神山健治は草薙素子が好きなのか!?『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』

シリーズ初のフル3DCGアニメーションによる鮮やかな映像と、〈ポスト・ヒューマン〉を巡る謎めいたストーリーで話題となった『攻殻機動隊 SAC_2045』。
そのシーズン1に新たなシーンを加え、全カットフルグレーディングで劇場用アニメーションとして新生した『攻殻機動隊SAC_2045 持続可能戦争』が、11月12日より2週間限定で劇場公開される。

全ての国家を震撼させる経済災害「全世界同時デフォルト」の発生と、AIの爆発的な進化により、計画的かつ持続可能な戦争 ”サスティナブル・ウォー” へと突入した世界。
草薙素子を中心にふたたび組織された公安9課は、驚異的な知能と身体能力を持つ存在、〈ポスト・ヒューマン〉と対峙することになる……。

シーズン1は現在Netflixで配信中、さらにはシーズン2の制作も発表されている。
そんな『攻殻機動隊 SAC_2045』で、荒牧伸志と共同で監督(劇場版では総監督)を務める神山健治にインタビューを行った。
『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズでも監督を務め、常に現代的なテーマを盛り込みストーリーを作り上げてきた神山監督は、「攻殻機動隊」という作品のありようや、その世界を支えるキャラクターをどのように捉えているのだろうか?
▲神山健治監督

>>>【画像】『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』場面カット(写真8点)

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

◎強固な世界観に ”今・現在” を投影◎

ーー配信中の『攻殻機動隊 SAC_2045』のシーズン1が藤井道人監督によって編集された今回の劇場版ですが、神山監督はどんな印象をお持ちになっていますか。

神山 とてもシンプルになって、描こうとしていたことにわかりやすくフォーカスされたという印象です。過去の「攻殻機動隊」では公安9課の ”敵” をあからさまに設定したことはなかったけれど、今回の『攻殻機動隊 SAC_2045』ではポスト・ヒューマンという ”敵” を設定しています。そして、それはどんな奴らなのか、その後ろにどういう背景が隠されているのかーーと描くためのセットアップに、シーズン1はかなり時間を使いました。劇場版ではそこが、ひとつのエンタテインメントとして、よりまとまったということじゃないかなと。

ーー公安9課vsポスト・ヒューマンという図式がよりはっきり見えてくる?

神山 そう、そしてポスト・ヒューマンの設定にもフォーカスしていく。シリーズとして観ていた時は、ひとつひとつ「これは何だろう?」と感じられていた要素が、「ポスト・ヒューマンとはこんな奴らです」という点に集約され、より捉えやすくなったと思います。

——すでにシーズン2の制作も発表されていますが、そこに向けての予習にもよさそうですね。ちなみに、シーズン2はどんな内容になりそうですか?

神山 今も言ったように、公安9課vsポスト・ヒューマンという対立図式をこれまでになくはっきりと描いた……というわりには、シーズン1では引っ張りすぎてしまったというか(笑)。ポスト・ヒューマンの紹介をしていたと思ったら……ええっ、どういうこと!? という感じで終わったので。ある意味、そんな風に焦らしてしまった分だけ、シーズン2では ”謎” の答えを惜しげもなく明かしていくことに、当然なっていくと思います。

ーー神山監督はこれまで『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』、『攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG』、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX Solid State Society』などを手掛けてきました。そして、そのたびごとに時代に沿ったテーマが盛り込まれてきましたが、「攻殻機動隊」という作品ではなぜ、そういった映像化が可能になるのでしょうか?

神山 これは僕の作り方で、あまりいいことではないかもしれないけれど、ビジュアルよりも理屈から作っていくというところがあります。SFって、その世界観を作るときにマストになるものが大事になりますよね。それはガジェットなのか、設定そのものなのか、いろいろとあります。たとえば「星間飛行が可能になった」とか、「宇宙から侵略者がきた」とか。そこに穴がなければないほど、SFはおもしろいわけです。僕はどちらかというとまずそこから考えて、ビジュアルは後付けでいいいという考え方をしています。それこそ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の1作目を作ったときには、(舞台として設定されていた)たかだか30年後には、稲作はなくなっていないだろうし、それをAIがすべてコントロールするような世界にもなっていないだろう、と考えました。まだ農家の人もいるはずだよ、と。(現代に)ないのは電脳だけだと考えて、あの世界観を作ったんです。そして、その電脳という ”大嘘” がいろいろなものを内包してくれるはずなので、それ以外はすべて現実からもってこようという発想でした。さらに言うと、現実のなかで「こんなものがほしい」「こうあってほしい」ということを実現するために電脳という ”嘘” は入れるけれど、それ以外の社会インフラなどは可能なかぎり現実の延長線上でシュミレーションしていく。毎回、そういう作り方をしているので、それが寄与している可能性はありますね。

ーーいっぽうで、最初のアニメ化である押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』では、もっと哲学的というか、衒学的というか、ある種神話的ともいえる世界観が作られていますよね。

神山 もっと言えば、押井さんは ”個人” にフォーカスしていますよね。もちろん、僕も ”個人” にスポットあてたエピソードも作るけれど、その時には「個人対社会」という視点は必ず入れています。押井さんは、その「社会」の部分はビジュアルに任せている。つまり『ブレードランナー』と同じ描き方ですよね。たとえば『ブレードランナー』に登場するあの巨大なビルが実在するとしたら、その中で働いている人って何人いるんだ? ということは、人間は増えたと言うことかな? それは食糧問題も起きるだろう……だとすると、コストがかかるレプリカントとか生まれないんじゃないかな? と、そんな風に理屈で考えていくと穴が見えてきちゃうんです(笑)。でも、そんなの関係なくて、人間よりも強いアンドロイドが跋扈している世界で、そいつらと戦う世界が描きたいんだよっていうやりかたもある。でも僕の場合はやはり逆で、(原作からの)借り物である世界観の中に「今・現在」を投影して、「今、ほしいもの」「今、こうあってほしいこと」を作品の器を借りて探ってみよう、というやり方をしているんです。

ーー逆に言うと、そういう真逆のアプローチを両方ともに受けいれることができるのが、「攻殻機動隊」という作品である、と。

神山 きっと、そうなんだと思います。すごく強度のある世界観の設定だと思いますよ。

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

◎草薙素子がナンバーワン◎

ーーそれだけ強度のある世界観を支えているもの、さまざまなアプローチを「攻殻機動隊」という作品として成り立たせるものが、やはりキャラクターだと思うのですが。

神山 はい。

——神山監督にはいつもストーリーやテーマのお話をうかがうことが多いですが、今回は「攻殻機動隊」のキャラクターのお話を聞いてみたいと思います。草薙素子をはじめとしたキャラクターたちを、神山監督はどんな風に捉えていらっしゃるのでしょうか。

神山 キャラクターをどんな風に捉えているか、か……なるほど。「個人対社会」という図式で作品を作る時に、その「個人」の部分を誰で語るかということになりますよね。それがゲストキャラの場合ももちろんあるのですが、なるべくは公安9課のメンバーで描いていきたいとは思っているんですよ。そして、公安9課にはいろいろなバリエーションのキャラが、最初からいます。もちろんキャラクターの解釈はファンそれぞれで違うだろうし、そもそも原作にしろ、押井版にしろ、解釈は違うけれど、でも、とにかくバリエーションは豊富です。いちばん希有な存在である素子を中心に、人間代表みたいなトグサとか、電脳世界に素直にコミットしているバトーとか。あとは、荒巻というキャラクターが僕の中ではすごくおもしろかったんです。曲者揃いの公安9課を束ねているリーダーで、しかも政治にもコミットできるし、いちばんミニマムな事件にもコミットできる。そんな振り幅の大きい荒巻というキャラクターは、僕にとってものすごく興味深いし、描いておもしろかったので、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』の初期には荒巻を中心にしたエピソードを作ったりしました。
 さらに素子は、多分この世界でもっとも独特な、個人的な事情も持っているキャラクター。電脳世界にもっとも特化した人間なのだろうし、(世界観の)設定を語る上でもいちばん重宝する。そして、いちばん人間から遠くにいる人なので、逆に人間というものを掘り下げて描いていこうと思った時に、対比として魅力的に描ける。
 そのほかにも、僕が作品として描いてみたいと思うテーマを、どれだけ乗せても崩れないキャラクターが、原作に最初からたくさん存在している。そこが「攻殻機動隊」のおもしろさなのかな、と。僕はキャラクターをそういう風に捉えているので、ある種、押井さんが描くようなフェティッシュなやり方とは反対側からトンネルを掘っているというか(笑)。でもやはり、掘り下げていくごとにそのキャラクターがすごく好きになっていくし、僕なりにそのキャラクターたちのフェティッシュも入れているつもりもあって。何だろう……どういう風に捉えているかと上手く言えないけれど、ひとことで表現しろと言われるならばーー公安9課の連中がものすごく好きなんですよ。何ておもしろくて魅力的な奴らなんだろうと、捉えていますね。

ーー確かに、公安9課のメンバーが動き出すとワクワクするし、背景にある複雑なテーマも徐々に伝わってきつつ、とりあえずは目の前で展開する物語に引き込まれていくという感覚になります。

神山 メインキャラクターって、シリーズが続けば続くほどお飾りになっていってね。ゲストキャラにテーマが背負わされて、メインキャラはそこに関わるだけになっていくという面が、どうしてもあるんです。「攻殻機動隊」にも少なからずそういうところはあるけれど、それでもやはり、事件にコミットしたときにその人(公安9課のメンバー)がどういう心象を得たのかということは絶対に外さないで描いてほしいと、脚本の際には必ずお願いしています。事件そのものが彼らと直接は関係なかったとしても、それに対して彼ら、彼女らが何を考えたのかということが物語のオチになるように。

ーーたとえば「素子を描こう」という時には、「素子はこうでなければダメだ」といったキャラクター性を意識するのでしょうか。それとも自然とそうなっていく?

神山 自然とそうなる気がします。脚本を書くライターもあまり縛っているつもりはないんです。むしろ、僕自身では思いつきもしないような心象にたどりついてほしい、そういうものが見てみたい、という思いで。それでも、まあ、素子だったらこう考えるんじゃない? というポイントから外れることはほとんどない。しかも、それでワンパターンになってしまったらつまらないけれど、意外とそうでもない。使い古された言い方をすれば、「キャラクターが勝手に動いてくれる」ということ。公安9課のメンバーはみな、「何か動かないなぁ」ということにはならないんです。何らかの状況にポンと放り込むと、わりと勝手に動いてくれる。それだけ原作のキャラクターがよくできている、厚みがあるということかな。原作の解釈はいろいろわかれるところだし、僕が描いている素子たちを「原作と違う」と感じる人もいるとは思うけれど。でも基本的にはあの原作に描かれたものから発想していったものだし、シナプスがつながっていった先にあるものだとは思っています。

ーー公安9課のメンバーで、特に好きなのは?

神山 いちばんを選べと言われたら、それはやっぱり素子ですよね。いまだに、いろいろ想像が膨らむんですよ。素子は正体もわからないし、年齢も不詳だし……まさか20代とかのはずはないだろうという深みもあるし、でも、もし20代でここまでの人間ができあがったとしたら、逆にどんなものを見てきた人なんだろう? という想像もできる。あれだけ屈強な部下たちをアゴで使って、荒巻からも絶大な信頼を得ている。そんなキャラクターって、アニメでは希有な存在というか。昔はいたのかもしれないけれど、少なくとも最近のアニメでなかなかあんなキャラクターはいないので、僕にとってはいまだに素子がナンバーワンです。

ーー最後に、キャラクターといえば今回の『攻殻機動隊 SAC_2045』で神山監督は、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』や『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』以来のオリジナルキャストにこだわったそうですね。やはり、キャストの声が一体になってのキャラクターという感覚があるということでしょうか。

神山 そうですね。もう、それこそ『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のいちばん最初の頃から、脚本は当て書きというか。脳内では押井さんの映画版(『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』)のキャストのみなさんの声を、ある程度イメージして書いていたので。今回も、企画がスタートしたばかりの具体的には何も決まっていない段階で、田中敦子さんと大塚明夫さんに何かでお会いした時に、「お願いします」という話をしたような記憶があります。とにかく、キャストだけはあのメンバーにお願いしたいなという点には、確かにこだわりました。

ーーあの声だからこそ生まれてくるものが、やはりある。

神山 あるんじゃないかな。ビジュアルも3DCGに変わっていったりしている中で、何に ”ゴースト” が宿っているのかと言われたら、やはり「声」じゃないかな、という気はしますよね。

*『攻殻機動隊 SAC_2045 持続可能戦争』は11月12日(金)より劇場公開。
製作/攻殻機動隊2045製作委員会
配給/バンダイナムコアーツ

(C)士郎正宗・Production I.G/講談社・攻殻機動隊2045製作委員会

当記事はアニメージュプラスの提供記事です。

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