清野とおる×パリッコが語る、飲み歩いて気づいたこと「どこの街にも、キーマンはいる」

日刊SPA!

―[清野とおる×パリッコの「飲みに行こうよ!赤じゃない街にさ!」]―

街に活気が戻ってきた今こそ、“街飲力(まちのみりょく)”を身につけるべし。漫画家・清野とおる氏×酒場ライター・パリッコ氏による書籍『赤羽以外の「色んな街」を歩いてみた』は、知らない街で知らない店を楽しむ極意が詰まった一冊。街飲み特有の喜怒哀楽をエッセイと漫画で追体験でき、読後はまさに飲み会後のようなほろ酔い気分と満足感に浸る“酔える本”だ。

◆「赤以外の色がつく街」は最低限の縛り

ーー赤羽の「赤」以外の色がつく知らない街を飲み歩くというのが連載のテーマでした。このほかにテーマ案はあったのでしょうか?

パリッコ:すんなりこれで決まりましたね。もとは『酒場人』という雑誌で、清野さんと二人、赤羽でよく飲んでいて、一緒に企画をやりたくて始めました。飲み歩くという内容は決まっていたことなので、どんなふうにしようかと。

清野とおる(以下、清野):単純に、パリッコさんと赤羽以外のお互い馴染みのない街をいろいろ攻略しに行きたいなということになりまして。赤羽でないところで、赤羽が「赤」だからそれ以外の色がつく街という最低限の縛りだけ設けることになりました。

◆なんてことないアパートから淫靡な光が

清野:パリッコさんとは、お互いまだそんなに仕事がなかった時代から飲んでいて、その頃から頻繁に珍事に遭遇したんですよね。たとえば赤羽で飲み歩いていたら、住宅街のありふれた古アパートの2階の窓から淫靡な光が漏れてて。

光の中から女の人と思われるセクシーな脚が僕らを、脚招きをするように現れて、「清野さん、あれ見てください! 『トゥトゥットゥトゥルルルットゥトゥ~』(「伊勢佐木町ブルース」のメロディ)だよ!」ってパリッコさんが叫んだ(笑)。それでその脚と目が合ったような感覚を覚えた瞬間、脚のほうもバツが悪そうに室内にスススス~っと消えていったんです。あれは本体のない、脚だけの生き物だったんじゃないかな。

パリッコさんがいると、そんなことが一夜のうちに4つ、5つぐらい続いて、毎回おなかいっぱいになって帰る、みたいな。パリッコさんに街を喜ばせる何かがあるんじゃないかと思って、他の街でも試してみたかったというのもありますね。

パリッコ:清野さんはクセのあるお店の人にもスッと受け入れられる能力があるんですよ。以前も、北池袋に、いくらなんでも怪しすぎるプレハブみたいな居酒屋があって、清野さんが扉を開けたら「どうぞ」と招き入れられたあとに女将さんが「うちは、普通はいちげんさんを入れないのよ」って。

清野:女将さんによる人心掌握の手口かも知れませんけどね(笑)。

◆面白いことを起こさなきゃ

ーーお二人での取材は、普段1人で取材をするときとどんな違いを感じますか?

パリッコ:やっぱり緊張感がありますよ。

清野:僕は、取材交渉とか面倒なお客さんがいても、パリッコさんがいるから大丈夫、と気楽でしたけどね。常に大船に乗った気持ちでいましたよ。パリッコさんと飲んだ日の酔いは「船酔い」と言っても過言でないほどに。

ーーパリッコさんは、どういった点で緊張するのですか?

パリッコ:やっぱり清野さんはね、あの厳しさが……(笑)。

清野:ないですよ、ないです(笑)。しょっぱなからたくさん起こりすぎて「もう今日は何も起こさないようにしましょう」って言うくらいでしたから。

パリッコ:厳しいは冗談にしても、清野さんが人気者なので、最初は「自分が足引っ張ったら……」「面白いことが起こらなきゃ」という気持ちはありましたね。2回目の青井の夜がすごすぎて、それ以降はもう肩の荷が下りた感じがありましたが。

清野:連載が始まった『酒場人』は、 パリッコさんをメインに据えて雑誌が創刊されて、創刊号一発目でパリッコさんからご指名いただいたんで、それこそ「何か面白いことを起こさなきゃ」っていうのはありましたよ。

◆朝、窓を開けたら「ペイティさん」が

ーー街へ飲み歩くたびに、いろんな出来事が起きていますが、ネタを引き寄せるコツはありますか? 才能なのか、それとも習得されたものなのでしょうか。

パリッコ:才能かはわからないけど、“持ってるな”という人は、共通の何かがある感じがしますよね。僕が共著を出させてもらっているスズキナオさんさんという飲み友達のライターがいるんですが、ナオさんが昔、ぜんぜん赤羽じゃない街で一人暮らしをしていたときに、朝起きて窓を開けたら、清野さんの赤羽の漫画にたくさん出てくる自称アーティストの女性ホームレスのペイティさんが、目の前を通り過ぎたらしくて。何かナオさんもやっぱ普通じゃない感じがあるんですよね。

清野:ナオさんは確実に「持ってる人」ですからね(笑)。そういえば友人漫画家の押切蓮介くんも、10年くらい前に住んでいた高円寺のマンション前でペイティさんが歌ってて、なかなか「帰宅」できなかったというパワーエピソードもあったし、パリッコさんが赤羽に遊び来るときもペイティさんは必ず出現してくれましたよね。

パリッコ:いつもいましたよね。

清野:普通はほぼいないんですよ。引き寄せる人って、みなさん、街に相当敬意を払っていると思いますね。街の運と書いて、“街運”と呼んでるんですけど、具体的な何かをするわけじゃないんですが、とにかく「お邪魔させていただいてます」っていう姿勢を感じます。

◆街の運を引き寄せるコツとは

清野:あとやっぱり「神様」ですかね。今回も編集者の井野さんと3人で、行く先に神様がいたらお参りするようにしていました。そうするとやっぱり、ちゃんと面白いことや不思議なことがあって、その後にいい出会いがあったりする。

昔は偶然で片付けてた時期もあったんですけど、これはもう必然だと。いろんな街に行くたびに、目が合った神様には敬意を表するようにしています。別にスピリチュアル的な意味ではなくて、「街の大先輩」みたいな感覚ですね。

パリッコ:お参りすると、ガラッと空気が変わった感じがありますよね。

清野:逆に、街に対して欲深く前のめりすぎると、かえって何も起こしてくれなかったりする。聖蹟桜ヶ丘では、最初は一切無欲無心でいったから、いいお店に出会えました。でも、あまりに流れが良すぎて、しかもコロナで久々の飲みということで、後半は前のめりになっちゃったんです。そしたら最後に行った店がひどくて。ビールは不味いわ、店内で放し飼いされていた犬の毛が衣服や体中にまとわりつくわ、外に出たらどしゃぶりだわ、最終電車が人身事故で止まるわ、もう踏んだり蹴ったり。街からちょっとビンタを食らったんですよね。お前ら、良くないぞって。

パリッコ:ありがたいといえば、ありがたいけどね。あの店がなかったら、なんか普通によかった話になってただけだから。

清野:鶯谷で幻のような靴屋に出会ったのも、連載のことはいったん忘れて、僕がたまに利用している中華居酒屋を二人に案内して、その帰りしなでした。何度も通っているはずの道なのに、あんな靴屋さん、初めて気づきましたよ。

パリッコ:明日にはなくなってるんじゃないの?っていう幻のような雰囲気の店で、店名を見たら「シンデレラ」。そこからはぐんぐんストーリーが加速して。

清野:無心無欲ののちに、街がプレゼントしてくれるんですよ。お前ら、そういう心持ちなら良いよって。

◆お蔵入りになった街・K

ーー百戦錬磨のようなお二人ですが、Kの街飲みがお蔵入りになっていて、意外でした。

パリッコ:そうですね。11回行ったうち1回だけネタにならなかった街がKでした。そもそも清野さんと飲み歩いてるから、ネタになる確率が異常に高いんですよね。Kは、一軒目に入った店が、ちっちゃいカウンターだけの酒場で、40分も待たされて出てきた餃子が真っ黒に焦げてたんですよね。面白いというより、普通にテンション下がっちゃって。

清野:「うち取材とか絶対NGなんで」と拒否されたうえに「餃子がうまいよ」って言うんで一応頼んだら、手で生地をこねだして、え、今から生地をつくるの?って。散々待たされた挙句、冷凍餃子以下の駄餃子が出てきましたよね(笑)。

パリッコ:どうしてアレをあんなに自信をもって出せるんだろう。いや、内心「やばい、焼きすぎた!でもまた作るの時間かかるしな~……出しちゃえ」とか思ってたのかもしれない(笑)。

ーーヒドすぎて逆に気になる店ですが……。あとで、ネットで口コミ評価を調べたりしませんでしたか?

パリッコ:しなかったな。その時は本当に嫌いになっちゃった(笑)。

清野:一軒目からカチッとハマらないと、ずっとボタンの掛け違いのようなことが起きるんです。一軒目でカチッとハマれば、そこからは、エスカレーターにのぼるように、自然に出会うべき人と出会って、最終的には良い街だった、面白かった、となるんですけど。Kはもう最初の一軒目が違ったというか。もうこれ以上も何もないなって割と早い段階からわかりましたよね。

◆どこの街にも、キーマンはいる

ーーそういった経験から、一軒目を選ぶのに歩き回ってしまうんでしょうね。ほかに収録できなかったエピソードはありますか。

清野:青井に1人キーマンがいたんですよ。フィリピン居酒屋のカウンター席で居合わせて話かけてくれた中年男性なんですけど、なんか常にニヤニヤしていて。「この近くにある●●っていうスナックがちょっと面白いかもしれない。おすすめしますよ」ってやんわり勧めてきたんです。

パリッコ:赤羽でいうと、赤澤さんみたいな若いお兄さんでしたね。

清野:じゃあ行ってみようかなって。で、その中年男もついてきたんですけど、気づいたら消えてたんですよね。写真にもいっさい写ってないし。

パリッコ:導かれた感じでしたよね。

清野:それであの老人同士の大ゲンカを目の当たりにするんですけど、あの中年男がいなかったら、たぶんスナックには入ってなかったし、あれは青井の神様だったのかな。どこの街にも、キーマンはいるんですよ。お花茶屋(葛飾区)の小林家なんて、1話丸ごとそのエピソードになるくらいのキーマンそのものでしたね。

◆飲み歩きの記録方法

ーーメイキングをお聞きしたいんですけど、飲み歩きの出来事が詳細に書かれていますが、取材はどんなふうに記録しているのですか?

パリッコ:基本、写真を撮りまくっていて、音は録ってないですね。メモも常に取ってないんですよ。取材した後日、なるべく早めに、清野さんとのLINEのやりとりで「このときはこうでしたね」って、会話を振り返ったり、出来事を思い出したり。

清野:僕もスマホで気になったところとかを適当に写真を撮っておいて、それを見つつ、 振り返ってますね。

パリッコ:そういえば、青井のスナックでのケンカは、さすがに音声もちゃんと録ってありました。すごい迫力のある音声でしたよ。

◆30分くらい寝たら回復する「特殊能力」

ーー取材の時は、お酒を飲み過ぎないように多少セーブするのですか?

パリッコ:清野さんはしてるんでしょうけど。

清野:いや、最初はやっぱりしてるんですけど、でもダメですよね。いつも飲まれてますよ。

パリッコ:編集の井野さんがいてくれるから大丈夫かなって。井野さんは、飲んでも全然変わらないんで。

ーーちなみにどちらがお酒強いんですか?

清野:絶対パリッコさんですよ。

パリッコ:いや、そんな。同じくらいなのかな。僕も全然強いほうとかじゃないから。なんかテンションとか酔っ払ってきたなーっていうタイミングも清野さんと近くて。

清野:パリッコさんは、どんなに酔っ払ってもちょっと休むと復活するんですよ。30分くらい寝たら回復するという羨ましすぎる特殊能力を昔から持ってるんです。

◆コロナ禍で気づいたこと

ーー訪れた店は常連さんがいっぱいいることも多かったですが、アウェイな状況で溶け込むために意識してることはありますか?

パリッコ:もう40歳超えてますけど、大衆酒場では我々はひよっこなんです。「学生さん?」って言われたりするくらい、珍しいんですよね。だから、図々しくならないように控えめに「何が美味しいんですか?」とか「お店よくこられるんですか?」みたいな、ポツリポツリと会話するとみんな歓迎してくれますよね。

清野:美味しいものを声に出して「美味しい!」と言ったり、隙あらば「ありがとうございます」とお礼を言ったりとか、些細なことですよね。でもお店の人は結構見てるんですよね。この人たち大丈夫だな、悪い人じゃないんだって。あとは、もう単純に、あなたに興味があるんですオーラ、陽気なオーラを出すようにしてますね。「いいお店だな~」「シアワセだな~」みたいな。

パリッコ:「いいですね~」って大袈裟に店内を見渡したりして。若干演技入ってるくらいの。

◆謎の食べ物が…連載後もネタは絶えない

ーー最近もお二人で飲みに行きましたか?

清野:この間も、本の発売前にサイン入れ作業をした後、パリッコさんと2人で帰りに飲み歩きましたね。浜松町から電車で大塚へ移動して、本当に打ち上げ的な感じで、面白いことも別に何も求めてなかったんですけど、やっぱり何かありましたもんね。

パリッコ:ありましたね。

清野:最初の一軒目は本当に美味しいビールを飲みたいということで、失敗したくなかったんですよ。大塚から歩いて。もう何キロ歩いたんだろう。

パリッコ:もうどっか適当に入っちゃえばいいのに、なんか1時間くらいは歩いてましたよね。最初の一杯のために。

清野:大塚から池袋まで一駅歩いて、なんでもないけどちゃんとしてるお店に入ったら、カウンターの一番奥でおじさん2人が、謎の食べ物の話をしていて。会話で情報が入ってはくるんですけど、何食ってるのか全然わからないんですよ(笑)

パリッコ:みんな知ってるようなテイで話してるんだけどね。「今が旬だよなー」「歯ごたえがたまんないよな」とか言っているけど何なのか全然わかんない。

清野:毒がどうこうとかも言ってて。トイレに行くふりして、さりげなく小皿を見たんですけど、黒くてべちょべちょした薄気味悪いものが小皿に乗っかってて、やっぱり全然わかんないんですよ。“クラムボン”(宮沢賢治の短編「やまなし」に出てくる謎の生物)ってあるじゃないですか。あれを連想したんですけどね。そんなのこの世にあったっけっていう。

パリッコ:連載だったら「何食ってるんですか」って聞きますけどね。その時はもう謎のままで終わらせてしまいました。

◆外飲みの回数が減ってわかったこと

ーーコロナ禍で飲み会の機会が減って、飲みに行くことが億劫になってしまったっていう声もよく聞きます。そんな人に伝えたいことはありますか?

清野:僕もその1人なんですけど、全然好きにすればいいって思いますよ。むしろ、コロナ禍と言われている状況が非常に心地良くて、外で飲む回数が減った分、たまに飲んだときのありがたみとかもわかりますし。お店は大変だと思いますけど、家で1人になって飲む時間もそれはそれで楽しいですし。時間が有意義になったと思いますね。

パリッコ:昔は、打ち合わせも取材も、何もかも飲みながらやっていましたからね。何か人として不自然だったんじゃないかってすごい思いますよ。そこまでして、打ち合わせで飲まなくてもって。

清野:己にノルマを課してましたよね。

パリッコ:そうですね。翌朝、ベロベロになりながら原稿を書くみたいな。無茶だし、無理してましたよ。店の人にはね、本当に頑張ってるから、飲みには行きたいんですけど。応援したくても行けなかったりするし。「頑張ってください」としか言えないんですけどね。でも、この連載を読んだ人が結構お店に行ってくれたり、店の人が記事をプリントして店に貼ってくれたりしてるみたいで、嬉しいですね。

ーー掲載されているお店で、また行きたいところはどこですか?

パリッコ:全部巡りたいぐらいだけど、しいて言うなら、酒場で出会ってその日に家にまで上げてくれた、小林一家のウチかな(笑)。

清野:あとはまぁ、「青井」ですかね(笑)。

<取材・文/ツマミ具依 撮影/林 紘輝>

―[清野とおる×パリッコの「飲みに行こうよ!赤じゃない街にさ!」]―

【ツマミ具依】

企画や体験レポートを好むフリーライター。週1で歌舞伎町のバーに在籍。Twitter:@tsumami_gui_

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