【インタビュー】映画『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』フランソワ・ジラール監督 「この映画の価値は、過去に起きた出来事を改めて思い出すきっかけになること」

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 第2次世界大戦前夜のロンドン。9歳のマーティンが暮らすシモンズ家に、類いまれなバイオリンの才能を持ったユダヤ系ポーランド人のドヴィドルが引き取られる。同い年の2人は兄弟のように親しくなって成長するが、デビューコンサートの日に、ドヴィドルが突然姿を消す。35年後、マーティン(ティム・ロス)は、ドヴィドルの行方を追う手掛かりを得て、彼を探す旅に出る。バイオリニストをモチーフにした音楽ミステリー『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』が、12月3日から公開される。本作を監督した、カナダ出身のフランソワ・ジラールに、映画への思いを聞いた。

-映画化の経緯を教えてください。

まず、この映画のプロデューサーのロバート・ラントスから脚本が送られてきました。素晴らしい脚本だと思いましたが、最初は監督をすることを断りました。なぜかというと、私のところに話が来たのは、私の過去の作品から、バイオリンや音楽や時代物というふうに連想されたのかなと思ったからです。なので、自分のキャリアとして、同じような作品を作るのは、どうも気が進まないと思いました。でも、すぐにそれは利己的な考えだと気付いて、脚本と原作を読みました。今は忘れかけられている第2次大戦中の悲劇について書かれたもので、当時起こったことの記録に、自分なりの貢献をしなければと思い直して、引き受けることにしました。

-過去の監督作の、一丁のバイオリンの数奇な運命を描いた『レッド・バイオリン』(98)や、音楽と少年をテーマにした『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』(14)と、この映画との関連性について伺おうと思っていたのですが、そこはあまり触れてほしくない、ということですね(苦笑)。

そうですね。例えば、『グレン・グールドをめぐる32章』(93)を作ったときに、伝記物や音楽物はしばらく避けた方がいいんじゃないかと思いました。でも、その後『レッド・バイオリン』のアイデアを得て、作ってしまいました(笑)。面白いのは、人の道のりというのは人それぞれで、それを見ることは興味深いです。ただ、自分に関していえば、キャリアに対して決していい選択をしていないのではないかと思います。でも、自分の努力や時間を費やしても、それをスクリーンに映す価値があると思ったら、それは自分がどう思うかではなく、作るべきだと考えています。

-この映画には音楽ミステリーの要素もあり、戦中と1956年と81年という三つの時代を交錯させながら描いていますが、その意図は?

それを考えたのは私ではなく、ノーマン・レブレヒトの原作とジェフリー・ケインの脚本から得たものです。これまでの私の作品は、脚本も自分で書くことが多かったのですが、今回は他の人が書いたものを使うということで、全ての責任を負わなくてもよかったので(笑)、このポジションで作ることは楽しかったです。

-主人公のマーティンとドヴィドルには、少年期(ミシャ・ハンドリー、ルーク・ドイル)、青年期(ジェラン・ハウエル、ジョナ・ハウアー・キング)、中年期(テイム・ロス、クライブ・オーウェン)という6人のキャストがいたわけですが、それぞれのバランスや演技についてはどう考えたのでしょうか。

そうなんです。6人だったんです!(笑)。私はシックステット(六重唱)と呼んでいましたが、これが今回の一番の難関になると思っていたので、半分以上の力はこの6人のことに注ぎ込みました。まずキャスティングです。テイムとクライブのほかの4人を探さなければならなかったのですが、この6人を、トリオが2組、ペアが2組というふうに考えると、縦横どちらで並べたときにも成立しなければならないわけです。

それで、たくさんの若手俳優に会いましたが、ルックス以外にも、例えば、ポーランド、イギリス、ニューヨークと、なまりが変化していくので、言葉のアクセントも重要でした。また、ドヴィドルを演じる人にはバイオリンを弾くという要素もありました。少年期を演じた俳優以外は、バイオリンを触ったこともない2人だったので、それも大変でした。僕のキャリアの中では一番苦労したキャスティングでした。最後に編集をするときも、6人のバランスを考えながらしました。

-ドヴィドルを引き取りサポートするギルバードの存在がとても印象に残りました。この映画は実話ではありませんが、実際に当時のイギリスにはこういう人がいたのでしょうか。

アーティストの保護者になる人や、子どもたちが音楽教育を得られるように、家に引き取って育てる人は、イギリスに限らず、いろいろな国にいたと思います。イギリスは、戦争を逃れたユダヤ人の子どもたちを一番救った国でもあります。当時は、そうしたシステムがあって、イギリスの家族が、一時的にでも養子縁組をして救ったケースもあったようです。ただ、私は、この映画の核心は、音楽の教育という部分ではなく、当時、ヨーロッパや日本でも感じられた第2次世界大戦の恐ろしさにあると思っています。

-この映画のタイトルでもある、ユダヤ人たちがホロコーストの犠牲者の名前を歌にして記憶するという「名前たちの歌=ザ・ソング・オブ・ネームズ」は実在するのでしょうか。

ユダヤ教では、歌や暗唱を通して誰かのことを追悼したり、記憶にとどめたりすることは伝統的に行われています。ただ、この映画に出てくる歌は原作者が生み出したものでフィクションです。なので、曲としては実在しているわけではありませんが、ユダヤ人の伝統やユダヤ教の典礼を考えると、とてもそれに沿ったものになっていると思います。

-最後に、日本の観客に向けて、この映画の見どころをお願いします。

それはあなたの仕事ですよ(笑)。この映画を作ることは自分にとってはとても重要なことでしたが、見ていただく人たちにとっても同じようなことがいえると思います。追悼するということ、そして記憶にとどめるということです。第2次世界大戦のことを、私たちはすでに忘れかけていますよね。生存者の方がどんどん亡くなっていき、戦争の経験を話してくださる方も少なくなってきています。

そんな中、現代を生きる私たちは、集団的な記憶喪失になっているところがあると思います。スクリーンやスマホばかりを見ていて、現在に捉われ過ぎていて、過去の出来事を見ていません。過去を見ることができなければ、未来を見ることもできません。それは、過去の過ちが繰り返されてしまうことにもつながると思います。その過ちとは、第2次世界大戦やホロコーストであったりもするわけです。

なので、この映画を見ていただく価値は、過去に起きた出来事を改めて思い出すきっかけになることだと自負しています。深い人間的な視点から描いていると思うので、そういうふうに見ていただけたらうれしいです。

(取材・文/田中雄二)

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