ジェンダード・イノベーションが、私たちの生活にもたらすこと

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ここ数年、SDGsの認知度が急激に高まり、ニュースや新聞でも頻繁に取り上げられるようになった。同時に、特にジェンダー平等への関心から、女性をエンパワーメントする流れが一気に盛り上がっている。そして、海外で先行していたフェムテック(Femtech)という言葉が国内に入ってきたことで、女性の生きづらさをオープンにしよう、自分らしく生きようなど、女性のエンパワーメントの流れがより広まっており、さまざまなサービスやアイテムがフェムテックの枠で語られ、注目されるようになっている。

■フェムテックの先にある新市場


 株式会社矢野経済研究所が2021年10月に発表した、フェムケア&フェムテック(消費財・サービス)市場に関する調査では、2021年のフェムケア&フェムテック市場規模は、635億8400万円(前年比106.5%)になるものと見込んでいる。2019年から2020年にかけては、吸水ショーツなど生理系アイテムやサービス分野の市場の伸びをけん引し、ジーユーやユニクロ、ピーチ・ジョン、3COINS、イオンなど大手ブランドが2021年以降も参入。また、今後は更年期ケアやセクシャルウェルネスなど、これまではタブー視されていた女性特有の悩みや健康課題が顕在化すると考えられ、デリケートゾーンケアアイテムやオンライン相談サービスなど、ここに着目したアイテム・サービスに注目が集まる兆しが見えつつある。

しかし、フェムテック=「女性だけが持つ臓器や女性特有のライフステージや病気に着目したソリューション」というイメージで認知されているが、このフェムテックの盛り上がりをきっかけに、もっと広い視野でフェムテックを捉え、多様な視点で性差分析に取り組む動きに注目が集まっている。それが「ジェンダード・イノベーション」である。

■ジェンダードイノベーションとは


 「ジェンダード・イノベーション」とは、科学や技術、政策に性差分析を取り込むことにより、新たな視点や方向性を見いだし、イノベーションを創出する技術革新を指す。性差というと、生理・妊娠・出産・更年期・女性特有がんなど、女性にのみ発生するものを思い浮かべがちだが、男女ともに発症する疾患における性差や薬の効き方にも性差があるにも関わらず、これまでさまざまな研究において、この「性差」が認識されることはほとんどなかった。そもそも圧倒的に多い男性の研究者たちにより、無意識のうちに同性である男性のみを基準としてさまざまな研究開発が行われてきているのである。

例えば、自動車のシートベルトの衝突実験では、男性のみの人形が使用されていたことにより、当初は女性が重傷を負う確率や胎児の死亡率が高かった。医薬品の安全性を確かめる動物実験や臨床試験では、月経や妊娠などの体調リスクを避けるためオス/男性が被験者となるケースが多く、実は女性にとって健康上のリスクが高い薬が存在したり、成人男性に対する適切な用量が成人女性には適合しないことがあることが判明している。逆に、骨粗しょう症は女性特有の疾患という思い込みがあるが、 男性が発症する年齢が10歳程度遅いだけで、75歳以上の骨粗しょう症による股関節骨折の1/3は男性、骨折後の死亡率は男性のほうが高いことが判明し、 これまで骨折予防の臨床実験は男性は対象外だったが、見直す方向へと進められている。

新型コロナウイルス感染症も例外ではない。新型コロナウイルス禍では、男性のほうが重症化率や死亡率が高く、ワクチンの副反応は女性のほうが出やすいことが各国で報告されている。これは、もともと女性のほうが病原体に対する免疫反応が強く、男性は重症化の原因になる肥満や糖尿病などの持病、喫煙等の悪化要因が多いためと考えられている。半面、女性は免疫反応が強いゆえに、新型コロナのワクチン接種によって体内に作られる抗体量が男性より多い傾向にあり、副反応も出やすいことが分かっている。

このように、これまで成人男性を基準としていたものに、性差の観点を導入してよりよい研究開発を進めていこうという考え方が「ジェンダード・イノベーション」であり、すでに、海外のフェムテック市場は、生殖系(女性だけの健康課題)から性差分析へ移っている。それらの生み出す知見や技術、サービスが広がることで、ジェンダーに関する意識が高まり、真のジェンダー平等の促進にもつながることが期待されている。

■ジェンダードイノベーションが社会を変えていく


 また、こうしたジェンダード・イノベーション発想は、命に直結しやすい医療・ヘルスケア領域では特に重要とされているものの、全産業で必要とされる概念である。もっともっと身近な例では、ランニングシューズは男性の足型で作られることが一般的だが、男女の足型の差に着目して女性に特化したランニングシューズを開発したところ、フィット感がアップし、パフォーマンスが上がったという報告もある。料理をする男性の増加によりキッチンの高さのバリエーションが増えたのもジェンダード・イノベーション発想によるものである。シミケアや尿漏れパッドなど、これまで女性向け商品を展開してきたブランドでは、男性向けにサイズや機能を整えた商品を展開するケースが目立つようになってきた。ジェンダード・イノベーション発想によって、女性・男性それぞれに適したソリューションの開発が進んでいるのである。

このように、ジェンダード・イノベーションには、社会を変え、わたしたちの暮らしがより快適で、便利で、心地よくなる可能性を大いに秘めている。企業にとっては、他社との差別化、新しい切り口からのPRが可能になるなど、大きな事業機会の創出にもつながるため、今後各産業界で急速に広まっていく概念・キーワードであるといえる。

■清水 由起
株式会社矢野経済研究所ブランディング&イノベーションサービスグループ部長、主席研究員
ジュエリー、アパレル、ギフト分野を中心にファッション関連の消費財分野、複合商業施設などのマーケティングを担当。海外ブランドの出店戦略調査や特定施設の集客力調査、国内ブランドの中国市場進出サポートなどの実績を多数持つ。2021年から「フェムケア&フェムテックマーケット2021(消費財・サービス)」を統括。

■ジェンダードイノベーション セミナーのご案内


・テーマ

矢野経済研究所のフェムテック研究員と語る、女性ヘルスケア業界の新スタンダード「ジェンダード・イノベーション」

・日時

2022年9月13日(火)13:00~14:10

・開催場所

現地会場(東京都江東区青海2-5-10テレコムセンタービル東棟14F/ゆりかもめ線、駅直結)またはZOOM

・参加費

無料

※プログラムの詳細や参加申込はこちらから
https://www.yano.co.jp/announce/792

当記事はOVOの提供記事です。