「演劇の持つ強さを伝えられる広がりのある1作に」~ムビ×ステ 舞台『漆黒天 -始の語り-』荒木宏文&梅津瑞樹インタビュー

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“映画と演劇の挑戦的な融合”というスタイルで作品を世に送り出しているムビ×ステシリーズ第3弾、舞台『漆黒天 -始の語り-』。先に公開された映画『漆黒天 -終の語り-』で描かれた物語の前日譚となる本作について、本格的な舞台共演はこれが初という荒木宏文梅津瑞樹がその面白さを語ってくれた。すでに動き出した稽古場から得ている手応え、台本に潜む様々な可能性、さらに深まっていくであろう互いの関係──期待は満載だ。

ーーまずは映画と舞台の連動というスタイル、その面白さや特徴についてどう捉えていますか?

荒木:特徴は……客層が違う(笑)。

梅津:(笑)。

荒木:映画が好きな人と舞台が好きな人って、同じエンタメ好きでもやっぱりよりどちらか一方をすごく好きで楽しんでいるような気がするんですよね。そういう人たちにとってこの作品がそれぞれにあまり興味を持っていないほうのエンタメに興味を持ってもらえるきっかけになるのだったらすごくやる意味があるよな、そこが魅力だな、と思います。どちらか一方だけでも作品として成立するのは本当にもう大前提で、さらに「隙あらば」と。どちらにせよ「新たなエンタメに触れてもらえるチャンスを僕らが広げられたら」ってところを大切にしながらお届けしていきたいと思っています。
荒木宏文
荒木宏文

梅津:ムビステはこれまでも映画が先で舞台が後という順序でやっていて、今回も舞台がどうなるかまだわからない状態で映画を撮影していたところもあり……なので、僕も含め映画も舞台も出演する俳優陣は役作りにどう一貫性を持たせていくかってところは、今の一番の課題になっているんじゃないでしょうか。

ーー梅津さん、映画ではチラリと登場されて……。

梅津:出て5秒くらいで殺されてしまいました。知らない方は「コイツ、なんだったんだ!?」って思われたかと(笑)。また、「梅津出るんだ」って思って観てくださった方は違う意味でびっくりしたでしょうね。

荒木:そうだね(笑)。

梅津:僕も映画を1本観たりアニメをワンクール観て「もう終わっちゃった」ってちょっと寂しくなることがあるけれど、システムとしてのムビステの楽しさは「もうちょっとこの世界に浸っていたいな」に応えられるところだと思っています。映画を観て、舞台もあって、長らくその世界に居られるのは観る側としてとても楽しい体験ですからね。ムビステシリーズの『死神遣いの事件帖』は舞台の2作目も上演されましたし。ああいう感じで世界観が広がり続けていく可能性のある作品創りは面白いな、と思っています。

ーー追加供給のある喜び、ですね。お二人は本作が初共演になるかと思いますが、これまでに俳優同士としての接点や交流などはあったのでしょうか?

梅津:『大演練』ですね。

荒木:『大演練』ですか!?

ーー2020年に予定されていた舞台『刀剣乱舞』とミュージカル『刀剣乱舞』の合同公演が、時勢から中止に。代わりに行われたのが出演者総出の配信、リモートトークによる『刀剣乱舞 大演練~控えの間~』でした。

梅津:あの時はこちらが一方的に拝見していたと言ったほうが近いかもなんですが(笑)、あそこで荒木さんのトークをされてた姿勢というか、“みんなのことを思っての忖度しない発言”っていうのがやはりとても印象に残っていまして。
梅津瑞樹
梅津瑞樹

荒木:そっか、あれが初対面なら……そうだよね、なんか印象に残っちゃってるんだね(笑)。いや、あの時はここで何を話すべきかっていろいろ思いながらやってたんだけど、本来は東京ドームでみんなが集まるっていうその前にああいう時間を持てたのって、終わってみれば逆に良かったのかなって個人的には感じていて。初めましてでも言いたいことをどんどん言おうよってことは伝えたかったですし。

梅津:はい。なのでそのイメージがあって、次にお会いしたのがこの現場だったので少し厳しい方なのかなと思っていたら……実際はとても優しくて柔らかい方でした。今日も取材前に殺陣稽古をやってきたんですけど、なかなか複雑な手で僕が何度も失敗している様子をにこやかに見守っていただきました(笑)。

荒木:僕の梅津くんの印象は、すごく器用だしスキルの高い人。自分の中で集中をキープするというのと同時に、表向きのON・OFFをちゃんとコントロールできる人で、とても頭のいい俳優さんだと思いました。今後自分がやっていくべきこと、ビジネス的な思考もちゃんと持っているんじゃないのかなぁ。

梅津:はぁ~(照)。

荒木:ただ今回僕は(映画脚本/舞台作・演出の)末満(健一)さんとの対談も多いから梅津くんの話もよく聞くんだけど、「そうなったのも末満さんがきっかけだったんだ!」っていうのもすごく感じて。

梅津:あの……マチソワ間とかに「梅、毎公演終わったあと写真撮れよ」と。

荒木:そう! 「自撮りをちゃんと上げなさい」って、末満さんが言ってあげてたんだって聞いてびっくり(笑)。

梅津:そこから自撮りの呪いにかかってます(笑)。

荒木:映画でも出番が終わって衣裳を脱ぐ前に血糊がついている自分を撮ってから帰る梅津くんを見たとき、すごいなって思ってた。僕はそれをやらないから(笑)。現場にスマホ持っていくと忘れてきちゃったりするので、そもそもそこに持っていかないんですよ。
荒木宏文
荒木宏文

ーーでは今回はぜひ梅津さんにお任せしてツーショットを。

梅津:そうですね。待ち望んでいる方たくさんいらっしゃるでしょうから。

荒木:じゃ、どんどん写り込むわ(笑)。

梅津:(笑)。

ーー『漆黒天 -始の語り-』での役どころについてもお聞かせください。荒木さんは主人公・宇内陽之介と旭太郎の2役。映画でも明かされていた2役ですが、“前日譚”となる舞台ではアプローチもまた違ってくるのかと。

荒木:これは末満さんがムビステというシステムの見せ方をすごく考えて創られている部分があるので、やはり映画は映画、舞台は舞台という切り離したやり方ではないですよね。舞台を観たら映画を観たくなるでしょうし、映画を観ていた人が舞台を観たら、舞台だけを観ている人とは全然感じ方が変わってくる。その行ったり来たりできる部分にもこだわって創っているので、舞台が映画にフィードバックしていく楽しさも伝えられるよう模索し続ける稽古になると思います。とは言え、やはり舞台としての見せ方もありますので、末満さんと一緒にじっくり探っているところです。

ーー陽之介は仲間たちと心穏やかに暮らしている道場の師範。一言で表すならそのキャラクター像は……。

荒木:陽キャ(笑)。

梅津:シンプル!

荒木:もちろん、陽キャを陽キャのまま終わらせてくれないのが末満ワールドだけどね。それで言うと、旭太郎は陰キャ、ですか。

ーー陽之介たちと敵対する日陰党のメンバー旭太郎。二人の関係性にも注目ですね。梅津さん演じる嘉田蔵近は陽之介の“心友”。剣を振る同士、心の繋がりも深そうです。

梅津:映画の中では強く言及されるシーンはなかったんですけど、二人は幼馴染で、今回はそこの関わりもしっかりと描いていけると思います。さっきの殺陣稽古の話もそうなんですけど、僕らは道場に一緒にいることが多くて、その時の荒木さんの声色だったりとか目線だったりがめちゃくちゃ優しいんですよぉ~。それはもう役者の荒木さんとしての人柄なのか、陽之介という役が醸し出しているモノなのかわからないくらいで、どっちなんだろう?? って思うんですけど。
梅津瑞樹
梅津瑞樹

荒木:ほおぉ~。

梅津:でも僕はもう一方的にその空気を信頼しています。なんか嬉しいです。そして陽之介自身がそうして優しくこちらに映れば映るほど、旭太郎としてのあり方が……。

荒木:怖い。

梅津:そう。それぞれの違いが大きくなっていくんでしょうね。

ーー梅津さんは舞台はもちろん、映像作品やバラエティーと、ますます活躍の場を広げ続けています。今、ご自身の活動の目標や掲げている指針などは?

梅津:僕は前から演劇に対しては自分が今持てる表現手段として取り組んでいる、と考えています。これまでも演劇に限らず常々「今自分はどういう表現をしたいのか」、そしてそれにはどういう手段が適しているのかということを意識して生きてきたので……だから今は“役者”ですけど、それは今後文章を書くことかもしれないし、絵を描くことかもしれないし。

ーー先ずは「クリエイティブである自分」というモノが真ん中にある。

梅津:そうですね。そしてそのためには「怒り」というモノを忘れずに生きていかなければいけないな、とも思うんです。僕は僕の怒りによってなにかをせずにはいられないんだっていうことを。

ーーそれが梅津さんにとっての“初期衝動”。ブレのなさ。

梅津:僕は30歳になるんですけど、今だに自分自身の怒り、妬み、嫉みを抱え──いやぁ、根が“日陰党“なんですよね。

荒木:え、そうなの??。

梅津:うーん……ハハハッ(笑)。いや、なんか、そういう動機の感情は感じていたいなと思います。

ーー荒木さんは近年演出も手がけるなど舞台との関わり方がより広く深くなっていますね。

荒木:ウイルス感染が急激に広まった最初の頃に思ったのは、いろんなエンタメ活動が止まる中、舞台って止まらないモノも多かったなぁということでした。「演劇プラスなにか」のようなイベント性の高いものは続行が懸念されたりもしたけれど、でも演劇という基本ベースの中ではクラスターの発生もほぼなかったという印象を僕は持っていて、そこから演劇という昔ながらのアナログな表現に対してもうちょっと原点回帰というか……温故知新、本当に昔からやってきたものをちゃんと温めて考え直せば止まることなくやれるんだろうなって感じたんです。それが演劇の持つ強さなんだろうな、と。
荒木宏文
荒木宏文

ーー演劇の揺るがなさを見直すことができた。

荒木:時代に合わせて僕らがやっている演劇は変化してきたけれど、戻ることによってまた今の時代に合ったものを生み出せることもあるんだ。だから演劇はこういう状況下でもやる意味がある。さらに言えば2.5次元作品は演劇でありビジネス的にも成功しているジャンルですよね。デジタルなものが発達する今の時代において、アナログなんだけど稀少ではなく、ちゃんと王道のコンテンツとして立っている“ここ”は止めるわけにはいかない。腐るわけにもいかないし、もちろん、人気があったとしてもお客様に甘えるようなやり方で創るのも絶対に良くない。だからもうちょっとしっかり考えて取り組んでいきたいなぁと思ったのが、ちょうど2年前です。その思いで今も舞台と向かい合っているところですね。

ーー『漆黒天 -始の語り-』。現状、あらすじと人物相関図は発表されていますが、それらはまさに導入部分。改めて分け入るほどに見えてくる『漆黒天 -始の語り-』の見どころポイントなども知りたいです。

荒木:みなさんが一番事前情報を得られてないのが、梅津くん演じる蔵近なんですよね。そこのキャラクターの深堀りの仕方はかなりこの舞台の大きな魅力になると思うんだけど。

梅津:いやいや、そんなに重要でもないですよ~。

荒木:そう? なかなかのバックボーン、背負わせてない?

梅津:あー。まぁ、映画であっさり死んだ割にはこれか、と(笑)。

荒木:個人的にはだいぶアレは面白いなぁと思ってる。

ーーそういえば末満さんがツイートされてましたよね。「梅津さんの面白い提案を採用した」と。

荒木:僕は末満さんがアレを提案と取るんだってことに驚いたよ。それこそ稽古場では末満さんと梅津くんの関係性の深さをすごく感じさせてもらった。

梅津:エヘヘへ(照)。いやぁ……役者って瞬間的にちょっとやりたくなっちゃう時ってあるじゃないですか。それを、ついやってみたことを、末満さんが「いいんじゃない?」と。

荒木:すでにもうなかなかの課題として投げかけられちゃってるもんね。

ーーそれくらい、現場で生まれたものは積極的に採用されていく稽古場でもあるんですね。

梅津:基本的にはそうですね。
梅津瑞樹
梅津瑞樹

荒木:うん。でもまだミザンス付けの段階なんですけど、ここでいち早く実際に採用されたのはもう事前準備がちゃんとできている梅津くん発信だったからというのもあるし、これまでに別の作品で関係性ができている末満さんと梅津くんの信頼あってのことなんでしょうね。

ーー荒木さん自身はいかがですか? 末満さんからの今回のミッションなど。

荒木:今回は……軸にいる人、主役って、実はあまり言われることは少ないんですよ。真ん中にいることがまず必要で、その人がその場にストレスなく居られることが基本。そして物語が起きている……アクションが起きているのは主人公の周りで、基本的にそこのリアクションになってることの方が多かったりもするから、いろんなことを感じ取って、受けて、物語を進めていく、心を動かしていくってことが重要になっている。また、コンディションによっても受け取り方は変わってくるだろうから、まだ自分では固めずに、僕自身がしっかり周りを見て、柔軟に、あまり決め込みすぎず生々しく表現できるようなキャパシティを持ってやっていこうかなと思っています。

梅津:蔵近としてはこの舞台を観終わったあとだと映画での“最初に死んだアイツ”の見え方も若干変わるかな、という気はしますけど……荒木さんも言うように、物語のアクというか、周りがデコボコとやっていかないと面白くならないのでそのデコのひとつとしていたいなというのと(笑)、日陰党の面々もなかなかにキャラクターが濃いですからね。僕ら一介の武士である陽之介側の人間はともすると簡単に埋もれてしまう恐れもあるので……まぁ……そこで「こういうのもあるよね」という例のアレが……ね(笑)。

荒木:うん(笑)。

ーー先ほどの“提案”案件が。

梅津:末満さんと話していたら時代設定的にも結構そういうことは多かった、という裏付けもいただいたので、アイデア的にも全くの虚構というわけでもないんです。で、それが一体なんなのかというのは……ぜひ実際に舞台で観ていただければと思います。お楽しみに。

荒木:うん。どうぞお楽しみに(笑顔)。
(左から)梅津瑞樹、荒木宏文
(左から)梅津瑞樹、荒木宏文

取材・文=横澤由香    撮影=荒川 潤

当記事はSPICEの提供記事です。

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