ほりぶん新作『一度しか』鎌田順也・川上友里・墨井鯨子インタビュー~「VHSで観た80年代洋画が自分の原点」

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演劇ユニットのほりぶんが、2022年9月29日(木)~10月10日(月・祝)に三鷹市芸術文化センター星のホールにて『一度しか』を上演する。今後の飛躍が期待される劇団を劇場がピックアップする企画「MITAKA “Next” Selection 23rd」としての公演であり、劇団としては第10回目の公演となる。

ほりぶんは今年2月、又吉直樹、きたろう、猫背椿らを客演に迎え、紀伊國屋ホールで『かたとき』を上演。これまでの公演に比べ断然席数の多い劇場だったが、ほりぶんの魅力と言える大声や熱量の高い演技はそのままに、劇場のサイズを活かした演出も加わる素晴らしい公演だった。

今回も前回ほどではないにせよ(通常よりは)大きな劇場であり、となると「いつものほりぶん」だけではない要素があるのだろうか。公演チラシには「作者の鎌田順也が長年住んでいる東京都北区堀船を舞台にした不思議な物語を作る予定」とあり、ここまでは「いつものほりぶん」だが文章はこう続く。

「普段、出演者による熱量のある演技、大声を多用することが常でしたが、今回は静かな演技、発声も取り入れる予定です」

この一文を読み「ほりぶんが静かな演技?」と思った筆者は稽古場に赴き、ユニットの立ち上げメンバーである作・演出の鎌田順也、川上友里、そして産休育休からの3年ぶりの復帰となる墨井鯨子に今回の作品について聞いた。

■Twitterで育児と演劇を両立するためのアドバイス募集


——墨井さんは『飛鳥山』(2019年)以来3年ぶりの復帰なので、久しぶりにオリジナルメンバーの3人が揃いましたね。

川上 いやぁ、うれしいですよ本当に。

——お子さんが生まれてから演劇を続けるかどうか悩まれていたそうですが。

墨井 子どもができてしばらくはとにかく疲れていて。離乳食が始まったくらいから帯状疱疹も出るし、もう演劇がどうこう以前の問題で……。こんな状態だと、夜に稽古して電車で帰って、なんて考えられなかったですね。でも『これしき』(2021年)を観たときに、やっぱりあの世界の中に入りたいと思って。
稽古中の墨井鯨子
稽古中の墨井鯨子

川上 『かたとき』(2022年)のときは受付を手伝ってもらってね。

墨井 そう、そのときにみんなと話していたら、やっぱりもう一回やってみたい気持ちに傾いていって。それでTwitterに「子育てと仕事を両立しつつ、演劇の稽古と本番を行えるやり方を探しております」って書いたらいろんな方が連絡をくれて、何人かの方には直接お会いもして、そうこうしているうちに覚悟が固まっていった感じですね。でも、ほりぶんだからできるんだと思います。稽古を夜から昼にしてもらったり色々助けてもらってます。

鎌田 子どもを育てるのがどれだけ大変かわからないから、困ったらすぐ言ってほしいし余計なことは気にしないでほしいって思ってますけど。

墨井 いやぁ、でもいざ稽古が始まってみると3年ぶりとか関係なく、やっぱりみんなより全然うまくできないなって……。

鎌田 できることをね、やればいいんですよ。みんなそれぞれ、できることが違うから。自分ができることをね、やればいいんじゃないかと思ってます。

——おやさしいですね。

■テレビを録画したVHSを自宅に500本所有


——ところで今回の『一度しか』、公演チラシには「今回は静かな演技、発声も取り入れる」とありましたが、静かなほりぶんが想像できなくて……。

鎌田 それ、ちょっと誤解させてるかもしれないです。今回は全部で12ステなのでいつもより少し多いし、尺も普段は60~75分だけど今回は90分弱の予定です。だからいつもの感じで作ったらみんな持たないなと思って、負担を減らすために静かな場面も作るって意味で書いたんです。でもああやって書くと「静かな芝居をやりたい」って伝わるから、わざわざ書くことじゃなかったなって。

川上 みんなそんなに気にしてないんじゃない?

——私はまんまと「次のほりぶんは静かなのか!」と間に受けた口でした……! ところで、今回の三鷹市芸術文化センター星のホールも、紀伊國屋ホールほどではないにせよ通常のほりぶんの公演に比べると大きな劇場です。

鎌田 ああ、でも僕はこじんまりと使いたいです。これまで星のホールで観た中でいちばんおもしろかったのは、ポツドールの『人間❤︎失格』(2007年)で、アパートの一室のセットが真ん中にあって、あとは全部余白なんです。それくらいこじんまりとやりたい。気分的には、ムーブ町屋ハイビジョンルームくらい(客席数50席。星のホールは通常250席)の感じで。
稽古中の墨井鯨子(左)と川上友里(右)
稽古中の墨井鯨子(左)と川上友里(右)

——これも公演チラシ情報ですが、「演劇よりも先にVHSで見た洋画が自分の原体験なので、その感触を思い出しながら」作りたいと書かれています。

鎌田 なんでそう書いたかと言うと、公演のたびに「落語の影響がある」ってブログに書いている人がいて。

川上 これまでの鎌田くんの舞台を観て?

鎌田 そう。落語の方が文化レベル的に高い感じがするけど、僕がいちばん影響を受けてるのは洋画なので、それを思い出して告知文に書きました。今回も元ネタになってる洋画がいくつかあります。

——教えてもらえますか?

鎌田 まず『エンティティー 霊体』(1981年)で、これは幽霊に襲われ続ける女性のお話です。

次が幽霊の女の子の幻視を手がかりに事件の犯人を探す『汚れなき瞳の中に』(1988年)。これは『シックス・センス』の元ネタみたいなホラー映画です。

最後が、『マキシー 素敵な幽霊』(1985年)というコメディです。

——すべて幽霊が出てくる80年代の洋画ですね。

鎌田 僕が小中学生の頃、テレビでよくそういう洋画をやってたんですよね。中高生になると近所のレンタルビデオ店7軒とかで会員証を作って、80年代の洋画を借りてました。

——7軒の会員証!

鎌田 2010年が過ぎたころ、みんな閉店してなくなりましたけど。今も家にレンタルビデオ店をイメージして作った洋画のVHSの棚があります。

墨井 どうやって集めたの?

鎌田 いっときバイトしてたレンタルビデオ店が閉店するときに買い取ったものとか、レンタル落ちで安く売ってたものを並べてます。
鎌田順也提供の自宅VHS棚写真
鎌田順也提供の自宅VHS棚写真
鎌田順也提供の自宅VHS棚写真
鎌田順也提供の自宅VHS棚写真

鎌田 あとテレビを録画したVHSが500本くらいあって、そっちは年内に捨てる決心をしました。

川上 えーっ、何を録画してたの?

鎌田 ドラマの『フルハウス』とか、当時のバラエティとか。

墨井 なんで捨てちゃうの?

鎌田 20年以上母親に捨てろと言われ続けて。あと、あっても見ないし。

——鎌田さんのVHS愛に驚きました。本番を観ながらVHSの要素を探そうと思います。

鎌田 まずはちゃんと全部(上演)できればいいなって、ほんと思ってますけど。

川上 コロナで中止になることが多すぎて、もう恐怖症みたいな感じになってますね。

鎌田 (相次ぐ中止に)くたびれました。

——無事開幕して、すべて上演できるよう祈っております……!
鎌田順也(左)、墨井鯨子(中央)、川上友里(左)
鎌田順也(左)、墨井鯨子(中央)、川上友里(左)

取材・文・撮影=碇雪恵

当記事はSPICEの提供記事です。