迫り来る改憲提案。護憲派はいま、何をすべきか?<慶大名誉教授・法学者・小林節>

日刊SPA!

◆国防強化派が三分の二を超えた

今回の総選挙の評価は色々と可能であるが、「国防」という観点から見ると、国防強化派(自民・国民・維新)の圧勝と言える。それは国民の過半数が中国の軍事的脅威を実感しているからであろう。南シナ海という公海中に人工島を作りその周りを領海だと宣言して近隣諸国を軍事力で威嚇している中国が、今、香港やウイグルで行っていることも世界は知っている。その中国が、歴史的にも国際法上も完全にわが国の領土である尖閣諸島を日々軍事的に脅かしている事実を不快に思うのが普通の日本人の感覚であろう。

だから、総選挙に際して、「国民の生命・財産と領土と国の主権を守り抜く」と公約した自民と「主権を守る態勢の強化」を公約した国民と「中国に毅然と対応する」と宣言した維新が議席を三分の二以上に伸ばしたのは自然である。

それに対して、国際情勢と国民の圧倒的多数が認めるまでは自衛隊による専守防衛を維持すると言っていたはずの共産党が、今回、「9条を生かした平和外交」をと主張したことは、中間派の不安を招いたように見える。また、国防には触れずに「平和を守るための現実的外交」と公報に書いた立憲民主党も中間派に不安を与えたように見える。

こうなったからには、改憲を党是とする自民党の総裁が改憲論議を進めると公言した以上、改憲の手続は進んで来ると考えておくべきであろう。

◆護憲派は論争から逃げてはならない

既に40年以上も憲法論議に参加して来た私が不思議に思うことは、護憲派の人々が論争から逃げていることである。護憲派こそ、現憲法の価値を理解してそれが「大好き」な人々なのだから、その憲法が改正(改悪)により破壊されようとしている時にこそ、論争の最前線で戦って自然であろう。

しかし、現実には、護憲派は、改憲論議を「取り合ってはいけない」と言って無視することで改憲論を潰そうとしてきた。その結果、二つの悲劇が起こった。

第一が護憲派の知的劣化である。論争を避ける論客が知力を失うのは必然で、その結果、護憲派は仲間だけで集まって論敵のいない所で気勢をあげているような集団になってしまった。悲劇の第二は、改憲派の質の低下である。改憲派は、護憲派の反論に遭遇しない空間で好き勝手に語り合っている内に、ほとんど妄想のような似非憲法論を臆面もなく公言するようになってしまっている。

◆自民党の9条改憲案を精読すべし

自民党が本当に改憲したいと考えている「本丸」は9条である。

2012年の改憲草案では、「国防軍」の保持とフルスペックな(つまり限定されない)「自衛権」(自衛目的の交戦権)の行使(つまり「海外派兵の正当化」)を提案している。

これは、現行9条の下では、2項で戦力(軍隊)の保持と交戦権の行使が禁じられているために国際法上の「戦争」はできず、その結果、第二警察である自衛隊による国内で行う「専守防衛」しか許されない……という従来の政府見解を変えて、海外で普通に戦争できる軍事大国に戻りたい……という提案である。

しかし、自民党の本心だとしてもそれが国民の過半数に受け容れられる見込みはなかったので、自民党は、2018年に、9条に「自衛隊」と書き入れる新提案を党議決定した。しかし、これは一種の「隠し玉」である。つまり、これまで自民党は、「必要・最小限の」自衛だから憲法上許容される……と説明してきたにもかかわらず、今回の条文案では「必要な」自衛と書き加えるとしている。だから、これは「必要・最小限の自衛」から「必要な自衛」に権限を拡大する提案である。それでも自民党は、憲法に「自衛隊」と書き加えるだけで権能については何も変わらない……などと説明している。国防の根本問題について公然と嘘をつく政党を信用しろという方が無理である。

この問題については、中国による現実の国防上の脅威の前で、まず国防の基本方針について国民的合意を形成することが急務である。だから、国防に関する政策論争(つまり、米軍の二軍になるor専守防衛を強化する等?)を行い、国としての立場を定める。その上で、その結論と現行憲法の整合性を検討して、必要なら改憲論議に入って行くことになろう。その際、議論の主導権と決定権を握る自民党が何を提案してくるかについては常に注意を怠ってはならない。

<初出:月刊日本12月号>

こばやしせつ●法学博士、弁護士。都立新宿高を経て慶應義塾大学法学部卒。ハーバード大法科大学院の客員研究員などを経て慶大教授。現在は名誉教授。著書に『 【決定版】白熱講義! 憲法改正 』(ワニ文庫)など

―[月刊日本]―

【月刊日本】

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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