彼はなぜ人の頭に花を生け始めたのか?5万人を発芽させた「花人間」作者の野望

女子SPA!

 国籍・人種を問わず、人間の頭に花を飾る「花人間(HANANINGEN)」。このプロジェクトを主宰する清野光(Hikaru Seino)は、スペインでアントニ・ガウディの世界遺産作品群とのコラボレーションショーを行うなど、世界で注目されているフラワーアーティストの一人だ。彼はなぜ人の頭に花を生け始めたのか。花に込めた思いを語ってもらった。

◆人間と花には相性がある

──今回、花人間のモデルとなった男性は、完成したご自身の姿を見て「教会で賛美歌を熱唱したくなる」。一方の女性のモデルは、清野さんに生花を挿されている最中、「透明なクリスタルガラスの花瓶になったような気分」と仰っていました。

清野:嬉しいですね。四季折々の旬な花を使いますが、人間と花には相性があります。まずは、人柄、雰囲気、職業などから、モデルの個性が引き立つ花を選びます。主役の花を決めたら、それよりも個性が弱い草花をちりばめながら立体感を生み出していきます。この制作過程で特に大切なのは、頭の中で“アリエッティ”になることです。

──借りぐらしのですか?

清野:はい。アリエッティとしてモデルの頭の上に立ち、自分の五感が刺激されて心躍るような“小さな森”を表現していきます。ただ同時に、手に取った花を眺めるたびに、「俺、何やっているんだろうな」という戸惑いがあるのも事実です。

◆人の手で生けたものは、自然の美しさに勝てない

──戸惑いとは、創作過程で生じる迷いに近い感情ですか?

清野:葛藤ですかね。僕は「オリジナルは原点」という言葉を好んで使いますが、万物の根源的、かつ絶対的な美しさは、地球から誕生してきた時の自然な姿に内包されていて人間の脳にデータとして共有されています。だから僕が、いくら息を呑むような小さな自然界を頭上に造形しても、道端に咲く一輪の花や、農家さんが育てた花の美しさには負けてしまうんです。

──勝てないのに、花を生け続けているのはなぜでしょうか。

清野:忙(せわ)しない世の中に振り回されていると、当たり前に在る自然の美しさに気づかず、感謝もできません。僕にとって「花人間」は、作品ではなく手段。自然に関心を持ってもらうための“入り口”です。美しい花を芽吹かせているかのような姿になって、多幸感に包まれてもらう。身近な花の美しさや力を直に感じれば、おのずと自然を愛でようとする感情が湧き、結果として生活が彩られていく。僕は自分をアーティストというよりは、植物が持つ神秘的な力を伝える“メッセンジャー”だと捉えています。

◆木に話しかける老人との出会い

──かつては、モヒカン頭でスタッズの革ジャンを着たパンクロッカーで、自然とは無縁な生活だったと聞いています。

清野:チェ・ゲバラなどの革命家に憧れていました(笑)。でも、音楽で不都合な社会を訴えても、誰も笑顔にならない。自分の心が追いつかず、そのまま引きこもりに。部屋で電信柱を作る生活を1年ほど送っていました。コンクリートを捏ね回しながら、最初は直接手で固めようとして手の皮が剝がれ、2回目は筒型に流し込んでと……。

──えっ! ある意味アグレッシブな引きこもりですね(笑)。

清野:ふと、「感謝せずに電信柱の恩恵を受けるのはおかしい」と思ってしまったんです。ヤバいですよね(笑)。で、人生を迷走している最中に東日本大震災が起きた。23歳のころです。連日、被害の甚大さが報道される一方で、「自然はなぜ猛威を振るうのか」など、“自然そのものを語らない”ことに違和感を覚えました。それで、自然や地球に関して独学で勉強し始めたら「自然を愛でない限り、人間の未来は危ういのではないか」との危機感が芽生えたんです。

──震災の年には、単身カナダに渡っていますよね。

清野:震災から数週間たったころかな。朝方に公園を散歩していたら、一本の木に「大きいなって」と話しかけている白髪交じりの老人を見かけたんです。最初は「頭、ヤバ!」とバカにしていたんですが、次第に「社会的に成功するより、自然に対して純粋に感動できる人生のほうが幸せなんじゃないか」という感情が湧き上がってきました。自然との共生の大切を伝えたい。「大自然」というイメージを頼りに全財産の数万円を握りしめてカナダへ飛び立ちました。

──カナダでは、ファッションショーのプロデューサーのアシスタントを務めていたとか。

清野:はい。渓谷で有名なリンキャニオンという街の路上で太鼓を叩いていたら、女性から声をかけられたんです。「寝る場所は階段の下で家賃はタダ。代わりにプロデューサーの仕事を手伝う」という条件つきでしたが、その日暮らしだったので、二つ返事で引き受けました。彼女はショーの空間づくりで装花を活用することが多く、次第に「身近にある花なら人間と自然の関係を深める場を提供できる」と思い、花屋でも働き始めました。ダブルワークです。1年ほど経験を積んで帰国。地元の札幌に花屋を開業しました。

◆誰と争うことなく、花の美しさと力を静かに伝え続けたい

──これまで世界中で5万人以上の一般人が、「花人間」として“発芽”の体験をしています。

清野:花の名前を一つでも覚えてもらいたくて、’14年から始めた「HANANINGEN(花人間)」プロジェクトをきっかけに、活動の幅が広がりました。昨年3月には横浜ガーデンネックレスで、廃棄予定の花“ロスフラワー”を使ってフラワーアトリウムを展示したりもしています。

──‘27年には横浜市で国際園芸博覧会が開催されますね。

清野:日本の美しい草花を世界に発信できる機会なので、サスティナブルを意識しつつ、多くの人の目を奪う作品を制作したいですね。また、これまでは多くの人を惹きつけるために、知識を総動員して時代に求められているデザインやセンスを優先して作品をつくってきました。意外と自我を殺してきたので、これからは革命家のように“パッション”を出発点に、芸術に不可欠なメッセージ性の強い作品も打ち出していきたいです。

◆花を贈る人が一人でも増えたら、きっと社会は平和に近づくと思う

──「世界一花を愛せる国を作る」という理念を掲げています。

清野:世界各国を訪れて気づいたのは、花を贈る量と心の幸福さには関係があって、幸福度の高い国は、花を愛でて大切な人に花を贈る人も多いということ。対照的に日本は、プレゼントする習慣もほとんど見られません。花を贈ることが、花を愛せる国、ひいては平和な社会をつくる第一歩。僕の造形物との出合いをきっかけに、「団子より花」と、帰宅途中に大切な人のために花を買う。そんな中年男性が一人でも増えたら嬉しいです。

【Hikaru Seino】

’87年、北海道生まれ。花と人の関係づくりで始めた「HANANINGEN」は世界を巻き込み、これまで5万人以上の一般人が発芽を体験。「世界一花を愛する国を作る」をスローガンに掲げる花屋「GANON FLORIST」は、日本だけでなくバンコクなど含め10店舗以上展開

<取材・文/谷口伸仁 撮影/尾藤能暢 モデル/チャンス大城 椚ありさ>

当記事は女子SPA!の提供記事です。

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