藤井風が音楽活動でサイババを“隠れ布教”。宗教の影響を明らかにしたミュージシャンもいるのに

女子SPA!

「死ぬのがいいわ」が世界的に大ヒットし、2年連続で紅白出場を果たした藤井風に問題が浮上しています。“触っただけで病気が治った”などの超能力で一斉を風靡したインドの新興宗教指導者、サイババを信奉しているらしいのです。

◆アルバムタイトルはサイババの言葉と同じ

これまでの活動をさかのぼるといくつもの“物証”がありました。

彼がカバー曲を演奏する自宅の部屋にはサイババらしき写真が飾られており、ファーストアルバム『HELP EVER HURT NEVER』、セカンドアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』はいずれもサイババの言葉を引用したものです。

TikTok(GQ JAPAN公式。未来の音を生み出すミュージシャンたちの一人として選出)の動画でも“サマスターローカースキノーバヴァントゥ”(世界中の生きとし生けるものが幸せで自由であれ)という教えからくる、彼がお気に入りだというマントラを唱えていました。

ウワサはSNSを中心に昨年11月頃から広まっていましたが、このたび『週刊文春』(2023年1月19日号)が記事を掲載し、より多くの人の知るところとなったのです。

◆“ステルス布教”を問題視したファンがサイトを設立

どのような思想信条を抱こうが個人の自由であることは言うまでもありません。一方で懸念されているのはサイババと明記されずに教えが曲になっていることが“ステルス布教”につながるのではないかという点です。そのカリスマ性ゆえに、藤井風の言葉だと信じたままサイババの信者になってしまう可能性があるのですね。

これを問題視した藤井風のファンが意見を募るサイトを設立する事態に発展しました。彼らも宗教二世として“ステルス布教”の脅威にさらされてきた経験があり、藤井風の姿勢に疑問を抱いたのだそう。

藤井風個人の信仰については否定しないとしつつも、音楽活動の根幹に特定の宗教があることを本人や運営サイドが明らかにしなかった経緯についてファンから寄せられた声をもとに問い合わせるプロジェクトを立ち上げたのです。

こうした批判に対して当の本人はインスタグラム上で応答。“どうしたら人の信仰や精神性に口を出せるのか?”とか“他人のあら探しより自分の心配をしたら?”と英語で返していたものの、昨年末には自身のツイッターアカウントでの発言をすべて削除してしまいました。

今回の件との関連は不明ですが、今後の活動に影響を及ぼしかねない事態になりつつあるのかもしれません。

◆サイババには少年への性的虐待疑惑も

なぜサイババ信仰が問題視されるかは様々な論点があるでしょう。イギリスのBBCが報じた少年への性的虐待疑惑や、日本ではのちのオウム真理教事件へとつながる超常現象ブームへの下地を作った張本人と考える向きもある。

藤井風が心酔した美しい教えの裏に、こうした事実があることも押さえておく必要があります。

多くのファンが落胆したのも、“よりによってサイババかよ”との思いがあっただろうことは想像に難くありません。

◆ボブ・ディランやプリンスは宗教による影響を隠さなかった

その上でもう一点指摘するとしたら、そもそもサイババをモチーフにしているのであれば出典を明らかにすべきでした。これはステルス布教以前にソングライターとしてわきまえるべき創作上のルールだと言えるでしょう。

ここでボブ・ディランを引き合いに出すのは気が引けますが、ディランはユダヤ教からキリスト教に改宗したことを隠すことなくゴスペル色の強い『Saved』、『Shot of Love』、『Slow Train Coming』の三部作を発表しました。

のちに「エホバの証人」の信者となったプリンスも、その教えのおかげで性的描写に頼らずに曲を作るようになったと公言しています。

どちらも音楽制作の源泉に宗教の存在があるのだから、その根拠を明示してメッセージを発しているわけですね。

◆事務所社長「言う必要がないから言っていない」は通用しない

『週刊文春』の取材に応じた藤井風のレコード会社「HEHNレコード」の河津知典社長は、「サイババのことを隠しているわけではありません。言う必要がないから言っていないだけです」(『週刊文春』2023年1月19日号「紅白歌手藤井風(25)が“伝道”するサイババの教え」より)と語っていますが、果たしてこの説明に納得する人がどれだけいるでしょうか?

アルバムタイトルが他人の言葉であったことを知ったファンは衝撃を受けました。そこだけを取っても「言う必要がないから言っていない」という説明は通用しないはずです。

藤井風自身の“どうしたら人の信仰や精神性に口出しできるのか”という反論も、サイババ信仰が作品に反映されていなかったら全くその通り。個人の自由です。

しかし、アルバムタイトルや歌詞で一言一句違わず具体的に引用している以上、その言い分は通りません。他者のメッセージであることを隠して自身のブランドイメージを確立するのはマナー違反だからです。

◆“藤井風の言葉”を信じたファンを失望させソングライターとしての信用を失った

それゆえに、筆者は宗教上の問題よりもミュージシャンとしての姿勢が厳しく問われるべきだと考えます。

先述したようにカバー動画を配信した部屋にサイババらしき写真を置き、「Grace」のMVをインドで撮影するなど、ほぼ答え合わせのようなことはしているのですから、サイババを信じることに後ろめたさは感じていないのだとうかがえます。

だとすれば、サイババにまつわるもろもろの問題を引き受けたうえで、それでも自分はそのメッセージを素晴らしいと思うからインスピレーションにしていると、最初から言ってしまったほうが潔(いさぎよ)かったのではないか。それを後回しにしたために“藤井風の言葉”を信じていたファンを失望させたことの代償はあまりにも大きかった。

つまり、彼はソングライターとしての信用を失ったのです。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】

音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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