全国の水族館に“わずか3頭”しかいないラッコ。輸入も繁殖も難しい…それでも諦めない人々の思い

日刊SPA!

 いつでも会えると思っていた。でも気づけばラッコを愛でられる水族館は日本に2館しかない。なぜそうなったのか、これからどうなるのか、最前線をリポートする。

◆「ラッコを見られるうちにいっぱい見たい」台風接近中も大盛況

「水族館の飼育ラッコが急に3頭になったわけではない。10年以上前からこうなることはわかっていたんです」

三重県鳥羽市の「鳥羽水族館」で40年間ラッコの飼育を担当する石原良浩さんは、ラッコの数が減少した現状に対し淡々と語る。

現在、国内のラッコ飼育数は同水族館で飼育するメスのメイ(19歳)とキラ(15歳)の2頭のほか、福岡県福岡市の「マリンワールド海の中道」のオス1頭のみだ。

ラッコを直に見られるのは貴重とあって、同館への取材当日は台風が接近しているにもかかわらず大勢の人々が訪れていた。

なかでもラッコの水槽前は終始人だかりで「かわいい!」という声が飛び交う盛況ぶり。

名古屋から来たという20代女性は「ラッコを見られるうちにいっぱい見たい」と話す。

同じく40代男性も「SNSでラッコが絶滅危惧種だと知った」と、来館者の多くが日本の水族館からラッコが減っていることをニュースで見聞きして駆けつけたようだ。

◆日本のラッコ激減の理由とは…

では日本のラッコ激減の理由とは。それには輸入や繁殖の難しさなどラッコ特有のさまざまな要因が挙げられる。

そもそもラッコは3種の亜種(カリフォルニアラッコ、アジアラッコ、アラスカラッコ)がいるが、18世紀初頭から毛皮目当ての乱獲により絶滅寸前にまで追い込まれてきた歴史を持つ。

さらに1989年にはアメリカで大規模な原油漏れ事故が発生。これによりラッコが数千頭単位で犠牲となった。

そして国際自然保護連合(IUCN)により絶滅危惧種に指定されたのが’00年。現在、ワシントン条約による国際的な取引の規制で輸入には縛りがある。

日本は’03年にロシアからやって来たラッコを最後に、輸入は途絶えたままだ。

◆日本での繁殖が頭打ちに…ラッコの「意外な気質」とは

それでも日本は、1982年にアメリカからラッコを輸入して以来、水族館同士の貸し借りで繁殖に努め、1994年のピーク時122頭のうち半数以上は日本の施設で誕生させている。

しかし、繁殖も頭打ちに。それにはラッコの気質が大きく関わっている。

「ラッコは穏やかでやさしいというイメージをお持ちの方も多いと思いますが、非常に気性の荒い生き物。オスは交尾をするためならメスや子供を殺してしまうこともある。そして交尾が終われば、もうそれまで。

そのため飼育下でメスが妊娠・出産したら、必ずオスと離さなければいけない。生まれた子供がメスの場合、オスは自分の子供でも襲うので近親交配になる恐れもある。たくさん生まれれば生まれるほど、自館には置いておけないんです」(石原さん)

そうなると、オスは交尾の仕方を見て学習するということができなくなり、繁殖能力は低下していく。

仮にメスが妊娠しても、流産や子宮破裂などで出産に至らないケースも少なくないという。

◆「すぐ死んでしまう繊細な動物なんです」

そもそも同館にいるメイは高齢で、キラは福岡にいるオスと兄妹関係にあるため近親交配になるので、これ以上の繁殖は見込めない。

となると、繁殖以外でラッコを存続させる道はあるのだろうか。

「輸入は途絶えているものの、完全にできないわけではありません。しかし運送に必要な航空機を1機チャーターするのに、巨額な費用がかかる。誰が負担するか? 受け入れる園館がするしかない」と石原さんは語る。

続けて、「飼育技術や知識のある人間がいないとラッコは取り扱えない。すぐ死んでしまう繊細な動物なんです」とも。

日本で受け入れ先があるかといえば、ラッコを飼育する2館のみ。継続的にラッコを観察している園館でなければ、飼育技術の継承は難しいのだ。

◆「ラッコは喜怒哀楽がある動物。一生飽きることがありません」

それでも石原さんは、決して諦めたわけではない。

「飼育員を育てるためにも、飼育をし続けることが重要です。アメリカからの輸入も視野に入れ、そのためにできることを進めています。ラッコは喜怒哀楽がある動物。一生飽きることがありません」

10月にはラッコ飼育40周年を迎える鳥羽水族館。この先も飼育が続くことを前提に、京都大学野生動物研究センターでラッコについて研究する三谷曜子教授らと連携を取る。

◆水族館の課題は山積み…「ラッコと共にどう生きるか」

同館を取材後、三谷教授にも話を聞いた。

北海道の太平洋沿岸に生息する野生ラッコの保全について、「まずその生態を知らないと何もできません。どういう餌を食べ、どういう生息地を選んでいるのか。海洋環境の変化に合わせ食べている餌も違うとわかりました」とラッコ観察を続けている。

「一頭に対してどのぐらいの水族館のスペースが必要になるのか。それをクリアするのが難しい。水温が冷たくないといけない、毛が抜けてしまうのでろ過が必要、高カロリーの餌を食べないといけないので餌代や電気代などコストがかかる。それでも水族館の目玉になりペイできればいいが、それはわからない」と水族館の課題は山積みだ。

それでも“ラッコの未来”を石原さんらと探っている。

ラッコと共にどう生きるか。真剣に取り組む人たちがいる限り、私たちの目の前からラッコは消えないはずだ。

取材・文/橋本範子 吉岡 俊 高石智一

―[[日本からラッコ絶滅]の危機を救え!]―

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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