日本人女性の声は世界一高い。心地いい“自分の本物の声”の見つけ方

女子SPA!

 海外の映画やテレビと比べたり、海外から帰国して気づくのが日本女性の声の高さ。日本女性の声はなぜ高いのだろうとずっと不思議に思っていたのですが、音楽ジャーナリスト・声の研究家である山崎広子さんの著書『心を動かす「声」になる』と『声のサイエンス』を読み、その答えを見つけました。

驚くべきことに、日本女性の声の高さはジェンダーギャップや経済にも関係があるとか。今回、山崎広子さんに前編・後編にわたって詳しくお話を聞きました。

(※山崎広子さんの崎は立つ崎(たつさき)が正式表記です)

◆失声症が原因で声の研究を始めた

――山崎さんが声の研究を始めたのは何がきっかけだったのですか?

山崎広子さん(以下、山崎)「私自身が中学に入学してまもなく失声症になったことがきっかけです。実は親にも言えなくてひとりで随分悩んでいたんです。いくつもの病院に行っても治らず、大学に入ってからはヴォイストレーナーについたり、色々な大学を回って先生方に訊いたりしたのですが、声のことをきちんと教えられる大人を見つけることができませんでした。そこで、『これは自分で解明していくしかない』と決心し、自分で調べていくようになりました」

◆“自分の声”を持っていないことに気づく

――中高から大学へ進むなかで失声症はどうなったのでしょうか?

山崎「突然声が出なくなるという症状は大学生になっても断続的に繰り返していました。私は小さな頃から1日のうちに5~6時間もピアノの練習をする日々を送ってきて、自由に遊ぶということがほとんどなかったんです。それが知らず知らずのうちにストレスになっていたのかもしれないと思いました。ただ、声の研究を進めていくなかで、もうひとつ気づいたことがありました。私は“自分の声”をもともと持っていなかったんです」

◆声は、“声のテンプレート“がないと出せない

――どういう意味ですか?

山崎「小学生の頃から私はピアノの前に黙って座って練習している時間がとても長かった。練習や宿題が終わったらもう夜10時や11時の日々。それから本を読むのがなによりの楽しみでしたが、本を読むときも黙っていますよね。つまり、学校にいる間しか声を出していなかったんです。おしゃべりな子ではありましたが、声が出なくなった瞬間を振り返ると、感情をどのように声に乗せたらよいのかわからず戸惑っていたように思います。要は、自分の感情が高ぶっていたときに声を出そうとしたけど、声が出せなかったんです」

――感情を出すことができないから声も出なかったということですか?

山崎「はい。声というのは、自分が出してきた声、そして、他人の声を聞くことで無意識に培われてきた『声のテンプレート』がないと出せないものなんです。例えば、自分の周囲の人の声が高いと、知らぬうちに同調するかのように自分の声も高くなっていきます。日本人でも、日本にいたときは高い声で喋っていたのに、アメリカ留学から戻ってきたらすごく低い声になっていたりすることが実際によくあります」

――確かに、私も英語で外国人と話すときは声が低くなります!

山崎「それは言語の違いのせいだと思われていますけれど、アメリカでの英語話者たちの声、つまり周りにある声が低いから、それに同調して英語で話すときには『低いテンプレート』を出す習慣がつくんです。アメリカでは女性のアナウンサーも声が低いですよね」

◆日本人女性の声は世界一高い

――山崎さんは著書で日本人女性は世界一声が高いと記されています。

山崎「もともとは海外の論文に書かれていたことなんですが、実際に声のピッチを測ってみたら、本当に日本人女性は声が高いんですよ! 声の高さには体格も関係があり、体が小さい人は声帯も短めなので声が高くなり、体が大きな人は声も低くなります。しかし、そういった体格差をこえて日本人女性の声はひときわ高いんです。各国の女性アナウンサーの声を録音したものがあるので、聞いてみませんか?」

――ぜひお願いします。

<インド、フィンランド、ドイツ、イギリス、アメリカ、中国、日本の女性アナウンサーの録音を聞く>

◆民放女性アナウンサーの声はダントツの高さ

――いや、驚きました! 本当に日本人女性の声はダントツで高いですね! 興味深いことに、同じアジア系民族である中国人女性よりもずっと高いです。それに、日本人女性の声は“若さ”しか感じませんが、ほかの国、特にイギリス人とドイツ人女性の声からはなんとなく年齢がうかがえるような声の“成熟度”に加えて、その女性の“個性”を感じました。

山崎「そうでしょう? ある1日の女性民放アナウンサー10名の声の周波数を計測して平均を出したら、340Hzという高さだったんです。これは真ん中のドの上のファくらい。これは平均ですから、これよりも高いラやシも出ていて、ほぼ裏声なんですよね。本来、身長が160cmぐらいの成人女性だと、地声の平均は220~260Hz程度が自然なんです」

◆男女格差の大きい国の女性は声が高い

――インド人女性の声もかなり高いですね。

山崎「インド人女性の声も日本人女性とほぼ同じくらいに高いですよね。興味深いことにジェンダーギャップ指数が低い(男女間で格差が大きい)国の女性の声は高いんですよ。ジェンダーギャップ指数が高い国の女性アナウンサーの声はとても低い。北欧やドイツでは体格も大きいですから、単純に高低だけの判断は危険ですが、年齢相応の成熟した人間としての魅力が声に出ているように思います。しかし、日本では女性の“若さ”に価値がおかれているからでしょうか、年齢よりも幼く聞こえる高い作り声をしている方が多いように感じます。

私の生徒さんに女性アナウンサーの方がいるのですが、彼女は年齢に反して、仕事で求められる高い声を出し続けた結果、痙攣性発声障害になってしまいました。無理して作り声で話し続けていると、脳がSOSを出すんです。『もっと自分のよい声を出していきましょう』って。ですから彼女には喉頭を自然におろして低い声で話してもらうようにしました。すると、一緒に働く人々からだけではなく、視聴者からも大好評だったそうです。無理をした作り声ではなく、自然な本来の声で話すと自分自身が心地よく、また聞く人にとっても心地よい声として響きます」

◆自分の脳が納得する声が本物の声

――興味深いですね。それはなぜでしょう?

山崎「自分の本当の声には、自分が大切にしてきた本音や個性が表れます。日本では『女性は高く可愛らしい声で話すべし』という価値観が浸透していますが、それに屈せず、自分が出していて気持ちよいと感じられる声が、その人の本来の個性豊かな声なんです。しかし、私たちは話す“内容”にばかりとらわれていて、自分がどんな“声”で話しているかは意識しませんよね」

――はい。それに多くの人が自分の声に違和感を覚えているのではないでしょうか? 私も取材の文字起こしをするときに自分の声を聞くのですが、自分じゃないみたいですごく嫌です。

山崎「自分が話しながら聞く自分の声は、録音とは違って聞こえます。それは頭蓋骨などを通して自分の中から聞こえてくる声と、空気を伝わって耳から入ってくる声が混ざっているからです。録音した声は空気伝導だけなので、ちょっと薄く高めに聞こえるんですね。加えて、自分の声に嫌悪感を抱いてしまうのは、“その声を出していたときの感情”がわかるから。録音した自分の声を聞いて違和感を覚えるのは普通ですが、自分の声が嫌いな人はその声に自分が納得していないということなんです」

◆自分の本物の声「オーセンティック・ヴォイス」の見つけ方

――そういう場合はどうすればよいのでしょう?

山崎「そんな方には自分の本物の声、『オーセンティック・ヴォイス』を見つけることをおすすめしています。会社でのプレゼン、同僚と話すとき、家族と話すとき、友人と会っているときなど、色々な場面で10分から20分間ほどスマホなどで録音してみましょう。最初は自分の声を聞いてがっくりするかもしれませんが、そこでつまずかず、時間が取れる限り、何度も聞いて自分の声に慣れてください。そうして、声を出したときの自分の状態や思いを振り返ります。そうすると『自分はこう思ったときにこんな声を出しているんだ』とわかります。これは自分自身に向き合う作業でもあります。

次に、たくさん録音した声の『音』のなかから、本能的に『好き、快い』と思う音をみつけてください。いいなと思った声はあれこれ考えずに、すぐその声を出してみて録音する。そしてまた『いいなと思う声』を探す。見つからなかったら、録音するときに普段より少しゆっくりめに、そして、少し低めに話すことを意識してみてください。これを繰り返すことで、『自分の脳が納得する声』であるオーセンティック・ヴォイスを発見することができます」

◆自分にとって心地のよい声を聞くとドーパミンが産生される

――言葉遣いや話す内容よりも、オーセンティック・ヴォイスを見つけることのほうが大切なのでしょうか?

山崎「はい。話し方や話の内容はいくら素晴らしくても、ほとんどは一晩寝たら忘れてしまいます。でも、声は人の脳の基幹領域に刻まれる本能的なものです。話し方や内容など『意識的』に判断するのは大脳の新皮質ですが、声という音は新皮質に届く前に間脳や中脳、大脳辺縁系などを刺激して神経伝達物質を生じさせます。自分にとって心地よい声を聞くと、セロトニン、エンドルフィンやドーパミンが産生されます。ところが、“嫌な声”が脳に入ってくるとストレスホルモンであるコルチゾールなどが分泌されてしまう。自分の声は一生を通して自分の内外から聞き続けるわけですから、自分のオーセンティック・ヴォイスを見つけることは非常に大切なんです」

◆一般的なヴォイストレーニングは声を表面的に変えるだけ

――普通のヴォイストレーニングからも、オーセンティック・ヴォイスを見つけることができますか?

山崎「一般的なトレーニングは声を表面的に変えようとすることが多いですね。『いい声になりたい』というような漠然とした気持ちでトレーニングを受けると、ヴォイストレーナーさんの好みの声や、単に出やすいだけの声、あるいは目的に特化した作り声になってしまうことがあります。声優やアナウンサーの声は必ずしもオーセンティック・ヴォイスではないんです。ちょっと難しいと感じるかもしれませんが、自分の声に真摯に向き合うことによってしか、自分のオーセンティック・ヴォイスを見つけることはできません」

<取材・文/此花わか>

【此花わか】

映画ジャーナリスト、セクシュアリティ・ジャーナリスト、米ACS認定セックス・エデュケーター。手がけた取材にライアン・ゴズリング、ヒュー・ジャックマン、エディ・レッドメイン、ギレルモ・デル・トロ監督、アン・リー監督など多数。セックス・ポジティブな社会を目指してニュースレター「此花わかのセックスと映画の話」を発信中。墨描きとしても活動中。twitter:@sakuya_kono

当記事は女子SPA!の提供記事です。

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ