女子SPA!で大きな反響を呼んだ記事を、ジャンルごとに紹介します。こちらは、「子育て」ジャンルの人気記事です。(初公開日は2023年2月26日 記事は取材時の状況)
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2月に入ると、首都圏の中学受験が一斉に本番へ。3月の国立大学入試が終わるまで受験のハイシーズンを迎え、一喜一憂する親子の姿は風物詩だ。だが水面下では、重課金戦争が繰り広げられている――。
◆今さら降りられない…かさむ塾代に親が疲弊
少子化にもかかわらず、中学受験に挑む子どもの数は年々増えている。’22年は私立と国立中学を合わせて5万1100人と、過去最多を記録した(首都圏模試センター調べ)。
苛烈を極める受験戦争でライバルに勝つために不可欠なのが、塾通いだ。有名中学の入試を突破し、さらには最難関大学合格というゴールを果たすため、ほとんどの親が塾に年間100万円は下らない“課金”を重ねる。
一方で、最近注目を集めたのが、『コスパで考える学歴攻略法』の著者・藤沢数希氏がTwitterで発信した「SAPIXなんかで子供の頃から猛勉強して私立中高一貫校で課金した子供の平均的卒業大学はMARCHに届くかどうか」というコメントだ。
SAPIXとは、最難関校への合格者を多数輩出している言わずと知れた有名塾。塾代もバカにならないが、それだけ“重課金”しても、平均的には東大早慶ではなくMARCH以下という現実に、多くの親が衝撃を受けた。
◆塾代だけで800万円ほど使ったが、第1志望には受からず…
「実際、受験にはカネがかかる。うちは塾代だけでトータル800万円ほど使いましたが、それでも第1志望の中学には受かりませんでした」
そう語るのは、東京都内に住む林洋平さん(仮名・42歳・年収1500万円)。林さんの娘が中学受験に挑戦したのは昨年のことだ。
「うちは、小4から塾に通わせ始めました。私も中学受験を経験しており、偏差値65ほどあったので娘にも期待していた。ところが、最初の模試で上がってきた数字は53。それで、小4の終わりから個別指導塾とも契約したんです」
個別指導塾は、受けるコマ数に応じて価格が決まる。追加で課金した手前、成績が上がらないと意味がないと思った林さんは、1コマ80分、2万5000円の最高ランクの教師に依頼した。
「5年生のころから少なくとも月3コマ、入試を控えた6年生の12~1月は月に40コマ近く受け、2年間でトータル470万円かかりました」
◆試験が近づくにつれ、娘も不安定に
試験が近づくにつれ、娘も受験勉強のストレスで不安定に。妻との口げんかが絶えなくなっていった。
「正直、娘に中学受験は向いていないんじゃないかと思うことも。家計も破綻寸前でしたが、何百万円と課金を続けて今さら降りるという選択肢はなかったんです」
結果、林さんの娘は第2志望の中堅校に合格。ただ、900万円かけてのこの結果に、林さんは納得がいっていない様子だ。
◆林さんの課金総額
定期で通う塾のほか、追加課金した個別指導塾の費用がかさむ。結局は入学しなかった滑り止めの学校の入学金も痛い出費だった。
SAPIXなど塾代(1か月10万円×36か月)……360万円
個別指導塾代(1コマ2.5万円×188コマ)……470万円
中学受験料(1校2.5万円×6校)……15万円
入学金(1校30万円×2校)……60万円
参考書代(およそ50冊)……8万円
合計……913万円
◆年間80万円の塾代を課金するも2浪
では、中学受験を諦め大学入試から上位校を目指すのはどうか。大谷徹さん(仮名・46歳)は、「それがいいとは限らない」と漏らす。
「東京育ちの妻は息子に中学受験をさせたがっていましたが、田舎の公立から早稲田に受かった私からしたら、当時は高いカネを払って私立に行く意味がわかりませんでした」
大谷さんの反対もあって、息子は中高とも公立に通ったが、部活にのめり込みすぎて成績が振るわなかったという。
「高校2年生から個別指導塾に通わせたため、年間80万円が塾代に。それにもかかわらず、早慶どころかMARCHすら受からず、今年で2浪目。予備校の授業料が年120万円かかっています。今更ながら中学受験で付属校に入れておけばまだ、課金地獄にも天井が見えたと後悔しています」
子どもに高い学歴を与えるのに高額な費用を必要とする現代の受験戦争。しかし実際はカネをかけたところで、望む学歴が手に入る保証はまったくない。
◆大谷さんの課金総額
息子の進路をめぐり夫婦げんかが絶えなくなった大谷さん。塾・予備校代のほか、静かな環境で勉強させるため勉強部屋を借りている。
個別指導塾代(1コマ2万円×80コマ)……160万円
予備校代(年120万円×2年)……240万円
大学受験料(1校3万円×11校)……33万円
大学入学金(1校30万円×2校)……60万円
勉強部屋代(家賃3万円×10か月+契約時初期費用)……54万円
合計……547万円
◆中学受験は過熱しすぎ!「コスパのよい受験」とは?
高い学歴を獲得するためには重課金をと煽る日本の受験産業。その費用対効果はどうなっているのか。
前出の藤沢氏は、「中学受験をする場合は、小4から塾に入るのが標準的で、少なくとも300万円が塾代に消えていきます。まず、大前提としてこの300万円が家計に響くなら中学受験のスタートラインにすら立てませんし、立つべきでもありません」と話す。
ただ、中学受験に向いている子どもはSAPIXなどの塾と家庭学習だけで合格するが、半面、成績が振るわない子ほど、個別指導塾や家庭教師などに追加課金する傾向にあり、その額も膨れ上がっていくという。
「ただ、仮に1000万円課金して結果的にワンランク上の大学に入ることができたら高給の大企業に入りやすくなり、1000万円は十分に回収することができます。投資として悪くないです」
◆高校から付属校を目指す方がコスパ良し
一方、中学受験に向いていない子どもは、高校入試から本腰を入れるというルートも。
「中学受験が過熱している分、高校から早慶やMARCHの付属校を目指して頑張るほうが勉強の大変さや経済的なコスパはよい。東京は中学受験で成績上位層がごっそり抜けているので、高校入試なら先ほどいったワンランク上の大学に比較的楽に入れます」
コスパのよい選択をしたいものだ。
【作家・藤沢数希氏】
理論物理学研究者、外資系金融機関を経て作家に。最新刊『コスパで考える学歴攻略法』。Twitter(@kazu_fujisawa)
<取材・文・撮影/SPA!子ども塾調査隊>