<オードリー・ヘプバーン>映画史に残るアイコニックな衣装を振り返る

 “永遠の妖精”と呼ばれ、世界中から愛されたオードリー・ヘプバーン。彼女の知られざる物語が語られるドキュメンタリー映画、その名も『オードリー・ヘプバーン』が公開された。美の概念を変えたと称される彼女には、今も記憶に残るアイコニックな衣装がいくつも存在する。その数々を振り返ってみよう。

★『ローマの休日』(1953)



ローマを訪れた王女さまの逃避行とひと時の恋を描き、オードリーの名を世界中に知らしめた本作。堅苦しい王室の暮らしから逃れ、ローマの街でしばし自由を満喫するプリンセスが着るのは、シンプルな白いブラウスとミディ丈スカートというなんてことない優等生スタイル。それなのに、ローマの暑さに袖をまくり、襟元に足したスカーフと、オードリーの細いウエストをマークするベルトの効果か、一度見たら忘れられないルックに。グレゴリー・ペック演じる新聞記者を乗せてベスパで疾走するシーンは、記憶にあまりにも色鮮やかで、映画がモノクロだったなんて信じられないほど。

生き生きした町娘ルックと対照的なのが、映画の冒頭、歓迎舞踏会のシーン。プリンセスとして大勢にかしずかれ、豪華なドレスに身を包み、宝石輝くティアラを冠したオードリー。輝かんばかりの衣装なのに、その表情は堅く寂し気なのが印象的。

★『麗しのサブリナ』(1954)



ハンフリー・ボガート演じる大富豪と、運転手の娘の身分違いの恋を描く『麗しのサブリナ』。本作からは、タイトルを冠した「サブリナパンツ」が誕生した。クロップド丈のパンツは、オードリーの細いウエストを強調するように、腰回りが少しゆったりしたライン。合わせた黒のニットは、一見シンプルだけど、背中が開いた攻めのデザイン。これにバレエシューズを合わせるのがオードリー流。簡単に真似できそうなのに、いざ試してみたらきっと違うものになってしまう、計算しつくされたコーデ。

本作を代表する、もうひとつのアイコニックなルックが、ユベール・ド・ジバンシィがデザインした黒の刺繍と、裾に黒いラッフルがあしらわれたストラップレスドレス。お転婆娘だったサブリナが美しい大人の女性に成長したことを、登場人物と観客に知らしめる大事なシーンで、完璧にその役割を果たした。本作でジバンシィの名がクレジットされることはなかったものの、これを機に2人の友情がスタート。以降、スクリーンの内外で幾度となくコラボが生まれるきっかけとなった記念すべき一枚でもある。

★『パリの恋人』(1957)



グリニッジビレッジの本屋に勤める真面目女子のジョー(オードリー)が、ファッション誌のカメラマンに見出され、撮影で訪れたパリで一回り成長するというシンデレラストーリー。ミュージカル映画のレジェンド、フレッド・アステアと一緒に歌って踊るオードリーを堪能できる一作。

ユベール・ド・ジバンシィと『麗しのサブリナ』のコスチュームデザイナー、イーディス・ヘッド正式コラボ作品で、オードリーが新米モデルに扮するだけに、劇中登場するファッションも本作の大きな見どころ。リボンを2段に配したストローハットをかぶるオードリーは絵画のように美しい。モノトーンの小花柄ドレスはレース地をふんだんに使い、バックにギャザーを寄せたAラインのシルエットがオードリーの可憐さを引き立てる。

★『ティファニーで朝食を』(1961)



オードリーの代表作の一つ『ティファニーで朝食を』。宝石店ティファニーのウィンドウの前で、コーヒー片手にクロワッサンを食べるオードリーの姿は、たとえ映画のストーリーを知らなくても、きっと一度は見たことがあるはず。映画史上最も有名なファッションの一つとしても知られる。このリトル・ブラック・ドレス(シンプルな黒のカクテルドレス)はジバンシィのもので、ドレスと同色の長めのグローブと、ボリュームあるパールのネックレスをプラス。ヘアは高くアップにまとめ、小さなティアラをオン。オードリー演じる娼婦ホリーの、エレガントだけど常識に捉われないアンバランスな魅力を、ファッションで体現してみせた。

本作では、ホリーのルームウェアにも注目。男性物のドレスシャツを素肌に羽織り、金の縁取りと、閉じた瞳のモチーフがキッチュなターコイズ色のアイマスクをオン。耳栓まで手抜かりなく、同色のフリンジが耳元で揺れる様子はまるでイヤリングのよう。キュートで突拍子もないホリーは、おひとり時間もおしゃれすぎてため息が出る。

★『シャレード』(1963)



亡くなった夫の金銭トラブルをめぐるロマンティック・サスペンス。本作でもジバンシィとオードリーのコラボが冴えるが、サスペンスだけに顔を隠すアイテム、サングラスとヘッドスカーフ使いが印象的。

夫を亡くしたレジーナ(オードリー)の前に現れた親切な紳士ピーター(ケーリー・グラント)は、魅力的だけど、なんだかアヤシイ。そんなピーターを尾行するシーンでオードリーが着ていたのは、トレンチコートのベルトをぎゅっとしめ、同色のスカーフをマチコ巻きにしたオールホワイトコーデ。ストーリー的にはいかにもすぎるルックだけれど、ミニマルながらエレガントでクラシカル。いつの時代に見ても、はっと目を引くタイムレスなファッションと言えそう。

★『マイ・フェア・レディ』(1964)



下町の花売り娘イライザが、言語学者のヒギンズに研究材料として雇われ、立派なレディに変身を遂げる…というシンデレラストーリー。上品な言葉遣いを徐々にマスターし、セレブが集うアスコット競馬で力試しをするシーンでは、その気合を表すかのようにドレスもゴージャス。羽をふんだんに使い、顔の倍もあろうかというボリューミーなハットと、ボーダーの大きなリボンがモチーフのドレスは、コスチュームデザイナーのセシル・ビートンによるもの。彼は本作でアカデミー賞衣裳デザイン賞を受賞している。

公開から半世紀以上経つ今も、全く色褪せることのないオードリーの代表作と、衣装の数々。映画やドラマ、イベントなどでオマージュされたものに触れる機会も多いが、ドキュメンタリー公開を機に、彼女の出演作でオリジナルをチェックしてみることを、ぜひぜひオススメしたい。(文:寺井多恵)

当記事はクランクイン!の提供記事です。