L’Arc~en~CielのHYDEが、バンドとは異なるスタンスで自らのアーティスト性を掘り下げたソロ作『ROENTGEN』

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今週末1月29日にHYDEが『HYDE COMPLETE BOX 2001-2003』をリリースする。自身の1stアルバムである『ROENTGEN』と、その英語版である『ROENTGEN.english』、本作に収録された4曲のミュージックビデオ集であるBlu-ray『ROENTGEN STORIES』、さらにはレコーディングの模様を追ったドキュメンタリー作品のBlu-ray『2000 LONDON RECORDING MOVIE』が同梱された豪華4枚組のボックスセットだ。今年、ソロ活動をスタートして20周年目という節目の年に相応しい作品集と言える。当コラムでも、その『ROENTGEN』を振り返る。

■ソロ作品ならではの取り組み

音楽に限らず、アート作品とは作者の何かしらが滲み出てしかるべきものだ。とりわけバンドの一メンバーのソロ作品はそれがより色濃くなるように思う。バンドの場合、個々のメンバーの役割がきっちり1/4や1/5ではないにせよ、少なくともソロになることで己がやることは限りなく1/1となるわけで、作者のカラーが強く出るのも当然と言えば当然のこと。世界的には『John Lennon/Plastic Ono Ban』がその代表だろうか。日本では桑田佳祐『孤独の太陽』や布袋寅泰『GUITARHYTHM』がそうだろうし、奥田民生『29』や小沢健二『犬は吠えるがキャラバンは進む』辺りを挙げてもいいだろうか。無論、今回紹介するHYDE『ROENTGEN』もそうである。彼がボーカルを務めるバンド、L'Arc~en~Cielとは音像が異なる作品だ。

まず、バンドとの差異を探ってみよう。当たり前のことだが(というか、こう言ってしまうとほとんど馬鹿みたいだが)、バンドではないのでバンドサウンドが鳴りを潜めている。L’Arc~en~Cielがどんなバンドであるのかを一口に語るのはなかなか難しい。繊細なものもあれば、ドライブ感の強いタイプ、ダイナミックに迫るナンバーと、多種多彩だ。その辺はファンならずとも知るところではないかと思う。ただ、ひとつ言えるのは、いずれにしても、ギター、ベース、ドラム、そしてボーカルという4つの音が楽曲のベーシックにある。早い時期から、シンセや鍵盤を始め、ストリングス、ホーンセクション、打ち込みも楽曲に応じて柔軟に取り込んでいるバンドではあったと記憶しているが、全般においてバンドサウンドから大きく逸脱するようなものはなかったと思う。あったとしてもそれほど多くはないはずだ。まぁ、ロックバンドなのだからそれも当たり前だろう。

それでは、その一方、HYDEソロ作品である『ROENTGEN』は…というと──バンドサウンドを避けているという言い方は語弊があるかもしれないが、そのきらいを少し感じたところである。注目したのは、M3「EVERGREEN」、M4「OASIS」、M5「A DROP OF COLOUR」、M8「ANGEL'S TALE」。そこにM10「SECRET LETTERS」を加えていいかもしれない。どれも十分に(という言い方も変かもしれないけど)バンドアレンジが可能である印象を抱いた。それは歌メロにL’Arc~en~Cielに通じるものがあると感じたからかもしれない。その耳慣れみたいなものだろうか。ちなみにM3が1stシングルで、M8が2ndシングル、M5は映画のイメージソングになったというから、どれも汎用性は高いと言えるだろう。それ故に“このメロディーならこんなサウンドが合うのでは…?”といった、極めて個人的な脊髄反射のようなものとも言えるかもしれない。だが、いい意味でその耳慣れ、脊髄反射を裏切るサウンドメイキングを施している。

M3は、アコギと歌から始まり、そこにストリングス(この弦楽はプログラミングかもしれない)が施されていくという構成。サックスもピアノも聴こえる。エレキギターもベースもドラムは使っているが、俗に言うバンドサウンド的な印象はない。バンドではそのサウンドにストリングスやブラスをあしらっているとすれば、こちらはその逆で、ストリングスとブラスが主役といった面持ちだ。M4はギターが前面に出ていて、しかもそれがスライド奏法的な音色であって、さらにはオルガンなども重なり、ブルースを感じさせるナンバー。米国ロックの匂いがする。しかしながら、リズムは(たぶん)打ち込み。少なくともこの時期のHYDEがコテコテのブルースをやるイメージはなかったが、その辺は流石にソロ作品と言うべきか、興味深いアレンジだ。

前述した収録曲は“バンドアレンジが可能”と書いたが、M5は可能も何も、十分にバンドサウンドではある。ビートも強めだし(たぶん生ドラム)、ベースも大分派手に聴こえる。ただ、所謂Jロック的なそれとは明らかに趣が異なる。おそらくジャズに近い。トランペットも印象的に鳴っている。アーバンな雰囲気だ。アダルト・コンテンポラリー、AORと言ってもいいかもしれない。M8は、そもそもクリスマスソングをイメージして作られたものだというが、これもまた所謂Jポップ、Jロック的ではないと言ったらいいか、如何にもCMに起用されそうな煌びやかな雰囲気はほぼ感じられない。ギターのアンサンブルが淡々と連なる様子は北欧民謡のようであって、そこに穏やかなストリングスが乗っていく。コーラスの重ね方は讃美歌っぽい。一瞬、フィードバックノイズも派手なエレキギターが入る箇所があり、シューゲイザーやオルタナティブに展開するのかと思いきや、そうはならない。そんなところで余計にバンドらしさを感じなかったのかもしれないけれど、派手さはほとんどなく、終始、綺麗めの音色で彩られているのは確かだろう。M10の構造もM5に近く、ギター、ベース、ドラムが配されて、ベーシックはバンドものではあるものの、そこにマンドリン、アコーディオンを加えることで、HYDEがそれまで我々に見せてきた従来のサウンドを想起させない作りにはなっているとは思う。

■ニューウェーブの影響

さて、上記で紹介した楽曲以外にしても、上品な室内弦楽にスパニッシュギターを合わせたM2「WHITE SONG」や、工作機械の稼働音のようなサウンドがリズムを担っているM7「NEW DAYS DAWN」など、明らかに異色な音像を聴くことができる。いずれも意識的にL'Arc~en~Cielではないものを求めた結果だろうし、逆に言えば、L'Arc~en~Cielを意識する必要がなかったからこのようになったとも言える。

それでは、ここからは、これらソロならではと言える楽曲から垣間見えるHYDEの音楽的素養といったもの探ってみよう。まずは、すでに述べた通り、アダルト・コンテンポラリー、AORの香りである。バンドサウンドはバンドサウンドでも、まさにアダルトな雰囲気。落ち着いており、抑制が効いている。ベースラインの抑揚、鳴りにもその辺を感じるところではあるが、決定的なのは管楽器──サックス、トランペットの存在だろう。M3、M5以外ではM7でも聴くことが出来る。HYDE自身、本作のコンセプトへの影響としてStingの名前を挙げている。確かに「Englishman in New York」辺りのリスペクトを感じさせるような物悲しくも艶やかな音色であるように思うし、個人的にはRoxy Music(特に後期)を感じさせるところもあるような気がする。

あと、1970年代後半のニューウェーブ感を隠していない。これも『ROENTGEN』の特徴だろう。HYDE自身もその影響を公言しているが、David Sylvianのボーカリゼーションやメロディはモロに取り込んでいる。M1「UNEXPECTED」からしてモロにデビシルっぽさを出しているから、ほとんど確信犯的にやっているのだろう。いや、というよりは、ボーカリストとしての尊敬が湧き出たという感じだろうか。M1以外にはM4、M7もそうで、彼の愛情が伝わってくるようでもある。低音でのこぶしの効かせ方、ブレスの仕方。デビシルを知る人なら思わず微笑んでしまうようなパフォーマンスである(話は前後するが、もしかすると前述したサックスやトランペットにもDavid Sylvianからの影響があるのかもしれないと思って軽くJAPANを聴き直してみたのだが、そこはそうでもなかった)。

ニューウェーブ感は歌に留まらない。サウンドの実験性にそれがある。これまた前述したM4やM7がまさにそうだろう。ブルージーでありながら同期を駆使しているのか、同期にブルースフィーリングを入れたのか経緯は分からないけれど、M4はなかなか不思議な仕上がりである。とりわけ間奏のノイジーなオルガンも興味深い仕上がりであるし、ジャンルレスなニューウェーブの精神を感じるところではある。M7の機械音がそのままリズムになるというのはまさにそうだ。M1「UNEXPECTED」で様々な音が交錯していくサウンドメイキングにもそれっぽさを感じるところではある。アコースティックな音もあれば、シンセを使ったと思しきものもあって、その融合に意欲的なものを感じるし、ディレイのかけ方にもこだわりが見える。そして、そのニューウェーブ感は、か弱く、か細い印象がありつつも、芯は太く、美しい世界観をしっかりと醸成していることは疑うまでもない。このサウンドにしてHYDEありと言ったところだ。

■HYDEらしいポップセンス

さて、実は本作を聴いて最も強く感じた彼の音楽的素養は、そのポップセンスである。そこは隠し切れないというか、もはや拭い去ることができないといった印象すら受けた。どの楽曲にしても、歌はメロディアス。サウンドは実験的であっても、歌は前衛的でも非大衆的でもないのである。強いていえば、英語詞が多いことが若干マニアックと思われる節があるかもしれないけれど、個人的には、ここまでメロディアスだと、英語詞であることもさほど気にならないのではないかと思うほどだ。

本稿冒頭で収録曲を指して“バンドアレンジが可能である印象を抱いた”と書いたが、筆者がそう感じたのはそのポップセンス、とりわけ歌が大衆的であることに起因しているのだと思う。誤解を恐れずに言うと、やはりそのメロディはロック的に感じる。だからこそ、個人的にはバンドアレンジが最適であるように思えたし、逆に言えば、それを従前のサウンドに仕上げなかったところに、HYDEというアーティストの非凡さがあるとも言える。大衆的でありつつもそこに甘んじることなく、ソロとなってストイックに新たな可能性を模索した作品。『ROENTGEN』とはそういうアルバムであるという見方もできるだろうか。

HYDEの大衆性は歌詞からも伺えることを最後に記しておきたい。のちにオール英語詞でありアジア各国で発売された『ROENTGEN english version』や、その日本盤である『ROENTGEN.english』が発表されたことからすると、それに先駆けて日本語詞の楽曲を収録している本作そのものがユーザーフレンドリーと言えるが、そこで描かれた世界観も決して難解なものではない。

《This scenery is evergreen/可哀想にうつむいている/悲しい瞳を/ぬぐってあげたいのに》《近づく終わりに/言葉ひとつ言い出せない/This scenery is evergreen/愛しい人よ》(M3「EVERGREEN」)。

《浅い眠り淡く揺られ/あの日のように無邪気な君が/両手にあふれる安息を優しく奏で/そばにいる夢を見た》《窓の向こう風に吹かれ/切り取られた見慣れた街へ/駆け出して行く想いは何処かで君に/会えるような予感がして》(M6「SHALLOW SLEEP」)。

《何処まで遠くへ/離れて行こうと/心は奪えない》《遥かな青空/遥かなあなたを/心は忘れない》(M10「SECRET LETTERS」)。

内向的ではあるようだが、丁寧に言葉を紡ぎながら、心情を吐露していたり、気持ちを前向きに転化にさせようとしている様子が伺える。そこには、リスナーに本作の世界観──ひいては、自身の創作物の意図するところをしっかりと受け取ってほしいとする気持ちがあること言うまでもなかろう。その辺で、『ROENTGEN』はHYDEというアーティストのキャラクターが感じられるアルバムでもある。

TEXT:帆苅智之

アルバム『ROENTGEN』

2002年発表作品

\n<収録曲>
1.UNEXPECTED
2.WHITE SONG
3.EVERGREEN
4.OASIS
5.A DROP OF COLOUR
6.SHALLOW SLEEP
7.NEW DAYS DAWN
8.ANGEL'S TALE
9.THE CAPE OF STORMS
10.SECRET LETTERS

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当記事はOKMusicの提供記事です。

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