大ヒット曲「夏色のナンシー」を当時の空気感とともに瞬間パックしたかのような早見優の『Dear』

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10月12日、デビュー40周年記念の3枚組豪華盤『Affection ~YU HAYAMI 40th Anniversary Collection~』のリリースも記憶に新しい早見優。今週は少しばかりタイミングが遅くなったが(ごめんなさい)、彼女の初期作品を紹介する。アイドルシンガーが最も華やかだった時期の1982年にデビュー。米国ハワイで育ったバイリンガルの特徴を活かし、いわゆる“花の82年組”の中で個性を発揮した彼女。初期作品も彼女ならではの魅力を感じさせるものである。

■17歳直前に発表したミニアルバム

早見優と言えば、やはり「夏色のナンシー」。これには異論はなかろうと、“早見優の名盤となると「夏色~」が収録されたオリジナルアルバムだろう”とまずは調べてみた。「夏色~」は1983年4月発売なので、その周辺のアルバムとなると、1983年5月リリースの3rd『LANAI』か、あるいは1983年11月リリースの4th『COLORFUL BOX』かそのいずれかに収録されていると思いきや、よくよく見てもどちらにもない。もしかして…と1984年3月の5th『RECESS』を見ても、そこにもない。同年11月、彼女の初めてのベストアルバム『you Best』に収録されているのは当然にしても、5thはともかくとして、3rd、4thに収録されなかったのは今も解せないところではある。ともに21世紀に入ってCDで再発された際にボーナストラックとして収録された…という有り様である。

それでは、「夏色~」はオリジナルアルバムにまったく収録されていないかというと──ミニアルバムに収録されておりました。1983年8月リリースの『Dear』がそれ。今さらながら察するに、たぶん「夏色~」のほうがイレギュラーな作品だったのだろう。3rd『LANAI』は「夏色~」以前にリリースが決定していて(というか、間違いなく全ての録音が終了していて)、「夏色~」がヒットしたからと言ってそこに収めることもできなかったのではないか。しかも、そうかといって、同年11月発売(おそらくそれも既定路線であったような気がする…)の4thまで待つというのはもったいない。そんな判断でミニアルバムを臨発したのではなかろうか(と考えるのが普通だと思うが、果たしてどうだったのだろう?)。『Dear』は「夏色の~」に加えて、そのB面だった「可愛いサマータイム」、「夏色の~」に次ぐ6thシングルだった「渚のライオン」とそのB面「赤いサンダル」、そして未発表曲3曲(そのうち1曲はインストというか何と言うか…)の全7曲収録。いかにも急ごしらえであったことは否めない。曲間に彼女のトークを挟んでいるのは、さすがにその辺を考慮した結果だろうか。

『Dear』が仮に急ごしらえだったからと言って、粗製だったかというと、決してそんなことはないと思う。ここから細かく解説していくけれど、結論から先に言えば、(推測するに)結果的には急ごしらえだったかもしれないけれど、急ごしらえだったからこそ、その瞬間にしか出せない早見優というアイドルシンガーの魅力が凝縮されたのではないか。そういう見方ができるように思っている。

本作がリリースされたのは彼女が17歳になる直前のこと。17歳と言えば、日本のアイドルソングでは森高千里のカバーでも知られる南沙織「17才」、ロックまで広げれば尾崎豊『十七歳の地図』と、古今東西、何かと象徴的に語られる年齢ではある。別に図ったわけでもなく、誕生日の直前にたまたまリリースされたと考えて間違いなさそうであるけれども(急ごしらえ説を唱えるのであればなおのこと)、作品を聴いたあとでは何か符合のようなものを感じるところではある。

デビューから1年ちょっと。アイドルとはいえ、エンタメ界で矢面に立つプロフェッショナルとしての覚悟は十二分に感じられる。しかしながら、完全に完成しているとは言い難く、エンターテイナーとしては円熟期には程遠い。そのスタンスは、未成年でありつつも、まったく子供ではないという、17歳という立場にも似たところがあったようにも思う。存在感の微妙なグラデーションというか、揺れる感じといったものが『Dear』から感じられるのである。ちなみに早見優のデビュー当時のキャッチコピーは「少しだけオトナなんだ」だったそうで、2nd『Image』(1982年11月)には「少しだけ オ・ト・ナ」なんて楽曲も収められている。微妙な感じは必然だったのかもしれない。

■筒美メロディー最高傑作のひとつ

早見優と言えば、やはり「夏色の~」と書いたが、『Dear』のオープニングを飾る同曲は、個人的には…と前置きすると、1980年代に筒美京平が書いた楽曲の中でも屈指の名曲ではないかと思う。俗に言う“花の82年組”に限らず、アイドル華やかなりし1980年代。筒美京平が当時の主だったヒット曲を相当数手掛けていることは言うまでもないが、少なくとも当時の女性アイドルソングの中で「夏色の~」は最上位にランクされるような気がしている。

まずサビのキャッチーさだ。いや、キャッチーというよりも、《Yes!》の箇所は、もはや“エグい”と言ってもいいほどにパンチが効いている。この年の『コカ・コーラ』のCMソングでもあって、15秒で視聴者に商品イメージを訴求する上で耳を惹く旋律は必然だったのだろう。ただ、そのパンチの効いた箇所だけでなく、「夏色の~」のサビは《Yes!》のリフレインのあとにも注目である。緩やかに滑らかに旋律が展開。前半の賑やかさからシームレスに知的さや清楚さが訪れるような印象がある。いわゆるサビ頭で、そこからA~B~サビとなっていくのだけれど、Aまでの間のコーラスパート(?)も聴き逃せない。しっかりと流麗なメロディーで、さわやかさを演出しているように思う。Aメロ前半は落ち着いた感じで始まりつつも、後半で高く昇っていく。そして、Bメロで再び流麗になったかと思いきや、その後半で歌はスタッカート的なポップで小刻みになって、再びキャッチーなサビへ…という構造だ。さすが筒美京平と言うべきか、どこを切っても余すところがない。キャッチー、メロディーアス、ポップと一曲の中で様々な面を見せている。

M1以外でのメロディーは…と言うと、M4「渚のライオン」は可愛いらしさの中にもスタンダードなポップスのマナーをしっかりと取り入れている印象。サビに重なるソウルフルなコーラスも面白い。M2「可愛いサマータイム」とM6「赤いサンダル」はともにB面とあって、M1やM4に比べると派手さを感じないかもしれないけれど、どちらもなかなかの秀曲である。M2は全体にリラックスしたまったりとした雰囲気が何ともいいし、M6はAメロ後半の広がりに筒美京平らしいメロディーメイクを感じるところだ。M3「You and Me」、M5「優のテーマ」、M7「真夏のボクサー」は、本作全ての編曲を手掛けた茂木由多加が作曲したナンバー。M3はハードロック調、M7はファンク調で、これも佳作と言える(M5は歌がないのでちょっと無視させてください…すみません)。想像するに、他の曲とのバランスを考えて、毛色が異なるタイプを提供したのだろう。それでも案外器用に歌いこなしている早見優のシンガーとしての幅も感じるところでもある。

■編曲、作詞も見事な仕事っぷり

茂木由多加の仕事に関して言えば、メロディーもさることながら、やはりアレンジに注目せざるを得ない。日本における最初期のプログレッシブロックバンドと言っていい四人囃子のメンバーだった人物である。M3、M7はお手の物ではあったろうし、それらを含めて随所随所でプログレっぽさというか、ニューウェイブっぽさというか、単なる伴奏に留まらないサウンドを聴くことができるのだ。とりわけ印象的なのはシンセの音色。この辺はキーボーディストらしさの発露だったかもしれない。最もインパクトの強い箇所はM1「夏色の~」のBメロからサビにかけて…だと思う(イントロから頭サビ…でもいい)。パッと聴き、無機質なデジタル音のリピートではあるものの、サビに向けて全体のテンションを上げていくのは明らかにあのシンセだ。ブリッジと言えばそうだが、キャッチーなサビへと繋がる最高のブリッジだと言える。

M1以外でも、茂木氏は巧みにシンセを操っている。南国風サウンドのM2「可愛いサマータイム」ではスチールパン的な音を出しているし、M6「赤いサンダル」で背後のアジアンな旋律をリードしているのもシンセだろう。シャッフルビートのM4「渚のライオン」は一聴してシンプルなバンドサウンドに思えるが、よくよく聴くとピコピコとシンセが入っている。アウトロでの爆発音は正直言ってよく分からないけれど、M4はそれを含めて、デジタルの入れ方に腐心した様子をうかがうことができると言える。

M3、M7もそうで、前述の通り、それぞれハードロック調、ファンク調ではあるのだが、これらも上手い具合にデジタルを取り込んでいるように思う。共にまさしくニューウェーブの匂いがするし、M3にはニューロマっぽさもある。楽曲のテイストが異なるバラエティ感もそうだし、明確にはジャンル分けできないサウンドの作り方と、デジタルの取り込み具合。本作から微妙な感じや揺れを感じる要因はこの辺にもあるのかもしれない。

さて、『Dear』で早見優の微妙さ、揺れをはっきりとそれを感じられるのは三浦徳子の描く歌詞の世界観であろう。シングルのタイトルからしてこんな感じである。

《恋かな Yes! 恋じゃない Yes!/愛かな Yes! 愛じゃない/風が吹くたび気分も揺れる そんな年頃ね》《あなたの後を ついてくだけの/女の子からは卒業したみたい/If you love me 夏色の恋人/If you love me 夏色のナンシー/去年とはくちびるが違ってる…》(M1「夏色のナンシー」)。

《YOU ARE THE LION! 素敵なあなた/YOU ARE THE LION! わがままさせて/昨夜のうちに来なさい/両手を組んで 抱いてよ》《YOU ARE THE LION! たて髪揺らす/YOU ARE THE LION! 真夏のヒーロー/昨夜のうちに来なさい/目を閉じて 見つめていて》(M4「渚のライオン」)。

M1ではモロに《気分も揺れる》と言っているし、《女の子からは卒業したみたい》とも言っている。M4は何だかシュールな内容で、何かをずばりと語っている感じではない。両B面もそうで──。

《Tell me........あなたの瞳の中の/不安なかげり/Tell me........黙りこくる夏の日の/白い午後に二人/またひとつミゾが/深くなる感じがする.....》(M2「可愛いサマータイム」)。

《乾いたシャツに腕を通せば/あなたとひとつかも/まばたきしてる間に大人になりそう……》(M6「赤いサンダル」)。

M2ははっきりとしたシチュエーションは描かれていないし(そこがいい)、M6ではやはり《大人になりそう……》と境界を意識させるセンテンスがある。加えて言えば、M7「真夏のボクサー」はどこかシュールだったりする。

《Summer night and day/いつも二人 リングの上で/戦うのが好きなの/Summer night and day/今日も二人 ささいなこと/けんかだわ…》(M7「真夏のボクサー」)。

些細なことで喧嘩する描写は珍しいものではないだろうが、リング上の戦いに重ねるのは稀だろう。斯様に歌詞のタイプはひとつではないものの、三浦氏がひとりで手掛けているからか、一本筋が通っていると言っていい。また、全体的には幻想的でもあって、これまたやや強引に結び付けるようではあるけれど、早見優のアイドル像を上手く構築するファクターになったのではないかと思う。

TEXT:帆苅智之

アルバム『Dear』

1983年発表作品

\n<収録曲>
1.夏色のナンシー
2.可愛いサマータイム
3.You and Me
4.渚のライオン
5.優のテーマ
6.赤いサンダル
7.真夏のボクサー

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当記事はOKMusicの提供記事です。

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