安彦ガンダムを見事に成立させた『ククルス・ドアンの島』の作画術

現在公開中の安彦良和監督作『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は、ガンダムシリーズの原点であるテレビアニメ『機動戦士ガンダム』、そのシリーズ中でも異彩を放つ第15話『ククルス・ドアンの島』を完全映画化。『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙』の劇場公開から40年の時を経てRX-78-02 ガンダムとアムロ、そしてお馴染みのホワイトベースの仲間たちが登場する物語が展開されていく。

本作の大きな見所のひとつは、安彦良和が手掛けたキャラクターデザインと演出を受け止め、ハイクオリティに仕上げられた作画表現。今回は本作の総作画監督を務めた田村篤にインタビューを敢行、後編は若いスタッフとの共同作業、安彦キャラを描く楽しさと苦労、本作の見どころなどについて伺った(全2回)。

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――作品全体の画作りとしては、新しい絵柄でありながら懐かしい雰囲気も醸し出す意識があるように感じたのですが、その辺りはどのように考えられましたか?

田村 フォーマットとしては『THE ORIGIN』の総作画監督・西村博之さんが作られたものをベースにしていますが、僕個人としては『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙』の頃の安彦さんの絵が大好きなので、どこか隠し味的にそういう気分を入れられないかなと思いました。
具体的にはヘルメットの影の付け方や二号影(ノーマル色から二段階目に暗い影)の入れ方、顔のちょっとしたニュアンスなど、『THE ORIGIN』のルールを守りながら手を加えていた感じはありますね(笑)

――西村さんのキャラはスタイリッシュにまとめられた印象ですが、田村さんのキャラはそこからもう一歩踏み込んだ安彦さんの絵に対するこだわりが感じられます。

田村 西村さんは安彦さんが現在描かれているテイスト、シャープな大人の絵としての作画を目指していたしたと思います。僕の場合は、もう少し昔の子供向け番組に携われていた頃の絵柄やニュアンスを出していきたいという下心がありまして(笑)。

――子供たちが多く登場することから、『わんぱく大昔クムクム』やTVアニメ『機動戦士ガンダム』でのカツ、レツ、キッカたちの動きを思い出す人も多かったかもしれないです。

田村 そうですね、題材的にもそうした作品の方向性が合うんじゃないかという思いもあって、あえて入れていきました。

――映像の仕上がりに関しても『THE ORIGIN』とは違う雰囲気になっていますね。

田村 僕自身がアニメを作る時に何を動機にしているかというと、「この絵を観ていると気持ちいいな」と思えるものを表現することにあるんです。背景美術に関して言うと、今回はデジタルではなく、絵の具を使った手描きで描いてもらいました。宇宙ではなく大地が舞台なので、その方が土臭い感じが出てキャラクターの絵柄にも合うと思ったんですね。そういった試みが、観た人に伝わるといいなと思っています。

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――個人的に本作でこだわった部分は他にありますか。

田村 シンプルにちゃんとしたアニメーションを目指したい、というのはありましたね。凄いものを見せる、みたいなことではなくて、日常的な何てこともない部分をちゃんとアニメーションで見せたかったんです。
実は「何てこともない」というのが一番難しくて……ちょっと変だったり、逆にすごく上手くて目立つ絵は目立つのですぐ気付けるんですけれど、「普通」の場面がそうなってしまうと失敗なわけです。もし「普通」の描写が特に気にならずに観てもらえたなら、こちらのこだわりは成功したんだと思います。

――なるほど。そこに、安彦さんが描くキャラらしい動きや仕草を入れていくわけですか。

田村 そこがまた難しいところなんですよ。自分も安彦さんの作品を観て育っているので、それをやり過ぎるとまた気になってしまいますからね。
漫画だったら成立するけどアニメだと破綻することもあるので、安彦さんのキャラらしさを保ちながら、あまり安彦さんの癖を見せず普通の芝居として認識してもらえるのはどの辺りなのか……という判断や見せ方の匙加減は楽しい反面、とても苦労しました。

――今作のストーリーに関しては、どのような感想を持たれましたか?

田村 「ククルス・ドアンの島」を映画にする、と聞いた時はすごく驚きました。驚きましたけれど、安彦さんが監督されるのであれば面白く描けるのではないかな、と思いました。安彦さんの個性も落とし込めるし、ガンダムワールドの良いところを描くにもちょうどいいと思えました。安彦さんもおっしゃっていましたが、最初の『機動戦士ガンダム』はアムロがいろんな人と触れ合うことで成長していくことが主題だった、と。だから、本作もそういった主題に立ち返っているんだろうなと思いました。

――確かに。エースパイロットとしてホワイトベースで慢心していたアムロが、ドアンや子供たちと生活することで自分の未熟を知り、そこから成長して再びガンダムに乗り込むという、小さな成長譚でもありますね。

田村 そうですね。それが描けないと『機動戦士ガンダム』をこの形でリメイクする意味がないし、それこそが安彦さんのガンダムなんだろうな……と、そんな気がしました。ドアンというキャラクターも「戦争」という局面を描くのにある意味わかりやすい題材だと思うし、そういう安彦さんの思いがひとつに集約されている気がしますね。

――数多くの安彦キャラを描いたと思いますが、描いていて楽しかったキャラクターは誰ですか。

田村 プレッシャーが大きすぎて楽しむのはなかなか難しかったですが(笑)。マ・クベは好きなキャラなので思い入れがありますね。安彦さんもマ・クベが好きみたいで、本当はもう少し出番が多かったんですよ。でも、さすがに話が脱線しすぎるということで切ってしまったんですよね。女性キャラではミライさんが描いていて楽しかったですね。

――では最後に、作品を完成させた感想と個人的な見どころを教えていただけますか。

田村 すごく大変でしたが、安彦さんと楽しく作業をすることができて光栄でした。見どころとしては、YAMATOWORKSさんの作ったCGによるモビルスーツのバトル、あとエフェクト作画監督の桝田浩史さんがこだわりを持って「安彦爆発」を描いていますので、そうした部分と併せてストーリーを楽しんでいただければと思います。

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当記事はアニメージュプラスの提供記事です。