がん患者の腎臓を取り出して…「ドミノ移植」世界が認めた手術王/2人の天才外科医の死(2)

アサ芸プラス


 難病患者やがん患者の臓器を他の患者に移植する手術は、悪魔の所業などではない。愛媛県・宇和島徳洲会病院の万波誠医師を激しく糾弾した京都大学と名古屋大学でも当時、似たような研究をしていたくらいだ。病気の肝臓を他の患者に移植する「ドミノ移植」である。

医療ドラマ「ドクターX」でも取り上げられたが、健康な人の肝臓の一部を難病患者に移植、そして難病患者の肝臓を別の患者に移植する手術だ。将来的には死に至る難病患者の肝臓であっても、難病を発病するまでに20年から30年はかかるので、瀕死の肝不全患者を救う最終手段として、世界的に認められている。

一方、万波医師が摘出した腎臓も動脈瘤や良性腫瘍を除去し、腎不全で人工透析を受けている患者に緊急避難的に移植すれば、腎不全患者は人工透析を受け続けるより長い年月を生きることができる。肝移植と腎移植、患者を救うのに優劣はない。

つまり我々の税金、国からの研究費をガッポリ受け取って仰々しく行っている「臓器移植手術」を、四国の小さな病院でこともなげに成功させてしまうと、既得権益まみれの大学病院の教授たちは困るのだ。

万波医師はかつて、こう語っている。

「地方の病院でこんなに手術をしているのかと疑われることがありますが、東京や大阪に出られない地方にこそ、簡単な手術から移植までできる医師が必要」

万波医師のような志を持つ地方の医師たちを潰し、移植手術を困難にしてきたラスボスが移植外科学会なのだから、臓器移植を待つ難病患者に救いはない。

万波医師の窮地に、患者ら6万人が署名、超党派の国会議員の有志団も立ち上がり、09年から修復腎移植は再開。17年に厚労省は修復腎移植を「先端医療」と認めたが、万波医師はすでに喜寿目前だった。

移植学会のくだらない妬みと、「薬害エイズ事件」を機に萎縮した厚労省が、欧米で評価される先端医療の可能性と天才外科医の時間を奪った。

万波医師を糾弾し、地域医療での臓器移植の希望を潰した田中紘一・京都大学名誉教授は、安倍晋三内閣の「第4のアベノミクス」の目玉たる「医療特区構想」に乗っかり、15年に神戸国際フロンティアメディカルセンターの院長に就任。同病院で肝臓移植手術を受けた患者8人中4人が死亡する「事件」を起こした。

死亡した患者は、インドネシアの富豪たち。田中院長の病院になぜ、海外の富豪ばかりが集まっていたのか。患者死亡の謎も、肝臓の調達先も解明されぬまま、神戸国際フロンティアメディカルセンターは開院からわずか1年、16年3月に破産手続き開始決定を受けた。

万波医師は徳洲会宇和島病院を退職後、今年4月から岡山県笠岡市の笠岡市民病院に勤務。8月に受けた外科医の職業病である「脊柱管狭窄症」の術後、体調が急変した。

意識が朦朧とする中、娘さんを看護師と間違え「メス!」と声をかけると、渡されたボールペンをメスに見立て、病床でずっとメスを振るっていたという。

故郷の病院に転院後、「よし、行くで!自分と戦いに行く」と立ち上がったのが、最期の言葉。最期まで峻烈な外科医をまっとうした。

万波医師は生涯1800人の患者の命を救い、米国移植学会、欧州腎臓学会でも高い評価を受けている。腎移植を受けた患者達は20年以上経過しても、元気に過ごしている。腎がん患者から摘出した腎臓を移植された患者も、現時点では腎がんを発症していない。

(那須優子/医療ジャーナリスト)

当記事はアサ芸プラスの提供記事です。

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