輸入車の謎カテゴリ「オーストラリア車」の魅力とは

日刊SPA!

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

◆絶滅したオーストラリア車

クルマ好きの腕時計投資家、斉藤由貴生です。

20年ほど前から、世界は「グローバル化」が進んでいますが、その結果、世界中どこへ行っても同じようなクルマが走るようになったといえます。

クルマ好きからすると、そういった街の光景にはやや寂しさを感じてしまうわけですが、20年程前まで、各国では独自のクルマ作りが盛んだったことを考えると、やはりそういった気持は拭えません。

かつてのクルマには、日本車やアメ車、イタ車やフランス車といったように、各国の個性が強く反映されていたといえますが、実はそこには「オーストラリア車」というカテゴリーがあったのです。

しかし、そんなオーストラリア車は、現在ではすでに絶滅。かつて国産車作りが盛んだったオーストラリアは今や、その100%が輸入車となってしまっているのです。

ということで、今回はそんなオーストラリア車をご紹介。特に、黄金時代ともいえる90年代前半の車種を取り上げたいと思います。

◆オーストラリア車とは

オーストラリアでは、GMとフォードを中心に現地生産車が作られていましたが、日本からもトヨタや三菱などが現地工場を持っていました。

そして、それらオーストラリア車は、単に「オーストラリアで生産されたクルマ」というだけではなく、オーストラリア独自の開発車両。また、オーストラリア独自のブランドとして、GM傘下の「ホールデン」というブランドがありました。

オーストラリア車の中心は、このホールデンとフォード(フォード・オーストラリア)であるわけですが、90年代のオーストラリア国内では、フォードが優勢だったといえます。

というのも、現地で走っているタクシーの多くは、フォード。ホールデンはそれほど多く見かけなかったのです。タクシー以外でもフォードのほうが多く、全体的なオーストラリアを走るクルマへの印象は、オーストラリアでしか見かけない独特なフォードという印象でした。

◆LTD/フェアレーンギア

そんなフォードの中で、私が最も魅力的だと思うのが、90年代前半まで生産されていたLTDとフェアレーンギアです。

この「LTD」と「フェアレーン」、実はアメリカの本家フォードにも同じ名前のクルマがあるのですが、オーストラリア版は全くの別物。日本車(プレジデント等)とアメ車(リンカーン等)、両方の良さを持つLTDは、なんとも格好良く、中古車を並行輸入できるならば、日本で走らせたいと思う1台であります。

LTDとフェアレーンギアは、名前が違うものの、基本的には同じ車で、豪華な方がLTDとなります。

両者の違いは、グリルやホイールデザインの違い、また、内装の木目の違いなどであるのですが、コードネームもLTDが「DC」、フェアレーンギアが「NC」と分けられています。

オーストラリアで、この世代のフェアレーンギアを示す場合「NCフェアレーン」というと通じるかと思います。

このNC世代の両者、外装だけでなく、内装も独特で、特にメーターパネルと、ドアハンドル部分が印象的。

メーターパネルは、速度計だけがデジタルで、タコメーターがアナログという仕様。また、上部から見立てたクルマの全体像が描かれており、どのドアが「開いた状態」なのか、ひと目で分かり、給油口までも確認することができます。

ドアハンドル部分は、ドアポケット(ドアを閉める取っ手)とドアハンドルが一体になったようなデザインとなっているのですが、これはフェアレーンギアに限らず、当時の他の車種にも共通して採用されていました。

このような形状は、他国の自動車では見たことがなく、まさに当時のオーストラリア車らしさが感じられる部分だと思います。

◆日本と同じ右ハンドル仕様

オーストラリアは、日本と同じ右ハンドルでありますが、ウインカーレバーも「右側」と、日本と全く同じであります。右ハンドル車のウインカーは、ISO規格では「左側」となっているため、イギリス車は日本と同じ右ハンドルであっても、昔からウインカーレバーは左側。右ハンドルかつウインカーレバーも右側というのは、日本ぐらいと思いきや、オーストラリア車も同様だったというのが面白い点だといえます。

フェアレーンギアとLTDは、フォードにおける最上級車種だったわけで、ホテルの専属ハイヤーの定番車だったといえます。LTDのストレッチリムジンも存在しました。

また、そういったフォーマル用途だけでなく、キャピング用の車両を引っ張る金具をつけているクルマもよく走っており、ファミリーカーとしての需要もあったようです。

LTDとフェアレーンギアに搭載されるエンジンは、3.9L(後に4.0L)の直6、もしくは5.0リッターV8。全長5220mmのFセグメント車らしいエンジンラインナップとなっています。

なお、LTDの寸法は、全長5220mm、全幅1857、全高1414mm。車重は1672kgとなっていました。

◆ファルコン

ファルコンは、フォード・オーストラリアの中で最も安価な価格帯に位置するセダンといったポジション。90年代のオーストラリアでは、タクシーの多くがこのファルコンだったといえます。

内外装は、先程のフェアレーンと比べると明らかに質素なファルコンですが、意外なのは、搭載されるエンジンのラインナップがLTD/フェアレーンギアと全く同じという点です。

日本車でもヨーロッパ車でも、高級車と大衆車とでは搭載されるエンジンが違うというのが当たり前ですが、90年代当時のオーストラリア車はそうではなかったのです。

まったくもって「大衆車そのもの」といった見た目であるファルコンですが、搭載されるエンジンが、4.0L(前期は3.9L)直6か5.0LのV8というのが面白いといえます。

さらに、それはタクシーでも同様。ファルコン(EB)のフェンダー部分には、排気量を示すエンブレムがあったのですが、タクシーに乗る際「4.0」と書かれたエンブレムを見た私は、こんなタクシーでも4リッターなのか!と驚いた記憶があります。

また、先のフェアレーンギア等と同世代のファルコン(EB)は、オプションで5.0V8までもが選べるわけですが、内外装はV8エンジン搭載車とは思えないほど質素というのが面白いところであります。

◆フェアモント/フェアモントギア

このフェアモントは、フェアレーンとファルコンの中間といったポジションに位置する車種。「ギア」がつかない方のフェアモントは、ファルコンのような質素な内装である一方、フェアモントギアのほうは、メーターパネルがフェアレーン系と同じデジタル仕様となったり、リモコン付きのハンドルが与えられるなどしていました。

なお、この「ギア」というのは、当時のフォード・オーストラリアで「上級グレード」を示すのに積極的に使われていましたが、もとはというとイタリアの「カロッツェリアギア社」のことであります。

カロッツェリアギア社は、VWのカルマンギアや、フェラーリ250などを手掛けた名門コーチビルダーだったわけですが、1970年代にフォードに買収されてからは、フォードの上級グレードを示す名前として使われるようになっています。

70年代には、マスタングIIの上級グレードに「ギア」が存在したわけですが、90年代になると、アメリカのフォードではあまり見かけず、フォード・ヨーロッパで一部車両に見られるぐらいとなっていたといえます。

それに対して、フォード・オーストラリアは「ギア」グレードを後年まで最も積極的に採用していたわけですが、かつてのフェラーリやマスタングIIといったスポーツカーとは異なり、このフェアモントギアといった地味なセダンに「ギア」のエンブレムがつけられている姿は、なんとも意外性があってたまらないと思います。

◆オーストラリア国内でも希少車

フェアレーン/フェアモント/ファルコン、これら3車種が90年代オーストラリアを代表する名車だといえるわけですが、いずれもオーストラリアの中古車市場では数が少なく、すでに希少車となっている様子です。

フェアレーンとフェアモントは、2008年頃までに生産終了となった一方、ファルコンは2016年まで生産が続けられました。2017年には、ホールデンとトヨタもオーストラリアでの生産を終了し、その後ホールデンはブランドが消滅。オーストラリア車は、絶滅してしまったわけです。

普通のセダンであるがゆえに、世界的に知名度が全くないといっても過言でないこれらオーストラリア車。しかし、その独特の魅力は強く、特に90年代ごろまでの「非・グローバリゼーション」世代のフォードは、なんとも言えない魅力があると思います。<文/斉藤由貴生>

―[腕時計投資家・斉藤由貴生]―

【斉藤由貴生】

1986年生まれ。日本初の腕時計投資家として、「腕時計投資新聞」で執筆。母方の祖父はチャコット創業者、父は医者という裕福な家庭に生まれるが幼少期に両親が離婚。中学1年生の頃より、企業のホームページ作成業務を個人で請負い収入を得る。それを元手に高級腕時計を購入。その頃、買った値段より高く売る腕時計投資を考案し、時計の売買で資金を増やしていく。高校卒業後は就職、5年間の社会人経験を経てから筑波大学情報学群情報メディア創成学類に入学。お金を使わず贅沢する「ドケチ快適」のプロ。腕時計は買った値段より高く売却、ロールスロイスは実質10万円で購入。著書に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)と『もう新品は買うな!』がある

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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