角田鋼亮に聞く~センチュリー豊中名曲シリーズVol.23「夜、でしゃばる悲哀」で、日本センチュリー交響楽団を指揮

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大阪府豊中市にある日本センチュリー交響楽団と、本拠地の一つである豊中市立文化芸術センターの共同制作「センチュリー豊中名曲シリーズ」が面白いと、評判になっている。

6月に行われた「Vol.22」は、コロナ禍にもかかわらずチケットはほぼソールドアウト。10月に行われる「Vol.23」で指揮をする角田鋼亮も、このシリーズを評価する一人だ。

とても立体的に組み立てられた「センチュリー豊中名曲シリーズ」の魅力や、聴き所、楽しみ方などを、若きマエストロ 角田鋼亮(つのだこうすけ)に聞いた。
日本センチュリ―交響楽団の「センチュリー豊中名曲シリーズ」は大変魅力的です  (C)H.isojima
日本センチュリ―交響楽団の「センチュリー豊中名曲シリーズ」は大変魅力的です  (C)H.isojima

―― 日本センチュリ―交響楽団の「センチュリー豊中名曲シリーズVol.23」に出演されます。これまで何度か共演されていますが、楽団の印象をお聞かせください。

とても機動力のあるオーケストラです。チームワークが良く、共通の音楽語法がしっかり確立されている印象を受けます。この作曲家ならこういう風に演奏をしようというのが定まっているように思います。特にモーツァルトやメンデルスゾーン、シューマン、ブラームスといった初期ロマン派の作曲家はピッタリだと思います。響きに透明感があり、フランス物も合うイメージです。
日本センチュリー交響楽団は機動力があってチームワークの良いオーケストラです。   (C)Hikaru Hoshi
日本センチュリー交響楽団は機動力があってチームワークの良いオーケストラです。   (C)Hikaru Hoshi

―― これまで、共演の回数は多いと伺っています。

そうですね、共演の機会は多く頂いています。最初の接点はオーケストラ体感コンサート「タッチ・ジ・オーケストラ」でした。それから関西以外の地域での演奏会なども多くありました。どれも楽しい記憶が残っています。私が213月まで、5年間大阪フィルの指揮者のポジションに就いていたことも有り、大阪で行われる主催公演で指揮する機会はありませんでしたので、そういう意味では今回が初です。豊中市立文化芸術センターでの指揮も初めてです。
豊中名曲シリーズとは?
ザ・シンフォニーホールと並ぶ、日本センチュリー交響楽団のもう一つの本拠地、豊中市立文化芸術センターで、年に4回行われる「センチュリー豊中名曲シリーズ」。今シーズンは、「喜怒哀楽」4つの感情をテーマに物語を展開していく。ストーリーテラーとして、藤井颯太郎(劇作家・演出家・俳優・幻灯劇場代表)を選任。藤井は各回のタイトルを考案。各回の指揮者とオーケストラは、6月「忘れられた怒り」、10月「夜、でしゃばる悲哀」、12月「修復する“歓喜”」、3月「100年後の楽しみ」というタイトルから連想される曲目を決定。決まったプログラムの音源を藤井が聴き込み、曲想や背景から物語を執筆。その物語は公演前に、ホールの会報誌「アペリティフ」と、公演当日のパンフレットに掲載されている。公演当日には開演までの間、ホワイエの奥で2名の役者による「声の展示」と称して、朗読も行われるという。聴衆は音楽を聴く以外に、その物語を読んで、聴いて楽しむことが出来る。また各公演には関連企画も用意されていて、公演に先駆けて、本番の指揮者などを招いて各種イベントも行われるという。 豊中市立文化芸術センター 外観   写真提供:豊中市立文化芸術センター
豊中市立文化芸術センター 外観   写真提供:豊中市立文化芸術センター
豊中市立文化芸術センター 大ホール   写真提供:豊中市立文化芸術センター
豊中市立文化芸術センター 大ホール   写真提供:豊中市立文化芸術センター

―― 「センチュリー豊中名曲シリーズ」のこの取り組みは如何ですか。

とても面白いと思いました。私に与えられたテーマは「夜、でしゃばる悲哀」です。楽団から送られて来たプログラムの候補を参考に、様々に思いを巡らせました。夜は暗いイメージですが、そこについたでしゃばるという言葉を、色がでしゃばるという風に捉えて、暗さと明るい色彩感を併せ持つフランス音楽、とりわけドビュッシーを演奏したらどうかと考えました。そして、というキーワードを意識して、大好きなドビュッシーの『ノクチュルヌ』(夜想曲)の最初の2曲、「雲」と「祭」を演奏し、3曲目の「シレーヌ」に替える形で、ドビュッシーの交響詩『海』をはめて、全体を再構成できないかと思ったのです。
今回はフランス音楽を楽しんで頂きます    (C)H.isojima
今回はフランス音楽を楽しんで頂きます    (C)H.isojima

―― ちゃんと企画の意図を受け止めて、曲目選定をされたのですね。こういう提案って珍しいと思うのですが、どんな気持ちで選曲をされましたか?

とても珍しいと思いますよ。元々、プログラミングを色々考えるのは好きです。今回のように、音楽に加えて、他の要素を加えたテーマで、プログラム構成を考えるのは、楽しいです。このシリーズのチラシは、色や写真やデザイン、紙質に至るまで素敵だと思います。五感に訴えてくる感覚が新鮮です。元々、音楽と絵画や、音楽と文学といったコラボレーションは、特別な事ではありません。有名なところでは、ドビュッシー交響詩『海』のオーケストラスコアの表紙デザインは、葛飾北斎の『富嶽三十六景』の「神奈川沖浪裏」が使われていますし。ドイツに留学していた時、建築家が建築様式をレクチャーした後、ブルックナーを聴くといったコンサートもありました。元々、こういう捻った企画こそ、常任指揮者を務めるセントラル愛知交響楽団で企画したかったものでもありました。大阪で実現出来て嬉しいです。
音楽に加えて、他の要素を加えたテーマでプログラム構成を考えるのは楽しいです   (C)Hikaru Hoshi
音楽に加えて、他の要素を加えたテーマでプログラム構成を考えるのは楽しいです   (C)Hikaru Hoshi

―― 角田さんと云うと、ドイツ音楽のイメージが強く、フランス音楽というのがちょっとイメージできないのですが。

留学先もドイツですし、最近ではドイツの後期ロマン派の音楽を取り上げる機会が多いので、そんな印象が付いているのかもしれませんね。でも実際にはフランス音楽も大好きです。作曲の勉強もしていた高校生の頃には、ドビュッシーやラヴェルに傾倒していました。
フランス音楽は大好きです   (C)Hikaru Hoshi
フランス音楽は大好きです   (C)Hikaru Hoshi

―― 実際に交響詩『海』はこれまで指揮されていますか。

最近ではセントラル愛知響と「アジア オーケストラ ウィーク」で演奏しました。その前には「すみだ北斎美術館」のオープニング記念的な演奏会で、新日本フィルとも一楽章を演奏しました。それ以外にもドイツでも経験しましたが、オーケストラの持つ音色によって、全然違う印象になるのが興味深いです。これは学生の時に若杉弘先生がレッスンで仰られた事ですが、「ドビュッシーの作品は印象派の作品とよく言われるが、実際に演奏をする時に、印象派と思って取り組むと失敗する。緻密にはっきりと、一音一音に意味や意図を持たせないと、全体としての絵が描けず、作品の良さがお客様に伝わらない。」と。オーケストラがどういう発音やタッチの種類を持っているかでも違った演奏結果になると思います。
ドビュッシーの作品は、印象派と思って取り組むと失敗すると思います   (C)Hikaru Hoshi
ドビュッシーの作品は、印象派と思って取り組むと失敗すると思います   (C)Hikaru Hoshi

―― 同じくドビュッシーの「夜想曲」は如何ですか。

昔、クラウディオ・アバドが指揮をする、1998年のベルリン・フィルのヨーロッパコンサートの「夜想曲」の演奏映像を毎日見ていた時期がありました。その余韻が頭の中に残り、寝ようとしても第2曲『祭』が頭の中で鳴り響いていた事がありました。以前、アバドのドキュメンタリーを見ていると、彼が7歳の時にオーケストラの生演奏で「夜想曲」に出会い、その後、夢の中にその演奏が蘇ってきたというような体験談を話していました。尊敬する指揮者が同じ体験をしていたと知り嬉しくなりました(笑)。その後、芸大指揮科に入学し、師匠の佐藤功太郎先生から「勉強したい作品が有れば持って来なさい。」と言われたので、この「夜想曲」をレッスンしてもらえると思って準備していったところ、「初版と現行版の違いはどこ?」から始まって、そこから当分の間、楽曲分析に時間を費やされてしまい、なかなか振らせてもらえなかった事もありました。それから20年あまり。実際にオーケストラを指揮するのは今回が初めてで、ワクワクしています。

『夜想曲』は夢の中に出て来るほど、アバド指揮ベルリン・フィルの演奏を聴き込みました   (C)飯島隆
『夜想曲』は夢の中に出て来るほど、アバド指揮ベルリン・フィルの演奏を聴き込みました   (C)飯島隆

―― グラズノフのヴァイオリン協奏曲は、ソリスト周防亮介さんの希望だったのでしょうか。

周防さんに数曲ご提案を頂きました。その中から今回のテーマに合いそうな曲ということで、グラズノフを私が選びました。夜を感じさせる暗めの雰囲気から始まりますが、最後はおもちゃ箱をひっくり返したような楽しい曲で、色彩感豊かな曲です。私が感じたテーマの解釈にあいながらも、ドビュッシーとはまた違う雰囲気をお楽しみ頂けるのではと思います。
ヴァイオリニスト周防亮介   (C)TAKUMI JUN
ヴァイオリニスト周防亮介   (C)TAKUMI JUN

―― 今回ソロを弾かれる周防亮介さんとは共演されたことはありますか。

今回が初めてです。各地で共演なさるオーケストラのメンバーから、素晴らしいと評判を聞いており、共演が楽しみです。10月に共演をした後、来年3月に読売日本交響楽団でもブルッフのヴァイオリン協奏曲を共演することが決まっています。どういう音楽をされる方なのか、今回しっかり感じ取りたいと思います。
周防さんとの共演は今回が初めて。楽しみです   (C)Akira Muto
周防さんとの共演は今回が初めて。楽しみです   (C)Akira Muto

―― ロシアの作曲家、アレクサンドル・グラズノフは、あまり日本では馴染みのない作曲家です。

幸運にも私はこれまでかなりグラズノフの作品を指揮する機会がありました。バレエ音楽「ライモンダ」や「四季」、交響曲第5番、交響詩「ステンカ・ラージン」などです。どれも聴きやすい作品ですが、スコアを見ると主題の扱い方やその展開、オーケストレーションに拘って書いているのが分かります。スコアを読んでいて色々な発見のある面白い作品が多いですね。

―― ハナシをもう一度、今回の企画に戻しますが、藤井颯太郎さんが曲を聴いて書かれた「夜、でしゃばる悲哀」という物語、角田さんは読まれましたか?

はい、でもまだ2回しか読んでいません。リハーサルが始まるまでにはあと数回読み返して、自分なりに消化して、ここから得た情報を演奏に生かせればと思っています。こんな感じで演奏会に向かう感覚が、新鮮で素敵です。
テーマからプログラムが決まり、物語が誕生する。新鮮な感覚ですね   (C)H.isojima
テーマからプログラムが決まり、物語が誕生する。新鮮な感覚ですね   (C)H.isojima

―― そして、本日、豊中市立文化芸術センターに角田さんがお越しになっているのは、「センチュリー豊中名曲シリーズ」の関連企画、トークイベント「角田鋼亮レコメンド~私の1枚~」にご出演のためですね。

本番で演奏する3曲について、私のお勧めCDを紹介する企画となっています。演奏会を多角的に盛り上げている感じで、本当に素晴らしいですね。CDの一部を聴いて頂き、曲の聴き所や思い出、指揮者はこの時どのような事を考えているかという事をお話しします。このトークイベントの模様は、後日YouTubeでも公開されるようです。
トークイベント「角田鋼亮レコメンド~私の1枚~」から   写真提供:豊中市立文化芸術センター
トークイベント「角田鋼亮レコメンド~私の1枚~」から   写真提供:豊中市立文化芸術センター
トークイベント「角田鋼亮レコメンド~私の1枚~」から 音楽評論家 小味渕彦之氏と共に   写真提供:豊中市立文化芸術センター
トークイベント「角田鋼亮レコメンド~私の1枚~」から 音楽評論家 小味渕彦之氏と共に   写真提供:豊中市立文化芸術センター

―― それは楽しみです。こういったホール側からの提案は、指揮者としては如何ですか。

嬉しいですよ。ホールとオーケストラと指揮者が一緒になって作り上げる感じが新鮮ですし、音楽以外の要素が加わることがとても刺激的です。元々、色々なプログラムを考える事が好きなので、テーマを頂いて、それに即したプログラムを考える今回の作業は、とても楽しい時間でした。20代、30代の頃は、目先の曲を勉強することに追われると思いますが、少し余裕が出ると、コンサートの成立過程を楽しむような余裕も出て来ると思います。このシリーズで指揮される皆様は、それぞれに楽しんでおられるのではないでしょうか。最終回までずっと見届けたいですね。
ホールとオーケストラと指揮者が一緒になってコンサートを作り上げる感じが素敵です   (C)Hikaru Hoshi
ホールとオーケストラと指揮者が一緒になってコンサートを作り上げる感じが素敵です   (C)Hikaru Hoshi

―― この先、角田さんと日本センチュリー交響楽団の共演の予定などおありですか。

大晦日にカウントダウンコンサートと、元旦にニューイヤーコンサートを、ザ・シンフォニーホールで行います。22時開演で、レスピーギの交響詩『ローマの松』よりアッピア街道の松で華やかにカウントダウンを行います。どちらのコンサートもソプラノの砂川涼子さん、テノールの樋口達也さん、ピアニストの萩原麻未さんという豪華なソリストとも共演いたします。私たちと一緒に、年越しと元旦を過ごしましょう。
日本センチュリー交響楽団   (c)s.yamamoto
日本センチュリー交響楽団   (c)s.yamamoto

―― ありがとうございました。最後に「SPICE」読者にメッセージをお願いします。

記事をお読み頂き、私の活動を知って頂きまして誠にありがとうございます。今回の演奏会は、音楽を音楽だけで存在させないという意味で、私が理想とする形の一つです。皆様の感覚の色々なところに、何かひっかかるようなものが残せたらと思います。謎解きを楽しむように、能動的に演奏会に入り込んで頂いても良いと思いますし、受動的にリラックスして体感して頂き、演奏会前後のご自身の状態の変化を感じて頂くというのも良いと思います。色々な楽しみ方のできる空間だと思います。ご来場頂けましたら幸いです。

ぜひ、センチュリー豊中名曲シリーズVol.23「夜、でしゃばる悲哀」にお越しください  (C)H.isojima
ぜひ、センチュリー豊中名曲シリーズVol.23「夜、でしゃばる悲哀」にお越しください  (C)H.isojima

取材・文:磯島浩彰

当記事はSPICEの提供記事です。