モヒカンと鍛えられた肉体、料理上手で知られる父親、SNSのダンス動画やアパレルブランドとのコラボが話題になるなど幅広く活動する娘からなるお笑いコンビ・完熟フレッシュの池田57crazyさんと池田レイラさん。父と娘で歩んだ道のりは、決して平坦ではなかったようだ。
前編では、大学合格や反抗期のエピソード、新たな漫才誕生のきっかけなどについて聞いた。後編では、ランジャタイ・国崎和也さんに慰められた話、子ども時代からテレビに出たことの葛藤、娘とコンビを組んで感じること、今後のヴィジョンなど、さらに2人を深掘りしていく――。
◆何も考えずに活動していた子ども時代
――レイラさんは小学生の頃からテレビに出演されています。子ども時代のイメージが強いことで得をした、もしくは悩んだことはありましたか?
池田レイラさん(以下、レイラ):自分が歳を重ねて思うんですけど、やっぱ小っちゃい子ってめちゃくちゃ得することしかなくて。何やっても許されるし、何言ってもいいし。もちろんちゃんと考えて行動する子もいると思うんですけど(笑)、私の場合は特に何も考えずに活動していましたね。
芸人さんたちがめちゃくちゃ優しくしてくれたんですよ。楽屋にいてもすごい遊んでくれるし。ネタ飛ばして悔しくて、楽屋帰って大泣きしてたら、みんなが「大丈夫だよ。そういうときもあるから」って不器用ながらに面倒見てくれたりとか(笑)。
◆実は優しいランジャタイ・国崎
池田57CRAZYさん(以下、57 CRAZY):ランジャタイの国崎(和也)くんが、普段あんななのに「大丈夫だよ」ってずーっと慰めて続けてくれるってこともありましたね(笑)。
レイラ:「そういうときあるから」みたいに言うんですけど、「いや、あなたは絶対飛ばすことないでしょ!」って思いながら(笑)。
57 CRAZY:すごかったよ。周りが笑ってたもんね。国ちゃんがずっと慰めてるから。
レイラ:これマジで絶対書いてほしいです。
57 CRAZY:みんな超笑ってましたよ、普通に慰めてるって。すごい優しいお兄ちゃんだったよね、あのとき。
レイラ:芸人さんは、みなさん面白いし優しいので。そこで愛をもらったのは小っちゃい子だから許されてたし、すごく得したところだと思います。
◆本来の自分がわからず、しんどかった時期も
レイラ:損したところは、けっこう周りに芸能やってる友だちがいるんですけど、みんな素の自分を出せないというか。小っちゃい頃から活動してる子って、たぶん営業モードと普段のプライベートって分かれちゃってると思うんですよ。
本来の自分がどれかわかんなくなって、そもそも「求められてるものに応えられてるのかどうか」がわかんなくなってくるみたいな感じはありました。それで「人間としての私を知ろうとしてくれる人なんていないんじゃないか」って考えちゃったりもして。
そこはちょっとしんどかったです。普段の私じゃなくて、“そっちの私”が好きなのかなとか。別に落ち込んでるわけじゃないですけど、純粋にそう思うタイミングは多かったですね。
57 CRAZY:反抗期の頃は、ちょっと外で声掛けられるのが嫌そうでしたね。
◆友だちと遊んでるときに盗撮されたことも
レイラ:反抗期の頃っていうか、父親は最初からいろんな人に応援されたいって気持ちで始めてるから、有名になって声を掛けてもらうのって嬉しいと思うんですよ。けど、私はそうじゃなくていつの間にか芸能界に入ってて次の日になったら急にみんなから声掛けられるようになった感じじゃないですか。
やっぱ嫌な大人もいて、友だちと遊んでるときに盗撮されたりとか。そういう人たちのせいで「うわぁ何で邪魔されないといけないんだろう」って思ったりすることはありました。普通にめっちゃ怖いし、「何で?」っていう。
57 CRAZY:でも、今は普通に声掛けてもらえるのが嬉しいし、ありがたいって言ってますね。
レイラ:高校受験で初めて1人で大きい番組(2019年10月~2020年3月に放送された『スッキリ』(日本テレビ系)の受験密着シリーズ)に出させてもらったんですけど、それまで「ファンの人からのコメントで勇気づけられる」とか本当にわからなくて。応援してもらってるって実感できるタイミングがなかったんですよね。
受験企画で、「レイラちゃん頑張って」とかって言ってもらえるようになってから「本当にありがとうございます」って心から思えるようになりました。そこは本当に受験企画があってのことだと思いますね。
◆今の芸能界は「めちゃめちゃクリーン」
――お父さんはよく「芸事だけが苦手」とおっしゃっていますが、自分の子どもを相方に持ったことで「こんな自分の力に気付けた」みたいな部分はありますか?
57 CRAZY:もちろん以前のコンビも仲良かったんですけど、やっぱり相方がクローズアップされるとちょっと嫉妬心とかがあったんですよね。それが娘とやるようになってからはそういうのが一切なくなりました。
むしろ、娘をしっかり見てもらえるんだったら、こっちはもうぜんぜんダメでもいいのかなみたいな。だから、気は楽になりましたよね。「頑張ってしゃべってウケなきゃいけない」みたいなプレッシャーはちょっとなくなったというか。ただ、逆に肩の力が抜け過ぎてちょっとサボっちゃうんですけど(笑)。
レイラ:父が前のコンビやってたときは、お笑い界が今よりブラックというか(笑)。世間の人が思ってる今の芸能界ってめちゃめちゃクリーンで、たぶん普通のお仕事よりクリーンってイメージだと思うんですよ。
57 CRAZY:クリーンだしマジメだよね。
レイラ:世間の人がブラックのイメージのときに、父は一番ガッツリお笑いやってたので。やっぱ今の業界じゃ考えられないことがいっぱいあったんだろうなって。私はわかんないけど(苦笑)。
◆パーソナルジムでの社会人経験は「大きかった」
57 CRAZY:ありましたね。僕は師匠(お笑いコンビ・ブッチャーブラザーズ)に弟子入りしたので、けっこう厳しかったです(苦笑)。
レイラ:それに比べたら、そりゃ肩の力抜けまくるよねっていう(笑)。
57 CRAZY:でも、その後働いたのも大きかったかな。社会をちゃんと見れたっていうのが。その5年間ぐらいで時代の流れもすごく変わってきてたので。
ちょうどパーソナルジムの会社が2年目に入る前に僕が入社したから、「どうやっていけば会社が大きくなるか」みたいなのを見られた時期だったんですよ。だからお笑いを再開するにあたって、そういうのもかなりプラスになりました。
お笑いの世界しか知らなかったから、世間知らずだったんですよね。上の人が言うことは絶対ですし、「しょうがないか」って思ってたところもありましたからね。
◆何でもやらせてもらえる時代だからこそ
――レイラさんは大学で演技の勉強をされているそうですね。
レイラ:高校も芸能系で歌とかダンスとか演技とか、いろいろやってたんですけど、その中でも演技が楽しくて。それで今は演技を専攻してる感じですね。何かやるうえで、演技が役立てばいいなってことで。
けど、今って何でもやらせてもらえる時代だから、「女優さんになりたい」って言ってそれだけをやる必要ってないとも思ってます。
57 CRAZY:娘が行ってた高校って総合エンターテインメントだったから、いろんなことできてすごく良かったんですよ。大学もそういうところがあれば一番いいんですけど、大学・専門学校ってものすごく絞ったところになっちゃう。
そのなかでも、昔は演技を学ぼうとしたら舞台だけだったのが、今は映像系と分かれてるので「じゃそっち入ったら?」って勧めて。僕が大阪芸大出身なので、そのあたりのアドバイスはしました。
◆軸がブレなければ、何やってもいい
――レイラさんはお笑い、ダンス、役者、アパレルブランドとのコラボなど幅広く活動していますが、今後もそのスタイルは変えないつもりですか?
レイラ:今はやったことないことばかりなので、何でもやってみたいですね。グラビア撮影も映画もやってみたいです。お洋服も本当に初挑戦だったし、がっつり演技したのはちょっと前にYouTubeに上がったショートドラマ(YouTubeチャンネル『monogatary.com Official Youtube Channel』内の「Vlogドラマ」)が初めてだったし。
57 CRAZY:あれかわいいっすよね~(笑)、すごい似合ってるなと思って。何でもやりたいことやったほうがいいですよね、絶対。お笑いっていう軸がブレなければ、何やってもいいと思うんですよ。そこを変なふうに「こっちだ」って固まっちゃうとしんどくなるかなと思って。
お笑いってけっこうオールマイティーだから、僕としては「お笑い」って肩書は絶対捨てないほうがいいなと思ってます。そこさえしっかりしてれば、興味のあることにどんどん出て行ってほしいですね。
◆彼氏ができても「詳しい話はしない」
――今後、レイラさんが年齢を重ねていく中で、コンビのあり方、見え方も変わっていくと思います。現時点で「こんなコンビになりたい」というヴィジョンはありますか?
57 CRAZY:もともとは関根(勤)さん親子が目標だったんですけど、だんだん年齢とともに変わっていくので、高橋英樹さんと真麻さん親子とか、ああいう感じになれていければいいのかなと思ってますね。
レイラ:私はぜんぜん何も考えてないですね。これまでも全部流れでここまできてるし、自分の身に起きることって結局なるべくしてなってるから。考え過ぎると良くないかなと思ってあんまり考えないようにしてます。「型にハマっちゃうかな」っていうのもありますし、今まで通り変わらずって感じです。
たぶんコンビの仕事も、求められてたら何か入ってくるだろうし。入ってこなかったら、今は求められてないってことだろうし。割り切って考えるのが一番いいかなって自分のなかでは思ってます。
――今後彼氏ができたりすることもあると思いますが、お父さんに紹介するつもりではあるんですか?
レイラ:別に隠しはしないけど、詳しい話はしないですね。嫌とかじゃないけど、たぶん面倒くさいから(笑)。
57 CRAZY:僕も高校生の間は、「できたとしても言わないでくれ」って言ってたんです。その3年間で気持ちを作ろうと思ってたので。でも、今は「できたよ」って言われても大丈夫です。一瞬「うっ」ってなるかもしれないですけど、もう覚悟はしたので。3年間短かったですけど、この半年ぐらいでようやく気持ちが作れましたね。
<取材・文/鈴木旭 撮影/星亘>
【鈴木 旭】
フリーランスの編集/ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中