ビジネスにも広がる「アート思考」「NFT」「メタバース」「資産運用」って何?ーー今、気になる話題について本気出して考えてみた

SPICE


毎月、現在開催中のおすすめ展覧会をご紹介している本コラムだが、今回は趣向を変えて、現在のアート界のトレンドと、筆者が興味を引かれているトピックを4つご紹介したく思う。7月以降、関西では『ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展』や『スコットランド国立美術館 THE GREATS 美の巨匠たち』、『展覧会 岡本太郎』、『テオ・ヤンセン展』、『出版120周年 ピーターラビット™展』、『『鬼滅の刃』吾峠呼世晴原画展』など、大注目の展覧会が続々とスタートする。SPICE読者のアートファンが忙しくなるその前に、閑話休題的に楽しんでもらえると幸いだ。

アート思考


最近、書店に行くと「アート思考」という言葉をよく見かけるようになった。「ビジネスに役立つアート思考!」とか「仕事に活かすアート思考」といったように、主にビジネスシーンで使えることを謳っている。

アート思考とは、「既成概念や常識にとらわれず、自分の感情や発想から思考を巡らせ、新たな課題や見方を見つけるための思考」のこと。アーティスト(芸術家)のように、自由な発想で物事を考える思考法だ。海外企業や日本の大手企業でも取り入れられており、仕事においてイノベーションを起こせるとのことで、2015年頃から注目されはじめた。



頻繁に目にするようになったのは、『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)が2020年に発売されてからではないだろうか。イエローの表紙の本が書店にドンっと平積みされていて、目を引いた。著者の末永幸歩は無名の美術教師であったにも関わらず、約17万部の売上を記録。筆者も読ませていただいたが、美術史の文脈の中で生まれてきたアート思考について、非常にわかりやすく書かれていた。

末永は書籍の中で、アート思考は「自分の内側にある興味をもとに自分のものの見方で世界をとらえ、自分なりの探求をし続けること」と定義づけている。

日本人は幼い頃から「正解」を探す教育を受けている。受験に受かることを第一として組まれたカリキュラムなので、いろんなことが「○か×か」で判断されてしまう。テストの回答だけでなく、意見や服装、振る舞いひとつにも「合っているか間違っているか」がつきまとう。そのうちに、誰もが幼少期に持っていたはずの「自分だけの発想」が失われていく。

美術館に行って絵を観ても「自分の感じたことは合っているんだろうか」、「感想といっても何を言えばいいかわからない」と、思ってしまうのは当然だろう。ちなみに美術館で人が1枚の絵を眺める時間は、たったの7秒だと言われている。どちらかというと日本人は、作品よりもキャプションの方をしっかり読みこんでいる人が多いのではないだろうか。アート作品を見て感じるものは自由なのに、ここでも正解探しをしている。とにかく知識を得ようとする。これも日本教育の弊害だと思う。

7月18日(月・祝)まで大阪中之島美術館にて開催中の開館記念特別展『モディリアーニ ー愛と創作に捧げた35年ー』から、アメデオ・モディリアーニ「ドリヴァル夫人の肖像」 絵の左下の黒いパネルがキャプション、左の白いパネルは音声ガイド用の番号で入力すると解説が聴ける
7月18日(月・祝)まで大阪中之島美術館にて開催中の開館記念特別展『モディリアーニ ー愛と創作に捧げた35年ー』から、アメデオ・モディリアーニ「ドリヴァル夫人の肖像」 絵の左下の黒いパネルがキャプション、左の白いパネルは音声ガイド用の番号で入力すると解説が聴ける

この本を読んで、自分の鑑賞方法について振り返ってみたが、筆者は「何が描かれているか」はすごくサラッと見て、「どんな画材でどんな筆致で描かれているか」という「技法」にばかりに目を向けてしまっていた。「何が描かれているか」はキャプションを読んだり音声ガイドを聴いて「へーそうなんや」と、わかった気になっていた。しかしこれでは本当に作品を観れていないのでは、と反省している。自分から湧き上がる感覚や違和感を大切にしたい。

「右にならえ」の教育で、用意されたレールを進めば就職でき、一生困らない収入が手に入る時代は終わった。今は個人の時代、多様化の時代だ。正解がない現代社会のビジネス環境で、個人がのびのびと活躍するために、アート思考は今求められている思考法なのだろう。

他人の目を気にせず、同調圧力に潰されず、自分が自分らしく生きてゆくために、自分を好きになるためにも、アート思考は有効だと個人的には感じた。

資産としてのアート


オークションに出品していたバスキアの作品が先ほど約8,630万ドル(約110億円)で落札されました。次のオーナーにも大切にされ、多くの方々に共有されることを願っていますありがとうございました。 pic.twitter.com/H6qQVDvg1d
— 前澤友作┃みんなで会社作りたい (@yousuck2020) May 19, 2022
2022年5月19日(木)、前澤友作氏が所有していたジャン=ミシェル・バスキアの「無題」が、フィリップス社のオークションに出品され、約110億円で落札されたというニュースが飛び込んできた。前澤氏はこの作品を、2016年にニューヨークのクリスティーズイブニングオークションセールで約62.4億万円で落札した。額が桁違いなのでインパクトを受けた人も多いのではないだろうか。前澤氏はもともとアートが好きで、コレクターとしても知られていた。彼がアート作品を購入する目的は、アートが単純に好きで、アートと生活したいからだとForbesのインタビューで明かしている。もちろん作品や作家が好きという理由は作品購入の上で重要だが、アートを投資対象や資産として購入するコレクターが、増加傾向にあるらしい。

関西で開催されている秋のアートフェア『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2021』
関西で開催されている秋のアートフェア『紀陽銀行 presents UNKNOWN ASIA 2021』

アート市場は海外が活発で、アメリカ、イギリス、中国、フランスなどが大半を占めている。日本人は印象派など、アカデミックな作品を購入する傾向にあるらしく、現代アート市場ではまだまだ存在は小さい。しかし、日本でもアートフェアが増えてきた。関西だと長年開催されている『ART OSAKA』や『ARTISTS'FAIR KYOTO』をはじめ、今年6月には日本最大のアートフェア『アートフェア東京』が大阪に上陸。『art stage OSAKA 2022』と称し、大阪での初の国際的アート見本市として、堂島リバーフォーラムで3日間にわたり開催された。また、7月には東京で『TOKYO GENDAI』という新たな現代アートフェアが誕生。マーケットは盛り上がりを見せている。

昔からアートは中流貴族や富裕層のもので、権力やステータスを示したり、隣国から侵略された際に持って逃げられる流動的な資産として歴史の中にあった。そのように、資産としての側面もありながら、「アートはライフスタイルに心の豊かさを与える」と前澤氏が言うように、コロナ禍でステイホームの時間が増えたこともあって、生活に彩りや豊かさがほしいとの想いでコレクターが増加しているのかなと個人的には感じる。前澤氏のように超有名アーティストの作品をポンッと買うことは、富裕層でなければなかなか難しい。しかし、1枚のポスターやリトグラフといった小さめの作品でも、好きなものであれば心に豊かさをもたらしてくれる。自分のお気に入りの作品を手元に置くことに、何よりも価値があるのではないかと思う。

また、アートフェアは作品を購入しなくても入場することができる。目利きが選んだ本物の作品に触れることで感性も刺激されるため、SPICE読者も勇気を出して一度足を運んでみてはいかがだろう。

NFT



【NFTアートのアニメ化】Zombie Zoo Keepers // Animated Short Film【公式】

2021年は、アート界においてNFTが非常に盛り上がった。「NFTアート」と呼ばれていることから、アートそのものだと思っている人もいるかもしれないが、NFTとは「Non-Fungible Token(ノン・ファンジブル・トークン)」の略で、「非代替性トークン」のこと。仮想通貨に使われているブロックチェーンの技術が使われていて、 デジタルコンテンツなどにデータを紐づけることで、 唯一無二の存在であることを証明することができる。

「誰が制作し、誰が所有しているか」という情報を明らかにしながら、デジタルコンテンツを二次、 三次流通させることが可能になった。何だか難しいが、NFT自体はアートではなく、契約書や証明書のようなものだ。購入した作品は二次販売(転売)することができ、その作品が売れた時には、作者に一定のロイヤリティが入るという仕組み。作品の売買はNFTが取引できる「NFTマーケットプレイス」の中で、仮想通貨を使って行われる。


Zombie Zoo to PIKOTARO DESU / Zombie Zoo family × PIKOTARO

当時小学3年生の男の子、Zombie Zoo Keeper(ゾンビ・ズー・キーパー)が、夏休みの自由研究で作ったピクセルアートをNFTに出したところ、数百万円の値がつき、世界的に話題をさらったことは記憶にも新しいだろう。このことはNFTブーム隆盛のキッカケにもなり、Zombie Zoo Keeper本人も個展を開いたり、ピコ太郎とコラボしてZombie Zooの歌「Zombie Zoo to PIKOTARO DESU」を発表したりと活動の幅を広めている。今年5月には、彼が原案を手がけた日本初のNFTアートのアニメ化映像が、東映アニメーションYouTubeチャンネルにて公開された。テーマソングは4人組バンドのFIVE NEW OLDが手がけている。

ちなみにNFTアート作品の最高落札額は、デジタルアーティストBeepleの75億円。市場はどんどん拡大し、数々のアーティストをはじめ、LINEや楽天、メルカリなどの大手企業が続々とNFT市場に参入している。

メタバース


そしてもうひとつ気になるワードが「メタバース」だ。メタバースとは、自分がアバターに変身して訪れることができる、インターネット上の仮想空間。将来的には、ショッピングサイトやSNSがひとつにまとまり、新しい「社会」になると言われている。映画の『サマー・ウォーズ』や『レディ・プレイヤー1』の世界が現実になるかもしれない。


JM梅田ミュージックフェス(β) 第一弾PV

今年3月には、阪急阪神ホールディングスが、メタバースに大阪梅田の街をつくりあげ、巨大音楽フェス『JM梅田ミュージックフェス』を行って約7万人の来場者を集めた。メタバースでNFTアートを展示するメタバースギャラリーもオープンするなど、今後はアートとメタバースの関わりも深まっていくことが考えられる。

筆者もまだまだデジタルアートについては勉強中だが、時代とともにアートを取り巻く環境の変化を実感している。ぜひ、トレンドとなっているキーワードだけでも押さえてみてほしい。

文=ERI KUBOTA

当記事はSPICEの提供記事です。