阿佐ヶ谷スパイダース本公演迫る!~『老いと建築』長塚圭史×村岡希美インタビュー~

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考察する時間がソリューションだとしたら、思索の時間は遊戯だと思う。劇を観ているときに、何気ない台詞や、俳優のちょっとした動きに導かれて、劇の本筋とは違うことに思いを寄せる瞬間。物語の構造で楽しむ演劇もあるけれど、観客の想像力を信じて作り上げる作品も、また魅力的だ。長塚圭史が描いた『アンチクロックワイズ・ワンダーランド』や『荒野に立つ』で、贅沢な思索の時間を得たことは、観劇における愉悦だった。阿佐ヶ谷スパイダースの劇団化4回目の公演となる『老いと建築』。演出の長塚と、主演の老婆を演じる村岡希美は、本作に何を思うのか。

■彫刻的に書く作業


――今日の稽古では、主に本読みでした。作品の終盤まで戯曲に触れてみて、村岡さんはどんなことを感じましたか?

村岡:やっと通して読んだばかりなので、まだ世界に入り込めてはいないのですけど、俳優たちの声を通して言葉を聞くと、台詞に輪郭が加わるようなイメージがあります。時間が前後するシーンがあって、昔にあったことが今起きているようにも感じるんです。声を出して初めてわかることもありますね。

長塚:声に出すと台詞の印象は変わるよね。

――戯曲を読むと、登場人物の実際の出来事なのか、脳内に反芻されていることなのか、迷路に立たされるような感覚がありました。

長塚:ストーリーテリングを重視した作品ではないですからね。この作品では、家を建てるときに抱いた理想が、時間の経過で変化することを老いと重ねて書きたかったんです。かつての理想を思い出すと、目の前にある現実を惨めに感じてしまうことってありますよね。

村岡:まさに老いていくことですね。『老いと建築』というタイトルがぴったりです。

長塚:僕はこれまで、本読みの段階で細かく内容を演者に説明することはなかったんですけど、今回はけっこう話しています。どういう風に心理が繋がっているのかを。頭から順番でなく、パーツごとに書いた戯曲なんです。彫刻的に書いていく作業でした。
長塚圭史
長塚圭史

■事実関係よりも心理を重視する


――脚本の書き方がこれまでとは違ったそうですね。

長塚:今回は、とにかく最初にまずセリフが生まれています。寺田倉庫さん企画の『謳う建築』という展示に建築家・能作文徳さんの建築からのインスピレーションで言葉を生み出すという形で参加しました。そこで架空の劇のプロットを設定し、そこからセリフを生み出した。この架空のプロットを実際のものにしていった。内臓の一部があって細胞分裂するような形ですね。それはどこかスケッチが重なっていくような形で積み上げられていく。それは新鮮。それから劇団員にあてていたということも新鮮です。きわめて劇団らしい。それからこの作品は、たくさんの出来事が起こるんですけど、実は劇のなかで解明する必要はほとんどないんです。村岡さんが演じる老婆の「私」と長女の仁子、その夫だった英二とのあいだには不穏な関係が見え隠れしますが、その事実関係はどうでもいい。それよりも娘の仁子が母に対してどういう心理状態になるのかを重視しています。

——互いの心理によって、対人関係の相関図は変わっていきますよね。

長塚:まさにそういうことです。ストーリーテリングで描くことはもちろんやっていますがそこが目的じゃない。時間軸もややこしいから、今後の稽古でみんな戸惑うと思います(笑)。

村岡:私には「何これ? 全然わかんない」ってことはなくて。お客さんのなかには、お話の筋を追わない劇に対して苦手意識がある人はいるかもしれないけど、私は圭史くんのこういうテイストが好きなんです。ストーリーの展開に頼っていると繋がりが分からなくなるけど、いろんな想像力を駆使して観てほしい。「今、このおばあちゃんの頭のなかではこんなことが起きているんだな」と思っていただけると……。観る側の力を信じてつくっている舞台だと思います。
村岡希美
村岡希美

長塚:家族を扱った劇なんですけど、プレ稽古が面白かったんです。声を出さずに家族の時間経過を表現するというもので、チームになって見せてもらった。ダイジェストの稽古がとても面白かったんです。やがて人は老いて死に、新しい命が生まれる循環を描くシンプルなものが、すごく感動的だった。『老いと建築』は寺田倉庫で能作文徳さんとコラボレーションしたことがきっかけですが、もうひとつのヒントになったのが『関寺小町』という能舞台です。若い頃に観たんですけど、戯曲としてあまりにむずかしすぎてほとんどあまり上演されない作品らしく。ある山中の庵で出会った老婆が実は小野小町なのではないかという内容で、過去の自分を思い出しながら、老婆は能舞台を一周ぐるりと舞う。ただそれだけなんです。二十歳くらいの僕は寝ちゃったんだけど、その異様なまでのシンプルさは覚えていて、この劇のイメージの裏側にいつもあります。

■公演以外でも関わり合う劇団


――劇団化して4作目になります。

長塚:早いですね。劇団化してからがあっという間だな。

村岡:30代に突入した劇団員もいるし。時間が経つのは早いと思う。

長塚:全然関係ないかもしれないけれど僕は劇団活動として楽しみなのが3日間連続で開催した餅つき大会なんです(笑)。劇団員がお世話になった関係者の方と集まってやった餅つきがとてもよかった。ああいう祭りのような場作りみたいなものは継続していきたかった。コロナであの一回しかやれてなくて残念です。

村岡:3日間連続でやってノウハウを身につけたもんね(笑)。

長塚:どんどん餅がおいしくなっていく(笑)。2019年の年末に始めて、餅つきだけは毎年やろうと思った途端にコロナ渦に突入してしまって。

村岡:私はナイロン100℃にも劇団員として加わっているけど、ぜんぜん異なる集団ですね。

長塚:ナイロンがプロフェッショナル揃いだとしたら、うちは孤高のアマチュア集団という感じかな。

村岡:私がナイロンに入った当初は、年に4回くらい公演がありました。365日のうち、350日くらいは劇団員と顔を合わせているような日々だったから、家族以上に分かり合っている。そのぶん、プライベートでは会いたくなくなるよね(笑)。アサスパは、餅つきもそうだけど、公演以外でも関わっていきたいと思うような場所ですね。若い子たちも多いから、みんなのことがつい心配になることもあったりします。まったくタイプの違うホームグラウンドがふたつあることって、私にとって大きな宝なんだと思いますね。

取材・文=田中大介
撮影=荒川潤
長塚圭史
長塚圭史
村岡希美
村岡希美

当記事はSPICEの提供記事です。

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