「部屋のみる夢 ボナールからティルマンス、現代の作家まで」19世紀から現代に至るまでの、部屋にまつわる表現に特徴のある作家を取り上げ、この小さな世界のなかで織りなされる親密な記憶や夢想のありようを、あらためて見つめ直す

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パンデミック以降、 私たちの生活様式は大きく変化した。移動が制限された状況で誰もが多くの時間を過ごしたのが、「部屋」という空間。安心をもたらす室内での生活は、外の世界からの隔絶がゆえに閉塞感と隣り合わせのものだった。他方、閉じられた空間で紡がれた親しい人たちやかけがえのないものとの関係は、日常を生き抜くためだけではなく、変化の乏しい生活に彩りを添えるのに、欠かせないものであったと言えるだろう。本展覧会では、19世紀から現代に至るまでの、部屋にまつわる表現に特徴のある作家を取り上げ、この小さな世界のなかで織りなされる親密な記憶や夢想のありようを、あらためて見つめ直す。個性にあふれた作家たちによる多彩な室内の表現は、ステイホームの経験を通じて静かに変容した私たちの心のなかで、新たな像を結び始めるだろう。

みどころ1. 19 世紀から現代まで、あらためて見つめ直す「部屋」をめぐる表現19世紀から現代までの約50 点の作品を通じて、部屋にまつわる表現を紹介。古くから、閉じられた室内で起こる出来事や、窓から差し込む光などは芸術家たちの着想源となり、部屋はさまざまな作品に描かれてきた。近代化以降、社会的な地位や個人の趣味を反映した部屋の表現は、とりわけ絵画の重要なテーマとなり、数多くの室内画が制作された。コロナ禍でのステイホームを経て、部屋という空間への意識や日常における位置付けが変容しつつある今日の私たちの視点で、現代の息吹を伝えるアーティストたちが手掛ける作品とともに、部屋をめぐる多様な表現をあらためて見つめ直す。

2. 草間彌生、ヴォルフガング・ティルマンスの新収蔵作品を初公開現代を代表する作家である草間彌生、そしてヴォルフガング・ティルマンスの新収蔵作品を初公開。草間はこれまでにベッドをモティーフとした作品を2点制作しており、新収蔵作品はそのうちの1点にあたる貴重な作例。本来であれば心身を休める役割を持つベッドが、無数の突起物に覆われ変容している。また、写真の新たな表現を開拓し続けるティルマンスの作品を新たに収蔵した。フィルムで撮影された過去の作品から、デジタル撮影を経た近年の作品に至るまでの10点には、彼が日常生活を送るとともに制作に明け暮れる時間を過ごした室内が捉えられている。

3. ステイホーム以降の新たな感性を伝える、現代作家たちの作品を展示髙田安規子・政子は、身近な事物や風景を用いて、スケールや時間の感覚を揺るがす緻密なインスタレーションを手がけるアーティスト。本展では、室内と屋外をつなぐ窓や扉を取り上げ、ステイホーム以降更新されてきたパブリックとプライベートの境界のあり方を問いかける。昨年に初めて二人展を開催した佐藤翠と守山友一朗は、様式を異にしながらも、これまでにいずれも室内の表現に重きを置いてきた。コロナ禍の閉塞感により、庭をはじめとする自然への渇望を促されたふたりは、新作のなかで閉じられた部屋と開かれた自然との関係を再考する。

主な作品展示


ベルト・モリゾ 《テラスにて》1874年、東京富士美術館  (C) 東京富士美術館イメージアーカイブ DNPartcom

ベルト・モリゾ(1841-1895)モリゾは、近代生活の情景を素早い筆致で描き出して、高い評価を得た印象派の女性画家。娘のジュリーをはじめとする近しい人物たちの登場する室内の場面とともに、彼女が好んで取り上げたのが、ベランダやバルコニーといった空間だった。室内と屋外のあいだにあるこれらの場所では、家族や友人たちの織りなす親しみに溢れた情景を、外光の降り注ぐなかで描くことができたため。社会に参加する機会の限られていた時代に、大半の女性は室内、すなわち家庭で長い時間を過ごしていた。そうした当時の状況が映し出された、室内と屋外の境界を捉えたモリゾの作品は、現代の家庭や暮らしのあり方を見つめ直すうえで、示唆に富んだものと言えるだろう。


ヴィルヘルム・ハマスホイ 《陽光の中で読書する女性、ストランゲーゼ30番地》1899年、ポーラ美術館

ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864-1916)市民が台頭した19 世紀に活況を呈したのが、室内画というジャンル。親密な日常の場面が数多く描かれた時代において、デンマークの画家ハマスホイは一線を画す存在だった。ハマスホイの室内画はその静謐さがゆえに、オランダ絵画の黄金期を代表するフェルメールの絵画を彷彿とさせる。無人の室内の情景に美しさを見出していたハマスホイは、要素を削ぎ落し、静けさに満ちた独自の室内画を描き出した。そうした場面には妻や母が登場するものの、鑑賞者に背を向けていることが多いことから、彼女たちの心情を詳しくうかがい知ることができない。他方で、そうであるがゆえの沈黙が私たちの心を捉えて離さない。


ピエール・ボナール 《静物、開いた窓、トルーヴィル》 1934年頃、アサヒビール大山崎山荘美術館

ピエール・ボナール(1867-1947)世紀末のパリでナビ派の一員として活躍したボナールは、生涯にわたって、恋人や家族、友人などの身近な人々や、自宅の室内や食卓といった身の回りの対象をモティーフとし、その情景の記憶を描きとめた。伴侶であったマルトは一日に何度も入浴する習慣があり、画家は浴槽や化粧室で身づくろいをする彼女の姿をさまざまな構図や光のもとで描いている。そこには、閉じられた空間のなかで、きわめて近しい人物同士が過ごす親密な時間が流れている。ボナールはモデルがポーズをとることを好まず、マルトをはじめとする身近な人々が過ごす日常そのものを見つめた。


エドゥアール・ヴュイヤール 《書斎にて》1927-1928年、ヤマザキマザック美術館

エドゥアール・ヴュイヤール(1868-1940)1890 年代、ヴュイヤールはナビ派の画家として絵画や装飾パネルを制作する一方、メーテルランクら象徴主義の作家による演劇作品の舞台美術も手掛けており、絵画においても、自宅の室内の母や姉をモデルとして明暗の効果を用いて神秘的で暗示に満ちた空間を描いた。1900 年以降、より明るい色彩を取り入れたヴュイヤールは、数多くの肖像画を制作したが、そこでは人物だけでなく、彼らの日常を彩る周囲のモティーフや、彼らが過ごす部屋のありよう全体が活き活きと描き出されている。


アンリ・マティス 《窓辺の婦人》1935年、ポーラ美術館

アンリ・マティス(1869 -1954)1905 年に大胆な色使いと筆致により「フォーヴ」(野獣)と称されたマティスは、1921年以降、明るい日差しに惹かれ南仏ニースを拠点として活動し、晩年には病や戦争によるさまざまな制限を乗り越えながら制作を続けた。ときに窓を通して差し込む地中海の光や眺めを取り入れつつ、壁掛けや調度、モデルの衣装にまでこだわって演出した室内空間を描いている。マティスにとって部屋とは、モデルと相対する親密な場であり、またあらゆる要素を自由に操作し、絵画における色彩や空間の表現を探究することのできる制作の現場だった。


草間彌生 《ベッド、水玉強迫》2002年、ポーラ美術館 (C) YAYOI KUSAMA

草間彌生(1929-)幼少期から幻視や幻聴を体験し、網目模様や水玉が増殖する絵画を制作し始めた草間は、平面のみならずソフト・スカルプチュアと呼ばれる立体やインスタレーション、ハプニングなどジャンルを横断する展開を見せ、前衛芸術家として精力的に活動を続けている。ベッドをモティーフとした作品はこれまでに2点制作されており、《ベッド、水玉強迫》はそのうちの1点にあたる。白地に赤色の斑点がプリントされた布地で覆われたベッドの内側には、同じ模様の布製の突起物が増殖し、穏やかに心身を休めるはずの空間は、異様さを湛えた対極の存在へと変容している。


ヴォルフガング・ティルマンス《静物、ボーン・エステート》2002年、ポーラ美術館 (C)Wolfgang Tillmans, Courtesy Wako Works of Art

ヴォルフガング・ティルマンス(1968- )ドイツ出身の写真家であるティルマンスは、1990年代に『i-D』をはじめとする雑誌に掲載された自らを取り巻く日常を捉えた作品で脚光を浴びて以来、写真の新たな可能性に挑みながら第一線での活動を続けている。私的な世界を撮影した日記のような写真の舞台としてしばしば登場するのが、彼自身が拠点とした住居やアトリエ。日々の生活のなかで生み出された、ニューヨークやロンドン、そしてドイツの各地の室内を撮影した作品には、ティルマンスの日常に向ける親密なまなざしが反映されている。


髙田安規子・政子 《Relation of the parts to the whole 》2022年 撮影:長塚秀人 (C) Akiko & Masako Takada

髙田安規子・政子(1978- )髙田安規子・政子は一卵性双生児のアーティストユニットで、身近な物や日常風景のスケールを操作し、モノの大きさの尺度や時間感覚における人々の認識を問い直す作品を制作してきた。本展では、部屋を構成する普遍的な要素である窓や扉をモティーフとして、展示室の特徴を活かした新作のインスタレーションを展示する。ところどころ開かれた無数の窓、鍵を挿したままの扉は、閉鎖から開放へと段階的に向かっている現状を示唆し、その奥につながる世界について想像を掻き立てる。また室内と屋外をつなぐ窓や扉を取り上げ、ステイホーム以降変容してきたパブリックとプライベートの境界のあり方を問いかける。


佐藤翠《Floating Dahlias Closet Ⅲ》2022年、個人蔵 (C) Midori Sato, Courtesy of Tomio Koyama Gallery


守山友一朗《Tea time on a table》2020年、個人蔵 (C) Yuichiro Moriyama

佐藤翠(1984-) + 守山友一朗(1984-)佐藤翠は、色とりどりの洋服や靴が並ぶクローゼットや花々を、あざやかな色彩によって描いてきた。コロナ禍で佐藤にとって重要な存在となった、部屋から最も近い屋外としての庭は、クローゼットという部屋の内奥とつながり、自然の植物とドレス、室内と屋外、日常と想像が混じりあい、新たな展開を見せている。長年にわたってパリを拠点とした守山友一朗は、自らの心が惹かれた日常の場面や旅先の風景を観察して、その奥に潜むもうひとつの世界を描き出す。透明感のある薄い油彩の連なりによる眩いばかりの煌めきのなかに、愛着のあるモティーフや自然の織りなす思いがけない瞬間を描き留めている。昨年に初めて二人展を開催した作家たちが、本展において共作を含んだ新作の数々によってひとつの空間を構成する。

部屋のみる夢展 ボナールからティルマンス、現代の作家までInterior Visions : From Bonnard to Tillmans and Contemporary Artists会期: 2023年1月28日(土)― 7月2日(日)会期中無休会場: ポーラ美術館 展示室1、3主催: 公益財団法人ポーラ美術振興財団 ポーラ美術館出品作家 : ベルト・モリゾ、ヴィルヘルム・ハマスホイ、ピエール・ボナール、エドゥアール・ヴュイヤール、アンリ・マティス、草間彌生、ヴォルフガング・ティルマンス、髙田安規子・政子、佐藤翠+守山友一朗

関連プログラム詳細が決まり次第、展覧会ウェブサイトにてお知らせいたします。

展示会ウェブサイトhttps://www.polamuseum.or.jp/exhibition/20230128c01/

当記事はNeoLの提供記事です。

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