「救急車に乗りたくない」コロナ失職のホームレス20代男性、ケガより治療費に驚愕

日刊SPA!

 年収と健康には因果関係がある――近年、さまざまな研究によってそんな事実から明らかにされてきた。格差が広がる日本でも問題視され始めた「健康格差」が今、新型コロナの影響で深刻化している。残酷なまでに広がりだした“命の格差”の実態に追る。まずはホームレス生活を余儀なくされた20代男性の実例から。

◆コロナ失職でホームレスに。突然、路上で倒れて救急搬送

「日銭を稼ぐのに必死だった頃は、健康まで気を使う余裕はなかったです」

そう話すのは福地義彦さん(仮名・27歳)。昨年コロナの影響による派遣切りで、寮を追い出されて、ホームレス生活を送っていた。

「日雇い仕事が見つかったときは現場近くのネカフェに泊まり、見つからない日は公園で野宿をしてました。健康には自信があったので、早朝から深夜まで働く日もあって。宿代を捻出するために食事はカップラーメンや激安弁当を数日に分けて食ったりしてましたね」

そんな生活が2か月も続くと体が悲鳴を上げる。結果的に生活困窮者の保護施設に助けを求めて身を寄せることに。だが、4日後に池袋の路上で倒れてしまったとか。

「住む場所が見つかった安堵からか、意識が遠のいて倒れたときに後頭部を地面に強打。気づくと血だらけに。ショックと悪寒で動けない僕のもとに心配した通行人が集まって、救急車を呼ぶほどの大ごとになってしまった」

◆ケガよりも治療費の心配

ケガの具合よりも、治療費の心配のほうが大きかったという。

「意識はあったので帰ろうとしたら、『もし亡くなられたら我々の責任にもなる』と言われて救急車に乗り、病院に救急搬送。原因は栄養失調による貧血でした。CT検査だけして、MRI検査や入院などは断固拒否。所持金もなかったので後日精算でお願いしたんです」

◆請求書を見て驚愕

病院から送られてきた治療費の請求書を見て、驚愕した。

「請求金額は2万5800円。全財産が1万円もなかったので、バイト先の店長に前借りさせてもらって、なんとか支払いました。国民健康保険の手続きが間に合って、3割負担で済みましたが、全額請求だったらゾッとする金額でした」

保険証が持てない人のなかには診察料を払わないケースも多く、治療を断る病院もあるという。

「ホームレス生活のときは目の前の生活しか考えられず、病院の鏡で久しぶりに見た自分の姿があまりにもガリガリで恐怖を感じました。お金がなければ、最低限の医療も受けられない。今は健康を考えて野菜ジュースを飲んでます」

今回は運よく命の危機には至らないで済んだが、不安定な生活が及ぼす健康リスクは計り知れない。

◆お金がなくて病院に行けずに、死ぬ。

このような事態に陥る、健康格差という言葉をご存じだろうか? 収入はもちろん、家族構成や居住環境、学歴、就労形態などによって健康状態に差が出ることを指す言葉だ。

例えば非正規雇用の場合、正規雇用よりも糖尿病を患うリスクが高いことが明らかになっている。

国税庁の「民間給与実態統計調査」(令和元年)によれば、非正規雇用者の平均年収は175万円。一方、正規雇用全体の平均年収は503万円となっている。非正規労働者に限らない話だが、収入が少なければ米やパンなど炭水化物に頼りがちな食生活になりがち。さらに長時間労働で疲弊すれば運動不足にもなりやすい。そういった日々の習慣の違いが、健康格差として残酷なまでに出てしまう。

◆健康は周りの環境に決められてしまう

健康格差について長年研究を続ける千葉大学教授の近藤克則氏は、「健康格差はさまざまな病気に影響する」と話す。

「不安定な雇用や低所得生活が続けば、当然ストレスが増えます。それによってホルモンバランスが崩れれば免疫力が落ちるし、あらゆる疾患に繫がるリスクが高まります。

糖尿病が生活習慣病と呼ばれるように、これまでは『健康=自己管理の問題』という考え方が強かった。しかし、仕事の選択肢が少ない低所得者の人が簡単に仕事を変えられないように、実際にはその人の健康は周りの環境に決められてしまうことが多いのです」

◆健康格差を考える2つの局面

近藤氏によれば、健康格差を考える上では2つの局面で考える必要があるという。一つは実際に体調を崩す前の予防の段階。もう一つは、いざ体調が悪くなったときに適切な医療サービスが受けられるかどうかという問題だ。

「メディカルプアという言葉もあるように、低所得者にはお金がないので病院に行くのをためらう人も増えています。3割の自己負担分すら払うのが厳しいからです」

◆死亡に至った事例が40件

病院受診をためらった結果、最悪の場合には死に至るケースもある。全日本民主医療機関連合会(以下、民医連)の調べによれば、「経済的な理由で受診が遅れ、死亡に至った事例」が、昨年は全国で40件あったという。このなかには新型コロナで経済的に困窮したケースが8件含まれていた。

「ただ、この数字は氷山の一角と見ています。調査結果に反映されるのは生前に金銭面で病院に相談されていた場合だけなので、救急搬送されてその場で亡くなられた方や自分の事情を話さない人は、数には含まれていないからです」(民医連の久保田直生氏)

長期化するコロナ禍で生活苦に陥る人が増えるなか、日本の健康格差は日に日に広がっている。

【近藤克則氏】

千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門教授。早くから健康格差について研究を進めている。著書に『健康格差社会ー何が心と健康を蝕むのか』(医学書院)など多数

【久保田直生氏】

全日本民主医療機関連合会常駐理事。毎年、「経済的事由による手遅れ死亡事例調査」を行う。’21年の調査結果報告会では、「無料低額医療事業」の周知を呼びかけた

<取材・文/週刊SPA!編集部>

※週刊SPA!9月28日発売号の特集「年収×健康 残酷な格差」より

―[年収×健康 残酷な格差]―

当記事は日刊SPA!の提供記事です。

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