“2022年仕様”のレース機も飛行  室屋義秀エアレースチームのファンイベント


ファン感謝イベントでフライトする室屋選手のレース機

2017年のレッドブル・エアレース世界王者、室屋義秀選手のエアレースチーム「LEXUS PATHFINDER AIR RACING」が2022年11月5日、本拠地のふくしまスカイパークでファン感謝イベントを開催。800人のファンが集まる中、活動報告のトークセッションをはじめ、エアレース世界選手権に投入予定の“2022年仕様”レース機でのデモフライトなどが行われました。

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新型コロナウイルス禍のため、久々の開催となったファン感謝イベント「LEXUS PATHFINDER AIR RACING ファンミーティング」。会場となった福島県福島市のふくしまスカイパークには、800名の熱心なファンが集合しました。

室屋選手の前に集まったファン

滑走路脇には、エアレースのデモンストレーション飛行用に用意された、巨大なパイロンがそびえ立ちます。エアレース会場では遠くから眺めるだけですが、間近で大きさを感じるのもレアな機会です。

滑走路脇に立つエアレースデモ用のパイロン

イベントの柱は、エアレースや飛行機に関する技術を分かりやすく体感する「テックセッション」、室屋選手のトークが楽しめる「ステージ」、そして室屋選手がレース機やエアロバティック機で飛行する「フライト」の3つ。このほかにも、スポンサーであるLEXUSやブライトリングの展示スペースが設けられていました。

■ レース機の技術を知る「テックセッション」


 テックセッションでは、室屋選手とともにレース機開発を担当しているLEXUSの技術者が講師となり、使われている技術についてワークショップ形式で解説。空力面を学ぶ講座ではペーパークラフトの自動車を作り、簡易的な風洞を使って、どれだけ空気抵抗の少ないものを作れるか、というコンテストが行われました。

空力のテックセッション

ペーパークラフトの自動車で空力を知る

このコーナーにさりげなく置いてあったのが、室屋選手の「2022年仕様レース機」開発のために作られた、風洞試験モデル。小型のエアレース機で、風洞試験模型を作って開発を進めるのは非常に珍しいケースです。

風洞試験モデルの実物

冷却空気取り入れ口の変化

細部を見てみると、エンジン冷却用の空気取り入れ口がより小さく、そして形状が変化しました。それまでの円形ではなく、空気抵抗を減らすため上は少しつぶれ、下は大きめという、マルティン・ソンカ選手(チェコ)の機体に近い形状。排出用の開口部も少し大きくなり、冷却効率を高めているようです。

風洞試験モデルの形状

実機の形状

飛行機について学ぶ講座では、航空機用のアルミ合金を使い、室屋選手のレース機エッジ540V3をモデルにした飛行機作り。人体計測のセクションでは体圧を計測するセンサーが用意され、シートに座った際、どのような圧力分布になるかが一目で分かる展示も。

アルミ板のモデルプレーン

作っている様子

ここでは貴重な「室屋選手専用に作られた操縦桿グリップ」を触れられる状態で展示。実際に型取りされた原型や、製造用の型も展示され、どのように作られたのかが分かるようになっていました。

室屋選手専用のグリップと型取りした樹脂粘土

担当したLEXUSの技術者に話をうかがうと、わずかな違和感が瞬間的な反応の遅れにつながるため、開発段階での室屋選手は、非常に厳しい評価者だったといいます。最終的に完成したグリップは、冷える上空と暖かい地上でも感触が変わらない、特別な材質になっているのだとか。

製造に使われた型

室屋選手にグリップについてうかがうと、居合をやっている担当の技術者からアドバイスを受け、いかにブレずにリラックスして操縦桿が握れるか、ということを刀の握り方から知見を得て、これまでとは逆の小指・薬指をメインにした握り方に変更したとのこと。「完全にフィットして、非常に気持ちよく握れます」とのことでした。

室屋義秀選手

■ 室屋選手のトークが聞ける「ステージ」


 室屋選手のトークが聞けるステージでは、2022年の活動報告と、2023年の予定についてが語られました。

室屋選手のトークセッション

新型コロナウイルス禍による半導体不足などサプライチェーンの問題と、ロシアのウクライナ侵攻による世界経済の混乱のため、2022年の開催が断念された「エアレース世界選手権(ARWC)」。レース機の開発・熟成が進み「最初から勝てる機体に仕上がっていた」と、室屋選手は残念がっていました。

ファンを前に語る室屋選手

ウクライナをめぐる問題は今も続いており、状況は予断を許さない状態。室屋選手は「2023年の開幕に向けて準備を進める」としながらも、もし2023年の開催も難しい、という状態になった時に備えて「プランB」を考えていると明らかにしました。

まだ不確定な要素もあり、ステージ上で「プランB」すべてを明らかにすることはありませんでしたが、国内で「エアレースの火を消さないために」、レース機でのデモンストレーションなど、エアレースというモータースポーツの存在を引き続きアピールするプランがいくつかある、と話してくれました。

■ 迫力の「フライト」


 イベントでファンが一番心待ちにしていたであろうフライトプログラム。当初の予定では昼過ぎと午後の2回だったのですが、室屋選手からのサプライズで午前中にもフライトが行われ、計3回のフライトを楽しむことができました。

エアレース・デモフライトの説明

なかでも注目が集まったのは、レース機エッジ540V3を使った「エアレース・デモフライト」。滑走路脇に立てられたパイロンをスタート&ゴールゲートに見立て、フライトします。

パイロンを通過するレース機

残念ながら風が強まり、大きく揺れて飛行の安全が保てなくなるため、途中でパイロンは撤去されましたが、仮想のパイロンを頭に思い浮かべ、室屋選手はキレの良いフライトを見せます。レース機のフライトを間近でみる機会は非常にレアということもあり、ファンからの歓声はひときわ大きいものでした。

バーティカルターンを見せる

フライトプログラム最後となったのは、レース機同様のデザインをまとったエクストラ300SCによるエアショー。レースのデモフライトとはまた違う、ダンスを舞うような飛行は、ふたたびファンの目を釘付けにしていました。

エクストラでのエアロバティック飛行

機内からファンに手を振る室屋選手

デモフライトを終えた室屋選手は「朝一番、ゲートが開いた時点からたくさんの方が来てくださって、本当にありがたく、フライトでも気合が入りました。レース機の開発でも、分かりやすく体験してもらうことで、よりエアレースを深く知ってもらえたのではないかと思っています」と語っていました。

室屋選手に手を振るファン

ふラウトを終えファンに迎えられる室屋選手
 世界情勢がまだ見通せないこともあり、エアレース世界選手権の開催については決められない部分もありますが、室屋選手はいつでも戦える体制を維持しています。また、開催が難しくても国内でエアレースに関する活動も考えているとのことで、2023年の活動にも期待がふくらむイベントだったといえるでしょう。

取材協力:株式会社パスファインダー

(取材・撮影:咲村珠樹)

当記事はおたくま経済新聞の提供記事です。