燐光群『シアトルのフクシマ・サケ(仮)』を主宰・坂手洋二(作・演出)が語る~「酒造りに原発と、福島のいろんな要素を語るファミリードラマに」

SPICE



メディアではあまり報じられない、様々な社会問題やタブーを題材にした作品に挑み続ける、作家・演出家の坂手洋二が率いる「燐光群」。最新作『シアトルのフクシマ・サケ(仮)』は、福島県からシアトルに移住し、彼の地で日本酒造りに挑む一家を描く芝居……になる予定だったが、新型コロナウイルスの蔓延により、坂手もシアトルの酒蔵も予想外の状況になった結果、タイトル通り「仮」の物語に変更したという。まさに転んでもタダでは起きないというしぶとさで、福島県と原発と日本酒について語るという坂手が、兵庫公演が行われる[アイホール]公演向けのオンライン会見を、2021年11月11日に実施した。東京公演は座・高円寺1にて上演中だ(11月19日~28日)。

これまでも『たった一人の戦争』(2011年)や『バートルビーズ』(2015年)など、東日本大震災絡みの作品を発表してきた坂手。しかし本人は「福島県そのものを書く作品にはなっていなかった」という思いがあり、本作は「福島との出会い直し」の作品でもあるという。

燐光群『たった一人の戦争』(2011年) [撮影]古元道広
燐光群『たった一人の戦争』(2011年) [撮影]古元道広

震災の直後は、福島にはいろんな人が行ってるから、僕は行かなくてもいいのでは? という気持ちがありました。でも3年ぐらい経ってから、いろんな出会いがあって福島に行くようになって。そこで、被災した酒蔵の一つが、2014年にシアトルへと移住して、日本酒を作ろうとしている……という話を聞いたんです。最初は単に、移住後の奮闘を描こうとしたけど、それよりも“酒蔵の人たちにとって何が大事なのか”ということを、考えようと思いました」。

しかし当初の構想は、コロナ禍によって坂手が現地取材に行けないことと、シアトルの酒蔵が最初の酒造りを延期したことにより、断念せざるを得なくなった。正式なタイトルなのに、あえて「(仮)」と付けたのは「不可能となった物語」の意味を込めたという。

シアトルの人たちの成功体験みたいなことは書けないし、かといって現在の状況をそのまま書くのも難しい。だからシアトルから来た沖縄移民の人が、福島の人たちに現地の話をするという構造に変えました。シアトルに渡った一家は、実際に福島の酒造りの人たちにとって、しんどい状況の中での、何かの救いになっていたとは思うんです。震災で蔵を閉じてしまったけど、その一家に対して一種の憧れの念を持っている人たちを主人公にする話に、結果的にはなっていきました」。
燐光群『バートルビーズ』(2015年) [撮影]姫田蘭
燐光群『バートルビーズ』(2015年) [撮影]姫田蘭

さらに舞台を福島県に変えたことで、前述の通り、福島という土地の個性と震災後の現状に、改めてスポットを当てた内容にシフトチェンジできたそうだ。

僕たちは原発事故に関心が強いので、どうしても浜通り(注:県東側の太平洋沿いエリア)の方に行ってしまい、最近まで中通り(注:県中部の内陸エリア)という概念に、ピンと来ていなかったんです。そこは山と山にはさまれた、青森まで続く広大な盆地で、たとえば『みちのくひとり旅』という歌は、こういう所をずっと歩いていたのかな? と。でも、海が近い岡山県出身の僕は、山の間を果てしなく歩いていくということに、ある種の閉塞感や恐怖みたいなものを感じてしまう。ここで『黒塚』のような鬼婆伝説が出てきたのも、何となくわかります。

そういった土地の面白さを、ようやく感じられるようになったので、浜通りと中通り、そして会津(注:県西側のエリア)の魅力を、今回は書いてみようと思いました。日本酒も調べ始めると、面白い話がいっぱいあって。正直に言うと、僕は日本酒党ではなかったけれど、日本酒の魅力というものを再発見しましたね」。
燐光群『シアトルのフクシマ・サケ(仮)』(2021年)。 [撮影]姫田蘭
燐光群『シアトルのフクシマ・サケ(仮)』(2021年)。 [撮影]姫田蘭

舞台は中通りにある、今は閉じてしまった酒蔵。そこには津波で建物を流され、杜氏だった長男も失った一家が居候をしている。元原発作業員の次男が、酒造りのこれからを考える中、地元の新しい売りを求める観光課の職員や、シアトル在住の日系移民などが出入りし、そこで「日本酒を作るためにシアトルに移住した一家」の話が、象徴的に語られる──。

メインになっているのは、継続することをあきらめてしまった、2つの酒蔵の家族の話。
次男が空っぽの巨大なタンクを、原発の汚染水を貯めるタンクと比較することで、原発のイメージも重なっていきます。そこに沖縄移民の歴史や町おこしの話など、3つぐらいの要素がまじりながら進んでいく。福島の問題は本当にまだ解決されてないし、被害の状況も多方面に渡っていて、とても一口では語れませんが、フィクションの中にいろいろと事実を取り入れています。


自分たちが失ったものを、もう一度取り戻せるのか? と、登場人物たちは煩悶するけど、苦しい話を苦しいようには、なかなか描けないもので。ドカンドカンとは行かないけど、フッと音もなく笑ってくれるというような、ちょっとした喜劇のような部分もあります。そうやって、今現在がどういう時間なのかを描いていって、最終的には未来を向き始める……という風な感じで終わる。僕には珍しく、ファミリードラマの色合いが強いです」。
ZOOM会見中の坂手洋二。背景は福島県の田んぼ。
ZOOM会見中の坂手洋二。背景は福島県の田んぼ。

そしてツアー最終地となる、伊丹市の公立劇場[アイホール]は、現在「地元の人たちの利用が少ない」などの理由で、演劇専用劇場としての存続が危ぶまれている(補足:会見後の11月18日に、伊丹市が“当面の存続”を決定)。燐光群の関西公演も、ほとんどこの劇場で行ってきただけに、劇場継続への熱い思いと、そのために何ができるかについてもコメントした。

アイホールの空間は、通常の小劇場よりも大きいので、その空間をフルに使ったものを観せたくなります。今回の公演でも、大きな2つのタンクを(舞台美術で)出しますが、それはアイホールの広さがあるからできること。かつて伊丹は、街の新しい個性として「演劇がある」ということを打ち出したわけですが、今はそれがひっくり返って「地域の役にたっていない」と言われてしまうのが悲しいですね。

僕らもアイホールとともにずっとやってきたけど、「利益を出さねばならない」と周りから言われて、たとえば劇場費が高くなってしまったら使えなくなる。今のやり方がなぜ優れているのかを、もう少しみんなでアピールしなきゃいけないんじゃないか、と。こんなことを言うのは酷ですが、住民との接点をあまりにも持っていなかったのではないか? というのは、ある程度謙虚に考えないといけない所ではあると思います」。
燐光群『シアトルのフクシマ・サケ(仮)』チラシ。
燐光群『シアトルのフクシマ・サケ(仮)』チラシ。

厳しくも、時にユーモアを交えながら、隠ぺいされた社会の瑕疵を明らかにしていく作風の中に、今回は家族ドラマの要素を入れることで、より見ている側が身近に考えやすくなるのでは……と期待できる。そして何よりも観劇後に、良い日本酒(できれば福島の地酒)で一杯やりたくなるのではないだろうか。ちなみにアイホールのある伊丹は、銘酒「白雪」を生んだ酒処でもあるので、美術だけでなくその点でも、アイホールで上演してこその作品、と思えるかもしれない。

取材・文=吉永美和子

当記事はSPICEの提供記事です。

ランキング

ランキングをもっとよむ

注目ニュース

注目記事をもっとよむ