橋本淳インタビュー~加藤拓也とのタッグで挑む舞台『もはやしずか』で「観客の生活の中にどう問いを残せるか」

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2022年4月2日(土)~17日(日)シアタートラムにて、舞台『もはやしずか』が上演される。

舞台はもちろん、昨年NHKで放送されたドラマ「きれいのくに」で第10回市川森一脚本賞を受賞するなど、高い評価を得て今や各方面から引っ張りだこになっている「劇団た組」主宰の加藤拓也と、数々の話題作に出演し、映像と舞台の両方で存在感を発揮している俳優の橋本淳がタッグを組む本作は、現代の夫婦における問題をベースに、家族そして自分自身の存在意義を問いかける作品になっている。

2019年の劇団た組公演『在庫に限りはありますが』、2020年のシス・カンパニー公演『たむらさん』に続き、橋本が加藤の手掛ける舞台に出演するのは3回目となる。ドラマ「きれいのくに」へも出演するなど、加藤作品への出演がコンスタントに続いている橋本に、今作について話を聞いた。

加藤作品への参加は戦いの日々「殴りあってますよ(笑)」


ーー今作のことを知ったとき、「加藤さんと橋本さん、また一緒にやるんだ」と思ってしまったのですが……

ハハハ! それ、すごい言われます(笑)。

ーーでも、お2人がご一緒した作品の数は決してそんなに多くはないんですよね。

そうですね、舞台作品で言うと今回が3回目で、映像含めると5、6作品くらいですね。でも「よく一緒にやっている」というイメージを持ってもらえるのは嬉しいです。
橋本淳
橋本淳

ーーそういうイメージを持つのは、コンスタントに加藤作品にご出演されていることもありますし、橋本さんが加藤さんの作品世界にものすごくしっくりくるっていうのもあるのだと思います。

本当ですか? 加藤くんが僕の何を気に入って起用してくれているのかはわからないですけど、僕は本当に加藤くんのことを信頼しているし好きなので、だから嫌われないようにとか、「こいつからはもう新しく出てくるものはないな」って思われないようにどうすればいいか、ってことを考えてしまいます(笑)。でもやっぱり、彼の持つ世界観だったりとか、演出の鋭さだったりとか、毎回緊張しますけど楽しいですね。

ーー今公演に際してのコメントで、加藤さんの作品に参加するたびに寿命が削れていくとありました。

今回も死期が迫っているのは感じますね(笑)。それほど消費させられます。実際の消費カロリー的には、声も普通のトーンですし、動きもそんなにないから汗もかかないんですけど、どうしても感情の部分での消費が激しいですし、自分の人生を切りながら出力している感じですね。そうじゃないと彼の本には太刀打ちできないですし、今回は120分ぐらいの尺になる予定なんですが、その時間内に凝縮された世界の中で演じたり立ち続けるためには、僕自身が消費しないといけない部分はとても多いなと感じています。

ーー以前のインタビューで、加藤さんの作品に参加するときは「毎回、戦っている感じがする」とお話しされていました。今回も戦っていますか?

いやもう、殴りあってますよ(笑)!  加藤くんは明確な答えは絶対言わないんです。だから、役者自身がそれぞれ考えて、きっと加藤くんが持っている答えはこうなんじゃないか、そこにたどり着くにはこういう流れで作っていけばいいんじゃないか、と不安を持ちながらも探していく作業はまさに戦いですね。僕としては、加藤くんが予想している斜め上のものを提示したいですし、そうしないと次はないと思うので、日々死闘を繰り広げています……完全に僕は防戦一方ですけど(笑)。それが楽しい部分ではあるんですけどね。
橋本淳
橋本淳

「キャスティングに困ったら橋本に頼もう」と思ってくれたら嬉しい


ーー加藤さんは橋本さんのことを「複雑なことを簡単にせずに、複雑なままお芝居にしてくれる役者」とおっしゃっていて、役者・橋本淳の魅力を言い当てているな、と思いました。

だって、彼が複雑なことを書いているからそうなるんですよ(笑)。僕も加藤くんも性格的に、ストレートには表現したくないっていう意識が大きくて、だから1回見ただけではわからせたくないというか、お客さんが“受け取り待ち”な芝居はしたくないんですね。「今こんな感情なんですよ」とか「今こういう過去を引きずってますよ」と提示してしまうのは芝居を作る上でとても楽なんですけど、お客さんの人数分それぞれの答えが出るのが一番いいと僕は思っているので、そこはわかりやすく提示したくないと思っています。自分が一番表現したい部分は隠しつつ、どんどん層を上に重ねて表皮を作っていくという作業が好きなんです。加藤くんの作品は皮があればあるほど豊かになっていくので、皮を重ねて作っていきながら、でもここは見せたいよね、っていうところは皮をちょっとペロッと剥いて見せたりとか、という作業は大事にしていきたいなと思っています。

ーー昨年ご出演された『ザ・ドクター』は非常に力のある作品、共演者も力のある方ばかりでしたが、それらに対抗しうる芯の強さが橋本さんから感じられ、また一段と役者としてアップデートされたなと思いました。どんな作品に出ても、作品世界に違和感なく染まりながら求められている役割をしっかり果たされていますよね。

そう言ってもらえるのはとても嬉しいです。でも昔は「個性がない」と言われまくって、すごく劣等感がありました。10代20代の頃はオーディションに落ち続けて、もっと色をつけろとか、モヒカンにしろ、とか言われたりしていたんです。でもある時から、これは短所じゃなくて長所なんじゃないかな、と思えるようになってきて、そこから演出家によって出し方を変えたり、戯曲によって表現の仕方を変えたり、ということを自覚してやるようになりました。「なんかあの人、こういう役やりそうだよね」と思われるよりも、「キャスティングに困ったら橋本に頼もう、彼ならなんでもできそうだから」って思ってもらえたらうれしいな、というのを20代の頃に理想に掲げたので、その姿にちょっと近づいてきたのかなとは思いますね。
橋本淳
橋本淳

熱烈オファーで黒木華の出演が実現「理想的なキャスティングが揃った」


ーー今回、黒木華さんのご出演に際して、加藤さんと橋本さんで熱烈オファーをしたとうかがいました。

華とは舞台では『飛龍伝』と『書く女』で共演していて、映像でも共演したことがありますが、今回の台本を読んだときに、僕がある程度昔から知っていて、しかも信頼できる方にお願いしたいと思い、ダメもとでオファーしました。本当にみんな理想的なキャスティングが揃ったので、加藤くんも楽しそうです。みんなそれぞれ、これまでとは違う顔が出ているんじゃないかなと思います。華も、大きな舞台にたくさん立ってきているので、舞台でこんな小声でやるのは初めてだと言いながら楽しんでやってくれています。そういう華を演劇で見せたいと思っていたのでそこは本当に嬉しくて、「喜んでやってるわ、あの子」と、なんだか親みたいな気持ちで見守っています(笑)。

ーーこの作品でこのメンバーがそれぞれどんな顔を見せてくださるのかますます楽しみになりました。

加藤くんが稽古が始まる前にツイッターで「正真正銘ベストプレイです」って書いていて、なんというプレッシャーをかけてくるんだ、と思いました(笑)。「本は本当によく書けてるんで、これで賞が取れなかったら橋本さんのせいです」ってずっと言ってくるんですよ。加藤くんが自信を持って力作だと言う大切な作品をより良くしてお客様に届けたいので、今は苦しんで楽しむしかないかな、という感じですかね。

ーーわかりやすい作品や答えがはっきりしている作品が多いなと感じる昨今の中で、加藤さんの作品は答えがないというか正解がないというか、見終わって「わからなかった」という感想を持つ人も多いと思うんですけれども、そこが加藤さんの作品の魅力だし、人によって考え方も解釈も違うということを、今回の作品も改めて感じさせてくれそうです。

何か答えを求めている風潮も、世の中どうしてもあるように感じますね。わからなくても全然いいと思うんです。「わからなかった」ということを楽しめるかどうかだと思うんですね。わからなかったことをわからないままにするんじゃなくて、なんでわからないんだろう、と疑問を持てる人の方がきっと人生豊かになると思います。今作は本当に見た人の数だけ感想がある作品だと思うので、そこは純粋に楽しんで欲しいですね。特に演劇は答えを提示しないで、お客さんの生活の中にどう問いを残せるか、というのが面白い部分だし僕の好きなところではあります。こういう世の中ですが、劇場空間に来てもらって生の空気を体感して欲しいですね。
橋本淳
橋本淳

取材・文=久田絢子   撮影=中田智章

当記事はSPICEの提供記事です。