『ククルス・ドアンの島』服部隆之が目指した「各場面に寄り添う音楽」

『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は、ガンダムシリーズの原点であるテレビアニメ『機動戦士ガンダム』、そのシリーズ中でも異彩を放つ15話『ククルス・ドアンの島』を完全映画化。TVアニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイン・アニメーションディレクターであり、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』を手掛けた安彦良和さんが監督を務めたことも、大きな話題を呼んでいる。

劇中の印象深いドラマシーンやバトルシーンは、最高の音楽が加わることによってさらなる深みが加わっている。OVA『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』に引き続き、安彦良和作品の音楽を担当した服部隆之さんのインタビュー前編は、本作作業におけるテーマがいかなるものだったか、また安彦監督が音楽面でこだわった部分についてお話を伺った。(全2回)



>>>『ククルス・ドアンの島』安彦良和が大切に描いたドアンと子供たちの場面を見る(写真11点)

――今回『ククルス・ドアンの島』に関わることになった際に、どのような感想を持たれましたか?

服部 『機動戦士ガンダム』の劇場版が公開されてブームになっていた頃、僕は海外へ留学してしまったので、あまり作品に関して存じ上げていなかったんですね。『THE ORIGIN』でのご依頼の際には、「詳しいことは知らなくてもいい」と安彦良和先生に納得してもらった上で、シャアの人生が形成されるまでのひとつの大河ドラマみたいな部分を踏まえた形で音楽をやらせていただいたんです。

今回お話をいただいた際も「ククルス・ドアンの島」というエピソードに関してもまったく知らなかったですから、とても新鮮な気持ちで関わらせてもらった形ですね。

――今回安彦監督とはどのようなお話をされたのでしょうか?

服部 最初に打ち合わせをした時に「子供の存在がすごく大きい」という話をされていて、こだわりもすごく持たれていました。楽曲の打ち合わせでも「まずは子供のテーマが欲しい」という話をされて、劇中では何度も使われることになるということだったので、どういった感じにしていけばいいのか、音響監督の藤野(貞義)さんや、副監督のイム ガヒさんも交えて確認しながら進めていきました。

――作業するにあたり、何か指針になるものはあったのでしょうか。

服部 戦災孤児である子供たちのメンタリティは、実際はなかなかハードなものがあると思うんですよね。そこに責任を感じているドアンが彼らをきちんと養い、精神的なケアをしていることで生き生きと屈託なく過ごしている。時には、無邪気にモビルスーツに石を投げたりもするわけですからね(笑)。そんな彼らのキラキラとした部分をどう出すべきか話をしている時に、誰かが「『ホーム・アローン』的なものはどうだろうか」という提案をしてくれて、そこからイメージを掴んでいきました。

――それに併せて、ククルス・ドアンの楽曲も作られた?

服部 冒頭の戦闘シーンからタイトルが出るまでの長めの曲が、ある意味ドアンのテーマ曲です。子供たちが「終わったね」と話をするシーンでは演出的に音がオフになっているんですが一連の曲として作ってあり、メインタイトルが出るタイミングに一番美味しいサビが来るようにしました。他でもドアン絡みのシーン、例えば釣れた魚の説明をするシーンや荒れた土地を耕すシーンでもアレンジして使われています。

(C)創通・サンライズ

――『THE ORIGIN』では「シャアの曲」ともいえるメインテーマを、シチュエーションに合わせてアレンジして使っていましたが、今回はまたアプローチが違った印象を感じました。

服部 おっしゃるとおり、いつもならテーマが決まるといろんなバリエーションを作って、各場面に当てていくんですが、今回は打ち合わせの時にそういう話にならなかったんですね。普通なら誰かが「ここでドアンのテーマのバリエーションを……」と言ったりするんだけど、誰もそういう意見は出さず、僕もなぜかそういう風に考えなかった。

――『THE ORIGIN』はOVAという連続で観ていく作品であるという性格上、観る側にイメージを固めさせる曲が必要だった。一方『ククルス・ドアンの島』は各シーンのイメージを大事にしていったということでしょうか?

服部 おそらく、その通りだと思います。これは個人的に思っていることなんですが、『THE ORIGIN』という作品は、シャアが絶対的な軸として存在している。しかし『ククルス・ドアンの島』は、ドアンがタイトルロールになっていますが、主軸にドアンがいるのかというと、それはまたちょっと違うなと思ったんです。

安彦さんからは「ドアンの持っている、彼独特の生き様を表すものが欲しい」という話があったんですが、本編中にその生き様が垣間見えるところがあまり無いですし……アムロとドアンの話でもあり、ドアンと子供たちの話でもあるわけです。例えばドアンが夜遅く仕事をしているところにカーラがお茶を持ってくるシーン、あそこはドアンではなく、カーラがほのかに抱くドアンへの恋心というか、それに近い心情に軸足を置いているので、そういう曲が欲しいと思ってしまう。

――音楽はカーラの気持ちに寄り添うわけですね。

服部 そういうことです。そういった話をしながら1曲ずつ打ち合わせをしていった結果、こうした音楽構成になっていたという感じです。

――ドアンは「主役」というよりもアムロと世界、そして子供たちを結び付けて変化させていく「触媒」なのでは、とも感じられました。

服部 そうなんですよ。自分でも、話をしながらだんだんそういうことがわかってきた感じですね(笑)

――今回、曲数が多かったように思えましたが、各キャラクターのその時々の心情に重きを置くからこその結果だったのですね。

服部 そうですね。他にもアムロが何度もガンダムを探しに行く場面、その時の彼の心の葛藤や必死さに自分はグッときたので、そういう部分を音楽でしっかりとクローズアップしていきたかったところがありますね。

――安彦監督が特に音楽にこだわった場面はありましたか。

服部 安彦さんが大事にしていたポイントは、ガンダムを探すアムロ、自分で戦いたいという思いをドアンに告げたいマルコス、秘密工作に勤しむドアンが地下施設で一堂に会するシーンですね。「それぞれ同じ場所に立ちながら意見の違う話をする流れの中に、カタルシスを作りたい」という話をされて、そうした曲にしてほしいとかなり強く言われました。

なので、それぞれが出かけるところで小さな音の刻みを入れておいて、それがどんどん拡大していくような流れの曲になっているんです。あの場面でしかかからない曲ですが、改めて自分の中で振り返っても印象的なシーンに仕上がりましたね。
(後編に続く)

(C)創通・サンライズ

当記事はアニメージュプラスの提供記事です。

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