【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。

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この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(第7話)


【これまでのあらすじ】

綾香の妊娠を知って、悠真さんとの関係を清算しようと思った千紗だったが、「離婚したい気持ちに変わりはないから待ってて」という言葉に流されてしまう。

しかし綾香はすぐに流産していた。それ以来、悠真さんは綾香に付きっきりになってしまい、千紗は激しい嫉妬心に苛まれる…

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この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(第6話)

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この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。(第1話)

彼しかいない


彼しかいない

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行く当てもなく、ふらふらと歩く。衝動的に外へ出たものの、何がしたいかなんて自分でも分からない。悠真さんと綾香が住む家に乗り込んで、秘密を暴露する勇気もない。駅前まで来ると急に寒さを感じて、24時間営業のカフェに入った。

「いらっしゃいませ」

カウンターでコーヒーを注文して、空いている席を探す。周りに人がいなくて、落ち着ける場所が良いなと考えていると、1人の男性と目が合った。すると、その男性はゆっくり立ち上がり、私のところに向かって来る。

「なつみさん?」

「え?」

「たかあきです。ほらこれ、目印の帽子」

もしかして、出会い系で待ち合わせしてる人と間違われた?たかあきと名乗った男性は、私が持っているトレイを持ち席へ誘導しようとする。

「違うんです」と言いかけて、やめた。どうせ1人だし、話し相手ができるならいいか。そう思った瞬間だった。

「すみません、彼女を返してもらいますね」

私と男性の間に突然現れた人物に、我が目を疑った。嘘でしょ……。悠真さんが、どうして?

有無を言わせないきっぱりとした口調でそう言った悠真さんは、私の腕を引いてカフェを出た。そのまま人気のない路地へと進んで行く。たまらず、声をかけた。

「悠真さん、あの」

「僕が来なかったら、あの男とどこか行く気だった?」

足を止めた悠真さんは、私に背中を向けたまま質問をする。問いかけに答えられないでいると、

「良かった、間に合って」

大きなため息を漏らした悠真さんは、こちらに体を向けて私を抱きしめた。

「危なっかしくて放っておけないよ」

「ごめんなさい」

「謝るのは僕の方だよ。ごめん、すぐに駆けつけられなくて」

いいの……。こうして来てくれただけでも、嬉しい。

「でもどうして、あそこにいるって分かったの?」

「電話してもでないから取りあえず千紗が住んでる駅に来てみたら、偶然見つけたんだ」

そうだったんだ。ガラス張りのお店に居て良かった。見つけてくれた嬉しさがこみ上げ胸の真ん中が温かくなる。

「あれからまたインターフォンが鳴ったの? 警察に連絡した?」

「それは……」

嘘だったなんて、いまさら言えない。悠真さんの気を引くため咄嗟に嘘を吐いてしまったのだ。

「ただの酔っ払いだったのかも。上の階の人が部屋を間違えたのかな」

「だったらいいけど。念の為、管理人さんには話した方がいいよ」

「分かった、そうする」

ごめんね、悠真さん。私、平気で嘘を吐く最低な人間なの。最低だけど、あなたのことが好きすぎてどうにかなりそうなの。私には悠真さんしかいない……。

「来てくれて、ありがとう」

「お礼なんか言わなくていいよ。でも、約束して。僕以外の男に付いて行かないって」

「うん、約束する」

小指を立てて頷くと、悠真さんは優しいキスをくれた。


どっちが大事?


どっちが大事?

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「本当に帰らなくていいの?」

「うん、綾香には仕事のトラブルで朝まで帰れないと言ってきたから」

「嬉しい」

悠真さんの首筋に腕を回し、ギュッと抱きつく。綾香が流産してからあまり会えてなかったし、お泊りをするのも久しぶり。

ホテルに行くことも考えたけど、私の家の方が近いので招待することにした。最近まで母が居たから、悠真さんがここに来るのは初めてだ。

「へぇ、ここが千紗の部屋か。キレイにしてるね」

「あんまりジロジロ見ないで適当に座ってて。今、コーヒー淹れる」

「いや、コーヒーよりも……」

背後からお腹の辺りに腕を回され、耳元にキスをされた。

「千紗が欲しい」

されるままに悠真さんのキスを受けていると、それだけで心が満たされていく。ベッドへ移動した私たちは、服を脱ぐ間ももどかしくお互いの体を密着させた。

「悠真さん、愛してる」

「僕も。ずっと一緒にいようね」

唇を重ねようとした瞬間、悠真さんのスマホから着信音が鳴った。1度は無視したものの、しつこく何度もコールされる。

「もしかして、綾香……?」

「あぁ」

苦い表情を浮かべた悠真さんは、スマホを取り耳に当てた。それから短い返事をいくつかしたあと、「すぐ帰る」と答え、通話を切った。

「ごめん、帰らないと」

「どうして? 朝まで一緒に居られるって言ったじゃない」

「綾香が不安がっているんだ」

「そんなの放っておけばいいでしょ!」

不安なのは、私だって同じなのに。寂しくて苦しくて、爆発しそうな思いをいつも抱えて耐えているのに。

「また時間を作るから」

「またっていつ?」

「千紗……」

「綾香と私、どっちが大事なの!?」

頭にカッと血が上って、思わず泣き叫ぶ。そんな私を、悠真さんは困ったように見つめていたけど、「あとで連絡する」と言い残して帰って行った。

どうしてこんなことになってしまったのだろう?さっきまで、すごく幸せだったのに。それからしばらく泣きながら部屋で過ごして涙が枯れた頃、インターフォンが鳴った。

もしかして、悠真さんが戻って来てくれた?慌てて玄関のドアを開けに行くと、そこに立っていたのは母だった。

「お母さん、どうして?」

「どうしたもこうしたもないよ。あの男……若い女と二股しやがって」

「また振られたの」

「うるさいわね、あんたまで私をバカにする気!?」

噛みつかんばかりに勢いで喚き散らす母は、ずかずかと部屋に入り冷蔵庫からビールを取り出した。

「ムカつく! ふざけんな!」

「お母さん……」

「うるさい!うるさい!」

ヒステリックに叫ぶ母は、ビールを飲みながら嗚咽を漏らして泣き始めた。その姿が、数時間前の自分と重なりゾッとした。私、お母さんと同じようになってしまっている……。


決意


決意

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悠真さんからの連絡は、しばらく途絶えた。綾香のSNSには、「旦那くんがマッサージしてくれた」や「気晴らしに映画を観に連れて行ってくれた」などが書かれていて、私の心は荒れる一方だった。

そんなある日、母方の従兄弟から祖母が入院したという連絡が入った。

「お祖母ちゃん!」

駆けつけた私に、祖母は目を丸くして「どこのお嬢さんかと思ったわ」と笑った。電話はよくしていたものの、祖母に会うのは10年振りくらいかな?祖母も随分老けていて、私の記憶にある祖母とは全然違う。

「身体は大丈夫なの?」

「検査入院みたいなものだから大丈夫よ」

「本当に?」

「本当、本当。わざわざ飛行機に乗って駆け付けてくれたのね。ありがとう」

「当たり前でしょ、お祖母ちゃんに何かあったら私……生きていけないよ」

「大げさね」

私は幼い頃、お祖母ちゃんと一緒に暮らしていた。しつけには厳しかったけど、私の母とは違って優しくて笑顔の絶えない人。

当時はたまにしか様子を見に来ない母のことを姉、祖母を本当の母だと思っていた。母が上京する際に私も連れて行くことに、最後まで反対してくれた人でもある。

「千紗はどうなの? 元気にしてる?」

「うん、元気だよ」

「こんなにやつれているのに? 無理なダイエットをしているんじゃないでしょうね」

祖母は心配そうに、私の頬を撫でた。実はここ最近、あんまり食欲がなく2キロ痩せてしまった。

「違うよ」

「千紗が幸せになる姿を見るまで、死ねないわ」

「お祖母ちゃん……」

「木綿子(ゆうこ)はね、どういうわけか幸せに縁のない子でね。千紗にも苦労をかけたでしょう」

木綿子というのは、私の母だ。

「私の育て方が間違っていたんだろうね。親として娘が不幸せなのは見ていて辛い。だからせめて、孫娘の千紗は幸せな姿を私に見せてね」

「うん、分かった」

胸が締め付けられるように痛い。幸せな姿なんて、いつになったら見せられるのだろう。そもそも悠真さんが私のところに来てくれたとして幸せになれるのだろうか。

ううん、きっとなれない。綾香と私、どっち付かずの彼のことだ。幸せになんかなれるはずがない。

「(もう終わりにしよう)」

私は祖母の手を握りながら、悠真さんと別れることを決めた。

第8話は、11月2日(火)公開予定!

当記事はfolkの提供記事です。

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