Production I.G石川光久社長が語るアニメ『攻殻機動隊』の歩み

1989年に士郎正宗により発表された原作コミックを柱にして、様々なメディアミックスが展開されてきた「攻殻機動隊」。その最新アニメシリーズが神山健治監督・荒牧伸志監督がタッグを組んだ、現在Netflixにて全世界独占配信中の『攻殻機動隊 SAC_2045』だ。

この度、配信中のシーズン1(全12話)が新シーンの追加と全カットフルグレーディングにより、劇場用長編アニメーション『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』として生まれ変わった。本作の構成を手掛けたのは実写映画で注目を集める新進気鋭の映画監督・藤井道人。『新聞記者』『ヤクザと家族 The Family』など社会的なテーマを扱った作品で知られる藤井監督の手腕によって、文字どおり新たな「攻殻」ワールドの可能性が広がる仕上がりとなっている。

『攻殻機動隊』のアニメーションはいかなる流れを経て現在の場所へと辿り着いたのか。押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』以降、『攻殻』のアニメシリーズに深くかかわってきたProduction I.Gプロデューサーであり代表取締役社長でもある石川光久氏に話を伺った。
▲Production I.G 石川光久氏。

――まず『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』制作の経緯からお聞かせいただけますでしょうか。

石川 具体的には荒牧(伸志)監督、神山(健治)監督がアニメ畑ではない監督にこの作品を任せてみたい、と考えたところからです。我々の近いところにいる方だと、どうしてもメインスタッフに対して気をつかってしまうじゃないですか。それよりも全部壊して新しい作品に再構築してくれる人にお願いしたい、と。

そこでプロデューサーの牧野(治康)が『新聞記者』の藤井道人監督に「興味がありますか?」と直接オファーしたんですよ。ほとんど直撃みたいな感じだったらしいんですが。

――今回、藤井監督を選ばれた理由は?

石川 『新聞記者』などを観て、今日本で一番熱い監督なんじゃないかと。で、実際に会ってみると意欲的に受け取って頂いたらしいんですよ。とはいえ、非常にお忙しい方でスケジュールもなかなか取れない感じだったらしいんですが、逆にそういう忙しい方にこそやっていただきたいじゃないですか。
そういう意味で、牧野はこれまでで一番いい仕事をしたんじゃないですかね。

――さすがに一番は言い過ぎでは(苦笑)。

石川 いや、実際これは彼の最大の功績ですよ。藤井さんには『攻殻』という題材にプレッシャーと同時にやりがいを感じてもらえたと思います。やっぱり現場は大変らしいんですが、藤井監督は本気で自分のスタイルを出してきていて、それはすごく良いなと思っています。”シリーズの総集編” ではなく、1つの映画として完成していて、面白い。冒頭から観客の心を一気に掴んでくるし、そこは藤井さんの技でしょうね。

――思った以上に狙いが上手くハマった感じでしょうか?

石川 そうですね、若くて熱気を持った監督やプロデューサーに種を撒いて育てよう、という意味での挑戦が功を奏した。藤井監督はもう活躍されている方でしたが(笑)。でも、それをくり返してきたのが『攻殻機動隊』の持っている歴史なんじゃないかと思います。

――石川さんは95年の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』から延べ26年にわたって『攻殻機動隊』という作品に関わってきたわけですが、ズバリ『GHOST~』の作品としての魅力はどこにあると思いますか?石川 やっぱり士郎さんの持っている未来を予知する先見性ですかね。何十年も前に現在の時代そのものをリアルに捉えた上で作品を作っている。映画ではそこに押井守監督が強烈な色を加えて、相反する二つの才能が重なったことで原作の良い部分が強化された。士郎さんのある意味での狂気を押井さんのテクニックで上手くまとめたことが、いつまでも作品が色褪せない理由なんじゃないですか。

――押井監督は後に続編『イノセンス』も手がけますが、一方『攻殻』アニメ化の決定版と思われた『GHOST~』から続いてTVシリーズ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(S.A.C.)』が制作されます。これは一体どういう流れから?

石川 それは『GHOST~』が海外で凄くウケたっていうのがあります。日本での展開だけで考えると、どうしてもこじんまりとした作りになってしまうから、しっかり海外に向けて勝負する作品が作りたかったんです。

あとはスタジオの人材を育てたい、ということですね。士郎さんに「I.Gのアニメーターが育つ環境を作りたいので、TVシリーズを作らせてほしい」とお願いしたところ、士郎さんからも「そういうことなら、若い人たちに自由にやってもらってください」と言ってもらえたんです。

――押井さんとは別の切り口で作品に現代性を持ち込んだ神山健治監督の起用も、本作の大きなポイントですよね。

石川 そうですよね、そこは「石川、よくやった!」と自分を褒めたくなる(笑)。頭の良さはもう分かっていましたけれど、それに加えて『人狼 JIN-ROH』での演出、レイアウトや背景の仕事を見ていて彼の研究熱心さと真面目さ、何より野性味あふれるエネルギーが凄かったんです。僕としては、無謀なものをまとめるならば、経験値よりもそういうものを大事にしたかったんですね。

――『S.A.C.』は『2nd GIG』『Solid State Society』とシリーズ化していきます。

石川 このシリーズは自由度があったのが強いですよね。とはいっても、それを受け入れられる強固な『攻殻』の世界観あってこそだとは思うし、贅沢な予算と時間をかけることができたことも大きいと思うんですよ。うちとしては無謀なまでの予算を賭けた、という印象がありますから。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

――OVAシリーズで展開した『攻殻機動隊ARISE』は、公安9課結成までの前日譚という、さらに一歩踏み込んだ内容になっていくわけですが、この辺りでの士郎さんとのやり取りは?

石川 士郎さんは自分のやりたいことがハッキリしているし、いろんなものが頭にあるものですから、ひとつの質問をすると100通りの反応が返ってくるんですよ(笑)。そういう性格なので、企画への関わり方は全面的にやるか、まったく手を付けないかのどっちかなんですよ。というのは、以前関わったOVA『ブラックマジック M-66』――北久保(弘之)さんや沖浦(啓之)と一緒に作った作品ですけれど、どうやらあれがトラウマになっているらしくて。

――ええっ、そうなんですか!

石川 のめり込めばのめり込むほど、アニメのスタッフに大きな負担をかけてしまったことが胸に残っているらしくて、「そうなってしまうくらいなら自分は一切手を出さない方が良い」と判断されたんだと思います。

――『ARISE』は黄瀬和哉さんが総監督を務めたのも大きな驚きでした。

石川 黄瀬は『機動警察パトレイバー 劇場版』や『新世紀エヴァンゲリオン劇場版』、もちろん『GHOST~』の作画監督として活躍して、押井さんの信頼も実に厚いんだけれど、教育的な面から考えても1回黄瀬に監督というのはどれだけ大変な仕事なのかを経験させた方がいいだろう、と。

――そういう理由だったんですか(笑)。

石川 本人はどう思ったかは知りませんけれど、これで一皮剥けてくれるといいなと思いました。まあ実際やらせてみたら、決断力はあったからそれは良かったんですが、一日コツコツと仕事を進めるタイプじゃないんですよね……基本、飽きっぽい(笑)。あと、常に頭の中ではアニメのことを考えてはいるんだけど、すごく素行が悪く見えるんですよ。机に向かわずプラプラ遊んでいる風に見えるんです。

――そんなに念を押さなくても(笑)。

石川 そういう男を監督に据えるなら、やっぱり『攻殻』しかないんです。他の原作だったらそうはいかない。だから士郎さんに「黄瀬が監督をやるので自由にやらせてください、その代わり(アニメの)動きはしっかりとやります」とお願いして。

――『ARISE』はこれまでのイメージを一新するようなシリーズになりましたね。キャストも一新して、脚本も冲方丁さんが手がけるなど挑戦的な姿勢を感じました。

石川 いい意味で暴走していましたよね。あとで押井さんに聞いたら、「これまでの素子で一番好きなのは、黄瀬のやった『ARISE』の素子だ」「作品も『攻殻』のシリーズ中で完成度は高いんじゃないか」とまで言っていましたね……でもね、それは作品が動いている時に言ってくれなきゃ(一同笑)。

――そうですよね、宣伝に使える一言ですから(笑)。

石川 本当ですよ。でもね、押井さんが気に入っているってことは、世間の人向けになっているかどうかが怪しいという……これがまた難しい問題ですよね(笑)。

――ちなみに、石川さんの中で一番大変だった『攻殻』タイトルは何ですか。

石川 そりゃもう『イノセンス』です。面白かったとも言えるけど、すごい無茶をやったと思いますね。でも、今観ても衰えない強度を持っている。CG技術だけでは作れない、あの時代だからこそ作れたものが残せたと思うんです。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

――そのような意欲的なチャレンジをくり返してきた『攻殻機動隊』だからこそ、『攻殻機動隊 SAC_2045』で荒牧監督からの「3DCGアニメでやりたい」という提案にも乗れたわけですね?

石川 面白いと思いましたね。今や3DCGアニメは世界の潮流なわけです。ならば日本もそれを推進していかないといけない。荒牧監督は日本において3DCGアニメの先駆者ですから、一緒に取り組むことでスタジオも新しい制作体制を作ることができる。これもまた『攻殻』の力なんですよ。

――さらに神山監督との二人監督体制というのも、もうひとつのチャレンジですよね。

石川 神山さんは荒牧さんに対してCG面の、また荒牧さんは神山さんに対してストーリーテラーとしてのリスペクトを抱いていたので、そこが良かったんじゃないですか。お互いに「監督2人体制で本当に良かった」と言っていましたしね。何しろチェックすることが膨大にありますから、おそらく一人ではこの内容を作るのは不可能だったかもしれません。

――『S.A.C.』初期OPで3DCGはチャレンジされていますが、本作のルックは2Dのムードも感じられて絶妙な線を狙った仕上がりでしたね。
▲イリヤ・クブシノブのデザインを得てキャラクターイメージも一新。

石川 いきなり『攻殻』を手がけるとハードルが高かったと思うんですが、幸運なことに二人は先に『ULTRAMAN』の第1シリーズに取り組んだんですよ。そこで手に入れたノウハウを『攻殻』につぎ込めたのが良かったですね。
その流れでお伝えしたいんですが、現在『SAC_2045』シーズン1のルックで作品を採点している人が多いと思うんですが、これは是非シーズン2まで観てから判断してもらいたい。CGの技術は日々進化していますから、シーズン2はもっと凄いものになることを約束しますし、今回の『持続可能戦争』でも新しい『攻殻』の世界が間違いなく観られますので。

――では最後に。石川さんからご覧になられて、これまで『攻殻』に関わってきた監督の皆さんに何か共通項があったりしますか。

石川 一言で言えば ”変態” ですね。それに尽きます。いや、英語でクレイジーっていう言葉は褒め言葉でも使うじゃないですか。同じように僕の中での ”変態” は作品へのすさまじい没頭ぶりを指していて、決していやらしい意味じゃないですから(笑)。>>>『攻殻機動隊SAC_2045 持続可能戦争』場面カットを見る(写真13点)

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

当記事はアニメージュプラスの提供記事です。

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