだまだ続きそうだ。しかし、そんなブームの弊害も起きている。
「漁港や防波堤の釣り場が閉鎖されていて、釣り場は年々減少しているんです」
そう話すのは、『マンガ 海釣り超入門』(扶桑社刊)で監修を務める原太一氏。減少の大きな要因になっているのが、釣り人のマナー問題だ。
「釣りをし終わったあとに釣り糸のくずやエサのパッケージなどのゴミを放置したまま帰ってしまう人。また、車の違法駐車や騒音などで地元の人とトラブルになっているケースも多い。そういったマナー低下が影響して、釣り禁止の漁港が増えています」
◆声がけで未然にトラブルを防ぐことが重要
ほかにも釣り初心者が増加したことで、釣り場での基本ルールがわからずに釣り人同士のトラブルに発展することも。
「一番多いのは、先に釣りをしている人のすぐ隣りで何も言わずに釣りを始めてしまうケースです。釣りを始める前に『ここで釣りをしても大丈夫ですか?』と声を掛けることが大切。釣りの種類や釣り場の状況によって違いますが10メートルを目安に距離をあけるようにしたほうがいいですね」
◆晴れているのに地面が濡れている場所は要注意
ほかに海釣り初心者が注意したいのは、水難事故だ。とくに9月は海が荒れやすい時期に突入する。
「防波堤の釣りでは、落水だけじゃなく、急な大波にさらわれてしまって亡くなるケースも多い。晴れているのに足元がびしょ濡れになっていたら、そこまで波が被っているということなので、釣り場を選ぶときにそういう場所は避けたほうがいいですね。また、釣りをしながら風に吹かれているだけでも体力はかなり消耗します。暑くても羽織れる上着は用意するようにしましょう」
万が一、落水してしまった場合を考えて、ライフジャケットは必ず着用しなければならない。
◆ライフジャケットは『桜マーク』が付いているものを
「ライフジャケットは、水に反応して開く自動膨張式のウエストタイプとショルダータイプ、あとは浮力体が付いているベストタイプの3種類があります。ネット通販などで安価で売っている商品だと水に落ちたときに開かない可能性があるので要注意。国土交通省の安全基準に適合した『桜マーク』が付いているものを選ぶようにしましょう」
実際に溺れた場合はどのような対処が必要か。
「まずは、パニックにならないようにすること。パニックになって水中で暴れると、疲労してしまい溺れるリスクが高まります。周りに落水を知らせるために、笛を常備しておくといいですね。溺れている人を発見したときには、二重遭難の危険があるので無理に飛び込まない。防波堤にある浮き輪や空のペットボトル、自分のライフジャケットを投げてもいいので落水者が沈まないようにして、118番に電話をして海上保安庁にレスキュー要請をします。子供連れの釣り人が子供にライフジャケットを着用させていないことがありますが、それは本当に危険。水難事故の死因で大きな割合を占めるのは、溺死。実際にライフジャケットを着用しておけば助かったという事故も多いのです」
幼少期の頃に釣りと出会い、釣り歴40年以上という原氏。あらためて釣りの魅力を聞くと、「魚との知恵比べが醍醐味ですね」と語る。
「魚をうまく釣るためには、その日その時の状況に合った釣り場、道具、釣り方を選ばなくてはなりません。その正解を見つけるのが難しいのですが、自分なりに正解だと思った組み合わせで狙い通り釣れると、『釣れた』ではなく『釣った』という感覚が得られます。そこに至るまでの試行錯誤が楽しいんです。いくつになってもここまで本気になれる趣味はなかなかない。僕もいまだに熱中し続けてますから(笑)」
ブームに沸く今だからこそ、釣り人のマナーとモラルを再考すべきだろう。
監修者紹介
原 太一
はら・たいち●幼少期から50年以上、ジャンルを問わず釣りを楽しむアウトドア編集者。出版社勤務時代は数多くの雑誌・書籍・DVDの制作に携わり、ルアーフィッシング月刊誌の編集長も務める。退社後はフリーランスの編集・ライターとして活動中。
取材・文/吉岡俊