まもなくツアー公演開始、『てなもんや三文オペラ』生田斗真×鄭義信が語る。「土地によってお客様の空気が違うのが、ツアーの楽しみの一つです」(生田)

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演劇史に燦然と輝くベルトルト・ブレヒトの傑作音楽劇『三文オペラ』を、鄭義信作・演出で、1950年代の大阪が舞台の物語に翻案した『てなもんや三文オペラ』。魅惑的な悪漢マック・ザ・ナイフ役に生田斗真を招き、6月11日に東京の[PARCO劇場]で開幕した本作。SNSでも「笑って泣けるこてこての大阪芝居」「おもろ切なくてカッコいい」などの感想が並び、30日に無事に千秋楽を迎えた所だ。その東京公演の開幕直前に、鄭義信と生田斗真の地方公演向けのリモート取材会が実現。全編大阪弁の芝居に苦戦しつつも、マック役への強い思いを語る生田。翻案によって得られた発見や、新たに浮かび上がったテーマを明かす鄭。この2人の言葉と、すでにあちこちで上がっている芝居のレポートともあわせて、ぜひ期待を高めてほしい。

■マックは人たらしだし、相手が男の方が面白いじゃないかと(鄭)


──生田さん、このお話をいただいた時の印象は?

生田  まず、若い時から通っていた[PARCO劇場]には、いつか立ってみたいと密かに思っていたから、ようやくパルコ初出演がかなうのが、すごく嬉しかったです。その時点で『三文オペラ』を、鄭さんがアレンジを加えて上演するとは聞いていました。鄭さんに初めてお会いした時は、意外とおじさんだったので驚きましたね(笑)。作られる作品に籠めたエネルギーというか、パワフルな感じから、勝手に若さを感じていたので。

──一方鄭さんは、なぜ生田さんをお呼びしたのでしょうか。

  マックの繊細さ、男らしさ、開き直りなどのいろんな要素を、斗真君も持っていると思ったので。初めてお会いした時は「関西弁が不安じゃないかな?」とドキドキしたけど、公演に向けてお互い全力でやることを確認しあって、同志になれるかな? と思いました。

生田  確かに台本が上がって、全編関西弁になっているのにはビックリしました。でも読み進めていくうちに、そして今稽古を進めていくうちに、『三文オペラ』の世界観と、鄭さんが描こうとしている日本の、大阪の戦後の世界が、だんだん自分の中で馴染んできています。くだらないシーンでも、結構時間をかけて作ってますよ(笑)。

  ちょっとくだらない、普通の主役の方には求めないようなことを、結構お願いしています。作品のためにです(笑)。

──翻案に辺り、実際に1950年代に大阪城周辺で、盗掘を繰り返していた集団「アパッチ族」をモチーフにした理由は。

  アパッチ族自体は、前から興味があったんです。『三文オペラ』をやると決まった時に、原作に出てくる盗賊団のいかがわしさとかいろんな要素が、大阪のアパッチ族のパワーとマッチングするんじゃないかと思いました。今のところ、ブレヒトが『三文オペラ』に籠めた混沌さが、アパッチ族のパワフルさや猥雑さによって、もっともっと濃厚になってるんじゃないかなと思っています。

『てなもんや三文オペラ』(左から)ウエンツ瑛士、根岸季衣、渡辺いっけい。
『てなもんや三文オペラ』(左から)ウエンツ瑛士、根岸季衣、渡辺いっけい。

──今回のマック像は、戦争帰りだったり、男の人と結婚したりするなど、オリジナルの要素がいろいろと含まれていますが、どんな人物像をイメージして作っていますか?

生田  やっぱりメチャクチャな人ではあるんですよね。いろんな人と結婚するし、いろんな人と恋人関係になるけど、そこに嘘がないというか。全員に100%で「愛してるで!」って言える滑稽さみたいなものが、にじみ出るような人になればいいなと思います。あと、やっぱりアパッチ族を率いるリーダーだから「こいつなら許せちゃうよね」という感覚を、出せたらいいなあと。僕はお芝居の感じが割と柔らかくなりがちなんですけど、マックはもっとハードにやってもいいかなと思っています。

  マックは原作でもすごく人たらしというか、男だろうが女だろうがお構いなしに人を惹きつけてしまう、ある負の力を持っている人物だから、男(が相手)でもいいじゃないか? と思いました。女性同士でマックを取り合うよりも、男性が入った方が展開として面白いし、芝居も弾むんじゃないかと。あと(原作のマックの妻の)ポリーの両親が、なぜやっきになって結婚に反対するのかが、ちょっとよくわからなかったので、相手を男にしたらどうだろう? という興味もありました。

生田  確かにマックは、本当に人たらしですよね。性別とか年齢とかを超越して、人を愛する人間だというのが、原作よりわかりやすく表現できるんじゃないかと思っています。

──そのポリーならぬ、ポールを演じるウエンツ瑛士さんの印象は。

生田  20数年前、お互いが小学生だった頃に『天才てれびくん』という番組で、2年間一緒にレギュラーを務めていたんです。だから同じ団地の隣の家に住んでいた友達みたいな、ちょっと特別な存在。時を経て、こうして夫婦役で舞台を共にできるというのは、すごく不思議な気持ちと感慨深さがあります。彼も舞台やミュージカルに力を入れていて、普段からトレーニングしていることを感じられるので、共演者としても非常に信頼ができます。稽古場では二人一組で同じテーブルを使ってるんですけど、僕のためにいつものど飴を真ん中に置いてくれてるので、助かりますね。バクバク食べてます(笑)。

──共演者の中では『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャン役者の福井晶一さんが、娼婦を演じるというのも驚きなのですが。

  それが福井さん、なかなか色っぽいんです(笑)。多分お化粧をして衣裳を着れば、とてもゴージャスな女性に見えると思います。今回は僕がよく知ってる人たちと、初めての人たちが混在してるんですけど、お互いが割と旧知の仲みたいな感じになっています。いろんなことが詰め詰めで、すごく時間がないんですけど、みんなめげずに和気あいあいとした空気になってるので、多分……いや、絶対面白いものになるという確信があります。

『てなもんや三文オペラ』(左)福井晶一。
『てなもんや三文オペラ』(左)福井晶一。

■今の状況で“戦後”がどういう風にお客さんに伝わるのか(生田)


──生田さんは、全編関西弁の舞台は初挑戦ということですが、感触はいかがですか?

生田  すごく苦労しています。イントネーションのことを考えると感情がおろそかになるし、感情のことだけ考えるとイントネーションがおろそかになるし。でもたまに、感情と台詞がバチッとはまる瞬間があって、それがとっても気持ちいい所に落ち着くんです。今は形のない粘土みたいなものが、だんだん形づいてきたという段階ですね。

  それと今回すごい発見だったのは、クルト・ヴァイルの曲に、関西弁が結構違和感なくハマること。関西弁にした方が、すごくいいニュアンスが出てくるのが不思議だし、面白いなあと思いました。(音楽監督の)久米大作さんのアレンジもすごく親しみやすくて、少し笑える所もあって、音楽面でもなかなか面白いものになっていると思います。

生田  音楽が入ることで、お客さんもより楽しめるはずですよね。僕らも台詞だけでは表現できない感情や思いを、音楽に乗せて演じる楽しさがあります。

──ほかにも原作から、大きく変更した所はありますか?

  ラストですね。ラストは原作とは全然違うし、マックも「戦争ですごく傷つけられた男」というバックボーンに変えました。だからこの「戦争」という所……日本ではすっかり「今は平和な時代です」ということになっているけど、いつウクライナと同じようになるかわからない。今も戦争と隣合わせで僕たちは生きているし、もしそうなった時に僕たちは何を選択して、どう生きるのか? ということを、やはり今もう一度考えた方がいいと思う。

生田  おっしゃる通りですね。自分が生きているタイミングで、いわゆる「戦争」が起こるとは、僕も想像してこなかった部分がありますし、演劇空間で起こっていることと、今実際に世界で起こっていることが、切っても切れなくなってしまっている。そこでどういう風に、お客さんが感じてくださるのか? ということをすごく考えるし、僕らもいろんなことをかみしめながら、お芝居の空間を提供したいと思っています。

 でもそういうことを、大上段から考えてもらうんじゃなくて、笑って観終わった後に、人間の命の重さや、戦争と平和について少し考えてもらえたらいいなあ、と。今当たり前に享受している平和が、実はすごく自分たちにとって尊くて、かけがえのないものだということに思いを馳せていただけたら、僕はすごく嬉しいです。

『てなもんや三文オペラ』(左から)渡辺いっけい、福田転球。
『てなもんや三文オペラ』(左から)渡辺いっけい、福田転球。

──この取材後まもなく東京公演が始まり、その後には一ヶ月に渡る全国ツアーが控えています。

生田  舞台はもちろん稽古で作っていくんですけど、やっぱり本番が明けてから完成するんですよね。お客様が最後のピースを埋めてくれるというか、お客様が入って初めて完成するという印象があります。想定しなかったこと、予想外のことがどんどん起きていくっていうのかな? そうやって東京公演を一ヶ月経てから、すごくいい状態で他の会場に持っていけるんじゃないかと思います。やっぱりその土地土地によってお客さんの空気というか、色が全然違うんで、それが本当に楽しみの一つでもあるかな。

──特に大阪公演の会場[森ノ宮ピロティホール]は、大阪城のすぐ近くにある劇場なので、特別な気合が入るのでは?

  すごく感慨深いというか、アパッチ族と縁のある場所でこの作品をやれることが、すごく面白いですね。それと僕は(作・演出をした)『泣くロミオと怒るジュリエット』(2020年)の大阪公演が、[森ノ宮ピロティホール]でゲネプロまでやったのに、結局全公演中止になったんで、そのリベンジという感じもあります。まだコロナが蔓延している中で、今度こそやれるのか? というドキドキ感はあるけど、何とか今のメンバーたちと一緒に、力を合わせて殴り込みをかけたいと思っています。

生田  本当に劇場のすぐ近くに、今回の舞台となった場所があるということで、自分たちとは距離の離れた昔話という気がしていた“戦後”が、どういう風にお客様に伝わるのか。そこも一つ、興味深い所です。

──そして大阪で大阪弁の芝居をするというのには、かなりプレッシャーを感じておられるのでは……。

生田  そうですよねえ(笑)。東京公演が終わった後ではあるけれど、ドキドキしますね。優しく、温かく迎え入れていただけたらと思います。

『てなもんや三文オペラ』(左から)平田敦子、ウエンツ瑛士。
『てなもんや三文オペラ』(左から)平田敦子、ウエンツ瑛士。

取材・文=吉永美和子

当記事はSPICEの提供記事です。

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